2019年7月、筆者は、インドネシア、マレーシアの両国を訪問し、パーム系バイオエネルギーについて、農園から輸出港までの一連のサプライチェーンの実態調査を行った。
日本では、パーム油そのものを燃料として用いる発電の計画が1.8GWもあり、PKS(Palm Kernel Shell)などの輸入量も増加している。パーム油はその生産自体に、泥炭地や天然生林を含む森林開発によるCO2排出や生物多様性の喪失、先住民ならびに労働者の権利侵害など、環境・社会面でさまざまな批判がある。さらに、エネルギー利用する場合は、温室効果ガス削減効果の有無や食糧との競合の懸念などの問題が指摘されてきた1。
そのため2019年4月、資源エネルギー庁は、「バイオマス持続可能性ワーキンググループ」(以下、WG)を設置し、筆者も委員の一人として参加している。そこでは、パーム油およびPKSを含むさまざまなバイオマス燃料の位置づけと、持続可能性の確認方法について議論が行われている。
本コラムでは、今回行った現地調査を踏まえ、WGで大きな論点になっている、パーム系燃料の取り扱いについて、私見を述べたい。
日本では、パーム油そのものを燃料として用いる発電の計画が1.8GWもあり、PKS(Palm Kernel Shell)などの輸入量も増加している。パーム油はその生産自体に、泥炭地や天然生林を含む森林開発によるCO2排出や生物多様性の喪失、先住民ならびに労働者の権利侵害など、環境・社会面でさまざまな批判がある。さらに、エネルギー利用する場合は、温室効果ガス削減効果の有無や食糧との競合の懸念などの問題が指摘されてきた1。
そのため2019年4月、資源エネルギー庁は、「バイオマス持続可能性ワーキンググループ」(以下、WG)を設置し、筆者も委員の一人として参加している。そこでは、パーム油およびPKSを含むさまざまなバイオマス燃料の位置づけと、持続可能性の確認方法について議論が行われている。
本コラムでは、今回行った現地調査を踏まえ、WGで大きな論点になっている、パーム系燃料の取り扱いについて、私見を述べたい。
パーム系バイオエネルギーの生産・流通実態
インドネシア・マレーシア両国を訪問して、痛感するのはパーム油産業の存在の大きさである。
まず、クアラルンプール国際空港が近づいてくると、飛行機のライブカメラから、広大なパーム農園を見ることになる。また、クアラルンプールからマレー半島を車で南下する際に、ハイウェイ沿いにパーム農園が延々と広がっているのを見た。実際に、パーム油産業は、両国で非常に重要な産業であり、インドネシアでは第一位、マレーシアでは第二位の輸出品目となっている2。また、農業者の所得向上に寄与して来たという側面があったことも理解しておく必要がある。
一般に、パーム農園は外部者の視察は困難であると言われている。今回は現地のPKS集荷会社の繋がりをたどり、両国において、MSPOとISPO3というそれぞれの国の認証を取得していた農園を、1ヶ所ずつ訪問することができた。
農園では、FFB(Fresh Fruit Bunch:生果房)の収穫・運搬・トラックへの積み込みまでの一連の工程を見学した。FFBは劣化を防ぐため、24時間以内に搾油工場に輸送される。
搾油工場については、マレーシアで2ヶ所(それぞれMSPO、RSPOを取得)、インドネシアで1ヶ所(ISPOを取得)を訪問した。工場の規模や生産ライン設備に多少の違いはあっても、基本的な工程は以下のようになっている。
まず、FFBを蒸した後、ドラム内で回転させて果実を外す。果実が外れた後の果房は、EFB(Empty Fruit Bunch:空果房)と呼ばれ、肥料として農園に戻されるか、ボイラで焼却されている。一方、果実は絞られて、CPO(Crude Palm Oil:パーム原油)とPalm Kernel(パーム核)が生産される。果実を絞った後の繊維は、搾油工場の蒸気ボイラで燃料利用されている。
CPOは精油工場にてオレインやステアリンなどに分離・精製される。日本の発電事業者は、ステアリンが食用ではないとして選択的に燃料利用していると説明しているが、ステアリンもマーガリンなどの食品に用いられていることに注意が必要である。
Palm Kernel(パーム核)は、搾油工場にて殻を外し、Palm Kernel Oil(パーム核油)の生産工場に販売される。この殻がPKSである。PKSは搾油工場にて一部燃料利用されるが、工場内に砂利替わりに敷き詰めるなど、有効に利用されていない場合も多い。このようなことから、筆者の見た限り、PKSが副産物であるという実態は、間違いないだろう。
PKSは、搾油工場において乱雑に扱われているため、混入している異物も多い。そのため、集荷会社が搾油工場を回って集めたPKSは、港湾近くのストックヤードで異物や水分を除去した後、輸出されている。輸出先は日本が6割前後を占めているが、韓国やタイ、シンガポールへも輸出されている。
確かに、インドネシアは泥炭林を含む天然林について、伐採権の授与と、パームや早世樹への転換の一次停止(モラトリアム)を、2011年に宣言し、2019年には恒久化される見通しである。ただし、二次林4は対象外であるなど、完全な森林減少の抑止にはなっておらず、実際に、衛星画像データの解析結果から、このモラトリアムの効果は限定的であるとの指摘もある5。一方、マレーシアはパーム農園面積について、現在の580万haから最大650万haまでの拡大を見込んでおり、しかも森林面積についても減少を許容している(森林面積比率は現在55.6%であるが、50%まで開発可能)。しかも、パーム農園のアフリカへの拡大などが起こっており、WGはこのような地域からの輸入がありえることも考慮に入れなければならない。
このようなことから、パーム油を含む植物油をエネルギー利用すること、特に太陽光や風力など多くの選択肢のある発電部門で利用することには、必然性が認められない。
一方、日本のFiT制度では、RSPO認証のパーム油を燃料として認めている。さらに、業界団体からはMSPOやISPOも持続可能性の確認手段として認めてほしいという要望がある。しかし、負の影響が大きい森林開発を避けるために、RSPOは2007年10月以前に開発された農園に限っているのに対して、MSPOやISPOは新規開発を排除していない点で不十分である6。
なおEFBを使ったペレット生産が計画されているが、水分が高く運搬効率の悪いEFBは現地でペレット化する可能性が高く、有機性廃液からのメタンガス回収を適切に行う必要がある。そのため、発生点からのサプライチェーンの確認に加えて、加工・流通工程を含めたライフサイクルGHGの確認も必要である。
ただし、現状では、両国で再エネ発電の支援政策はあるものの9、その水準は十分ではない。加えて、インドネシアでは石炭火力発電所に補助がある10。そのため、現状では搾油工場での現地利用を除いては、国内での利用はほとんどないのが実態である。しかし今後は、パリ協定を受けて、両国もGHG削減の取り組みを加速させていくことになるだろう。そのため、自国でPKSを含めたバイオマス燃料を、石炭等の代替として活用していくという政策の変化も十分に起こりうる。
しかし、このようなシナリオが有効になるためには、パーム油産業自体の持続可能性が担保されることが前提である。2019年8月に、IPCCは「土地関係特別報告書」を公表し、これまでの農業・林業およびその他土地利用による温室効果ガスの大きさと、気候変動対策としての持続可能な土地利用の重要性を強調している11。
そもそも、日本には、バイオマス資源が国内に豊富に存在している。したがって、国内資源の持続的な活用のための政策を強化していくことが、東南アジアなど諸外国のバイオマス資源の利用圧を低減するという意味でも重要である。バイオエネルギー政策の議論においても、国内資源の有効活用の議論を本格化させる必要がある。
まず、クアラルンプール国際空港が近づいてくると、飛行機のライブカメラから、広大なパーム農園を見ることになる。また、クアラルンプールからマレー半島を車で南下する際に、ハイウェイ沿いにパーム農園が延々と広がっているのを見た。実際に、パーム油産業は、両国で非常に重要な産業であり、インドネシアでは第一位、マレーシアでは第二位の輸出品目となっている2。また、農業者の所得向上に寄与して来たという側面があったことも理解しておく必要がある。
一般に、パーム農園は外部者の視察は困難であると言われている。今回は現地のPKS集荷会社の繋がりをたどり、両国において、MSPOとISPO3というそれぞれの国の認証を取得していた農園を、1ヶ所ずつ訪問することができた。
農園では、FFB(Fresh Fruit Bunch:生果房)の収穫・運搬・トラックへの積み込みまでの一連の工程を見学した。FFBは劣化を防ぐため、24時間以内に搾油工場に輸送される。
搾油工場については、マレーシアで2ヶ所(それぞれMSPO、RSPOを取得)、インドネシアで1ヶ所(ISPOを取得)を訪問した。工場の規模や生産ライン設備に多少の違いはあっても、基本的な工程は以下のようになっている。
まず、FFBを蒸した後、ドラム内で回転させて果実を外す。果実が外れた後の果房は、EFB(Empty Fruit Bunch:空果房)と呼ばれ、肥料として農園に戻されるか、ボイラで焼却されている。一方、果実は絞られて、CPO(Crude Palm Oil:パーム原油)とPalm Kernel(パーム核)が生産される。果実を絞った後の繊維は、搾油工場の蒸気ボイラで燃料利用されている。
CPOは精油工場にてオレインやステアリンなどに分離・精製される。日本の発電事業者は、ステアリンが食用ではないとして選択的に燃料利用していると説明しているが、ステアリンもマーガリンなどの食品に用いられていることに注意が必要である。
Palm Kernel(パーム核)は、搾油工場にて殻を外し、Palm Kernel Oil(パーム核油)の生産工場に販売される。この殻がPKSである。PKSは搾油工場にて一部燃料利用されるが、工場内に砂利替わりに敷き詰めるなど、有効に利用されていない場合も多い。このようなことから、筆者の見た限り、PKSが副産物であるという実態は、間違いないだろう。
PKSは、搾油工場において乱雑に扱われているため、混入している異物も多い。そのため、集荷会社が搾油工場を回って集めたPKSは、港湾近くのストックヤードで異物や水分を除去した後、輸出されている。輸出先は日本が6割前後を占めているが、韓国やタイ、シンガポールへも輸出されている。
WGでの議論など当面の対応の方向性
- 1)パーム油の燃料利用について
確かに、インドネシアは泥炭林を含む天然林について、伐採権の授与と、パームや早世樹への転換の一次停止(モラトリアム)を、2011年に宣言し、2019年には恒久化される見通しである。ただし、二次林4は対象外であるなど、完全な森林減少の抑止にはなっておらず、実際に、衛星画像データの解析結果から、このモラトリアムの効果は限定的であるとの指摘もある5。一方、マレーシアはパーム農園面積について、現在の580万haから最大650万haまでの拡大を見込んでおり、しかも森林面積についても減少を許容している(森林面積比率は現在55.6%であるが、50%まで開発可能)。しかも、パーム農園のアフリカへの拡大などが起こっており、WGはこのような地域からの輸入がありえることも考慮に入れなければならない。
このようなことから、パーム油を含む植物油をエネルギー利用すること、特に太陽光や風力など多くの選択肢のある発電部門で利用することには、必然性が認められない。
一方、日本のFiT制度では、RSPO認証のパーム油を燃料として認めている。さらに、業界団体からはMSPOやISPOも持続可能性の確認手段として認めてほしいという要望がある。しかし、負の影響が大きい森林開発を避けるために、RSPOは2007年10月以前に開発された農園に限っているのに対して、MSPOやISPOは新規開発を排除していない点で不十分である6。
- 2)PKS・EFBの燃料利用について
なおEFBを使ったペレット生産が計画されているが、水分が高く運搬効率の悪いEFBは現地でペレット化する可能性が高く、有機性廃液からのメタンガス回収を適切に行う必要がある。そのため、発生点からのサプライチェーンの確認に加えて、加工・流通工程を含めたライフサイクルGHGの確認も必要である。
長期的には双方で持続可能なバイオエネルギーの地産地消を
今回の出張でよく分かったことは、現地でのバイオマス利用ポテンシャルが大いにあるということである。繊維やEFB、PKSなどの余剰バイオマスは、搾油工場で燃料利用されているが、ボイラ効率など改善の余地は大いにあるように見えた。工場設備の更新などとともに、日本への輸出を契機に始まったサプライチェーンの整備が進めば、PKSなど余剰バイオマスをより多く外販し、石炭などの化石燃料を代替することができるようになるだろう。ただし、現状では、両国で再エネ発電の支援政策はあるものの9、その水準は十分ではない。加えて、インドネシアでは石炭火力発電所に補助がある10。そのため、現状では搾油工場での現地利用を除いては、国内での利用はほとんどないのが実態である。しかし今後は、パリ協定を受けて、両国もGHG削減の取り組みを加速させていくことになるだろう。そのため、自国でPKSを含めたバイオマス燃料を、石炭等の代替として活用していくという政策の変化も十分に起こりうる。
しかし、このようなシナリオが有効になるためには、パーム油産業自体の持続可能性が担保されることが前提である。2019年8月に、IPCCは「土地関係特別報告書」を公表し、これまでの農業・林業およびその他土地利用による温室効果ガスの大きさと、気候変動対策としての持続可能な土地利用の重要性を強調している11。
そもそも、日本には、バイオマス資源が国内に豊富に存在している。したがって、国内資源の持続的な活用のための政策を強化していくことが、東南アジアなど諸外国のバイオマス資源の利用圧を低減するという意味でも重要である。バイオエネルギー政策の議論においても、国内資源の有効活用の議論を本格化させる必要がある。