九州エリアでは、2018年9月以降に原子力発電が4基稼働(4,140MW)したことに伴い、2018年10月から需要電力が少なく自然エネルギーが多く発電する日時に出力抑制が行われている。地域間連系線の活用量増加などにより、出力抑制電力量率の低減に向けた運用が行われてることがうかがえるが、さらに低減する事が可能である。 |
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九州エリアの状況:2018年度の実績
九州エリアは、自然エネルギー、特に太陽光発電の導入が進んでいる。年間需要電力量が国全体の約10%であるのに対して、太陽光発電の設備容量が国全体の約18%、風力発電の設備容量が国全体の約14%であり、他のエリアに比べて導入が進んでいる地域であるといえる。また、このエリアでは、2015年に川内1号基と2号基が相次いで再稼働し、2018年に入ってからは玄海3号基と4号基が再稼働しており、4基合計の4,140MWは、九州エリアの最大需要電力16,011MWの約26%、最小需要電力6,526MWの約63%にあたる電力を供給している。
一方、九州エリアでは、2018年10月より出力抑制が行われており、九州電力より公開されているデータ1を用いて、分析・検証をすすめてみた。
2018年4月から2019年5月までの14ヶ月間における、需要電力と太陽光発電および風力発電の出力、一般発電設備の出力、地域間連系線などによる電力供給構成を図1に、2018年度で1時間の抑制電力が最も多かった2019年3月24日の電力供給構成を図2に示す。2018年9月以降に原子力発電が4基稼働したことに伴い、当初は猛暑の影響もあって需要が多かったものの10月には夏季需要も一息つき、特に需要の少ない週末の晴天日から徐々に出力抑制が進められ、需要が少なく自然エネルギーが多く発電する2019年3月から5月は、出力抑制日数が増加している。
太陽光発電と風力発電の合計出力上限値は、需要電力から周波数安定に必要な調整力を確保した一般発電設備の最小出力と揚水発電所および地域間連系線の活用電力を差し引いた値となる。2018年10月以降の12時のみの様相を図3に示す。需要と太陽光および風力発電の出力予測の精度、前日の予測値に基づく抑制指令による手動制御の発電所があることの影響により、数値はわずかに異なるものの最小出力が約6,800MWに達した時点で、出力抑制が行われていることがわかる。なお、2019年5月13日以降は玄海3号基が定期点検による停止で、原子力発電が3基稼働となった。その結果、出力調整を行わない原子力発電の出力低減分(1,180MW)が、他の発電設備から供給されるので出力抑制開始となる最小出力から差し引かれ、最小出力が約6,800MWに達しても、出力抑制は行われていない。
九州エリアの状況:出力抑制の実績値と推定値
2018年10月から2019年3月までの6ヶ月間における実績値は、出力抑制日数が26日、出力抑制時間が183時間、出力抑制電力量率は約2.1%であるが、出力抑制は2018年10月から開始されており、2018年度の出力抑制電力量率は約0.9%であった。一方、新エネルギー小委員会系統WGで提示された一般発電設備の最小出力2をもとに、①需要や太陽光・風力の出力予測誤差はゼロ(完全予測)②太陽光と風力の出力抑制は全てオンラインの最大値抑制(JWPA方式)を、前提条件とした2018年10月から2019年3月までの6ヶ月間における出力抑制シミュレーション結果は、33日、96時間、約1.5%であった。
出力抑制日数は実績の方がシミュレーションより少ないが、出力抑制時間と出力抑制電力量率は実績の方がシミュレーションより多く、出力抑制電力量率は最小出力を系統WGで提示された値の1.2倍としたケースと同等であったことから、さらに出力抑制時間と出力抑制電力量率を低減する手法があるといえる。なお、2018年4月から6月の出力抑制実績がゼロであるのは原子力発電が3基以下の運転であったこと、同じく2019年5月の実績値が少ないのも5月13日から原子力発電が3基運転に移行したためである。
2018年度の導入量と導入量増加時の出力抑制電力量率などの推定
さて、2019年3月末時点において系統に接続済3の設備は太陽光が8,530MW、風が510MWであり、両者の単純合計が9,040MW、電力系統への影響を評価する指標の一つである数値4(RMS)が8,545MWである。各事業者が九州電力と系統連系にかかわる契約を申込中のもの、または契約締結済みと、系統連系にかかわる検討を申込中のものを加えると、それぞれ16,790MW(約2.0倍)、9,490MW(約18.6倍)、26,280MW(約2.9倍)、19,286MW(約2.3倍)となり、単純合計、RMS共に、2018年度の最大需要(16,011MW)を上回る状況である。
そこで、2018年度の実績をもとに、全てが連系した場合に考えられる出力抑制電力量率などのシミュレーションを実施した。一般発電設備の最小出力と連系線・揚水の活用量は、図4に示した系統WG値を1.2倍したケース(現状相当)と2019年3月24日12時ケース(制御可能相当)とした。また、地域間連系線は2回線のうち1回線が事故で使用できない(n-1)状況における現在の運用容量(約2.8GW)と、同一容量の1回線増設または1/2容量の2回線増設し1回線が事故で使用できない(n-1)状況における運用容量が現在の2倍(約5.6GW)のケースとした。
シミュレーション結果は、各事業者が九州電力と系統連系に係る契約申込中・承諾済と系統連系に係る接続検討申込中の全設備が連系(RMSが約19.3GW)したケースにおいて、地域間連系線容量が約2.8GWの場合は、最小出力が現状相当の場合が281日、1,849時間、約20.3%であり、最小出力が制御可能相当の場合が224日、1,249時間、約11.9%であった。
一方、地域間連系線容量が約5.6GWの場合は、それぞれ190日、841時間、約8.0%および135日、568時間、約3.8%であり、大幅に低減を図ることが可能であることがわかった。
なお、RMS増加に伴い出力抑制電力量率の増加度合いが低下するのは、太陽光発電の出力との相関がなく5、太陽光発電より設備利用率が高い(年間の発電電力量が多い)風力発電の出力増加による。
出力抑制電力量率などの低減策
経済産業省や広域的運営推進機関の委員会では、九州エリアに限らず、出力抑制電力量率の低減策などの検討を進めているが、そこで議論されている検討項目を含め、前述の最小出力が制御可能相当(2019年3月24日12時)ケースでの運用を可能とする主な対策を表1に示す。なお、自然エネルギー導入先進国においては、既にこれら対策項目の殆どが実施されている。
出力抑制電力量率の低減を図り、自然エネルギーによる電力量供給率を高めるには、一般発電設備の最小出力を制御可能値相当での運用を可能とするための、出力抑制制御方式の統一や出力予測システムの精度向上など短期間で実施可能な主にソフト面の対策と、広域運用量の増大を可能とするための、地域間連系線の増設など中・長期間を要する主にハード面の対策がある。2030年、2050年など将来を見越して早めに対策を実施してゆくこと、また、あるべき姿を目指してのロードマップの早急な策定が望まれる。
具体的な内容と効果などは、本文を参照されたし。