ドイツ木質バイオマス専門会議報告熱電併給と調整力が将来のポイント

相川高信 上級研究員 自然エネルギー財団

2018年11月22日

 2018年9月、バイエルン州北部のWürzburgという、ライン川沿いの美しい街で、木質バイオマスの専門会議が開催されたi。会議での議題は下記のようなものであり、どれも日本への示唆に富んだ内容だった。

欧州におけるバイオエネルギー市場・政策動向、電力市場における木質バイオマス、熱市場における木質バイオマス、産業用熱利用、持続可能性(気候変動対策、景観保全)、原料供給、短伐期植林、リサイクル材、排気ガス対策、灰、ガス化発電、(工事の)質の管理


 特に、ポストFIT時代に突入しつつあるドイツにおける、バイオエネルギー発電の将来に関する真剣な議論に触れることができたことは大きな収穫であった。日本では、バイオエネルギー発電について、「穏やかに自立化に向かう」と整理されている。しかし、2020年度にFIT制度の抜本的な見直しが予定されていることもあり、将来を見据えた議論を始めるのは早い方が良い。そこで、多岐に渡った会議のトピックの中から、FITに関わるポイントを報告する。

ドイツで見る木質バイオマス発電所の将来

 2000年のEEGの導入によりドイツのバイオエネルギー発電は、2000年代に順調な成長を経験した。2000年には0.7GWだった累積導入量は、2010年には5.5GWに達している。しかし、2010年代に入り、その成長は鈍化し、2017年末にやっと8.0GWに到達したところである。また、2017年から始まった入札制度において、毎年の入札量は150MWと絞られ、しかも2カ年連続で、募集量を満たすことができていない。

 特に、木質バイオマスについては厳しい状況で、2010年代に入り導入は頭打ちになり、近年はほとんど新設がない。ドイツのEEGは、木質バイオマスに関して、規模やコジェネへのボーナスなど、きめ細かく設計・運用され、かつ助成水準も日本に比べると、低めに設定されていた(表)。しかし、この間に風力や太陽光発電は発電コストを更に低下させ、堅調な成長を続けているのとは、対象的な結果になっている。

 また、ドイツではバイオエネルギー資源の利用が進み、例えば木質バイオマスについては、その消費量は現在6,000万m3(廃材含む)を上回り、2000年代初頭の約3倍の消費量になっている。一方で、持続可能なバイオエネルギー利用を行うという視点から、現在では資源利用については慎重な姿勢が取られ、効率的な利用方法が模索されている。
 
表:ドイツにおける木質バイオマス発電への報償費の推移
注)NawaRo: 林地残材など森林系バイオマスを利用した際のボーナス。
革新技術:ガス化、ORCなど革新的な技術を採用した場合に与えられるボーナス。

ドイツで議論されているバイオマス発電所の将来

 更にドイツでは、2020年以降、EEG初期に認定を受けた発電所が、20年間の買取期間を終了するものが出てくることから、その将来が大きな問題になっているii

 会議前日には、この問題に対処すべく2018年から始まったBio2020plusiiiと呼ばれるプロジェクトの専門家WSが開催されたiv。そこでは、プロジェクトの中間報告が行われ、EEGによる助成期間終了後を見据え、収益性を高めるため、以下の5つの方向性が示された。
 
- 柔軟な運転
- 需要に応じた直接販売
- 地域のグリーン電力・熱需要に対する直接供給
- 熱供給に最適化した運転
- 灰の有効利用

 その中でも特に重要なのは、バイオエネルギー発電は、柔軟性を高め、CO2フリーの調整力を提供していく必要がある、ということである。最新の研究によれば、VRE比率が高まれば高まるほど、バイオエネルギーの調整力の重要性が向上し、適切な量でのバイオエネルギー発電は、社会的コストを低減するという結果も示されているv

 ただし、いずれの方向性も、可能性としての提示にとどまっている点に、事業者からは不満の声もあったという。

重要になる制度設計

 不満の声の背景には、木質バイオマス発電の柔軟性を評価する、市場設計や助成制度の構築が実現していない点がある。

 実は、バイオガスについては、その柔軟性を引き出す、いくつかの制度変更がすでに行われている。具体的には、EEGの中で、すでにバイオガスには、2012年からFlexibilityプレミアムと呼ばれる助成制度が導入されているvi。また、コジェネ法(KWKG)では、バイオエネルギーも含めた小型CHPについて、自家消費や第三者への直接販売をも助成対象とし、柔軟な運転を促している。

 実際にはドイツの木質バイオマス発電所の中には、調整力市場で調整力を提供しているものもあり、不可能ではない。しかし一般的には、バイオガスに比べると、木質バイオマスは柔軟な運転が難しいと言われている。そのため、EEGは、木質バイオマスをFlexibilityプレミアムの対象に、今のところ含めていない。

 このように、ポストEEGの議論がここまで深刻になってしまった背景には、ドイツでは発電のみのプラントが相当数あることが関係している。

 ドイツのEEGでは、2004年から2011年まで熱電併給プラントにボーナスを付与し、2012年からは事実上の義務付けを行ってきた。しかしそれでも、ドイツでは、発電のみのプラントによる発電量が、全バイオエネルギー発電の中で、44.4%を占めているvii

 熱電併給プラントであれば、売熱をむしろメインの収入としており、加えて熱の需要家にとっては、代替が難しいインフラと捉えられている。他方、発電のみのプラントは、もろにEEG終了の影響を受ける。

日本への示唆:熱電併給への誘導を早期に

 
 さて、翻って日本の状況を見ると、熱電併給プラントは限定的であり、将来がいっそう不安視される。したがって、第1に、今後建設されるプラントの対策として、FIT制度において、速やかに熱電併給を義務付ける必要があるだろう。その際に、熱電併給の実現に必要な、熱導管などのインフラへの補助を組み合わせるという方法は一考に値する。例えば、ドイツのコジェネ法では、電気のプレミアム買取と熱利用設備への補助がセットとなっている。

 第2に、既設プラントについても、徐々に熱電併給へ改造していくことを検討したい。ドイツでもこのオプションの必要性が議論されており、熱需要が近接していない場合は、熱需要先を誘致する、もしくは熱導管を整備することが検討されている。

 熱電併給であることは、電力と熱の間で出力の調整が可能になることから、プラントの柔軟性を高め、電力市場における調整力の提供の点でも、メリットが大きい。そのため、ドイツの議論でも、熱電併給であることが、生き残りの前提となっている。

 ドイツの経験から学び、それを自分たちの政策にどれだけ活かせるか。それが、日本における持続可能なバイオエネルギー利用拡大の将来を決めるだろう。
ii 一部のプラントは、入札に参加し、新たな価格で10年間の買取期間の更新権を得ているものもある。
iii     ドイツバイオエネルギー協会(BBE)が、ドイツ環境財団(DBU)の資金提供を受けたプロジェクト。期間は2018年3月から2カ年。
iv 筆者は招待を受けたが、全講演ドイツ語のため参加を断念したが、その後、入手した講演資料などで再構成している。
v  Fleischer (2017) The flexible use of bioenergy in the electricity market – A case study of Germany (15th IAEE Conference, Vienna)
vi     既設のバイオガスプラントについて、発電容量を新増設した場合、増設容量1kWあたり130€/年の報償金が、10年間に渡って支払われるもの。市場での直接販売が条件になっており、全量・固定価格での買取ではないことに注意。
vii  Eurobserv’er (2017) Solid Biomass Barometer
 


外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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