IEA Bioenergyワークショップ報告アジアにおける持続可能なバイオエネルギー利用

相川高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2018年10月12日

 2018年9月、IEA Bioenergyiが経済産業省、NEDO、国連大学と開催した国際ワークショップ「Future perspective of bioenergy development in Asia」に、自然エネルギー財団も共催団体として参加した。ワークショップのテーマは、貿易、石炭へのバイオマスの混焼・転換、そして持続可能性である。自然エネルギー財団からは、トーマス・コーベリエル理事長が、セッションのチェアを務めた他、スウェーデンでの経験を報告した。また、相川も日本のFiT制度における持続可能性確保の枠組みを解説した。
 

 これまでも、自然エネルギー財団は、バイオエネルギーの持続可能性の重要性を訴えてきたii。その点で、今回のワークショップで、欧米における持続性確保に関する最新の知見が、日本の政策担当者や業界に伝わったことは有意義だった。

 さらには、中国、韓国、インドネシア、マレーシアなどアジア諸国からも参加者があり、バイオエネルギーに対する需要が急増するアジア地域における、燃料生産や貿易の実態に加えて、それぞれの国の国内市場の最新の発展状況など、多くの興味深い報告があったiii

 本コラムでは、2日間の議論を通じて確認された、①持続可能性の確保、②貿易の意義、③信頼性の向上の3つのキーワードを軸に、ワークショップの概要を報告したい。

持続可能性の確保:主産物の持続性確保と調和したアプローチ

 持続可能性の確保は、全てのバイオエネルギー利用の前提である。他方、速やかに脱炭素社会を実現するために、化石燃料との価格競争力を高めていくことの重要性を忘れてはならない。

 したがって、バイオエネルギー燃料のみのために、新たに持続可能性の認証システムを構築・運営することは、効率的とは言えない。ワークショップでは、むしろ「副産物利用を主としたバイオマス燃料生産」という原則に立ち返り、主産物の持続可能な生産の確保・発展を推し進めつつ、同時に副産物としての燃料の持続可能性の確保を図るというアプローチが有効であるという見解が示された。

 その具体例として、バイオマス燃料に特化した認証制度であるSBP(Sustainable Biomass Program)が紹介された。SBPは、欧米を中心としたペレット貿易市場において、大きなシェアを占めている認証スキームであり、Drax やØrsted、Vattenfall、e-onなど欧州の主要な電力会社に採用されている。SBPの特徴は、FSCやPEFCなど国際的によく認知された森林認証システムに、エネルギー利用時に求められる、GHG削減量などの項目を「上乗せ(add-on)」していることである。そのため、燃料利用のために、森林の認証を新たに取り直す必要はなく、コスト効率的であるiv

 日本においても、持続可能性基準の重要性の認識は高まっているが、SBPのような現実的なアプローチを参考にしたい。

貿易の意義:リスクを分散させ、バイオエネルギーの発展を進める

 このように持続性が担保された燃料であることを前提にすれば、バイオマス燃料の貿易について、積極的な意義を見出すことができる。

 ワークショップで紹介されたのは、需要と供給の発展の時間差がある場合に、その差を埋める重要な役割を、貿易が果たしてきたという事実である。例えば、世界最初の大陸間のペレット輸出は、1998年にカナダからスウェーデンへ行われたものだったv。また、カナダのOPG (Ontario Power Generation)では、2基目の石炭からバイオマスへの転換を行ったが、燃料にはノルウェーから輸入した半炭化ペレットを用いているvi

 スウェーデンもカナダも、世界有数の森林資源と木材産業の生産能力を有している国である。しかし、それぞれの時点でペレット生産に投資するタイミングや条件が整わなかった場合に、輸入というオプションを使うことで、速やかに需要を立ち上げ・拡大することを可能にする。また、何らかの理由で、国内生産量が減少した場合に、それをカバーするのも輸入品であり、バイオエネルギー利用の拡大に伴うリスクを分散させることができる。

 もちろん、日本国内の状況を見れば、国際的な価格競争力を持つペレット工場の建設は容易ではなく、輸入品が市場を独占する状況が固定化される恐れもある。しかし、2018年6月に住友林業と電源開発が発表した、共同での木質ペレットの製造・販売会社の設立のように、国産ペレット生産にも新しい動きが出てきていることにも注目したいvii

信頼性の向上:企業の責任ある行動に期待

 ワークショップが東京で開催された背景には、アジアにおけるバイオマス貿易量の急増がある。欧州やカナダでは、石炭消費量の削減のため、石炭の代替としてバイオマス燃料が大量に使われ始めているが、国が基準を定めるとともに、SBPなどの民間スキームも活用しながら、持続可能性の確保に努めている。日本においても、FiTによる認定容量が急増しており、何らかのかたちでの持続可能性基準の策定は不可避であると考えられる。

 しかし、詳細な基準を定めればそれでよいというわけではない。細かすぎる基準は、バイオエネルギーの化石燃料への競争力を削いでしまう可能性がある上、そもそも間接的土地影響viiiなど証明が難しいものも含まれている。

 そこで、ワークショップで示されたキーワードは「信頼性(trust)」というものだった。その点で、バイオエネルギー業界に関わる企業の社会的な責任もまた重要である。例えば、デンマークでは、政府は持続可能性基準を定めていないが、Ørstedなど大規模ユーザーが、自主的に認証スキーム(SBP)を採用することで対応しているix。このように、企業の先取的な取組は、社会的な信頼を高めていくことにつながるだろう。

 加えて、国内資源の有効利用も合わせて追求していくことも、バイオエネルギーの社会的信頼を獲得していく上で重要である。本ワークショップでは、貿易をメインの話題としつつも、国内における資源の有効活用の重要性についても、議論が行われたx

 特に、日本は豊富な森林資源を有していることに加え、農業残渣や廃棄物などの中にも、エネルギー利用されていない膨大なバイオマス資源が存在している。こうした資源を効率的にエネルギー利用することで、バイオエネルギーのさらなる利用拡大を実現し、脱炭素社会実現への貢献度を高めていくことが、社会の信頼性を高めるための近道である。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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