ベトナム木質ペレット大手のFSC偽装迫られるFiT制度の対応

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年7月24日

 2022年10月19日、ベトナムにおける木質ペレット生産・輸出の最大手のひとつ、An Viet Phat Energy社(以下、AVP Energy社)が、販売した大量の木質ペレットについて故意に虚偽表示を行っていたとして、 FSCによりブロックされた1。これにより、同社の認証は取り消されるとともに、これ以降の3年半、FSCへの申請ができなくなっている。

 同社のペレットは、日本のFiT発電所でも使われていたため、FiT制度を運営する資源エネルギー庁ならびに、木質バイオマスの持続性に責任を負っている林野庁の対応に注目が集まっていた。その後、資源エネルギー庁がFiT法に基づく調査(報告徴収)に乗り出したことが明らかになっていたが2、本稿執筆時点(2023年7月)では、その結果は公表されていない。

 一方で、FSCは、2023年1月に、ペレットを対象にした調査を完了したことを公表したが3、2023年5月には、木質ペレットだけではなく、家具や建材など、ベトナム産のすべての木材製品にFSCの調査が拡大していることが明らかになり4、エネルギー利用にとどまらない、木材業界全体の問題となる可能性もある。

ベトナムの木質ペレット産業

 ベトナムは、世界で3番目の木質ペレット生産国であり、2021年の生産量は350万トンだった(図1)。2022年には生産量が490万トンに増加しているが、生産するペレットのほとんどが輸出されており、日本(250万トン)と韓国(227万トン)が主要な出荷先である。日本にとっても、ベトナムは最大のペレット供給国であり、2022年の輸入量の半分以上を占めている。

図1:世界の木質ペレット生産量(2021年)

出典)FAO, Forest Product Statistics

 ベトナムは、世界でも有数の木材産業が集積していることから、原料となるおが屑や端材が入手できることがペレット産業の成長を支えてきた。加えて、近年は製紙用の早生樹由来のチップも原料として用いられている。

 一方で、ベトナムでは天然林伐採は禁止されており、人工林からの供給が基本であるため、違法伐採のリスクは低いと言われている5。しかし、森林認証の取得という点では、近年増加傾向にあるものの、その面積は限られている。2023年7月時点では、FSC認証林は25.8万haであり、人工林457万haの5.6%を占めるにすぎない6

 加えて、ペレット産業が分散型の構造になっていることが、トレーサビリティを確保することを難しくしている。10万トン以上の生産能力を持つ8つの大規模サプライヤーで輸出量の7割弱を占めているが、300とも言われる小規模なペレット工場も乱立しており、大規模サプライヤーはこうした小規模の工場の製品も取りまとめて輸出してきた7

FSCブロックの理由はなにか

 FSC認証は「環境、社会、経済の便益に適い、きちんと管理された森林から生産された林産物や、その他のリスクの低い林産物を使用した製品を目に見える形で消費者に届ける仕組み」である8。あまり知られていないことかもしれないが、FSCの仕組みでは「きちんと管理された森林への認証」である「森林管理(FM:Forest Management)認証」に加えて、CoC認証を取得していれば、「その他のリスクの低い林産物」として「管理木材(Controled wood)」を利用することができる(図下のFSCミックスの場合)。管理木材はFM認証材ではないが、FSCが容認しない5つのカテゴリーに含まれないことが確認された低リスクの木材である。

図2:FSC認証の仕組み(上段:FM材100%の場合、下段:FSCミックスの場合)
 

出典)自然エネルギー財団作成


 今回のAVP Energy社ブロックの理由は、この「届ける仕組み(CoC認証)」についてのルール違反だった。同社は、図2下のFSCミックスの仕組みを用いるべきところ、もしくはこの仕組みさえ適応できないにも関わらず、図上のFSC100%のように偽造していたということである。具体的には、FM材ではない原材料についてFSC100%表示を伴う購買伝票を偽造し、この原材料を木質ペレットの製造に使用し、FSC100%表示を付けて「大量に」販売していた。

 なお、AVP Energy社からペレットを輸入していたとして報道されている9、複数の日本商社のFSCの認証ステータスは全て有効(Valid)となっている(2023年7月14日現在)。発電事業者や商社に対して、さらなる自主的なデューデリジェンスを要求することはできるが、そもそも専門の審査機関が見逃がした偽装を見破ることを求めるのは酷であろう。

FSCをFiT制度で活用することの難しさ

 今回、FSCは自らが定める手続きに従って調査を行い、自浄作用を働かせたと言える。一方で、FSCの仕組みを使って、FiTにおけるバイオエネルギーの持続可能性証明に活用することの難しさも明らかになった。

 まず、調査に要する時間である。調査は2020年の取引について行われているが、AVP Energy社のブロックが行われたのは2023年10月であり、その間の賦課金はすでに支払われている。加えて、不正が見つかった取引のうち、日本に輸入された量すら分からない。

 ただし、これを持ってFSCを批判することはできない。なぜならば、FSCジャパンが述べているように「(FSCは)必ずしもバイオマス発電もしくはFiT制度における証明に合った設計にはなっていない」からである10。こうした不整合を分かって、FiT制度での利用を続ける側に問題がある。

 第一に、FiT制度では、FSCミックスの方法の活用を運用上認めていたというのが筆者の理解であるが、関連するガイドラインに明確な記載は見当たらない。したがって、ベトナムのペレット生産者が書類を偽造してまでもFM認証材100%に見せたというのは、FiTの要求事項が適切に伝わっていなかったことが背景にあったかもしれない。

 第二に、ミックス表示の場合、廃材や非木材を使うことをFSCは認めている。残渣や廃材の利用はむしろ推奨されることだが、FiT制度では買取区分が異なる原材料を混ぜてペレットを生産することもありえるので、新たな不正を招く可能性もある。

 第三に、FSCなど森林認証のCoC認証の審査では、一つの会社の中での原材料(インプット)と製品(アウトプット)の量的な整合をチェックするのが基本である。一方で、企業間の取引の整合性は、膨大な組み合わせになるため、完全な監査が難しいという問題がある。

バイオマスに特化した認証制度の積極的な活用を

 実は、このような問題に対処するために、欧州を中心にバイオマスに特化した認証制度11が発達してきた。これらの認証では、会社間の各取引を記録したり、監査の対象とすることを可能とするしくみを構築している。また、FM認証材はもちろん、製材残渣などリスクの低い木材についても、量的な管理ができる。EUの再生可能エネルギー指令などでも、こうした認証制度を活用することで持続可能性の確認を行っている。

 例えば、GGL(Green Gold Label)では、バイオマスのサプライチェーン上のすべての商取引について、認証機関が審査を行い、証明書を発行している。また、SBP(Sustainable Biomass Program)においては、データ転送システム(Data Transfer System)というクラウドベースの独自のデジタルツールを構築し、SBP認証材の取引はこのプラットフォーム上で行うことを必須として、全取引を記録している。

 こうしたことはすでに、自然エネルギー財団が2020年のポジションペーパーで指摘している12。FiT制度においても、木質バイオマスも含めて全てのバイオマスについて、GHG削減効果の確認が行われるようになる。これはサプライチェーンが適切に遡及できることが前提となるため、EUと同様にバイオマスに特化した認証制度の活用が議論されている。FiT制度においては、木質バイオマスの持続可能性を確保するために、木材一般に適応される合法性証明ガイドライン13とFiT発電に用いる場合の証明ガイドライン(いずれも林野庁が所管)がある。さらに2023年3月に改正されたクリーンウッド法の運用と合わせて改訂を行うなど、これらを有効に機能させるための措置が求められている。上記の林野庁による改善に加え、資源エネルギー庁によるFiT制度の強化により、堅牢なしくみの構築を急ぐ必要がある。

 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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