欧州議会REDⅢを可決再エネとしての森林バイオマスは現状比率を維持へ

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2022年9月28日

in English

 2022年9月14日、ストラスブールで開催された欧州議会の本会議において、EUの再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive)の改正案(以下、REDⅢ)が可決された1。これにより、2030年までに再生可能エネルギーを45%に増加させることが承認された。しかし、EUの立法プロセスでは、欧州議会だけではなく加盟国の当該分野の閣僚から構成される欧州連合理事会も立法権を持っており、この後、欧州委員会と欧州議会に加えて欧州連合理事会との三者間協議が行われ、2022年内に文案の最終化が行われる見込みである。

 2021年7月に欧州委員会が発表したREDⅢの原案は、バイオエネルギーの持続可能性基準を強化することを提案していた2。しかしその後の議論では、バイオエネルギーの中でも、森林から直接取り出されて使われる木質バイオマス(以下、森林バイオマス)の取り扱いに議論が集中し、大きな論争になっていた。

 EUにおいて、バイオエネルギーは全自然エネルギー供給量の6割、森林バイオマスも同2割を占める重要なエネルギー源になっている。それに対して、環境NGOなどから「エネルギー利用が森林伐採量を増加させている」「炭素負債が発生しており、石炭より環境に悪い」などの批判が相次ぎ、ついには「森林バイオマスを再生可能エネルギーの対象から外すべきだ」という主張がなされるようになり、その帰結が注目されていた。

 結論から言うと、欧州議会は森林バイオマスを自然エネルギーに含め、REDの目標達成に算定できる基本的な枠組みを変えなかった。ただし、エネルギー利用のさらなる増加が森林伐採量の増加につながるリスクを念頭に、森林バイオマスの総エネルギーに占める割合の現状維持を求めることになった3

一次木質バイオマスへの注目

 REDⅢ原案では、森林バイオマス(Forest biomass)という言葉が使われていたが、今回可決された法案には一次木質バイオマス(Primary woody biomass)という用語が登場している。これは、製材工場などで発生するおが屑や端材などを二次木質バイオマス(Secondary woody biomass)と呼ぶことに対比させた表現であり、REDⅢでは以下のような定義づけが行われている。
 

伐採もしくは収穫・取得された全ての丸太。(森林からの)除去により得られる全ての木材を含む。つまり、森林から除去された(バイオマスの)全量のことで、自然枯死、伐採と伐出により回収される木材を含む。樹皮がある場合とない場合の全ての木材を含む、丸太形状、割られたもの、粗く角材にされたものを含む。収穫された場合、枝、根、株、こぶを含む。粗く整形されたもの、鋭く削られたものも含まれる。
高リスクの火災に晒されやすいエリアでの森林火災の持続可能な予防策、自然災害、病虫害の拡大防止により影響を受けた森林から抜き取られる木質バイオマスを除く。木材の抜き取りを最小化し、生物多様性を保全し、結果としてより多様性が高く、レジエントな森林になる。(詳細は)欧州委員会のガイドラインに従う。
注)カッコ内は筆者による加筆。
出典)Renwable Energy Directive, Text Adapted (European Parliament, 2022/9/14), p.27

 

 確かに、REDⅢ原案においては、カスケード利用の原則を適応するとともに、建築用材や家具材料などのマテリアル用に使われるような丸太部分(Roundwood, stemwood, log)の森林バイオマス利用は制限されることが提案されていた。しかし、先端部分でマテリアル利用が難しい部分や枝葉などの伐採残渣(Harvesting residues)については、これまで森林バイオマス利用の太宗を占めていたという実態もあり、REDにおいてその利用を制限するという議論は行なわれていなかった。

 伐採残渣の利用は、科学的にも気候変動対策効果が期待できる方法と評価されていた。2021年の欧州共同研究センター(Joint Reseach Center)のレポート(以下、JRCレポート)でも、末木枝条と枝葉などの形状が小さい残渣の閾値内での利用4は、気候変動対策と生物多様性保全効果の両方が期待できるWin-Winの利用方法とされていた5

 それにも関わらず、残渣も含めた一次木質バイオマス利用量の現状維持を求めたことは驚きであるが、EUでは残材の利用がすでに「閾値」に到達していると判断したと解釈できる。確かに、欧州の森林は林業目的で既によく利用されている。一つの指標として、木材の増加量(成長量)に対する伐採量の比率を取った場合、2009年以降上昇傾向にあり、2015年には75.7〜85.2%まで上昇したと推計されている6

 また、JRCレポートは、EUにおける木質バイオエネルギーの利用量のおよそ50%が二次木質バイオマスであるのに対して、37%が一次木質バイオマス、14%の由来が不明だったと報告した。一次木質バイオマスのうち、枝条や梢端などの収穫残渣が53%(木質バイオマス全体の19.6%)で、残りの47%(全体の17.4%)は丸太に分類された。これらの丸太の少なくとも半分は、南欧における伝統的な薪炭林施業であると推計された。また、嵐や火災、虫害などの自然撹乱後のサルベージ・ロギング材が丸太形状でエネルギー利用された可能性もあったとした。これ以外の丸太利用としては、間伐材や曲がり材などの低質材だった可能性がある。

 しかし由来が不明なものが14%あったことに加え、丸太形状の木材が実際に利用されているという現場の写真が各地で報告されたことなどにより7、本来は利用価値の高い丸太がエネルギー利用されており、森林の伐採量を増加させているのではないかという疑念が強まっていた。

森林バイオマス発電に対する補助金のフェードアウト

 REDⅢでもう一つ注目されるのは、森林バイオマス8を燃料として、熱電併給ではなく発電のみを行うプラントについては、2026年12月末以降は補助金の支給を原則として取りやめるよう加盟国に求めたことである。ただし適用除外として、2021年時点で提案されていた、(1)公正な移行計画に位置づけられていること、もしくは(2)BECCSであることに加えて、今回の提案により、(3)熱導管などの熱利用インフラがなく熱電併給が不可能な発電所も除外される見込みである。

 このように、森林バイオマスがREDの目標達成に活用できるとされつつも、数ある再エネの中で唯一補助金の対象外とされることに対して、業界からは強い反発の声が上がっている9。一方で、総合エネルギー効率の高い熱電併給プラントに加えて、熱利用についても補助金は禁止されていない点には注意が必要である。

 また、補助金がなくても、近年の化石燃料価格の高騰とカーボン・プライシングにより、バイオマス燃料が選択される可能性もある。2022年3月以降、欧州での石炭価格は400ユーロ/tを上回る高水準が続いている。確かに、バイオマス燃料も化石燃料ほどではないが価格が上昇しており、木質ペレットについては300ユーロ/tを超えている。しかし、EU-ETSの排出権取引価格は80ユーロ/t-CO2以上となっており、石炭の場合であれば190ユーロ/t程度の燃料価格の上乗せになることから、補助金なしでも木質ペレットが競争力を持つ可能性がある。

森林バイオマスのより有効な利用を図るEU:日本は注視が必要

 このような森林バイオマスの取り扱いを巡るEUの議論は重要な示唆を含んでおり、日本でもエネルギー政策だけではなく、森林政策も含めた総合的な検討が必要である。そのためにも、以下のような点を抑えながら、文案の最終化までEUでの議論を引き続き注視する必要がある。

 第一に、EUがバイオエネルギー利用自体を否定したわけではなく、より有効な利用を図っている点である。冒頭に述べたように、バイオエネルギーはEUの自然エネルギーの60%、森林バイオマスは20%を占める。Fit for 55の策定に先立ち行われた2020年の分析でも、2050年においてバイオエネルギーは現状から2倍程度の成長が見込まれている10。加えて、ロシアのウクライナ侵攻後の2022年5月に発表されたREPower EUでは、エネルギー作物の利用も視野に、170億m3の天然ガス相当のバイオガスの増産が計画されている11

 また、木質バイオマスの中でも、製材工場の端材などの二次木質バイオマスの利用は引き続き推進される。EUでも高層建築の木造化の動きなどがあり、製材需要の増加に伴い、発生する二次森林バイオマスの量も増加することが期待できる。一次木質バイオマスについても、熱電併給プラントなどの効率の高い使い方、もしくは産炭地などでの公正な移行計画や、ネガティブ・エミッションを実現するBECCSであるなど、EUの脱炭素化に向けた必要性が明確なものについては、有力な手段とされていると考えることができる。さらには、ロシア産ガスの有力な代替手段として、薪やチップ、ペレットなどの木質バイオマスは、家庭の暖房用燃料として支持され、需要が急増しているという現実もある。そのため、今回REDⅢ改正案を取りまとめ、議会に提出したMarkus Pieper議員も「エネルギー転換を真に成し遂げるためには、木質由来のバイオマスがエネルギー源として必要である」と投票後の記者会見で発言している。

 第二に、この議論は、同じく欧州議会で議決されたEUの新しい森林戦略2030とセットで考えるべきである。欧州における木質ペレットの最大の輸入国であるイギリスはすでにEUを離脱している12。またロシアやベラルーシからの輸入も停止状態にある中では、環境保全に配慮しながら、域内の森林をどのように効率的に使うかということが主要な課題であることを理解するべきである。

 すでに述べたようにEU域内の森林の利用率は7〜8割と高く、利用量をこれ以上増やすことが簡単ではないことが理解できる。そのため、新しい森林戦略も「森林の質と量の改善」「森林の保護、回復、強靭化」を目的としており、生態系サービスへの支払いスキームの普及を検討するなど、木材伐採以外の収入を模索する動きも見られる。一方で、日本の森林利用率は3割程度であり、間伐材等の林地残材についても3割未満が搬出されるにとどまっている。そのため、国産材利用の一環として、切り捨て間伐材も含めた林地残材の有効活用が政策的に進められ、FiT制度でも優遇されてきたという経緯を考慮する必要がある。

 第三に、現状とのバランスを取るための配慮が行われている点である。まず、森林バイオマス発電への補助金のフェーズアウトにも適応除外が設けられる見込みであることは前述のとおりである。加えて、GHG削減比率については、REDⅢ原案では2025年以前に運転開始した全ての施設への遡及的な適応が提案されていたが、今回は2021年以降に運転開始したもののみを対象とするように変更された。さらに、適応規模についても、当初提案の5MWから7.5MWに緩められた。このような点は、現在進行中の日本のFiT制度下のGHG削減基準の適応方法の議論においても参考にすることができるだろう。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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