2022年の上半期に自然エネルギーの電力は全世界で大幅に増加する一方、火力と原子力の電力は減少した。とはいえ、この状態を続けるだけでは2050年までにカーボンニュートラルを達成するには不十分で、電力セクターにおける脱炭素をもっと深く推進していく必要がある。現在進行中のエネルギー危機によって、経済性とエネルギー安全保障の両面で自然エネルギーの強みが明確になった。その強みを生かして自然エネルギーの導入を加速させるために、障壁になっている系統接続の問題や国民の理解促進が重要だ。
自然エネルギーの電力が上半期に世界で12%増加
2022年の1月から6月、世界各国は1970年代のオイルショック以降で最悪のエネルギー危機に直面した。そのような状況の中で自然エネルギーの電力は拡大を続けた。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、世界の主要47カ国の発電量(全世界の発電量の約8割を占める)のうち、自然エネルギーの電力は2022年の上半期に前年と比べて382TWh(テラワット時=10億キロワット時)も増加した。増加率は12%である。2021年に全世界の自然エネルギーの発電量が過去最高だったことを考えると、この結果は特筆すべきである。これに対して火力(自然エネルギー以外の廃棄物と種別不明の電力を含む)は48TWh減少し、原子力も24TWh減少した(図1)。
図1: 世界の発電量の変化(2022年と2021年の上半期を比較)
さらに詳細を見てみると、自然エネルギーの中では風力、太陽光、水力が増加した。火力ではCO2(二酸化炭素)の排出量が多い石炭の減少が大きい(図2)。
図2:世界の発電量の変化(火力ほかと自然エネルギー、2022年と2021年の上半期を比較)
特に発電量が大きい5カ国・地域(中国、欧州、インド、日本、米国)の変化にも違いが見られる(図3)。
図3:主要国・地域の発電量の変化(2022年と2021年の上半期を比較)
自然エネルギーの電力の増加の多くは中国によるもので、上半期だけで208TWh拡大した。中国は世界最大の発電量を誇るが、自然エネルギーの電力の増加分の半分強は新設の風力と太陽光がもたらした。そのほかの増加分は水力で、水量などの条件が良かったことによる。一方で石炭を中心に火力が96TWh減少した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンの影響が大きい。中国における火力の大幅な減少によって、インドをはじめ他の地域の増加分を打ち消すことができた。
このほかにも注目すべき点を3つ挙げておきたい。第1に、米国では風力と太陽光を主体に、自然エネルギーの電力が82TWh増加した。国全体の発電量が中国の半分程度であることを考えると、米国でも風力と太陽光が着実に拡大している。第2に、欧州では原子力が39TWhの大幅な減少になった。主にフランスの原子力発電にさまざまな問題が発生したことによる。第3に、日本では発電量の増加分のうち8割近くを火力、特にガスで供給している。これは脱炭素の観点で深刻な問題である。
化石燃料への固執がカーボンニュートラルを危うくする
2022年の上半期に自然エネルギーの電力が拡大したとはいえ、火力発電を大幅に減少させることはできなかった。カーボンニュートラルに欠かせない電力セクターの脱炭素を深く、そして素早く推進するうえで重大な問題である。
電力セクターが脱炭素の中核を担うことは明らかだ。自然エネルギーという経済的にも技術的にも化石燃料を代替できる選択肢がある。2020年には自然エネルギーの発電量が過去最大の増加を記録し、加えて新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、全世界の火力の発電量は512TWhも減少した。ところが2021年に火力の発電量は飛躍的に増加して、過去最大だった2018年を大幅に上回った(石炭火力とガス火力の両方とも過去最大の発電量を記録)。その主な要因は、経済活動の回復による電力消費量の増加のほか、天候の影響、さらには運輸セクターを中心とする電化の進展である。IEAによると、2050年までに世界全体でカーボンニュートラルを達成するためには、火力発電を大胆かつ迅速に削減する必要がある。直近の2020年代の10年間には、毎年852TWhにのぼる火力発電の減少が求められる(図4)。
図4:全世界の火力発電量の推移と2050年カーボンニュートラルに向けた削減の道筋
このような状況を考えれば、2022年上半期の48TWhの減少ではあまりにも少ない。しかも中国では7月と8月を合わせて火力発電が約100TWh増加したとの速報があり、上半期の減少分を打ち消してしまう。 1 現時点で想定される最悪のケースとして、今冬に北半球で寒さが厳しくなって、2022年の通年では全世界の火力発電量が過去最高になる可能性がある。
自然エネルギーの強みを生かす政策で導入加速へ
言うまでもなく、自然エネルギーの電力を拡大することが、エネルギー供給における脱炭素の中心になる。自然エネルギーの電力は順調に増えているとはいえ、さらに加速させなくてはならない。
第1に、自然エネルギーの経済的な競争力とエネルギー安全保障面の戦略的な価値(自然エネルギーは基本的に国産)を世界中の政策決定者が十分に認識する必要がある。その認識を野心的かつ効果的な政策に反映させる。欧州の「REPowerEU Plan」、米国の「Inflation Reduction Act」が好例である。2
経済性の点では、エネルギー危機で化石燃料の価格が高騰したため、自然エネルギーのコスト競争力がいっそう明確になった。従来は世界全体の水準と比べて自然エネルギーのコストが高かった日本でも同様の状況になっている。実際に新設の太陽光発電のコストは最も安価なケースでは1kWh(キロワット時)あたり8.99円に、洋上風力も11.99円まで低下した。いずれも建設費と運転維持費、さらに事業者の利益を含むコストである。対照的に既設の石炭火力(一般炭)は燃料費だけでも2022年8月の時点で計算すると平均15.71円、ガス火力(液化天然ガス)は19.02円まで上昇している(図5)。これは自然エネルギーに多額の投資を促す強力なシグナルになる。
第2の政策として、自然エネルギーを電力システムに統合するための先進的な対策をタイミングよく実行することが重要だ。加えて自然エネルギーに対する国民の理解を醸成することも欠かせない。電力システムの柔軟性を高めるためには、デマンドレスポンス、系統増強、揚水発電、蓄電池、脱炭素火力、市場運営、といったさまざまな対策を組み合わせる。その中でも蓄電池の導入拡大が各国で進んでいる。定置型の蓄電池は2021年に全世界で過去最高の10GW(ギガワット=100万キロワット)が新たに設置されて、累計では27GWに達した。3
最後に忘れてはならない点は、自然エネルギーの開発プロジェクトでは新しいインフラを作ることによって、住民や産業(農業、漁業、観光業など)に影響を及ぼす可能性がある。地域の反対でプロジェクトに支障が生じないように、社会的な受容性に配慮することが求められる。地域の関係者の意見を聞き、適切に情報を開示することによって、自然エネルギーの開発を円滑に進めていかなくてはならない。