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気候変動対策が争点となるドイツ連邦議会選挙

一柳 絵美 自然エネルギー財団 研究員

2021年8月11日

 9月末に連邦議会選挙を控えるドイツ。気候変動が重要な争点となる可能性が高まっている。今回は、気候変動対策に影響を与える今年のこれまでの背景情報を整理したあと、主要各党の選挙綱領や首相候補らの発言から、気候変動に関する姿勢をまとめる。最後に、欧州委員会発表のFit for 55に関するドイツ国内での議論について紹介したい。

2021年、ドイツの気候変動対策に影響を与える3つの出来事

 はじめに、ドイツの気候変動対策強化につながっている今年の出来事を整理したい。第一に、若者たちの憲法訴願をきっかけに法改正となった気候保護法が、6月末に連邦議会・参議院で承認され成立、ドイツは2045年までの気候中立を目指すことになった1。憲法裁判所判決からおよそ2か月というあっという間の改正法成立だった。

 第二に、7月のドイツでの大洪水発生を経て、メルケル首相や次期首相候補者らが口々に気候変動との闘いの加速を主張した。特に被害が大きかったドイツ西部のアール渓谷周辺地域だけでも、少なくとも141人の死者、766人の負傷者が発生した(8月9日時点)。洪水と気候変動との関係性に関しては、被災地を訪問したメルケル首相が、「私たちが本国で経験している全ての出来事と、今経験している急激な変化を総合して鑑みると、もし科学を信じるならば、気候変動と関係があることを示唆している。ご存知の通り、私は科学を信じている」と発言した2。そして、今後の水害対策強化のために気候適応策への公財投入に関する議論が始まっているところだ。

 第三に、欧州委員会が7月中旬に発表したFit for 55も、ドイツの気候変動対策に少なからぬ影響を与えそうだ。Fit for 55は、欧州域内の2030年までの温室効果ガス排出を1990年比で少なくとも55%削減するための気候政策パッケージである3。これから、最終的な計画採択までには、EU加盟国と欧州議会の間で激しい交渉が見込まれる。

気候変動対策は連邦議会選挙の重要な争点へ 各党の選挙綱領は?

 このような背景から、9月末のドイツ連邦議会選挙では、気候変動が重要な争点となりそうだ。最近の世論調査でも、気候変動を非常に懸念していると回答した人の割合は52%で過半数を超え、今年の初めの46%から微増している4。現与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、6月に発表した選挙綱領で、全10章立ての第3章目に「新たな豊かさ:持続可能な成長により気候中立な産業国へ」という章を設けている。その中で、2045年までに気候中立へ至る具体策として、排出量取引の拡大を掲げている。排出量取引で得た収益は、電気料金引き下げという形で市民や企業に全額還元すること、そのための第一歩として再エネ賦課金廃止を記している。1990年比温室効果ガス削減目標は、改正版気候保護法と同様に2030年65%減、2040年88%減を目指す5

 現在、CDU・CSUと連立与党を組むドイツ社会民主党(SPD)の選挙綱領では、全5章立ての第2章目の中で「気候中立のドイツ」が論じられている。中長期的な削減目標値は、CDU・CSUと同じく改正版気候保護法の内容を踏襲し、2030年65%減、2040年88%減。加えて、2045年までの気候中立のため、遅くとも2040年までにすべての電力を自然エネルギーで賄うという独自の目標も設定している6

 一方、今秋の選挙で躍進が期待される緑の党の選挙綱領では、現与党よりも気候変動対策へのより強い意志が感じられる。「生活基盤を守る」と題した第1章目から気候中立を論じ、2030年温室効果ガス削減目標として、現目標値65%減を上回る70%減を主張している。脱石炭完了時期は、現目標の2038年より8年早い2030年としている7

次期首相候補らの気候変動に関する姿勢は?

 今回の連邦議会選挙では、2005年から首相を務めてきたメルケル氏の退任に伴い、新たな首相が誕生することになる。ポストメルケルとしてドイツメディアで注目を集めている首相候補は、現与党CDU・CSU候補のラシェット氏、SPDのショルツ氏、現野党である緑の党共同代表のベアボック氏の3人である。これまで気候変動対策にあまり前向きでないとみられていたラシェット氏だが、大洪水後には気候変動対策を加速する必要があるという考えを示した。そのため、ドイツメディアは「ラシェットが気候保護を発見する」と皮肉っぽく報じた8。ラシェット氏は、褐炭採掘地を有するノルトライン・ウェストファーレン州の首相。脱石炭の時期に関しては、「個人的には、CO2価格の影響で我々が思っているよりも早くなると思う」としながらも、遅くとも2038年までの石炭火力の廃止を予定通りに進める考えだ9

 緑の党の首相候補ベアボック氏は、首相候補としての人気が急速に高まっていたが、経歴詐称や著作の剽窃疑惑などのスキャンダルによって先行きが不透明となりつつある。ベアボック氏は、次期政権が気候変動の課題に、緩和・適応・異常気象時の損失と損害という3段階で取り組むことを要求している。また、今回の大洪水を受けて、災害管理のための中央事務局設置を訴えた10。8月3日には、緑の党の支持率挽回を狙って、同党の「気候保護・緊急プログラム」を発表した。10項目からなる本プログラムは、自然エネルギー拡大の加速や、脱石炭の時期を2030年に前倒すことなどを選挙綱領と同様に明記している。加えて、本プログラム特有の目玉として、緑の党が次期政権に参加する場合には、連邦気候保護省を設け、他省庁の法案がパリ協定の内容に適合していない場合に拒否権を行使する考えだ。そして、省庁間の調整プロセスを合理化・迅速化するために、連邦気候保護省の管轄下に、気候タスクフォースを設置し、新政権発足後の最初の100日間、毎週開催するとしている11

 SPD首相候補のショルツ財務相は、8月4日、自身のTwitterで、緑の党発案の連邦気候保護省へのハッシュタグをつけて応戦。「気候保護は、今後の政府の仕事の中心的課題でなければならないことは明らかだ。だからこそ、今後の中心的な任務として最優先で取り組んでいく。気候保護は首相官邸で推進される」と投稿している。9日には、IPCCの第6次評価報告書公表に対してすぐに反応し、「我々は、気候変動対策に必要な産業の大変革を成し遂げる方法を知っている。目標を立てるだけではなく実行するのだ。我々は、次期政権の任期の最初に、法律を適宜改正する必要がある」とツイート12。気候保護に具体策を持って迅速に立ち向かう姿勢を強調している。

EUのFit for 55パッケージに関するドイツへの影響

 ここで一旦ドイツ国政の状況から離れて、EUのFit for 55パッケージに対するドイツ国内の反応を紹介したい。同パッケージには、たとえば、運輸と建築分野に関する新たな排出量取引制度、2035年以降の新車の排出ゼロ化などが盛り込まれている。これを受けて、シュルツェ連邦環境大臣は、提案の内容を徹底的に、しかし迅速かつ建設的に検討すると述べた。アルトマイヤ―連邦経済エネルギー大臣は、運輸と建築部門への新たな排出量取引導入の提案を支持する意向だ。Fit for 55発表前日の7月13日、ドイツ連邦経済エネルギー省は、新たに2030年のドイツ国内電力消費量の推定値を645~665TWhと発表し、中央値を655TWhとした。これは、1,400万台の電気自動車、600万台のヒートポンプ、30TWhのグリーン水素による電力消費量の増加を考慮した値で、従来の電力消費量の推定値から10%以上増加する見通しである13

 今回のFit for 55パッケージは、特に自動車産業への影響が大きく、ドイツ自動車産業界からは批判の声が聞こえる。ドイツ自動車工業会(VDA)代表のミュラー氏は、2035年に予定されている排出量0gの制限によって、欧州委員会は事実上、ハイブリッド車や小型商用車に対しても内燃機関の禁止を意味していると指摘。これはイノベーションに反しており、消費者の選択の自由が不必要に制限され、雇用への影響も甚大であるとの懸念を示した14

 Fit for 55の発表に対して、気候中立にむけた科学的な根拠に基づく政策提言を行うドイツのシンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデは、ドイツの気候変動対策を加速させるものと前向きに評価している。アゴラ・エナギーヴェンデの副所長フランク・ペーター氏は、「排出量取引制度の改革計画によって、2030年までのドイツ脱石炭の前倒しが促される」とし、「排出量取引制度でのCO2価格は、少なくとも現在の水準を維持するか、1トン当たり80€まで上昇する可能性が高くなる。これは、ヨーロッパのほとんどの地域で石炭の採算がとれなくなることを意味する」と指摘している15

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギーで豊かな日本を創ろう!アクション
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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