コロナ危機と気候危機試される日本の戦略的対応能力

末吉 竹二郎 自然エネルギー財団 代表理事 副理事長

2020年5月8日

in English


 終息への道程が描けない中で、EUやIMFなどでコロナ危機からの回復と、気候危機への対応をリンクさせる議論が深まっている。「緑の回復/the Green Recovery」である。

 「悪化が続く気候と生態系の危機から目をそらすべきではない。緊急経済対策は、コロナ危機と気候危機を密接にリンクさせることが重要だ」とEUはいう。確かに、二つの危機は多くの点で共通点を持つ。例えば、危機発生の遠因は、追い求めすぎた経済成長が自然界との良き共生関係を壊した結果である。危機の被害が社会的弱者に集中するのも同じだ。更には、共に科学的アプローチを必要とすること。解決には自国一国ではダメで国際協調が不可欠な事、などなど、両者は同心円である。加えて、お金の話である。両危機とも巨額の資金を必要とする。今の時代、どの国であれ、2つの危機に二正面作戦を同時展開する財政的余裕はない。両者をトレードオフと見做し気候危機を脇に追い遣らないためにも、二つの危機を同時同軸に取り組む緑の回復がより合理的であるのは言うまでもない。
 
 そうした中で注目すべきは、独仏などEUメンバーの13か国*の気候環境担当大臣が欧州委員会(EC)宛に要請した「コロナ危機からの回復策の中心に、EUが進める『欧州グリーンデイール(the European Green Deal)』を据えるべきだ」との政策提言である。なぜならば、この提言の背景にEUのしたたかな戦略を感じ取るからである。EUには、気候危機は固より、企業会計原則やCSRからTCFDやサステナブル金融、引いてはサステナブル社会の建設まで、時代の変革を大きく左右する重要課題で、常に自らに有利に事が運ぶよう世界の主導権を握ることに徹してきた歴史がある。コロナ危機への初動の遅れから甚大な被害を受けたEUが一刻も早い回復を願う中で、一見、勢力分散とも取られ兼ねない気候危機を絡ませてきたのも、ポストコロナ時代への主導権を握ろうとする強い政治的・経済的・社会的戦略が背景にあるとすればうなずける話である。(*2020年5月8日時点)
 
 そこで、にわかに気になるのが我が国の二つの危機への戦略的対応能力である。残念ながら、コロナ対応に大わらわの政府にも、経営が急激に混乱する企業にも、社会生活の分断にあえぐ民間にも、日本版「緑の回復」を目指す動きは表立っては見えていない。振り返ってみると、我が国には、戦後の混乱を皮切りに、オイルショック、リーマン金融危機、阪神淡路大震災、東日本大震災、等々、様々な国家的危機を乗り切ってきた歴史がある。今では世界の新潮流に後れを取る日本だが、日本国内に潜在的能力がないのではない。非政府主体(Non-State Actors)の台頭など、日本を再び世界の檜舞台に押し出す要素は数多く存在する。問題はそれらを引き出し、結集させ、最大限の結果を生み出すべき国家戦略がないことなのである。
 
 そういう日本にとって、今が絶好のチャンスと考える。なぜならば、コロナ危機が人々のマインドセット、即ち、モノを考える頭の中の価値基準を大きく揺り動かし、これまでのタブーを崩し始めているからである。多くの人々が今あるすべてのモノの本源的価値の見直し、問い直し、選び直しを始めている。我々が営々として築いてきた今の世の中は果たしてこれで良かったのだろうかと。言い換えれば、伝統的価値観、慣習的価値観、現状肯定的価値観が揺らぎ、あるべき改革や、やらねばならない新しいことを抑え込んできた「社会の壁」が一気に崩れ落ちたのが今の日本だからである。このチャンスを逃してはならない。
 
 世界に目を転じると、昨日までの価値観が大きく揺らぐ中で、「新しい日常/A New Normal」の模索が始まった。一歩先を行く世界では、二つの危機への同時対応が劇的な社会変容を生み出す中で、どの国が、どの社会が、どの産業や企業が一早く、そして、より深くこの変容を成し遂げるのか、それが将来の明暗を分ける新たな国際競争が始まった。
 
 日本がポストコロナ時代への国際競争に勝つためには、我々は今こそ、データや情報を大切にし、科学的アプローチに徹し、多くのステークホルダーを巻き込んだオープンな政策論議をし、社会を支える人々への「共感/Empathy」を育み、社会の隅々に「信頼/Trust」を根付かせ、皆が共に知恵を絞り共に汗を流す国や社会を創っていかねばならない。それが成ってこそ日本が真の民主主義国家として勝利する時である。

コロナ危機特設ページトップ


 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する