2019年1月17日、環境省は、自然エネルギー事業の環境影響評価(アセスメント)適用素案をとりまとめた。素案は、特に「環境影響評価法」にもとづいて、必ずアセスメントを実施すべき大規模太陽光発電事業の規模要件(4万kW・40MW)を提示しているi 。今回、自然エネルギー財団もかねてから指摘してきた、風力発電のアセスメント規模緩和についても議論されたが、結局は見送りとなった。現在のアセスメント対象規模は1万kW(10MW)以上で、国内石炭火力発電の15万kW(150MW)や、海外に見られる風力発電のアセスメント規模5万kW(50MW)と比べて厳しいものとなっている。本コラムでは、風力のアセスメント規模の議論についてとりあげたい。
滞る日本の陸上風力発電開発
日本の風力発電の導入量は約3.6GWである(2018年3月末時点)ii 。固定価格買取制度(FiT)の導入以降、急速な拡大を見せた太陽光発電とは対照的に、2012年度から2017年度までの5年間の伸びは1GWに満たない。FiTが始まる前の5年間に約1.5GW導入された状況よりも、むしろ伸びが減少している iii。一方で、世界の風力の導入は既に約539GWに上りiv 、投資拡大がコスト低下を導き、勢いを増している。欧州では90年代に導入された古い風車のリプレースも盛んに行われており、洋上風力の拡大導入も本格的に始められている。
日本で風力の導入が停滞している大きな要因は系統制約にあるが、FiT導入以降に特に影響を与えたものの一つとして、環境アセスメントがあげられる。2011年に設置補助が廃止され、2011年や12年はFiTの導入そのものや価格の設定も不明な状況下で、風力の事業計画はしばらく停止を迫られていた。その中で導入された環境アセスメントは、さらに開発期間を長期化させるものとなった。
アセスメントは、動植物や生態系などの自然環境や、景観や騒音などの生活環境に対する事業の影響を測り、また、立地する地域とのコミュニケーションを深めるための大切なプロセスである。しかし、その一方で、すべての事業についてフル装備のアセスメントを実施することは、コスト増加につながり、結果的に社会全体の負担が重くなってしまう。そのため、法は、「規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業」にアセスメントを義務付けている。
現行の風力の対象規模を設定する際には、事業者が当時自主的にアセスメントを実施していた際の規模と共に、先行して対象となっていた地熱の1万kW(10MW)や、火力発電の規模15万kW(150MW)の土地改変面積等も参考にされた。アセスメント対象となった1万kW(10MW)以上の風力事業のカバー率は、84%におよぶことになったv 。
2012年当時、風車は1機2MW程度が多かったが、今では3MWから4MWの風車が主流となってきた。低速の風で効率良く発電するためには風力の大型化が必然となるため、一箇所10MW以上の事業計画が増加している。法にもとづくアセスメント開始以降に計画が始まった案件のカバー率を見ると98.6%に至っている vi。アセスメントを回避しようとすれば、風車の数を減らすことになり、事業コストが高くなる。
規模要件の見直し見送りとスクリーニング制度の活用
一方で、風力発電には、他の発電施設と異なる特徴があり、土地を占める面積に比して、空間を大きく利用する。また、複数の風車を設置する場合には風車間で一定の距離をとるため、事業面積は大きいが土地の改変面積は少ない。したがって、事業面積の多くを改変して面上に発電施設を設置する他の発電技術(火力、地熱、太陽光)と同じ発想でアセス対象案件を決めるのは合理的ではない。
こうした状況から、今回もいったん風力の規模緩和が検討されたものの、結局は、緩和は先延ばしとなった。運転開始後の環境影響に関するデータが不足しており、規模要件を引き上げることによる環境への影響が測れないことへの危惧(規模要件を引き上げる根拠がない)が優先される形となった。
ただし、その上で、「風力発電事業の環境影響の程度は、規模ではなく、立地の状況によって変わることが示唆されて」おり、「規模のみで環境影響の程度を区分することは必ずしも合理的ではない」として、スクリーニング制度の活用も提案されている。スクリーニング制度は、アセスメントが義務とならない規模の事業でも、個別の事情を見てアセスメントの要否をふるい分ける制度である。「規模要件の緩和により事業者への過度の負担を軽減しつつ、立地の状況から環境影響が大きいと考えられる事業については引き続き必要な環境影響評価を行えるようにすること」を目指す。いわばフル装備のアセスメントを義務化する対象事業をある程度大規模なものに限定しつつ、それより小規模なものも一定の要件の下で実施するという、制度に柔軟性を持たせるものであり、賛同できる。
そして、環境影響に関するデータ蓄積と共有化にも、引き続き取り組まれる必要がある。これは、同時に「ゾーニング」の設定にも役立つ。ゾーニングは、事業の適地と環境を保護すべき地域を明らかにして、自然エネルギーの導入を進める施策である。今回も、その有効性が指摘され、報告書(案)にも提案がある。すでにいくつかの地方自治体で行われており、自然エネルギーの導入と自然環境保全を両立させる形で広がっていくことが期待される。
アセスの規模要件の設定は、政策目的の追求、事業の推進、環境への影響のバランスをとる重要かつ難しい課題だ。小規模石炭火力発電所がアセス手続の不要なぎりぎりの規模で多く建設されている経過を見てもその点は明らかである。
2022年には現在の法施行から10年を迎え、大改正が控えている。データ不足を理由に検討が先延ばしにならないよう、具体的な制度改正計画を策定して、今後の議論を進めることが望まれる。
図表3参考文献:平成23年度環境影響評価法対象事業への風力発電の追加に係る検討調査業務報告書 検討会第5回資料1