東南アジアにおける日本の電力ビジネスの転換を石炭火力から自然エネルギーへ

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 上級研究員

2019年10月28日

in English

このコラムは、自然エネルギー財団が2019年10月17日に公表した英文報告書「Renewable Energy to Replace Coal Power in Southeast Asia; Pragmatism to Deliver a Sustainable Bright Future(自然エネルギーが東南アジアの石炭火力を代替する:プラグマティズムが持続可能な明るい未来をもたらす)」の概要を紹介している。日本語での報告書全文は年内に公表の予定である。


 東南アジアは、中国・インドとともに、世界における最後の旺盛な石炭火力発電市場である1。 しかし、最も汚染度の高い発電技術である石炭火力は、生態系に深刻な被害をもたらすとともに、早死のリスクを引き起こし豊かさを損なうものだ。自然エネルギーがもたらす経済的機会が拡大し、環境制約が強まる中で、石炭火力に依存する発展は持続不可能であり、早急に過去のものとしなければならない。特に気候変動の影響に対して脆弱なこの地域では、この転換は急務である。

 東南アジアにとっての明るい材料は、この地域が豊富で多様な自然エネルギー資源(バイオエネルギー、地熱、水力、太陽光、風力)に恵まれていることである。これらの資源は、メコン川流域からマレー諸島に至る地域で、大規模に利用することが可能であり、正当に活用され競争する機会が与えられるべきだ。2019年上半期、ベトナムでは太陽光発電のブームがおこり、2019年9月に行われたカンボジア初の太陽光発電のオークションでは、落札価格40ドル/MW時を下回る最安値を記録した。最近のこうした成功は、将来への楽観的な見通しを呼ぶ。 

 日本は長年にわたる東南アジア諸国との貿易パートナーであり、東南アジアが永続的に豊かな地域へと転換していくような方向で、電力インフラ開発において重要な役割を果たすことが求められる。そのために日本には将来を見通した思考が必要だ。発電の分野では、石炭火力への支援から自然エネルギーの促進へ転換しなければならない。

 日本が東南アジアの電力分野におけるエネルギー転換をともに推進し、その恩恵を受ける方法は主に次の3つである:

1.    日本の政府系および民間金融機関が、投融資の対象を石炭火力発電から自然エネルギー電力へと転換する。
 
 三菱UFJフィナンシャル・グループ、伊藤忠商事、三井住友信託銀行、丸紅など、日本の大手銀行と商社は、昨年来、新規の石炭火力発電設備には融資しないことを表明した。彼らは日本の政府系金融機関よりもより良く、より早く、現在進行しているエネルギー分野でのパラダイムシフトを理解しているようだ。しかし、この方針には例外もありうるとされている。彼らが信頼を維持し、効率的運用を保持するためには、この方針は例外なく確実に実行されなければならない。 

 日本の政府系金融機関、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)は、いずれも東南アジア地域での自然エネルギーへの投融資について十分な経験をもっている。例えば、2009年から2016年にかけて、JBICとJICAによる東南アジアの自然エネルギー事業への投融資は、それぞれ11億ドルと5億ドルに達した(11億ドルは開発金融機関中第3位、5億ドルは第5位)。これは歓迎すべきことではあるが、石炭火力発電と比べてこれらの金融機関の自然エネルギーへの投融資額ははるかに少額である。石炭火力発電事業に配分していた資金の投融資先を転換することによって、自然エネルギー関連融資をスケールアップする機会が存在することを示している。 

2.    日本の電力会社が、この地域で自然エネルギー発電事業に焦点を絞り、大規模にコミットメントする。

 今日まで、多くの日本の大手電力会社が東南アジアの水力発電市場に参入してきた。中でも関西電力とJ-POWERが最も活発である。しかしながら、他の自然エネルギー電源による開発プロジェクトには、地熱発電を除き、これらの企業のコミットメントはごくまれである。
実際のところ、JERAと九州電力がタイの独立系発電会社「Electricity Generating Public Company」の一部を保有していることを除き、日本の大手電力会社は東南アジアにおいて、太陽光または風力の発電設備を一切持っていない。これは、出光興産やシャープなどがベトナムのメガソーラープロジェクトへの参入に関し大きく報じられたように、他の日本企業とは大きく異なる。

 太陽光と風力発電のコスト競争力が高まっているなかで、こうした状況は異様であり、戦略的な方針転換を行うべきである。日本の大手電力会社が、最近、複数の石炭火力発電事業、特にインドネシアにおける事業、に前例のない大がかりな参入を発表したのは、まったく反対方向の、時宜にかなわないものと言わざるをえない。

 東南アジアの太陽光発電、風力発電のマーケットは概してまだ初期段階にあり、進出の見込まれる欧州の電力会社の動向を含めても、競争の少ない市場だと言える。これは、電力市場の有力なファーストムーバーになるという点で、日本の電力会社の意欲をそそる状況のはずである。

3.    東南アジア諸国に拠点をもつ日本企業が、この地域において電力の自然エネルギー100%調達を進める。 

 2015年の時点で、優に1万社を超える日本企業が東南アジアでビジネスを行っている。トヨタ、日産、ホンダ、日立、キヤノン、日本たばこ産業(JT)、セブン&アイ・ホールディングス、ブリヂストン、東芝、日本製鉄、コマツ、京セラ、ソニー、AGC等の大手企業がこの中に含まれる。

 こうした東南アジア地域で事業を展開する企業の中には、イオン、富士通、コニカミノルタ、パナソニック、リコーのように、世界各地の工場や拠点などで、使用する電力を自然エネルギー100%に転換していくことを発表している企業が含まれている。この目標の達成のためには、東南アジア地域の各支社・工場などでも、消費する電力を自然エネルギー100%に切り替えていく必要がある。

 そのために、これらの企業がソリューションを提供してくれる他の日本企業を探すこともある。例えば、大阪ガスは2019年7月にジョイントベンチャー「OEソーラー」を設立した。主にタイのバンコクで、太陽光発電による電力を商工業分野に供給することが目的である。

 日本の政府系および民間金融機関、企業による上記のような新しいアプローチは、東南アジア諸国に対する日本政府の外交・経済・環境分野における新たな国家戦略として支援・統括されうるものだ。今回の提案は、そうした見通しをもって行ったものである。

(なお、コラムの内容に関する参考資料は報告書本文に記載されている。)

  • 1東南アジアとは「東南アジア諸国連合(ASEAN)」加盟国、すなわち、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムと定義される。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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