非化石証書の自然エネルギー価値、CDPが認定、RE100は手続きへ
石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー
2018年5月に取引が始まる「非化石証書(再エネ由来)」をめぐる動きが活発になってきた。懸案になっていた自然エネルギーの電力としての価値を、国際NGO(非政府組織)のCDPが公式に認定すると発表。非化石証書を組み合わせた電力を企業が購入すると、気候変動に関するCDPの評価において、自然エネルギーの電力を利用したものとみなされる。非化石証書は当初、FIT(固定価格買取制度)の対象になる電力をもとに発行する。企業が自然エネルギーの電力を調達する手段の1つとして、非化石証書の有効性が高まった。
一方で企業が使用する電力を100%自然エネルギーに転換することを支援する国際的なイニシアチブ「RE100」では、これから正式な手続きを経て、非化石証書の有効性を判断する方針だ。非化石証書には対象になる発電設備の情報が付随していないため、電力を利用する企業が発電設備や発電方法の環境負荷を確認・評価することができない。RE100では企業が調達する電力の発電設備に関する情報を重視しており、非化石証書を認定するかどうか、流動的な状況にある。
非化石証書と組み合わせる電力に推奨条件
政府が3月2日に開催した「電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」の場で、CDP Japanの高瀬香絵シニアマネージャーが非化石証書の妥当性について発表した。その中で「非化石証書を付けた電力について、再エネとしてゼロ排出電源として計上可能である。CDP質問書への報告については公式に認定された」と説明。これにより、企業がCDPに報告する温室効果ガス(GHG)排出量の算定において非化石証書が有効になった。
CDPが実施する気候変動の企業評価レポートは、世界各地の有力な投資家に支持されている。対象になる企業にとってはCDPの評価結果が事業活動に影響を与えるため、非化石証書を組み合わせた電力が自然エネルギーとして認定されるかどうかで調達方針が変わってくる。日本国内では2017年に有力企業500社がCDPの調査対象に選ばれて、そのうち283社が回答して評価を受けている。
CDPは非化石証書を自然エネルギーの電力として認定したが、利用にあたって3点の推奨条件を提示した。
(1)できる限り再エネ電力を調達(FIT電力)
(2)(1)が難しい場合もできる限りGHG排出原単位の低い電力を調達
(3)最低でも系統平均以下のGHG排出原単位の電力を調達
CDPが非化石証書に対して懸念しているのは、GHG(主にCO2)の排出量が多い石炭火力を主体に調達した電力と組み合わせて使われるケースである。その場合でも自然エネルギーの電力を利用したのと同等とみなすことになり、気候変動の観点では望ましくない。この問題は非化石証書に限らず、すでにCDPが認定した「グリーン電力証書」や「J-クレジット(再エネ由来)」にも共通する(表1)。非化石証書を購入する小売電気事業者に加えて、グリーン電力証書やJ-クレジット(再エネ由来)を購入する企業・自治体にも上記の推奨条件を自主的に守ることが求められる。
日本ではむずかしい「残余ミックス」の算出
CDPが懸念する点は、もう1つある。国際規約の「GHGプロトコル」と日本の「温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)」では、CO2排出量の算定方法に違いがあることだ。GHGプロトコルの規定によると、自然エネルギー由来の証書を組み合わせた電力のCO2排出量は一律でゼロとみなす。一方の温対法では、当該年度に国内で販売された電力全体のCO2排出量の平均値(全電源平均)を、組み合わせた電力のCO2排出量から差し引く計算方法を採用している。このため石炭火力を主体にした電力と証書を組み合わせると、CO2排出量はゼロにならない。
GHGプロトコルではCO2排出量がゼロの電力を除いた「残余ミックス(Residual Mix)」を適用して、そのほかの電力のCO2排出量を計算する(図1)。欧州連合では自然エネルギーで発電した電力を1000キロワット時ごとに証明する「発電源証明(Guarantees of Origin)」の発行を事業者に義務づけており、その情報をもとに国別の残余ミックスを算出して公表している。CDPでもGHGプロトコルに準拠したCO2排出量の算定方法を採用しており、CO2排出量がゼロではない電力に残余ミックスの数値を適用することが前提である。
しかし日本国内では欧州連合の発電源証明に相当する仕組みがなく、残余ミックスを算出することはむずかしい。それに代わる全電源平均はCO2排出量がゼロの電力も含めて計算することから、残余ミックスと比べて数値が低くなる。全電源平均と残余ミックスの差によって生まれる「排出リーケージ」をCDPは懸念している。特に非化石証書は発行量が国全体の電力需要の1割近くに相当するため、大量の証書が使われた場合に排出リーケージが大きくなってしまう。この問題を抑制するためには、CDPが挙げた推奨条件を守る必要がある。
日本国内にも「発電源証明」の仕組みが不可欠
さらに非化石証書には重要な課題が残っている。企業が利用する電力を100%自然エネルギーに転換するRE100でも認定を受けられるかどうかだ。欧州の発電源証明や北米の「自然エネルギー証書(Renewable Energy Certificate)」には、証書の対象になる発電設備の情報が付随している。発電設備の所在地や運転開始時期、太陽光や風力といった発電方法を示すことが基本的な要件である。これをもとに証書の購入者は発電設備の環境負荷などを判断できる。RE100では企業が利用する電力の望ましい要件として、発電設備の情報を確認することが加えられている。この点で非化石証書は要件を満たしていない。
CDP Japanの高瀬氏が政府の作業部会で発表した内容によれば、「RE100(における非化石証書の認定)については、正式な手続きを待つ状況である」。すでに日本企業でも4社がRE100に加盟済みで(2018年3月15日時点)、今後さらに増えていく。非化石証書を組み合わせた電力がRE100の対象としても認められると、自然エネルギーの電力を調達する手段が一気に広がり、RE100の取り組みが日本でも活発になることが予想される。RE100は国ごとの状況をふまえて例外的な措置をとるケースがある。発電設備の情報を付随していない非化石証書を認定する可能性もあるが、その場合でもCDPと同様に推奨条件を加えて、加盟企業に対して最善策をとるように求めることになるだろう。
これから数多くの企業や自治体が自然エネルギーの電力を利用するようになる。将来に向けて自然エネルギーの電力の調達を円滑に進めるためには、欧州の発電源証明と同様の仕組みが日本国内にも不可欠である。国全体に新しい仕組みを普及させるまでには長い期間を要することから、政府を中心に具体的な検討を早急に開始する必要がある。