翻訳協力世界の鉄鋼産業の脱炭素化に関する15の知見

2023年7月12日

公益財団法人 自然エネルギー財団は、この度ドイツのシンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデの産業チーム、アゴラ・インダストリーがヴッパータール研究所と共に本年6月に公表したレポート "15 Insights on the Global Steel Transformation" の日本語訳を監修し、邦題「世界の鉄鋼産業の脱炭素化に関する15の知見」として公表します。

IPCCの第6次統合報告書は、「この10年間に行う選択や実施する対策が、現在から数千年先まで影響を持つ」として、1.5℃目標に向けて、脱炭素化の取り組みを一層加速していくことが必要だとしています。

鉄鋼産業は世界のGHG排出の7%を占め、その動向が地球温暖化に大きな影響を与えます。このレポートは、従来「排出削減の難しい部門」とされていた鉄鋼業の脱炭素化が2040年代初頭までに技術的に可能であることを示したものです。

本レポートはそのために必要な、直接還元鉄技術の迅速な展開、国際的なグリーン・アイアン貿易、石炭の段階的廃止、そして政策の深化と国際協力の必要性を説いています。 日本の鉄鋼業生産は、世界でも大きな比重を占めており、こうした世界の鉄鋼業の変革の可能性は、日本の鉄鋼業の脱炭素化への重要な示唆を示すものと考えます。

世界の、そして日本の1.5℃目標にむけた気候対策に大きく貢献する鉄鋼業への変革に向けて、議論を進める材料としていただければ幸いです。

主な知見の概要

1.  2040年代初頭までに鉄鋼セクターの排出を実質ゼロにし、石炭を段階的に廃止することは技術的に可能である。これにより、鉄鋼セクターは排出削減が困難なセクターから排出削減が急速に進むセクターに変わり、地球規模の気候変動対策目標を引き上げる重要なセクター要素となる可能性がある。このような鉄鋼セクターの脱炭素化を加速するための鍵となる戦略は、材料効率の向上、スクラップと水素ベース製鋼の推進、および炭素回収・貯蔵付きバイオエネルギー(BECCS)である。

2.  グリーン鉄(iron)貿易は、鉄鋼業の世界的な脱炭素化へのコストを下げることができ、グリーン鉄輸出業者と輸入業者にとってウィン-ウィンの解決策となりうる。グリーン鉄として水素を内包した形で輸送することは、水素とその誘導体を船で輸送するよりも大幅に安価になる。自然エネルギーにより製造する水素コストが高い国にとって、グリーン鉄の輸入は低炭素製鋼の競争力を高めることができ、その結果として鉄鋼産業における地元の雇用を守るのに役立つ。グリーン鉄の輸出国にとって、これは新しい雇用と付加価値を生み出す可能性がある。

3.  石炭ベースの高炉-転炉法(BF-BOF)と炭素回収・貯蔵(CCS)の組み合わせは、世界の鉄鋼産業の脱炭素化において重要な役割を果たすことはないであろう。BF-BOF法でのCCSによるCO2直接排出量の削減は73%が限度であると考えられ、さらに上流での排出量(炭鉱からのメタン漏洩)に対処することはできない。他の主要技術と比較すると、鉄鋼メーカーのこの技術の商用化への取り組みは現状では非常に低い。BF-BOF CCSが実現しなければ、石炭ベースの新規の製鉄所はカーボンロックインと、座礁資産の高いリスクに直面する。

4.  鉄鋼産業の脱炭素化のスピードを最大限に加速するには、各国政府が適切な規制枠組みを構築し、国を越えて戦略的パートナーシップを構築する必要がある。主要なボトルネック(すなわち、直接還元鉄プラント技術、適切な鉄鉱石品質、水素製造)に対処し、座礁資産を最小限に抑え、グリーン鉄貿易の普及を支援するには、国際協力が必要となる。

15の知見

知見1  鉄鋼セクターは、削減が困難なセクターから急速に削減が進むセクターに変わる可能性がある。2040年代初頭までに鉄鋼セクターの排出を実質ゼロにすることは技術的に可能である

知見2

世界の鉄鋼産業の加速的な脱炭素化は、世界的な気候変動対策を推進する重要な要素となり得る

知見3

鉄鋼セクターにおける1.5°C対応の脱炭素化排出削減経路を実現するための重要な対策は、材料効率の向上、スクラップベースの製鋼、水素ベースの製鋼、炭素回収・貯蔵付きバイオエネルギー(BECCS)の増加である
知見4  2040年代初頭までに鉄鋼セクターの石炭利用を段階的に廃止することは技術的に可能である
知見5 国際的なグリーン鉄貿易は世界の鉄鋼産業の脱炭素化コストを下げることができる
知見6 国際的なグリーン鉄貿易は、輸入国と輸出国にとってウィン-ウィンとなりうる。グリーンスチールの脱炭素化のスピードと規模を最大限に引き出すには、国際的な公平な競争の場と戦略的パートナーシップが必要である
知見7 直接還元鉄(DRI)プラントのエンジニアリングおよび建設能力が現在の主要なボトルネックであり、世界の鉄鋼産業の脱炭素化のペースを決めるため大規模なスケールアップが必要である
知見8 鉄鋼セクターは、CCS付きバイオエネルギー(BECCS)を活用して負の排出(ネガティブ・エミッション)に貢献できる

知見9

BF-BOF(高炉-転炉法)でのCCSは、世界の鉄鋼業の脱炭素化において重要な役割を果たすことはないであろう
知見10   2040年までに90%を上回る既存の高炉を早期閉鎖なしに段階的に廃止できる
知見11 現時点での新興国における石炭ベースの高炉の2030年までの新規設備パイプラインは、大規模な炭素ロックインと座礁資産リスクに直面している
知見12 低炭素水素の限られた供給が「後悔のない用途」に振り向けられれば、低炭素水素の供給は世界的な鉄鋼セクターの脱炭素化の大きなボトルネックにはならないであろう
知見13 DRグレードの鉄鋼石ペレットの入手可能性は、世界の鉄鋼業の脱炭素化の主要なボトルネックとなる可能性がある。解決策は存在するが、積極的な取り組みが必要である
知見14 1.5°C目標に沿って鉄鋼セクターを脱炭素化していくこと課題は対応可能であるが、これには政府と産業界の協力が必要である
知見15 鉄鋼セクターの排出実質ゼロを達成するには、バリューチェーン全体に対応する包括的な政策枠組みを各国政府が採用する必要がある。この点では国際的な調整と協力が鍵となる



<関連イベント>
世界の鉄鋼業、2040年脱炭素化に向けて:変革への15の洞察と日本の選択(2023年7月12日)

 

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