コメントGX基本方針は二つの危機への日本の対応を誤るなぜ原子力に固執し、化石燃料への依存を続けるのか

2022年12月27日

in English

 直面する気候危機とエネルギー危機は、対応を誤れば国の未来を危うくする。岸田政権は、本当にその重大性を理解しているのだろうか。

 12月22日に開催された第5回GX実行会議で、政府は直面する二つの危機への対応を定めた「GX実現に向けた基本方針」と題する文書を決定した。GX実行会議は、総理と関係大臣以外は、経済団体や既存のエネルギー産業などの代表者を主要なメンバーとしており、7月から開催されているが、一貫して非公開で、事後に資料だけが公表されてきた。今回の基本方針は事前に案文が公表されることはなく、会議での決定後に唐突に示されたものである。政策決定プロセスの不透明性は、議論への国民的な参加が不十分と批判された過去のエネルギー基本計画の策定過程と比較しても著しい。

「原子力の復権」を最大の狙いとする基本方針

 プロセスの乱暴さを意に介さず、この基本方針を短期間で策定した最大の狙いが、東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、政府が堅持してきた「可能な限り原発依存度を低減する」という原則を放棄し、既存の原子力発電所の延命をはかりつつ、原子炉の新増設に道を開くことにあったのは間違いない。基本方針は、原子力発電がエネルギーの安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に重要な役割を果たす、としているが、この認識は、いま世界と日本で起きている現実に即していない。

 原子力発電所の運転期間については、慎重な検討がなされないまま、「原則40年、最長60年」の運転期間ルールを放棄し、停止期間を除外して60年を超える稼働を可能とする方針が示された。世界ではこれまで60年を超えて運転されている原子炉はなく、閉鎖された原子炉の平均運転期間は28年である。

 開発・建設に取り組むとする「次世代革新炉」は既にフランス、英国などで着工されているものであり、なんら革新的なものではない。フランスでは2007年に着工し2012年に稼働するはずだった原子炉の建設が10年以上遅れて、現在でも稼働できておらず、英国での建設も遅れている。新増設は現在のエネルギー危機にも、早急なCO2削減が必要な気候危機にも全く間に合わない。

 その建設コストは、両国とも当初予定を大幅に上回り、1基2兆円程度に達している。これは昨年公表された政府の発電コスト試算の前提となった建設費想定の4倍という高コストである。2050年以降に日本の電力の10%を原子力発電で供給するだけでも、こんな高コストの原子炉を10基以上も新増設しなければならない。

 基本方針は、原発再稼働の加速をめざす方針も示しているが、再稼働に必要な対策には膨大なコストがかかるうえ、稼働までに厳正な審査が必要とされる。安全性への懸念、放射性廃棄物処理の見通しが全くたっていないこともあわせ、原子力発電を日本のエネルギー供給の主要な柱にしようとする戦略は妥当なものではない。

化石燃料利用継続への固執

 基本方針が掲げるエネルギー戦略のもうひとつの欠陥は、「化石燃料への過度な依存からの脱却」を掲げながら、CCS火力発電や石炭との混焼を前提とするアンモニア発電を推進する政策を変えていないことである。これまでも指摘してきたとおり、政府のエネルギー戦略では、2050年時点において、毎年3億トン以上のCO2の回収・貯留が必要になる。仮に回収ができたとしても、国内には大量のCO2を貯留する場所はどこにもない。政府は排出するCO2の貯留を東南アジアなど他国に押し付ける方針を示しているが、到底、国際的に理解されるものではない。

自然エネルギー開発加速への決意の欠落

 原子力、化石燃料への固執が顕著であることに対し、基本方針に欠けているのは、自然エネルギーを日本のエネルギー需給の中心に据える明確な意思と戦略である。「再生可能エネルギーの主力電源化」を標ぼうしつつも、2030年度の電源割合は、昨年「エネルギー基本計画」で定めた36-38%という目標から一歩も出ていない。今年5月に開催されたG7では、2035年までに、電源を完全に、あるいは大部分を脱炭素化することが合意されたが、今回の基本方針ではこの合意の実現に向け、どのように取組むのか、全く示されていない。

 政府の一部に、真剣に自然エネルギー拡大に取り組む部局があることは事実であり、その努力は今回の基本方針にも、電力系統整備の加速、浮体式も含めた洋上風力発電の推進など部分的に反映されている。しかし、基本方針には、日本の自然エネルギー開発の加速に向け、政府の総力をあげようとする決意を見ることはできない。

 国際エネルギー機関が12月に公表した報告書は、今後5年間の世界の自然エネルギーの導入見込み量が1年前の予測に比べ30%も増加したと分析し、その主要な要因は、エネルギー危機を受けて自国の資源である自然エネルギーの開発を加速するために、中国、EU、米国が新たな戦略を導入したためであるとしている。他方、この報告書は、日本の今後5年間の導入見込みを1年前から下方修正している。現在の日本の自然エネルギー電力割合は英国、ドイツの半分以下の2割に留まり、2030年目標を実現しても今日の欧州主要国の水準に届かない。それどころか日本よりずっと高い2030年目標を掲げる各国との差は更に拡大してしまう。

 こうした自然エネルギーの立ち遅れが日本のエネルギー安定供給、気候危機への対応にとってどんなにゆゆしき事態なのか、岸田政権は全く理解していないのではないか。

カーボンプライシング導入への逡巡

 基本方針が打ち出したカーボンプライシング構想もあまりに消極的なものである。その内容は、これから10年以上、自主的な排出量取引制度を続け、2033年度から発電部門だけを対象に「有償オークション」を段階的に開始する、というものである。政府は2000年以降、これまで20年以上にわたって排出量取引制度の検討のみを実施してきた。その間に、欧州、米国とカナダの諸州、中国、韓国が導入を実現し、国内でも東京都が2010年から大規模事業所に対するキャップ&トレード制度を導入している。

 2028年度から導入するとした「炭素に対する賦課金」も、国の資料から試算すればその炭素価格水準は、IEAが2030年時点で先進国に求められるとした1トン130ドルという水準の10分の1程度であり、いかにも低水準である。なぜ、岸田政権は脱炭素社会への基本ツールであるカーボンプライシングの導入にここまで逡巡しなければならないのか。

自然エネルギーを基盤とする日本へ、国、企業、自治体、地域の総力の結集を

 今回決定されたGX基本方針は、エネルギー政策においても、カーボンプライシングへの方針についても、エネルギー危機と気候危機の打開に向けた戦略になりえていない。基本方針は、その冒頭で、「脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本の産業競争力を再び強化する」としている。脱炭素戦略を自国の経済成長戦略とする意図は間違っていない。しかし政府は、原子力の推進と化石燃料の継続的な利用に固執し、脱炭素社会の実現に不可欠な自然エネルギー拡大とカーボンプライシングの早期実現に逡巡している。このような戦略では、国内からも世界からも必要な投資を呼び込むことはできず、成長戦略としても成功しない。

 いま、政府がなすべきは、持続可能性のない原子力発電やCCS開発、アンモニア混焼発電などに、希少な人的資源や財源を投入することではない。既に多くの企業がPPAなどの活用で追加性のある自然エネルギー拡大に取組み、地方自治体では、東京都、川崎市が住宅メーカーへの太陽光発電設置義務の導入を進めるなど先駆的な動きを始めている。ソーラーシェアリングによる農業との共生など地域電力の取組みも活発である。

 四季折々の多彩な自然を享受する日本は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスという豊富な自然エネルギー資源に恵まれている。原子力にも化石燃料にも依存しない日本、自然エネルギーを基盤とする社会の実現をめざす大方針を定め、自ら総力をあげるとともに、企業、自治体、地域の力を結集する。それが今、政府に求められていることである。


<関連報告書・提言>
エネルギー危機を踏まえた電力システム改革の提言(2022年11月2日)
エネルギー安全保障の現実:自然エネルギーが危機を克服する(2022年7月5日)
CCS火力発電政策の隘路とリスク (2022年4月14日)

<関連資料>
内閣府 第30回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース準備会合(2022年12月12日)
会議資料 GX戦略における「カーボンプライシング」構想について

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する