法曹人の新しいフィールド少数中の少数:調査研究職やってます「自由と正義」2024年3月号より

工藤 美香 上級研究員

2024年7月16日

この記事は「自由と正義」2024年3月号(日本弁護士連合会)に掲載されたものです(無断転載禁止)。また、肩書は掲載時のものです。

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自己紹介

私は、2016年から自然エネルギー財団の研究員として、調査・研究に従事しています。研究員としてのキャリアのスタートは、更に10年以上前に遡ります。

1999年に弁護士登録し、広島市の法律事務所に2年間勤務しました。多くの先輩や同僚に支えられながら、民事・刑事から行政事件、集団訴訟など様々な事件に携わりました。しかし、新人としての未熟さもあり疲れ果ててしまい、自分は弁護士に向かないなと思い、家庭環境の変化をきっかけに一旦弁護士登録を取り消しました。その後、東京への転居のタイミングで、当時日弁連が常勤の弁護士調査研究員(嘱託)を募集していることを知り、2002年から調査研究員として働き始めました。好奇心旺盛、調べ物が好きな私にはうってつけの仕事でした。

日弁連司法改革調査室(後の司法調査室)での研究員生活は、数年の任期で複数回にわたりますが、その間様々なテーマの調査を担当しました。入職当時は裁判員制度・刑事司法改革、その後民事司法改革等を経て、最後は法曹の活動領域の拡大、その中でも企業内弁護士の拡大を担当しました。企業内弁護士として活躍される方々から、その意義、やりがい、チャレンジなどを伺い、まさに「法曹人の新しいフィールド」としての企業内・組織内弁護士のキャリアの魅力を知り、自分の将来のキャリアを考えるきっかけにもなりました。

とはいえ、法律事務所の経験も少なくかつ遠い昔のことであり、企業法務経験もなく十数年を経過した私には、企業内弁護士への道は極めて困難なこともよく分かっていました。半ば諦めて悩んでいた矢先、調査研究業務での弁護士募集というとてもレアな求人に出合い、エネルギーという全く新しいフィールドに飛び込むことになりました。

勤務先紹介

自然エネルギー財団は、東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、孫正義ソフトバンクグループ代表を設立者・会長として2011年8月に設立された公益財団法人です。自然エネルギーを基盤とした社会の構築を目的として、自然エネルギーや気候変動対応に関する政策提言・情報発信、国内外の専門家や企業等のネットワーク作りを柱に活動しています。

設立から10年強と若く、研究員・事務局合わせて30人程度の小さなシンクタンクですが、レポートの公表等にとどまらず、政府のエネルギー政策を議論する資源エネルギー庁の審議会で研究成果を発表し議論に参加するなど、活動の場を広げています。

財団での仕事

入職からの私の研究テーマは、「アジアスーパーグリッド構想」です。北東アジア(日本、中国、韓国、ロシア)を送電線でつなぎ、自然エネルギー由来の電力を地域全体で活用するというコンセプトで、実現に向けた法的課題を整理・検討することが私のタスクです。現下の政治情勢で少し状況が変化していますが、中・韓・露の国営送電事業者は具体的に検討してきています。国境をまたいで電力系統をつなげる構想は、自然エネルギーの導入を進める観点からもグローバルに進められており、欧州、アフリカ、アメリカ、東南アジアで様々な構想があります。こうした取組を調査し、日本の制度も調べながら、将来の新しい世界の仕組みを考えることにロマンを感じています。

デンマークの洋上風力発電所で(2021年11月)

現在の中心テーマは、洋上風力です。財団内で数人のチームを組み、専門家との研究会やヒアリングを進めながら、政策提言レポートを作ります。提言のテーマが決まりプロジェクトが始まると、チーム内で進行を管理し、議論を成果物(レポート)に落とし込んでいきます。チームメンバーのバックグラウンドは多様で、風力発電や電力系統、経済の専門家、石油&ガス産業の海外プロジェクトマネージャー経験者が、それぞれの知見を集めて議論します。議論では、これまで触れることのなかった新しい知識や新たな視点に、いつも刺激を受けています。

仕事の中心は、インターネットを使った文献調査や書き物(執筆作業)ですが、情報収集にヒアリングや外部との意見交換は欠かせません。ヒアリングは、自然エネルギー関連事業者のほか、関係省庁、専門家など幅広く行います。国外の情報収集のため、在日大使館へのインタビューや海外出張、Zoomを使ったミーティングも実施します。海外の研究機関と連携した調査研究にも参加し、英語で物を書く機会も増えています。

財団では、レポートを公表した際に関連するセミナーやシンポジウムを開催します。報告者としての登壇のほか、司会進行(MC)を担当することもあります。

文献調査や文章の作成、ヒアリングでの情報収集スキルは、法律事務所に勤務していたときから求められていましたが、外国語でのリサーチやチームでのプロジェクト管理、組織でのレポーティングや振る舞い、プレゼンテーションのスキルやノウハウは、日弁連で嘱託として勤務していたときから少しずつ身につけてきました。特にMCは、裁判員制度を担当した頃に触れたプレゼンテーションスキルの研修や、日弁連の研修・イベントでMCを担当した経験が活きています。

他方、文章を書く際には、法律文書や「霞が関文学」のような分かりにくい文体からなかなか抜け出せません。厳密さを求めようとして一文が長くて分かりにくくなったり、「など」を多用したりするといった癖が出てしまいます。このようなときは、財団内にいるジャーナリズム経験者から分かりやすい文章の書き方を学び、また、日弁連で裁判員制度を担当したときに触れた刑事事件で著名な弁護士の簡潔かつ要を得た文体(手書き文字とともにイメージとして焼き付いています)を思い出しながら、目の前の文章と格闘します。

弁護士会での活動

所属する東京弁護士会では、業務にも関連がある公害・環境特別委員会に所属しています。また、日弁連に勤務していたときに組織内弁護士の倫理に大きな関心を持ったことがきっかけで、弁護士倫理特別委員会にも所属しています。裁量労働制であることもあり、所属組織からは弁護士会活動を自由に認められています。しかし、自分でコントロールすることが難しいスケジュール(外部ヒアリング等)が入ることも多く、会議の欠席が増えていることが今の悩みです。その他、日弁連や関弁連主催のシンポジウムに登壇する機会もあります。

弁護士としての役割

政策提言に際しては、制度を形作る法律・法制度の理解が欠かせません。ルール上のネックや改善方策を具体的に検討する際に、法令をリサーチして議論の土台や方向性を提供することが私の役割です。担当である洋上風力や国際送電以外の分野でも、法律に地の利のある私がリサーチを担当することでよりスピーディに調査ができる場合があります。そういうときには、財団内の他のチームから気軽に相談を受けてリサーチします。結果として私も幅広く知る機会を得ることができ、小さい組織ならではの広がりがあります。

外部との面談では、弁護士資格が別の面で生きることもあります。海外の弁護士の専門家に会う際には、同じ弁護士同士ということで障壁が下がり、スムーズに意見交換ができると感じることも多くあります。

そのほか、調査・研究に関連する契約のレビューも少数ながら行っています。

おわりに

弁護士としては何度か挫折を味わいつつ稀有なキャリアパスを経ましたが、その過程では、多くの弁護士・法曹との出会いがあり、支えられ、学び、励まされてきました。その出会いが次の縁を生み、今ここに導かれました。皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。

キャリアを切りひらくしたたかな気持ちと、出会い。これからの世代の法曹の方々も、ぜひこれらを大事に、キャリアを磨き続けていただきたいと思います。

スタッフインタビューページ

採用募集情報

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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