近年、日本では自然エネルギーに批判的な声が強くなっている。2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、日本でも自然エネルギーの導入が進められてきたが、特に急拡大が進んだメガソーラー(大規模な商業用太陽光発電)への反対が目立つようになり、政府はエネルギー政策におけるエネルギー源の優先順位を変更しつつある。その中にはもっともな理由もあるが、経済安全保障の観点からは、今後とも自然エネルギーを積極的に導入すべきである。本コラムではこれについて考えたい。
メガソーラーに反対する理由
太陽光や風力といった自然エネルギーの導入に反対する声は以前からあったが、政治的にも目立つようになったのはここ数年間である。これを受けて2025年末に政府は、「メガソーラー対策パッケージ」を決定した。これらの中で示されたメガソーラーに反対する理由やその対策については、頷けるものも少なくない。
例えば、森林伐採などに伴う景観の阻害や土砂崩れなどの災害の懸念に対して、法令による規律を一定程度強化することは妥当であろう。実際に発電事業者に聞いても、地域住民との関係で今後は野建てのメガソーラーの開発は困難との声が多い。
また、2030年代以降、大量の太陽光パネルの廃棄が予想されるが、これを適切に行わせることも重要である。技術的にはほとんどの部材がリサイクル可能とのことだが、この仕組みが円滑に立ち上がるよう、政府は発電事業者やメーカーを指導・支援すべきである。
フィードインプレミアムを含む固定価格買取制度の廃止(の検討)については、50kW以上の地上設置の太陽光発電の買取単価が既に10円/kWhを切っている状況では、地上設置の新規案件であれば経済的影響は小さいだろう。ただ、これが自然エネルギー全体の優先順位の低下と見做されることは避けるべきであり、屋根置きや地域共生型の案件に対する支援を強化すべきである。
これらと比べて最も理解に苦しむのは、太陽光パネルの多くは中国製だからけしからんという理由である。これは経済安全保障上の懸念と思われ、特に保守派の立場からの批判がよく聞かれる。
自然エネルギーの経済安全保障上の価値
経済安全保障とは、いくつかの経済活動は国家の安全保障に直接的な影響を与えるという理解の下、それらに政府の介入を求める。例えば、レアアースの輸出を停止したり、経済制裁として特定の産油国からの輸入を停止したりすることで、他国に経済的圧力を課して政治的目標を達成することができる。逆に他国から経済活動を「武器」として行使されないように、自国の重要インフラを防御することも含まれる。経済安全保障は政府の市場介入の論拠となり、自由貿易による便益を阻害する側面があるため、どの経済活動が対象になるか、どの程度介入すべきかの判断が重要であり、かつ難しい。
経済安全保障は過去10年程度の間に注目されるようになった概念だが、その古典的な例はエネルギー安全保障と食料安全保障である。エネルギーも食料も、国境を越えて大量に取引されている一方で、供給が1日でも途絶えれば経済社会が基盤から成り立たなくなることは容易に想像できよう。エネルギーについては、20世紀にはその多くが石油などの化石燃料であり、これが偏在しているという理由も大きかった。だから政府がこの安定供給に関与するのである。
エネルギー安全保障を確保するには、必要なエネルギーを自国で産出できれば理想的である。これがエネルギー自給率の概念であり、日本はかねてより危機的状況にある(図1)。それは政府も認識しているが、化石燃料を実質的に賦存しないため、抜本的な対策は取られてこなかった。輸入元を多角化したり、省エネルギーを進めたり、原子力を国策で開発したりしてきたが、現在でも原油の多くを中東に依存し、国際紛争がある度に影響を受けるように、大きな成果を上げてきたとは言い難い。
図1 主要国のエネルギー自給率の推移 (%)
一方で自然エネルギーは純国産であり、エネルギー自給率を直接的に高めてくれる。太陽光や風力は他国から輸入することがなく、化石燃料と違って枯渇することもなく、燃料費ゼロで価格高騰の恐れもない。原子力は「準国産」と呼ばれ、エネルギー自給率に加算することになっているが、枯渇性であり燃料を輸入する以上は自然エネルギーに劣る。経済安全保障を重視するのであれば、自然エネルギーの価値は極めて高いことになる。
太陽光パネルの輸入 vs. 天然ガスの輸入
それでは、太陽光パネルが中国製であることは、経済安全保障上どの程度問題なのだろうか。これは、近年の日本で問題視されるようになったが、筆者は「エネルギー関連機器の安全保障」と呼び、以前からのエネルギー安全保障と区別している。そもそもエネルギーに関わらずあらゆる機器について、自国製であるに越したことはない。国際輸送が不要だし国内に雇用を生む。筆者も、浮体式洋上風力発電機やペロブスカイト太陽電池などの国産化には期待しているが、現状では、中国製の太陽光パネルは圧倒的に性能が高い上に安いという。
第1に、そもそもエネルギー(燃料の)安全保障と機器の安全保障は原理的に異なる。燃料は、毎年・毎月それだけの量を輸入し続けなければ、すぐに電力を供給できなくなる。しかし機器は、たとえ今日輸出を止められたとしても、既に国内にあれば電力を供給し続けてくれる。天然ガスやレアアースとは異なり、太陽光パネルの輸出停止は大した「武器」にはならないのだ。
第2に、それでも輸出国政府の指示によって機器が遠隔操作され、運転を止められるのではないかという懸念を聞く。これは根拠薄弱であり、同じく中国製が多いパソコンやスマートフォンについても同じ心配をするのかという疑問も湧く。それでも安全保障上の懸念があるのならば、機器全体を制御するパワーコンディショナーを自国製にすれば良いだろう。
第3に経済的に見ても、機器の輸入による「国富の流出」は限定的である。日本は化石燃料のほぼ全てを輸入に頼っており、毎年20〜30兆円を海外に支払っている。2022年の「エネルギー危機」もこの価格高騰であり、古典的なエネルギー安全保障上の問題であった。2025年について見れば、液化天然ガス(LNG)の輸入額は5兆7,051億円だったが、太陽光モジュール・パネルの輸入額は1,239億円だった(図2)1。LNGの約6〜7割は発電に使われ、ガス火力の発電電力量は太陽光の約3倍であることを考えても、kWhベースで約10倍の開きがある。要するに、ガス火力を太陽光で置き換えれば、輸入額は大幅に減るのである2。さらに、太陽光パネルの輸入は太陽光発電の設備容量を増やすが、LNGの輸入はガス火力発電の設備容量を増やさないことにも留意が必要である。
図2 化石燃料と太陽光パネルの輸入金額の推移
ドイツのエネルギー危機とエネルギー安全保障対策
日本では、2022年の「エネルギー危機」を理由に原子力の復活が積極的に進められ、対照的に自然エネルギーの優先順位が下がってきた。2022年の危機の本質は、前述の通り、化石燃料の価格面のリスクの顕在化という繰り返されてきた問題であった。それにも関わらず自然エネルギーの経済安全保障上の価値が適切に評価されず、一方で輸入依存になる水素やアンモニアが推進されているのは理解に苦しむ。そこで、日本以上に危機に陥ったドイツの対策を見てみたい。
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州、特にドイツに2つの面から深刻なエネルギー危機をもたらした。第1に、天然ガスなどの化石燃料の極端な価格高騰である(図3)。ドイツは日本よりもロシア産ガスの輸入への依存度が高く、スポット取引が中心ということもあり、ガス価格が日本以上に跳ね上がった。石炭や原油についても同様の傾向が見られた。
図3 日米欧の天然ガスの月別価格の推移 ($/mmbtu)
第2に、ロシアがノルドストリーム経由のガス輸出を停止したことも受けて、ドイツは他の欧米諸国とともにロシアからの化石燃料の輸入を停止したため、供給不安に陥った。特に冬場の暖房に不可欠な天然ガスについては、国を挙げて大規模な省エネに取り組み、さらに初めてLNG基地を短期間で建設し、2022年末から輸入を開始した(図4)3。このような供給不安は日本ではなかった事態であり、ドイツはまさに安全保障を脅かす危機に直面した。
図4 ドイツの天然ガスの四半期別輸入量の推移
このようなエネルギー安全保障上の危機に直面し、2022年4月に連邦政府のハーベック経済気候大臣は、「自然エネルギーの拡大は、ドイツ国内とヨーロッパの安全保障の問題」であると指摘し、2035年に国内電力のほぼ100%を自然エネルギー由来にすると目標を前倒しした。その上で政府は、自然エネルギー導入の加速化策を相次いで講じた。
2023年2月に陸上風力法を施行し、2032年末までに国土面積の約2%を陸上風力発電用地として確保するとした( 一柳絵美コラム参照:2032年までにドイツ国土の2%を陸上風力発電に充てる「陸上風力法」閣議決定)。これに関連して、自治体や各州の風車設置に関する許認可について統一基準を導入したり、州レベルの風車と住宅の間の最低距離規制を緩和させたりした。さらにプラグインソーラーの急拡大(カロリン・イプトナーコラム参照:プラグインソーラーが導入を加速:ドイツの太陽光発電急成長の背景(2023/2024年))は、消費者レベルのエネルギー安全保障対策と言えよう。これについて政府は、宅内配線に関する規制緩和や賃貸住宅における借家の権利の明確化によって、後押しをした。
もっとも、ドイツのこのような対策が全て上手く行っているわけではない。例えば、2023年のGEG(暖房法)の改正による自然エネルギー暖房の65%義務化は、コスト増に対する市民の反対や連立政権内部での対立などによって、実質的な撤回に追い込まれた。また、2025年12月に欧州委員会は、2035年までにガソリン車を禁止するという既存の方針を見直すことを表明したが、この背景には自動車産業を抱えるドイツ政府の働きかけがあったとされる。産業構造転換が進まず、経済全体の調子が良くないため、ドイツ国民のエネルギー転換疲れも見える。
これらドイツの危機に対して、脱原発のためにロシアの化石燃料に依存し過ぎたからだという批判があり、これを完全に否定することは難しい。確かにドイツはエネルギー輸出国としてのロシアを信用していた。一方でエネルギー安全保障という政策目的の重要性が高まった結果、自然エネルギーの価値もその政策的優先順位も高まった。そしてドイツは、2022年の冬を越すために脱原発を4ヶ月間延期したが、2023年4月には完了した。
このような自然エネルギーの安全保障上の価値についての理解は、欧州で概ね共有されている。その象徴が、2022年5月に化石燃料輸入の脱ロシア依存のために策定された「RePower EU計画」である。この中で自然エネルギ―は、「優先されるべき公益」と位置付けられた。個人の自由や自治体の裁量、自然保護ももちろん重要だが、国家の安全保障に関わることはより優先されるというのだ。
日本の経済安全保障の追求のために
自然エネルギーへの批判が強まっている現在の日本において、ドイツと同じ対策を取るのは難しいかもしれない。一方で、日本よりエネルギー自給率が高い国ですら、エネルギー安全保障のために自然エネルギー導入を優先していることは参考になるだろう。日本においても、原子力や輸入水素に費やすよりも多くの時間とコストを自然エネルギーに費やすのは合理的であるし、まずはそのような理解を広めることから始めるべきではないか。
太陽光パネルが中国製である問題に戻ると、近年筆者は海外に行く度に、政府関係者や企業関係者にこの懸念を質問してきた。限られた機会ではあるが、太陽光パネルはコモディティだからその懸念は低いとの答えが大半だった。国内産業的には問題であるとの意見もあったが、それは経済安全保障というより産業政策上の問題であろう。もちろん産業政策も重要である。しかし、コモディティの国産にこだわるよりも、他国企業が容易に真似できない先端技術やサービスの仕組みの国産化に注力した方が賢明だろう。
国際関係が混迷する現代において、経済安全保障という概念は重要である。しかし、その対象はエネルギーが物理的に供給されない危機なのか、価格が高騰する危機なのか、特定の機器を製造する国内産業にとっての「危機」なのか、峻別する必要があろう。経済安全保障上の重要性はこの順番なのであり、それをエネルギーの観点から追求すれば、最優先されるべきは自然エネルギーである。自然エネルギー自体の導入こそ、最大の経済安全保障対策なのである。
- その8割前後が中国からの輸入である。
- 原油については発電に使われる量は限定的だが、ガソリン車を電気自動車に、石油ストーブをエアコンに置き換え、その電気を自然エネルギーで供給すれば、輸入額の削減効果は大きい。これが「電化」である。
- 現在ではLNGは天然ガス輸入量の約1割を占め、その大半は米国からである。




