今週末の1月26日(日)には、第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、GX2040ビジョン案に対するパブリックコメントが終了する。審議会に参加できなかった日本国民が意見を言う唯一の機会だ1。
本コラムでは、昨年12月に出された第7次エネルギー基本計画と自然エネルギー財団の2040年シナリオを比較することで、どのような未来を示しているのかの理解の促進を目指したい。
1. エネルギー基本計画案の課題:自給率・コスト・不確実性
現在のエネルギー基本計画案には、3つの課題があると考える。自給率、コスト、そして不確実性だ。
(1)エネルギー自給率
政府案では、一次エネルギーとした場合の自給率は、2022年度現在の13%に対して、2040年度には30-40%まで上昇する。一方で、自然エネルギー財団のシナリオでは、2040年の自給率は約75%。地政学的リスクが高まる中で自給率が高いことはエネルギー安全保障上重要なことであろう。
図1 政府案と自然エネルギー財団シナリオにおける一次エネルギー供給構造と自給率

なお、自然エネルギー財団シナリオについては、今後精査時にアップデートされる可能性があることに留意されたい。
出典:資源エネルギー庁「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」等よりより自然エネルギー財団作成
自給率の差は、発電に占める自然エネルギーの比率の差によるところが大きい。政府案では、自然エネルギー比率を40-50%としているが、これは欧州で2024年にすでに達成している比率である。IEAの2023年の予測では、中国も2028年には電源構成に占める自然エネルギー比率が50%に達するとしており2、2040年電源構成に占める自然エネルギー比率が40-50%と言うのは国際的に見ても大変低い比率であると言える。
図2 政府案と自然エネルギー財団シナリオにおける電源構成

なお、自然エネルギー財団シナリオについては、今後精査時にアップデートされる可能性があることに留意されたい。
出典:資源エネルギー庁「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」等より自然エネルギー財団作成
特に政府案にて導入量が小さいのは風力発電である。三菱総研3によれば、事業性が高いと想定される発電コスト10円/kWh未満のポテンシャル海域の面積は、2050年時点で着床式70GW、浮体式1,477GW相当と推計している。
エネルギー基本計画を議論する基本政策分科会にて6機関が発表したモデル分析の結果と比較を図3に示した。政府案(水色の横に広いバーの範囲)における風力発電の導入量は、6機関シナリオのうち、設備容量の記載があるシナリオのいずれの最小値よりも低いことがわかる4。
図3 政府案・他の機関による2040年シナリオ・自然エネルギー財団シナリオとの比較:風力発電導入量

出典:基本政策分科会(第66回)資料等より自然エネルギー財団作成
自然エネルギー財団では、電力広域的運営推進機関(OCCTO)マスタープランの検討に使用した日立エナジー社のPROMODを用いて、電力システムの各種制約を考慮した1年間の1時間ごと(8760時間)のシミュレーションを行なっている。そこから導き出された一つの知見としては、太陽光だけ、風力だけではなく、太陽光と風力がバランスよく入ることで、蓄電池や送電線といった他の柔軟性と合わせて、自然エネルギーを中心とした効率的な安定供給が実現するということだ。太陽光に偏った導入よりも、風力発電を入れることで、夜や冬の発電が行われることになるのである。この自然エネルギーを中心とした“ベストREミックス”とでも言える構造を真剣に議論するフェーズに来ていると考える。太陽光ばかり、風力ばかりでは効率的な自然エネルギー導入とならない可能性がある。
(2)発電コスト:ゼロエミッション火力の比率が高いことで高い発電コストに
最後に、政府案と自然エネルギー財団シナリオにおける発電コストを計算した。コスト前提としては、政府の発電コスト検証ワーキンググループ5のものから政策経費を除いた値を用いている。発電コスト検証ワーキンググループの検討結果の課題については、2025年1月21日に開催した自然エネルギー財団新春セミナーにおいて木村啓二特任研究員(大阪産業大学経済学部准教授)が解説をしている資料6をご覧いただきたいが、過去のコスト検証はいずれも、その後実際に起こった太陽光・風力のコスト低下よりも、コストが「あまり下がらない」と見てきていることがわかる。つまり、発電コスト検証ワーキンググループの前提を用いることは、自然エネルギーのコスト低下を保守的に想定しているということになろう。
その自然エネルギーのコスト低下に対して保守的な想定を用いても、政府案の全体での発電コストは自然エネルギー財団シナリオよりも高くなることがわかる(図4)。なお、水素・アンモニアのコストは、新たに開発される水素燃焼器や水素貯蔵タンク等、水素固有設備のコストは考慮せず、「資本費や運転維持費等の諸元はLNG火力と同一」7としている。そのため、実際には上昇してしまう可能性が高いと捉えている。そのコストが低めの前提においても自然エネルギーを中心とした場合よりもコストが高くなってしまう。
図 4 政府案・他の機関による2040年シナリオ・自然エネルギー財団シナリオとの比較:発電コスト

また、図4の一番右のバーには、蓄電池・送電線・揚水費用(オレンジ斜線部分)を追加したものを示している。一方で、エネルギー基本計画案の資料には、「統合コスト」として太陽光の場合は、統合コストを加えると2倍以上のコストとなる、としている。この統合コストは、ある将来の電源構成に対して、太陽光を少し増やした時のシステムコストの上昇分を、全て太陽光に配分したものであり、またこの試算には自然エネルギーの電力システムへの統合の鍵となる重要な柔軟性であるデマンドレスポンスを考慮していない。
エネルギーシステム全体としてのコストは明らかに自然エネルギーを中心としたシナリオの方が低コストとなることは、政府案の試算における「再エネ拡大ケース」が、「水素拡大ケース」「CCS拡大ケース」よりも排出削減コストが低いことからも明らかだ。
図 5 政府案資料における再エネ/水素/CCSそれぞれの”拡大ケース”の排出削減コスト

(3)不確実性
自然エネルギーをどれだけ導入できるかは、これからの政策に大きく依存する。一方で、太陽光・風力(特に陸上風力、着床式洋上風力)はすでに世界各地で導入が拡大しており、技術として成熟が進んでおり、条件さえ揃えばコストが低い技術であることは証明されている。つまり、不確実性は政策による導入量にのみあると言える。
一方、水素やアンモニア火力やCCS付き火力は実証が始まった段階であり、導入の制約だけでなく、コストについても不確実性が高いと言えよう。CCSについては貯留地や漏洩がないことを証明するためのモニタリングなども必要であろうことから、その現実のコストについては現状のコスト推計とは大きくかけ離れたものとなる可能性もあるだろう。
原子力発電については、地元の反対や新しい規制への対応によって、再稼働・リプレースともに実現、コストともに不確実性が高いと言えよう8。
2. 今こそ自然エネルギーによるエネルギー自給・地方創生に舵を切ろう
予算や政策資源には限りがある。ネットゼロ排出の世界では、水素やアンモニア火力も年に数回必要となる高付加価値な発電所として必要となるだろう。ただし、それを30-40%という大量に見込むのか、それとも政策として石炭フェイズアウトをしっかりとした補償やリスキリングプログラムとともに実施しつつ安価な国産の自然エネルギーを中心としたシステムに舵を切るのか、その岐路に立っている。
世界各国から、日本の技術力が期待されている。未来世代の気候変動を抑えながらも、日本が浮体式洋上風力や系統技術によって世界から頼られつつ豊かになる未来は、今舵を切ることでしか実現できないと感じている。
私が技術諮問グループのメンバーをしているSBTi(科学に基づく目標設定イニシアチブ)に参加している企業は、世界で1万社を超えた。SBTi目標にはスコープ3が標準的に含まれることから、サプライヤーとして、顧客として選ばれるためには、1.5℃に沿った削減目標と、今後はその達成も必要となってくる 。同じ脱炭素をするなら、コストが低く、自給率も上がる方向が好ましいことに異論はないだろう。定量的な電力システムの制約を含めたシミュレーションにおいても、自然エネルギーを中心とした供給は可能である。
パブコメでも、職場でも、家族でも、学校でも、政治家でも、もっとこの重要な未来のエネルギーの話をしてみませんか?
- 1気候変動イニシアチブ(JCI)の特設サイトでは、パブリックコメントの参考となる日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)、RE100、クリーンエネルギーバイヤースアライアンス(CEBA)、SEMI(半導体製造における産業発展を目指す国際団体)、自然エネルギー財団、WWF Japanによる関連する提言や声明をまとめている。
- 2IEA (2024), Renewables 2023, IEA, Paris https://www.iea.org/reports/renewables-2023: “At the end of the forecast period, almost half of China’s electricity generation will come from renewable energy sources.”
- 3三菱総合研究所、「日本の洋上風力ポテンシャル海域 洋上風力と漁業の未来共創につながる好循環の形成に向けて」(2024年4月)
- 4自然エネルギー財団新春セミナー講演資料「政府のエネルギー基本計画案を解題する」p.8以降に木村誠一郎主席研究員による6機関・政府案・自然エネルギー財団シナリオの比較詳細がある。
- 5発電コスト検証ワーキンググループ、「発電コスト検証に関するとりまとめ(案)」(2024年12月16日)
- 6自然エネルギー財団新春セミナー講演資料「政府のエネルギー基本計画案を解題する」p.19以降
- 7総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会(第67回会合)参考資料1、p.119 には、「水素燃焼器や、発電プラント内に置かれる水素貯蔵タンク等の水素供給設備のコストは考慮せず、これらも含む資本費や運転維持費等の諸元はLNG火力と同一とすることとした 」との記載があり、水素(-253℃)やアンモニア(劇薬)特有の対応や、エネルギー密度が低いために貯蔵設備の容積が大きくなることなどが全く考慮されていない。
- 8発電コスト検証ワーキンググループの試算についての分析は、自然エネルギー財団新春セミナー講演資料「政府のエネルギー基本計画案を解題する」p.19以降を参照されたい。
- 9SBTのネットゼロ基準は現在改訂プロセスにあり、MRV(計測、報告、検証)についても新たに要件等が追加される見通しである。