シリーズ 「エネルギー基本計画の論点」(第10回)RE100の次に「24/7カーボンフリー」へ自然エネルギー中心に推進、原子力には放射性廃棄物の責任

石田 雅也 自然エネルギー財団 研究局長

2024年10月23日

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[特設ページ]エネルギー基本計画の論点

 自然エネルギーの電力100%を推進する国際イニシアティブ「RE100」を運営する非営利団体のClimate Groupが、RE100に続いて電力の脱炭素化を推進する新たなプロジェクトを立ち上げた。「24/7 (twenty-four seven) Carbon-Free Coalition」と名付け、1日24時間、曜日に関係なく週7日間にわたって、すべての時間帯でCO2(二酸化炭素)を排出しない電力の使用を世界各国の企業に推奨する。全世界の電力網から化石燃料ベースの電力を排除して、気候変動を抑制するための取り組みである。このプロジェクトには創設パートナーとして、米国からIT(情報技術)大手のGoogleとデータセンター事業者のIron Mountain Data Centers、欧州から製薬大手のAstraZenecaと通信大手のVodafone、アジア・太平洋からセメントメーカーのShree Cementとデータセンター事業者のAirTrunkの6社が参加した。2025年に参加メンバーを拡大して、本格的な活動を開始する予定である(プレスリリース、英文1)。

 6社の中でGoogleは2020年から「24/7カーボンフリー」に取り組んでいる。世界各国で運営するデータセンターの電力を2030年までに24/7カーボンフリーで調達する方針だ。Googleは2017年に年間ベースで自然エネルギーの電力を100%調達してRE100の目標を達成した。以降も自然エネルギー100%を継続している。ただしデータセンターで使用する電力を分析すると、CO2を排出する電力が多く含まれている。バーチャルPPA(電力購入契約)などを通じて調達した自然エネルギー由来の証書は発電時間と関係なく使用できるため、実際には化石燃料ベースの電力と組み合わせている時間帯がある(図1)。Googleは気候変動を抑制する観点から、すべての時間帯でCO2を排出しない電力を使用する24/7カーボンフリーに向けた活動を加速させる。

図1.Googleのデータセンターにおける時間帯別の電力使用状況(米国Iowa data center、2019年1月~12月)

出典:Google

 日本の事業者でも24/7カーボンフリーの電力でデータセンターを運営する事例が出てきた。京セラコミュニケーションシステムが北海道の石狩市で2024年10月1日に開業した「ゼロエミッション・データセンター 石狩(ZED石狩)」である。自社で運営する太陽光発電所の電力に加えて、近隣の石狩湾新港で2024年1月に運転を開始した洋上風力発電所の電力を購入する(図2)。自然エネルギーの電力だけで24/7カーボンフリーを実現する試みである。

図2.洋上風力と太陽光の電力を使って「24/7カーボンフリー」で運営するデータセンター

FIT:固定価格買取制度、PPA:電力購入契約
出典:京セラコミュニケーションシステム

  石狩湾新港の洋上風力発電所はFIT(固定価格買取制度)の認定を受けているため、発電した電力はCO2を排出しない自然エネルギーとみなすことができない。そこで解決策として、小売電気事業者が発電事業者と特定卸供給契約を結んで洋上風力の電力を買い取ったうえで、発電所の属性情報(発電方法や発電所の所在地など)が入ったFIT非化石証書を市場で購入して、電力と合わせてZED石狩に供給する方法を採用した。実際にはCO2を排出しないFITの電力とFIT非化石証書を組み合わせて24/7カーボンフリーを実現させる。ただし非化石証書には発電した時間の情報が含まれていない。洋上風力の発電電力量とZED石狩における電力購入量のデータを時間単位で突き合わせて確認する必要がある。

原子力が生み出す放射性廃棄物、購入企業にも廃棄物処分の責任

 大手のデータセンター運営事業者が24/7カーボンフリーに積極的に取り組む理由の1つは、今後さらにデータセンターの需要が増加して、電力使用量の拡大が見込まれるからである。電力の使用に伴うCO2排出量を可能な限り抑制しなければ、事業者として社会的な責任を果たすことができない。世界各国でデータセンターを運営するGoogle、Microsoft、Amazonは太陽光、風力、地熱などの自然エネルギーに加えて、2024年に入ってから原子力の電力を購入する長期契約を米国内で締結した。

 原子力の電力を購入して発電事業者を支援することによって、発電に伴う放射性廃棄物の処分に対して責任を負うことになる。原子力の安全性の問題を含めて、購入企業にとって大きなリスクになりかねない。Googleなど3社は現在のところ、原子力の電力を購入することが放射性廃棄物の増加をもたらす点について言及していない。原子力発電では使用済みの核燃料のほか、運転を終了した後の廃炉によって発生する高レベルの放射性廃棄物を厳重な体制で管理・処分する必要がある。企業が原子力の電力を積極的に購入すれば、こうした放射性廃棄物の処分にも責任を負うと考えるべきである。ところがGoogleなど3社が原子力の電力購入契約を結んだ米国では、高レベルの放射性廃棄物を厳重に管理・処分するための最終処分施設の建設計画がない。

 企業が気候変動を抑制するための活動を実行するうえで、持続可能性が必ず求められる。自然エネルギーを使用する場合にも、持続可能性を重視する必要がある。たとえばRE100では水力とバイオエネルギーに対して、持続可能な要件を満たす場合に限って使用を認める方針をとっている。電力の脱炭素化は持続可能な方法で実施することが前提になる。24/7カーボンフリーに向けて原子力の電力を使用する場合でも、同様に持続可能性が問われる。

 欧州連合(EU)では2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、対象になる経済活動を「タクソノミー」で規定している。原子力に関しては、高レベル放射性廃棄物の最終処分施設を2050年までに稼働させる具体的な計画があることを求めている。この要件を満たす国は、現在のところフィンランド、フランス、スウェーデンの3カ国だけである。EUの要件に照らし合わせれば、米国や日本を含めて、原子力を持続可能な状態で使用できる国はほかにない。企業が原子力の電力を調達するにあたって、この点を考慮する必要がある。24/7カーボンフリーを実現するうえで、持続可能とみなせない原子力の電力を購入することは慎重に判断すべきだ。

原子力は発電電力量の9%にとどまる、コストも自然エネルギーの2倍以上に

 国際エネルギー機関(IEA)が2024年10月16日に公表した「World Energy Outlook 2024(WEO2024)」によれば、世界の発電電力量に占める原子力の比率は各国の公約シナリオ(APS)をベースに推定すると、2023年、2030年、2050年のいずれも9%にとどまる(図3、表1)。一方で自然エネルギーは2023年の30%から2030年に52%へ、2050年には83%に達する。世界の電力を脱炭素化するうえで、原子力は自然エネルギーを補完する役割に過ぎない。24/7カーボンフリーにおいても同様で、主要な選択肢にはならない。

図3.世界の発電電力量の見通し(シナリオ別)

STEPS:Stated Policies Scenario(既存政策シナリオ)
APS:Announced Pledges Scenario(公約シナリオ)
NZE:Net Zero Emissions by 2050(ネットゼロ排出シナリオ)
その他の自然エネルギー:バイオエネルギー、地熱、集光型太陽熱発電、海洋を含む。
その他の低炭素排出:CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)付き化石燃料、水素、アンモニアを含む。
その他:自然エネルギー由来ではない廃棄物を含む。
出典:国際エネルギー機関(日本語訳は自然エネルギー財団)

表1.世界の発電電力量の見通し(電源別、公約シナリオに基づく)

出典:国際エネルギー機関のデータをもとに自然エネルギー財団が作成

 IEAが原子力の伸びを大きく見込まない理由の1つは、発電コストが高い点にある。WEO2024では米国、EU、中国、インドの発電コストを推定している(表2)。公約シナリオ(APS)では、米国の原子力のLCOE(Levelized Cost of Electricity、均等化発電原価)は2023年から2050年まで110米ドル/MWh(メガワット時=1000キロワット時)で変わらない。日本円で約16.5円/kWhになる(1米ドル=150円で換算)。これに対して太陽光は2023年の55米ドル/MWhから2030年に35米ドル/MWhへ、2050年には25米ドル/kWhまで低下する。陸上風力は2050年に35米ドル/MWh、洋上風力は50米ドル/MWhになる。最も高い洋上風力でも原子力の2分の1以下になることが見込まれている。EU、中国、インドでも、太陽光と風力の発電コストは原子力を大幅に下回る。いずれの国・地域においても、原子力の電力を購入することは長期にわたってコストの増加をもたらす。大量に購入することはむずかしく、購入する場合でも自然エネルギーを補完する電力として限定的な使用にとどめざるを得ない。

表2.主要4カ国・地域の発電コストの見通し(LCOE=均等化発電原価、公約シナリオに基づく)

CCGT:コンバインド・サイクル・ガス・タービン
出典:国際エネルギー機関のデータをもとに自然エネルギー財団が作成

 日本でも今後の発電コストの変化を同様に見込むことが妥当である。経済性、安全性、さらには放射性廃棄物の処分の問題を考え合わせると、24/7カーボンフリーの取り組みは自然エネルギーだけで推進することが望ましい。国内には太陽光と風力を中心に自然エネルギーのポテンシャルが大量にある。コストが低下してきた蓄電池とデジタル技術を活用した電力需給調整を組み合わせれば、自然エネルギーだけで24/7カーボンフリーを実現することは可能だ。福島第一原子力発電所の事故によって甚大な被害を受けた日本においては、現在も地震が多発している。電力を購入する企業が放射性廃棄物の処分を含めて大きなリスクを背負う理由は見あたらない。

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外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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