原子力発電の新設をフランスが計画、技術とコストに難題を抱える

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 上級研究員

2022年1月28日

in English

 2021年11月9日に、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は原子力発電所を新設する意向を表明した。詳細な計画は公表していないが、第3世代のEPR(Evolutionary Pressurized Reactor、進展型加圧水型炉)を採用する見通しだ。加えてSMR(Small Modular Reactor、小型モジュラー炉)1基の建設を同年10月12日に発表している。しかしいずれの計画も技術面と経済性に困難な問題を抱えていて、フランスの原子力発電の縮小傾向に歯止めをかける対策にはならない。フランスが2050年に向けて脱炭素を推進するうえで電力の重要性は変わらず、自然エネルギーを拡大し続ける以外に有効な方法はない。

フランスの原子力発電、過去の成長と近年の衰退

 フランスには現在56基の原子炉が運転可能な状態にある。設備容量を合計すると約6400万kW(キロワット)にのぼる。さらにEPRを採用したFlamanville-3 (165万kW)を2007年から建設中だ1。1973年に石油危機が起こった時に、化石燃料に乏しいフランスがとった主要な対策が原子力発電だった。当時は代替のエネルギー源として、発電量が豊富でコストが低く、しかも準国産の供給体制を構築できると考えられた。
その結果、原子力による発電量は1980年代に急増して、2005年にピークに達した(図1)。その後に経済が停滞して、2016年から原子力発電の減少が進んだ。理由はいくつかある。1つは原子力発電に直接起因する問題だ。品質管理の文書作成や製造上の欠陥に対する事業者の不正が発覚して、安全面の懸念が生じた。さらに政府がFessenheim原子力発電所(1・2号機)の廃止を決めたことも影響している。そのほかにも、自然エネルギーの継続的な増加に加えて、2020年に新型コロナウイルスの感染が原子炉の保守に悪影響を及ぼした。自然エネルギーと新型コロナウイルスにより、原子力発電は構造的かつ一時的にも必要性を失った。

図1. フランスの原子力と自然エネルギーの発電電力量
TWh:テラワット時(=10億キロワット時)
注:自然エネルギーには、水力、風力、太陽光、バイオマス/廃棄物、地熱を含む。
出典: BP,  Statistical Review of World Energy 2021 (July 2021)

 それでもフランスの電源構成に占める原子力の比率は、2020年の時点で67%を占めている(図2)。

図2. フランスの電源構成(発電電力量、2020年)
TWh:テラワット時(=10億キロワット時)
注:火力などには、ガス、石油、石炭、揚水、電源不明を含む。その他の自然エネルギーには、バイオマス/廃棄物、地熱を含む。
出典:BP,  Statistical Review of World Energy 2021 (July 2021).

 フランスでは原子力と自然エネルギーの両方を拡大することによってカーボンニュートラルを達成できるという考え方がある。実際のところ原子力の出力を変動させながら、自然エネルギーの電力と組み合わせて運用している。出力を変動させることは技術的に目覚ましいものだが、運転上の弱点にもなる。第1に設備利用率が低下するため、発電コストと収益性を悪化させてしまう。第2に原子炉の出力を変動させることが必ずしも成功するわけではなく、核燃料棒を損傷してしまう場合がある(ドイツのBrokdorf原子炉で2017年に発生2)。もともと原子炉の設計上は出力を変動させることを想定していない。フランス以外の国で同様の運用を実施することは非現実的と言える。

なぜフランスは原子力発電に再び向かうのか

 フランスが原子力発電に向かう要因は主に3つある。

(1)    エネルギーと軍事の独立性
(2)    化石燃料の輸入量および価格の変動に対する防御
(3)    国営の電力産業による大規模な脱炭素電源の確保

  1.  現在の欧州において、化石燃料に依存することは、地政、経済、環境の観点から重大な問題を引き起こす。フランスが再び原子力に力を入れることになった出来事が最近3つ起こった。1つ目はポーランドで発生した難民危機の最中に、ベラルーシがEU(欧州連合)に対してガスの供給停止の警告を発したこと3。2つ目は今なお続いているガス価格の高騰4。3つ目はベルギーが2025年までに原子力発電を段階的に廃止するために、ガスコンバインドサイクル発電所を建設するという決断を下した5

  2.  一方でフランス政府が原子力発電に対する自信を高めた理由の1つに、国内の独立系統運用者RTE(Réseau de Transport d'Électricité)が発表した研究レポートがある。2050年までとそれ以降(2060年)のカーボンニュートラルを達成するために、フランスの電力システムを長期に展望した「Energy Futures 2050」である。2年以上に及ぶ研究の主な成果が2021年10月に公表された6

  3.  Energy Futures 2050では7通りの電力需要シナリオとカーボンニュートラルを実現する6通りの電力供給シナリオを導き出した。電力供給に関しては、原子力よりも自然エネルギーを重視したシナリオが大半を占めている(表1)。
  4.  
  5. 表1.「Energy Futures 2050」 による2050年の電力供給シナリオの概要
GW:ギガワット(=100万キロワット)
注:電力需要は基準シナリオを採用、原子力の条件は正味の(廃止分を除いた)設置容量を示す。
出典:RTE, Energy Futures 2050: Main Results (October 2021、フランス語)

 この分析で得られた重要な結果のひとつは、2050年における6通りの電力供給シナリオに対して、10年後の2060年の時点で電力システムのコストがどの程度になるかを予測したことである。電力需要の基準シナリオ(中央シナリオ)として2050年に645TWh(テラワット時=10億キロワット時)を想定すると、電力供給は自然エネルギー50%、原子力50%の「N03」のシナリオの場合に、2060年の電力システムのコストが最も低くなる(図3)。

図3.「Energy Futures 2050」による2060年の電力システムの総コスト(シナリオ別)

注:電力需要は基準シナリオ、日本語訳は自然エネルギー財団による。
出典:RTE, Energy Futures 2050: Main Results (October 2021、フランス語)

 その理由は以下のような考え方による7。既設の原子炉の運転期間の延長をコスト競争力のあるオプションとして加えている。1MWh(メガワット時=1000キロワット時)あたりの発電コストは埋没費用を除外して30~40ユーロ(1kWhあたり約4~5円)と想定している。これに対して新設の自然エネルギー、特に事業用の太陽光と陸上・洋上風力の発電コストを2050年の時点で25~55ユーロ/MWh(約3~7円/kWh)と見込んでいる。新設の原子力の発電コスト60~85ユーロ/MWh(約8~11円/kWh)よりも低くなる。ただしRTEのレポートで採用した方法論では、この発電コストの差以上に、自然エネルギーの電力を送配電ネットワークに統合するコストがかかる。

 統合コストには、“柔軟性(flexibility)”を高めるための電力需要の調整と電力の貯蔵(蓄電池、水素、揚水発電)のほかに、送配電ネットワークの増強が含まれる。電力供給シナリオの「M0」(自然エネルギー100%)と「N03」(自然エネルギー50%、原子力50%)の統合コストの差の大半は、そうした柔軟性に関するものである。M0では2050年までに29GW(ギガワット=100万キロワット)の火力発電を脱炭素ガス(水素、合成メタン、バイオメタンなど)に置き換え、さらに26GWの蓄電池をバックアップ容量として追加する。一方のN03では1GWの蓄電池を含んでいるだけである。

 原子力発電のコスト試算では、設備利用率(設備容量に対する年間の発電量の割合)の平均値を既設の原子炉では約70%、新設の原子炉では70~75%で見込んでいる(表2)。

表2. 原子力発電の平均設備利用率(直近の実績と“Energy Futures 2050”の想定)

Note: For 2050 projections, electricity consumption scenario of reference.
Sources: RTE, Electricity Report 2020 (January 2021) and Energy Futures 2050: Electricity Supply – Demand Scenarios (October 2021) (in French).

 この設備利用率の想定値は、新型コロナウイルス感染拡大の直前2019年の実績(69%)と比べてさほど変わらない。自然エネルギーの比率が高くなっても、原子力発電の設備利用率に対する影響は小さいと考えられる。フランスでは経済性の観点から、メリットオーダーの原則で電力を供給する。限界費用が低い発電所から順に電力を供給することによって、限界費用がゼロに近い太陽光発電や風力発電が拡大すると、原子力発電の稼働時間に影響が及ぶ。したがって、再エネ比率が高くても原子炉の設備利用率に影響を与えないという結果は、一見、直感に反している。しかし、これは、フランスでは原子力発電の比率が高いために、すでに原子炉を負荷追従モードで運転して出力を変動させていることで説明できるかもしれない。これに加え、2050年まで電力の需要が拡大して、原子力発電の設備容量が減少すれば、自然エネルギーが増加しても原子力の設備利用率に影響は生じないと考えられる。  

 RTEの分析は包括的であり、さまざまな意見を取り入れた点で評価できる。とはいえ電力需要の基準シナリオだけを対象に電力システムのコストを分析していることには疑問が残る。電力需要は電気料金の変動や社会の変化によって影響を受けるものである。

 現在および将来の状況を考えると、2050年のフランスで原子力発電が50%を占めるという見方は楽観的過ぎる。原子力発電が抱えている問題点を考えれば、より現実的な電力供給シナリオは自然エネルギー100%あるいは63~87%のいずれかである。

原子力発電が直面する難題

 電力需要を基準シナリオで想定して、しかも原子力発電が最も成功するシナリオになったとしても、フランスの電源構成に占める原子力発電の比率は2020年の67%から2050年には50%以下まで低下する。そして現実には、今世紀半ばまでの原子力発電の減少を50%にとどめることができれば、それはフランスの原子力産業にとって偉業ともいえるものなのだ。

 約400億ユーロ(約5兆円)の負債に苦しむ国営(国が84%出資)の電力会社EDF(Électricité de France8)は、技術面と財務面で2つの課題に直面している。

(1)    既設の原子炉の運転期間延長
(2)    建設期間とコストを抑えた原子炉の新設

 この2つの問題は困難を伴い、莫大なコストがかかる可能性がある。既設の原子炉の運転期間を延長することは、カーボンニュートラルに向けたエネルギー転換において有望な選択肢であるとみなされてきた。既設の原子炉はコスト競争力があり、これまでのところ十分な信頼性と安全性がある。現時点でフランスの原子炉の平均運転年数は37年だ9

 しかし今後も高い設備利用率を維持しながら安全に運転できると予想することはむずかしい。2022年初の時点で、50年を超えて運転している原子炉は世界全体でわずかしかない。最も古い原子炉でも運転開始から52年で、60年間の運転実績は1カ所もない。既設の原子炉を設計した時点で想定していなかった複雑な環境(気候変動やテロ活動の増加など)によって、運転期間の延長はいっそう困難になっている。追加費用の低い自然エネルギーが拡大する一方、原子力発電のコストがさらに増加して、競争はますます厳しくなるだろう。

 財務面の課題も大きい。フランス国内の原子力発電所の改修を目指す「grand carénage(大改修)」と呼ぶ計画では、原子炉の安全性を強化して、条件が良ければ運転期間を延長する方針を示した。EDFの推定によると、2014年から2025年にかけて約500億ユーロ(約6.5兆円)のコストが必要になる10

 さらに原子炉の新設に関しては、電力供給シナリオN03(原子力50%)の場合には、14基のEPRと数基(合計4GW)のSMRの建設が必要になる。この2つの技術には現時点で十分な実績がなく、将来に向けて重要な役割を期待することはむずかしい。

 フランス国内のEPRは建設中のFlamanville-3の1基だけである。EDFが開発・建設・所有・運転するプロジェクトだが、技術的な問題によって大幅な遅延とコストの超過に直面している11 。2007年に原子炉の建設を開始した時点では、2012年に運転を開始して、約40億ユーロ(約5000億円)のコストを想定していた。しかし現在も運転できておらず、2023年よりも前に運転開始できる状況にはない(5年の計画に対して少なくとも11年の遅延)。コストも200億ユーロ(約2.6兆円)以上に上昇した(当初計画の約5倍)。発電コストは115~125ユーロ/MWh(約15~16円/kWh)になると見込まれている。

 この失敗は準備不足(的確でない技術の適用や不十分な詳細検討など)に加えて、フランスの原子力産業の技術力不足によるものと考えられる。スキルの継承に失敗したことによって、とりわけ原子炉の修理に欠かせない溶接の品質に問題が生じた。

 2011年に発生した福島第一原子力発電所の事故を受けて安全面の検証が必要になり、Flamanville-3の建設プロジェクトの進捗に影響を与えた。EPRを採用した初めての建設であり、将来の拡大に向けて十分な注意を払ってプロジェクトを成功させることが求められている。今後さらに新設の原子炉を拡大するためには、莫大な資金を調達しなくてはならず、政府による支援が不可欠である。市場が関与することによって、電力の利用者が原子力プロジェクトのリスクをとらされることになる。

 もう一方のSMRは技術的に未成熟で、コストも非常に不確実な状況にある。これまでの試みは、従来の大型プロジェクトと同様の遅延やコスト超過が発生しており、期待外れなものだった12 。フランスのSMR開発プロジェクト「NUWARD (nuclear forward)」は、この分野では後発である。このプロジェクトに関して公表されている情報はわずかだが、設備容量170MW(メガワット=1000キロワット)の原子炉2基(合計340MW)で、早ければ2030年までに建設を完了できると見込んでいる。主に輸出を想定していて、他の国や地域と接続していない独立の電力システムにおいて火力発電の代替手段になる 13。SMRの建設はフランスにとってデモンストレーションの意味合いが大きい。

 原子炉には規模の経済が働き、大規模になるほどコスト効率が良くなる。したがって競争性の高い欧州の電力システムにおいては、大規模な原子炉が(悪い中では)最もましな選択肢であり続けるだろう。

 規模の経済はSMRにも当てはまる。コスト対効果を高めるために、SMRでも規模を拡大するコンセプトが増えている。原子炉1基で数十MWだったものが数百MWになり、通常の原子炉の約1.5GWに近づいている。

 以上のような技術面と経済性の課題に加えて、原子力発電に対する依存を長引かせることは、使用済み核燃料と放射性廃棄物の量を増加させてしまうことを意味する。人類にとって危険な物質を貯蔵する設備を拡張しなくてはならない。再処理施設のLa Hagueに使用済み核燃料プールを追加する必要があるが、そのコストは10~20億ユーロ(約1300~2600億円)と推定される 14。さらに地層処分施設のCigéoを2030年に運用開始する予定だが 15、少なくとも270億ユーロ(約3.5兆円)かかる見込みだ16。これらの推定値はRTEの分析にも含まれている。

 原子炉の事故が起これば、何千億ユーロものコストがかかってしまう。しかし事業者の経済的な責任は限定されていて、支払いが困難であれば倒産することも許される。このような事故に伴って発生する隠れた費用は莫大だが、RTEの分析モデルには十分に加味されていない。

 フランスは40年前から原子力発電によって化石燃料の使用量を削減してきた。一方ドイツはそこまで深入りすることはなかった。フランスが原子力をフェーズアウト(段階的廃止)することなく、自然エネルギーで代替するペースが緩やかなのに対して、ドイツはより多くの自然エネルギーを採用して、今後10年以内に原子力発電と石炭火力発電の両方ともフェーズアウトさせる方針だ。追加費用の低い自然エネルギーの比率が高まることによって、産業や運輸など他のセクターにおいても電力で化石燃料を代替することが可能になる。

 フランスにおける原子力発電のさまざまな課題を考えると、たとえ最も経済的な選択肢だったとしても、2050年の電源構成で50%以上を維持することはむずかしい。脱炭素の電源として自然エネルギーを追加する必要があることは明らかで、50%以上を確保できるように導入を加速させなくてはならない。

 フランスの水力発電のポテンシャルは大半が開発ずみだ。新規の自然エネルギーの電力は太陽光と風力が中心になる。これまでも入札を実施して開発を促進してきたが、導入ペースは遅い。2021年12月1日の時点で、太陽光の導入量は12GW、風力の導入量は19GWで、風力の多くは陸上である17。RTEのEnergy Futures 2050では、電力需要を基準シナリオで想定すると、2050年に自然エネルギー100%の電力供給シナリオを実現するためには、太陽光を208GW、陸上風力を74GW、洋上風力を62GWまで導入する必要がある18

 自然エネルギーの主な課題は受容性にある。風力発電が景観に与える影響など、自然エネルギーの開発は目の前で起こっているため、社会の抵抗を呼び起こしやすい。一方で気候変動はもとより原子力発電所の事故や放射性廃棄物の負担は将来世代に重くのしかかる。現世代の持続可能な開発は将来世代の機会を損ねるものであってはならない。そのような概念で自然エネルギーのポテンシャルを有効に活用すべきだ。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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