今こそ化石燃料と原子力からの脱却を

大林ミカ 自然エネルギー財団 事業局長

2022年3月7日

in English

 ロシアによるウクライナ軍事侵攻は欧州のエネルギー問題を浮き彫りにした。

 ロシアは、世界の石油生産量の12%を占める第3位の産出国で、世界のガス生産量の17%を占める第2位の産出国である。日本でも石油やガス高騰の影響は及んでいるが、特に欧州は、ロシアからのガス供給に依存しているため、ウクライナ危機が取り沙汰され始めた昨年末頃からガスの卸価格が急騰し、大変大きな問題となっている。

 欧州では、化石燃料価格の高騰は、エネルギー安全保障の問題として捉えられている。そして、ロシア依存を低減し自立を高めるため、大まかに二通りの意見があるという。一つは、北海のガスや石油開発など、欧州内で化石燃料資源の開発に投資するというものだ。これにはロシアへの依存を減らせるが、問題の先延ばしに過ぎない、化石燃料依存が続き気候対策が遅れる、そもそも開発に数十年かかり現在の価格高騰にすぐに対応できない、などが指摘されている。

 これに対するもう一つの意見は、エネルギー効率化や電化、自然エネルギーへの投資を加速するというものだ。これは、ロシア依存とガス利用を急速に低減させ、気候危機対策にも合致する方策である。欧州委員会でも「エネルギー供給を強靱化し、ガス輸入の依存度を下げ、価格を下げる最善の解決策は、欧州の2030年温室効果ガス55%削減目標を迅速に実施することであり、特に自然エネルギーとエネルギー効率への投資こそが、将来への最良の答えである」というものである1。むしろこの危機は、脱炭素を加速する方向に向かっているのである。

 そして、筆者は、今回の事態により、安全保障とエネルギー利用に関わるもう一つの重要な問題が、改めてあぶり出されたと考えている。有事における原子力の脆弱性という問題だ。これまで度々指摘してきた、原子力のコスト高やリードタイムの長さなどエネルギーとしての不安定要因を超える、原発が抱える根本的な問題である。

 ウクライナには停止されたチェルノブイリ発電所以外に15基の原発がある。今までこうして複数の原発が稼働している地域でこれだけ激しい戦闘が行われたことはなかった(この原稿を執筆した後に実際に原発周囲が爆撃され、この懸念は現実のものとなった)。

 自然災害や軍事行動などの有事における原発の危険性は根本的に解決されることはない。東電福島原発事故時に、物理学者であるメルケル元首相は「原発事故・炉心溶融は、津波で起こったのではない。全電源喪失により起こったのだ(テロでもミサイルでも起こり得る)」と喝破した。

 日本では、資源不足となると思考停止してしまい、根本的な議論をするでもなく、価格高騰する化石燃料に補助金を出し続けている。化石燃料が入手しにくいから、もっと確保するべき=もっと依存すべき、という倒錯した政策である。原子力にしても、「脱炭素で原子力が必要」と、炭素以外の環境・社会・経済要素を見ない単純思考だ。

 環境対策と安全保障は表裏一体であり、行く道は同じである。今や自然エネルギーは、最も安価なエネルギーとなり、エネルギーの地政学を変革させた。欧州だけではなく、米国や中国も、自然エネルギーで大層を賄う計画を持つ。「資源小国」が資源大国になる道筋が目の前に拡がっている。

 ウクライナ危機は、日本に対し、化石燃料と原子力からの脱却を実行に移していくべき事実を突きつけている。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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