電力需要と原子力からみるエネルギー基本計画案

大島 堅一 龍谷大学政策学部 教授

2021年9月24日


 第6次エネルギー基本計画は、2030年に向けた実質的な対策を含むことのできる最後のエネルギー基本計画である。2014年、2018年のエネルギー基本計画は、気候変動問題や福島原発事故の現実からすれば、貴重な時間を無駄にするような内容となっていた。これに対し、今回示された「エネルギー基本計画(案)」(以下、計画案)では、石炭火力の「ベースロード電源」としての位置づけが削除されたり、再生可能エネルギーについて「最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む」ことが書かれているなど注目すべき内容が含まれている。

 では、エネルギー基本計画は、これまでのエネルギー政策を転換するものなのだろうか。ここでは、従来から注目されることが多かった電力に関する論点のうち、電力需要と電源構成(特に原子力の割合)について考える。

 まず、2030年度の電力需要についてみてみよう。これに関し、計画案では、「徹底した省エネルギー(節電)の推進」により、2030年度の電力需要が8640億kWh程度、総発電電力量が9340億kWh程度になると書かれている。これを図示したのが計画案にあわせて提示された資料(「2030年度におけるエネルギー需給の見通し(関連資料)」)の70ページのグラフである。ここでは「省エネの野心的な深掘り」により2280億kWh程度引き下げるとされている。これを見れば、計画案には大幅な省エネ(節電)が含まれ、そのための最大限の政策がとられるように理解できる。

 では、それは本当だろうか。実は、ここでベースラインとなった2030年度の電力需要は、2015年につくられた「長期エネルギー需給見通し」の予測値である。現実には、資料72ページで示されているように、2013年度以降電力需要は「長期エネルギー需給見通し」の予測のように増加せず、9896億kWh(2013年度)から9273億kWh(2019年度)へと623億kWh減少している。

 2019年度の実績値をベースラインとした場合、計画案はどうみえるだろうか。政府の2030年度の電力需要目標は8640億kWhであるから、2019年度から633億kWh分減少させることが目標ということになる。これは、2013年度から2019年度の間にみられる減少トレンドの延長線でしかない。この省エネ目標が、カーボンニュートラルに向けた「徹底した省エネルギー(節電)の推進」と言えるのか、根本的な疑問が生じる。

 要するに、電力需要を過大に見積もりすることが、現実の対策の不十分さを覆い隠すことにつながっている。このようなことが起こるのは、基本計画の基礎となる「長期エネルギー需給見通し」で、産業部門の活動が過大に想定されているためである。今次の「エネルギー需給見通し」も同様で、実際は減少トレンドにある粗鋼生産量、エチレン生産量、セメント生産量、紙・板紙生産量等を横ばいないし増加すると想定している。つまり現在の産業構造維持を前提にエネルギー政策が作られている。このような、エネルギー政策のあり方は、もはや踏襲するべきではない。むしろ発想を逆にして、カーボンニュートラルを前提に、産業構造の転換を大胆に進めるものであるべきである。

 他方、電源構成についてみると、2030年度の発電電力量が9340億kWh程度であり、これを再エネ約36〜38%、原子力約20〜22%、LNG約20%、石炭約19%、石油等約2%でみたすとされている。

 このうち、とりわけ現実性が乏しいのは原子力である。原発は、原子炉等規制法で運転期間が40年と定められている。立法趣旨からすれば認められないはずの20年間の運転延長が次々に認められるようになったとはいえ、原発の多くが廃炉となり、再稼働した原発は10基995.6万kWにとどまっている。一方、原子力の2030年度の発電電力量は、9340億kWhの20〜22%に相当する約2000億kWhにならなければならない。

 原子力発電の過去の実績からすれば、これは1989年度(38基2944.5万kW)〜1990年度(40基3164.5万kW)の発電電力量に匹敵する。ところが現実には、2030年度末時点で残っている原子炉は(運転延長認可済である高浜1,2、美浜3、東海第二については60年運転とする。また、建設中原発は除く。)、25基2674.5万kWしかない。これから未申請の6基633万kWを差し引くと、19基2041.5万kWである。これからすれば、原発の再稼働を進めたとしても目標達成は相当に難しい。政府自身も電力会社も、この数値が残る8年半で実現できるとは考えていないであろう。もちろん、その先の2050年度を見通せば、原発は次々に廃炉となるので、原子力の発電電力量はますます減少する。

 2030年度の温室効果ガス排出削減目標(2013年度比46%削減)目標実現に確実性を持たせるためには、不確実な原子力による発電電力量はゼロと想定するか、もしくは現時点で認可され2030年度末に確実に存在するものに限るべきである。そうすれば、エネルギー政策で早急に行わなければならないのは省エネ、再エネの強化であることが鮮明となる。

 以上のことからすれば、計画案は、省エネ(節電)については消極的であり、逆に原子力発電については達成不可能な過大な目標を掲げていると言ってよい。これは、従来のエネルギー基本計画の特徴をそのまま引き継ぐものである。

 このようなことをしていれば、本格的な気候変動対策が遅れ、2050年度のカーボンニュートラルの達成が不可能となるか、あるいは、直前になって対策をとらなければならなくなり、社会への影響が必要以上に大きくなってしまうであろう。今次のエネルギー基本計画案が、気候変動対策にむけた本格的な政策となっていないことは残念というほかない。

[特設ページ] 「エネルギー基本計画改正案」を問う

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
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