福島原発事故から我々は学んでいるか?

鈴木 達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター 副センター長・教授

2021年3月8日

in English

はじめに:事故の教訓と反省

 福島第一原子力発電所(1F)事故から10年がたつ。最初の質問は、やはり「事故の教訓と反省」から学んでいるか?である。独立した原子力規制庁の誕生と、新しい規制基準により再稼働が許可された原子力発電所の安全性は、事故前に比べれば明らかに高まっているだろう。しかし、それだけでは真の教訓と反省を踏まえたとはいいがたい。やはり最も重要な教訓と反省は、「信頼の回復」に尽きると思う。では、どうすれば「信頼」は回復できるのか。それは、原発を再び推進させるための議論に時間を使うのではなく、事故後の現状と課題について、10年の経過をしっかり分析し、その課題克服に真摯に取り組むことが不可欠である。具体的には、次の3つの重要課題についての取り組みを検討したい。

福島第一原発の廃炉と復興問題

 まず何よりも、福島第一原発の廃炉と地域の復興問題が最大の課題だ。

 廃止措置において、今最も社会で信頼が失われている課題は、やはり汚染処理水の問題であろう。2018年には、地元の漁業組合との間で、「海洋放出」ということでほぼ合意に達していたのに、処理水の約8割に、基準値を超える放射性物質が残存していたことが明らかになったのである。その後、仕切り直しとなったものの、東電・経産省と住民との信頼関係は回復していない 。この時点で信頼回復に向けて、何ができるのだろうか?政府・東電は、「答えありき」の決定プロセスを見直し、第三者による検証、徹底した情報公開と市民との真摯な対話を通して、信頼回復に努めるしかない。

 復興問題においても、汚染土の処理・貯蔵問題、避難地区解除プロセス、補償問題においても、住民の信頼が十分に回復したとは言えない。この点について、透明性向上と信頼回復にむけて、筆者は、廃炉プロセスと復興全体のガバナンス改革として、以下の3点を2017年に提言している 。第1に、福島廃止措置に特化した専門の「福島廃炉措置機関」の設置、第2に資金をより広く集め、かつ透明性をもって廃炉と復興にあてる「福島・廃炉復興基金」の設置、第3に廃炉と復興プロセスを監視する第三者機関として「福島廃炉・復興評価委員会」の設置である。こういった廃炉と復興を連携させ、民主的で透明性のある体制で実施することが求められる。

使用済み燃料と核燃料サイクル、廃棄物問題

 次に解決しなければいけない課題は、使用済み燃料と放射性廃棄物問題である。これに深く関連するのが、使用済み燃料を全量再処理するという「核燃料サイクル」政策である。

 2020年7月に六ケ所村再処理工場が規制委員会の安全審査に合格し、2022年には本格稼働される見通しとなった。引き続きMOX加工工場の安全審査も合格となった。現状は、たまり続ける使用済み燃料の解決策として、再処理が義務付けられている。しかし、再処理は本当に今必要なのだろうか。今こそ、核燃料サイクルの総合評価を行うべきではないか。例えば、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する法律には、使用済み燃料が対象となっていない。全量再処理政策がそのような硬直性につながっているのである。処分場の必要性は、再処理しても同じであり、それまでは安全で経済的な乾式貯蔵を最優先にすることが望ましい。

 さらに、このまま再処理を継続した場合の課題としてあげられるのがプルトニウム問題である。すでに日本は、2019年末現在、45.5トンものプルトニウムを所有しており、これは非核兵器国では最大量である 。世界でもプルトニウム在庫量は500トンを超えており、国際安全保障の観点からは在庫量の削減が重要課題として考えられている 。こういった観点から、2018年には原子力委員会が、「プルトニウム在庫量を削減する」との政策を発表した 。こういった政策との整合性を保つ意味でも、全量再処理政策の見直しは必至であろう。

 高レベル放射性廃棄物の最終処分計画についても、第三者による評価の仕組みや合意形成プロセスを見直すなど、根本的な見直しを行うことが必要だろう。

意思決定プロセスの改革

 最後に、政策の方向と国民世論のギャップをどう埋めるか、という問題である。福島事故以降、原子力発電に対する世論は、文字通り180度転換した。日本原子力文化財団の世論調査によると、2010年9月には「原子力発電が必要」と答えた人の比率は87.4%であったが、事故後の2013年12月には、その比率は24.9%にまで落ちてしまった。また、最新(2019年10月)の調査によると、「原子力発電を増加または維持すべき」という意見は全体の12.3%に過ぎず、60.6%の人が「原子力発電は徐々に廃止、または即時廃止」と答えているのだ 。現政権は、「カーボンニュートラル」の目標にむけて、これらの世論とは逆に原子力発電の役割増加を検討しているようだ 。事故直後の民主党政権下では、「討論型世論調査」などを実施して、一般市民の意見を政策に反映させる努力がなされたが、自民党政権になってからは全くと言っていいほど、市民の声を反映させようとする努力がみられない。

 さらに、原子力のみならず、現政権の意思決定過程における透明性の欠如は甚だしい。政策決定に至るまでの記録保存も「透明性確保」に不可欠なのであるが、それも誠実に実施されておらず、それどころか改ざんまでされてしまっているのが現実だ。これでは、政策への信頼性は得られず、国民に納得される意思決定となる可能性が低い。

まとめ

 以上、1F事故の教訓と反省を踏まえ、「信頼の回復」に必要な措置について、検討してきた。重要なことは、信頼を失ったことについての真摯な反省に基づき、信頼回復に向けて、課題に正面から向かい合って、一つ一つ地道な努力を続けていくしかない。事故がもたらした「負の遺産」はあまりにも大きい。また、市民参加も含め、意思決定プロセスの透明性確保は、福島原発事故が教えてくれた最大の教訓ではなかろうか。

[特設ページ] 福島第一原子力発電所事故から10年とこれから

外部リンク

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