東京に非常事態宣言が出されてから電車にも車にも乗っていない。外出と言えば歩いて行ける範囲のお店での買い物と散歩、ジョギングに限っている。仕事の打ち合わせはWeb。世界各国の都市で行われているロックダウンで青い空が戻ったなどの報道があるが、新型コロナウィルスによる世界的な経済縮小により4月初めの1日あたりの世界のCO2の排出量が推定で前の年と比べて17%減少したと英イーストアングリア大学の教授が率いる研究チームが発表した。CO2の排出をリアルタイムでモニターする制度がないためあくまで推定でしかないが、これだけ市民が外出を控え、多くの事業所が休業するなど大きな痛みを伴う感染拡大を抑制する対策が取られたことでCO2の排出が大幅に減少した。研究チームは世界的な封鎖が年末まで続けば排出量は今年7%減少する可能性があるとしている。
今世紀末までに気温の上昇を1.5℃に抑えるためにIPCCは2030年までにCO2排出を45%削減、2050年には実質ゼロエミッションを求めている。ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム所長は去年行ったインタビューで人類が安全に暮らし続けられる地球環境を維持しようとすれば今世紀半ばのゼロエミッション実現にむけて2020年から毎年7~8%CO2の排出削減をしなくてはならないと語っていた。世界的な経済縮小が年末まで続けば排出量は7%削減となるという予測を耳にして、私は地球を守るために求められている目標がいかに厳しいものであるかを初めて体感し、思わずため息をついた。
新型コロナウィルスで私たちは医療崩壊の危険と同時に経済危機にも直面することとなった。WHO世界保健機関のテドロス事務総長が世界的な大流行、パンデミックになっているとの認識を示したのが3月11日。COVID-19と名付けられたウィルスは感染力が強く、社会の脆弱性を次々と露呈させていった。深刻な医療物資の不足、脆弱な検査体制はパンデミックへの備えが出来ていなかったことを突きつけた。また、パンデミックによって、非正規やパートで働く人やフリーランスの人など、格差が広がった社会でセーフティーネットが十分でない人々の生活が真っ先に脅かされ、取り残される人々が次々と生まれ、国や自治体は対策に追われている。
パンデミックに不意を突かれた形だが、大規模な感染症は大きなリスクとして何年も前から把握され警告されていたのだ。世界経済フォーラムは2015年のグローバル・リスク報告書で、「感染症の迅速かつ広範囲な蔓延」を、発生すると影響が大きいグローバル・リスクの上位2番目に位置付けていた。この頃、西アフリカではエボラ熱の感染が拡大し、中東でMERSコロナウィルスによる感染症の流行が再燃、また日本においては東京の代々木公園を中心にデング熱患者が発生していた。世界経済フォーラムは2019年のリスク報告書でも、壊滅的な大流行が自然発生するリスクが高まっているとしたうえで、各国における基本的な備えが不十分であることを警告していた。
未知のリスクに対してレジリエンスを高める備えを怠ってしまった代償の大きさを私たちは今、目の当たりにしている。グローバル化が加速する中で、予測されていた危機に備えるための投資や対策が何故取られないのか。それは短期的な成果を追い求め、効率性、合理性を追求する社会で結果としてシステミックなショックへの備えが削られ、危機を悪化させる方向へと向かったのだろうか。
COVID-19による危機的な状況にある中で科学者たちの声がよく聞こえるようになった。正体不明のウィルスへの不安が先走り、何を信じるべきか。頼りに出来るのがデータや研究に裏打ちされた分析や情報だ。このパンデミックを将来の危機に対処するためのモデルにすべきだと思うが、改めて心にとめなくてはならないのは、大規模感染症の発生を多くの専門家が予測していながら警告が生かされなかったことだ。今回の教訓は到来が明白になっているリスクに早急に備える必要があるということだ。そして今や最大のリスクは気候危機。40℃を超す猛暑、豪雨、大型台風など異常気象という形ですでにリスクは日本でも顕在化している。気候危機の脅威は今回のパンデミックと同様に、世界中を襲い社会的弱者により大きな被害をもたらすことになる。そして温暖化は感染症の脅威も増大させるとみられている。
生命を維持していくことが出来る安全な地球環境を残していくために2020年から毎年7~8%のCO2の排出削減が求められている。COVID-19がもたらした危機は、非常事態宣言や都市封鎖を余儀なくさせ、その結果CO2排出は激減したが、社会経済システムの変革を伴わないままでのCO2削減は、激しい痛みをもたらし、社会や経済が立ち行かなくなることを知らせた。今後、コロナ危機から抜け出し経済、社会を再起動していかなくてはならないが、今回学んだ教訓をもとに私たちは予測されているリスクに対する耐性を高めていく大胆な変革を選択しなければならない。気候危機を防ぐための大幅な脱炭素には、エネルギー転換、食料システム、都市のあり方の変革など様々なシステムチェンジが必要だ。パンデミックが急激なシステマティックな変化を可能にする触媒となってほしい。
過去の成功の上に築かれた現状を変えるのはとても難しい。しかし、持続可能で誰ひとり取り残さない平等な新しい社会の構築にむけて移行していく機会を逃してはならないと思う。幸い私たちには、パリ協定と世界共通のものさしとして目指すべき社会像を描いたSDGsがあり、それは同時に私たちが抱えるリスクのチェックリストでもある。今回の経験から学びつつ、より良い形での回復を実現することが、更なる大きなリスクに立ち向かい、打ち勝つことにつながるのではないだろうか。
今世紀末までに気温の上昇を1.5℃に抑えるためにIPCCは2030年までにCO2排出を45%削減、2050年には実質ゼロエミッションを求めている。ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム所長は去年行ったインタビューで人類が安全に暮らし続けられる地球環境を維持しようとすれば今世紀半ばのゼロエミッション実現にむけて2020年から毎年7~8%CO2の排出削減をしなくてはならないと語っていた。世界的な経済縮小が年末まで続けば排出量は7%削減となるという予測を耳にして、私は地球を守るために求められている目標がいかに厳しいものであるかを初めて体感し、思わずため息をついた。
新型コロナウィルスで私たちは医療崩壊の危険と同時に経済危機にも直面することとなった。WHO世界保健機関のテドロス事務総長が世界的な大流行、パンデミックになっているとの認識を示したのが3月11日。COVID-19と名付けられたウィルスは感染力が強く、社会の脆弱性を次々と露呈させていった。深刻な医療物資の不足、脆弱な検査体制はパンデミックへの備えが出来ていなかったことを突きつけた。また、パンデミックによって、非正規やパートで働く人やフリーランスの人など、格差が広がった社会でセーフティーネットが十分でない人々の生活が真っ先に脅かされ、取り残される人々が次々と生まれ、国や自治体は対策に追われている。
パンデミックに不意を突かれた形だが、大規模な感染症は大きなリスクとして何年も前から把握され警告されていたのだ。世界経済フォーラムは2015年のグローバル・リスク報告書で、「感染症の迅速かつ広範囲な蔓延」を、発生すると影響が大きいグローバル・リスクの上位2番目に位置付けていた。この頃、西アフリカではエボラ熱の感染が拡大し、中東でMERSコロナウィルスによる感染症の流行が再燃、また日本においては東京の代々木公園を中心にデング熱患者が発生していた。世界経済フォーラムは2019年のリスク報告書でも、壊滅的な大流行が自然発生するリスクが高まっているとしたうえで、各国における基本的な備えが不十分であることを警告していた。
未知のリスクに対してレジリエンスを高める備えを怠ってしまった代償の大きさを私たちは今、目の当たりにしている。グローバル化が加速する中で、予測されていた危機に備えるための投資や対策が何故取られないのか。それは短期的な成果を追い求め、効率性、合理性を追求する社会で結果としてシステミックなショックへの備えが削られ、危機を悪化させる方向へと向かったのだろうか。
COVID-19による危機的な状況にある中で科学者たちの声がよく聞こえるようになった。正体不明のウィルスへの不安が先走り、何を信じるべきか。頼りに出来るのがデータや研究に裏打ちされた分析や情報だ。このパンデミックを将来の危機に対処するためのモデルにすべきだと思うが、改めて心にとめなくてはならないのは、大規模感染症の発生を多くの専門家が予測していながら警告が生かされなかったことだ。今回の教訓は到来が明白になっているリスクに早急に備える必要があるということだ。そして今や最大のリスクは気候危機。40℃を超す猛暑、豪雨、大型台風など異常気象という形ですでにリスクは日本でも顕在化している。気候危機の脅威は今回のパンデミックと同様に、世界中を襲い社会的弱者により大きな被害をもたらすことになる。そして温暖化は感染症の脅威も増大させるとみられている。
生命を維持していくことが出来る安全な地球環境を残していくために2020年から毎年7~8%のCO2の排出削減が求められている。COVID-19がもたらした危機は、非常事態宣言や都市封鎖を余儀なくさせ、その結果CO2排出は激減したが、社会経済システムの変革を伴わないままでのCO2削減は、激しい痛みをもたらし、社会や経済が立ち行かなくなることを知らせた。今後、コロナ危機から抜け出し経済、社会を再起動していかなくてはならないが、今回学んだ教訓をもとに私たちは予測されているリスクに対する耐性を高めていく大胆な変革を選択しなければならない。気候危機を防ぐための大幅な脱炭素には、エネルギー転換、食料システム、都市のあり方の変革など様々なシステムチェンジが必要だ。パンデミックが急激なシステマティックな変化を可能にする触媒となってほしい。
過去の成功の上に築かれた現状を変えるのはとても難しい。しかし、持続可能で誰ひとり取り残さない平等な新しい社会の構築にむけて移行していく機会を逃してはならないと思う。幸い私たちには、パリ協定と世界共通のものさしとして目指すべき社会像を描いたSDGsがあり、それは同時に私たちが抱えるリスクのチェックリストでもある。今回の経験から学びつつ、より良い形での回復を実現することが、更なる大きなリスクに立ち向かい、打ち勝つことにつながるのではないだろうか。