EUの野心的な自然エネルギー目標は、日本に警鐘を鳴らしている

デイブ・ジョーンズ   エンバー グローバル・プログラム・リード

2022年6月24日

※本コラムは、気候・エネルギーシンクタンク、エンバーウェブサイト に2022年5月24日付で掲載された記事(EU’s renewable energy ambition is a “wake up call” for Japan)を、著者の承諾を得て邦訳したものです。

 G7首脳会議に先立ち、5月26日(木)にエネルギー大臣会合が開催され、G7諸国が2035年までにクリーンな電力供給に取り組むかどうか、またどのように取り組むかが決定されることになっている。果たして日本は、それに名を連ねる準備ができているのだろうか?

クリーンパワーの重要な瞬間

 G7はすでに、ロシアのエネルギーへの依存を減らすことに合意している。先週の水曜日、欧州はロシアからのエネルギー輸入を削減する計画を打ち出した。『REPowerEU』と名付けられたこの新しい計画により、既存の環境対策と合わせて、ヨーロッパは、ガス、石油、石炭の輸入を毎年1000億ユーロ節約できるようになるとEU執行部は述べている。この計画では、2022年末までにロシアからのガス使用量を3分の2に削減する予定である。

 REPowerEUは、省エネ、自然エネルギーの強化、石油・ガスの欧州へ供給源の多様化という3つの主要な要素を持っている。2030年までに3000億ユーロの投資を約束し、そのうち化石燃料の多様化はわずか3%(100億ユーロ)、残りの97%(2900億ユーロ)はクリーンエネルギーへの投資である。

 EUは2030年の目標値として、全エネルギーの45%を自然エネルギーで賄うことにし、従来の40%から引き上げた。電力部門については、電力需要の69%を自然エネルギーで賄う(以前は暗黙の目標が65%だった)。この増加のほとんどは、風力発電と太陽光発電の増設によるものである。原子力を含めると、2021年の63%から2030年には87%がクリーンエネルギーになると予想される。

 これは、2035年に100%のクリーン電力を実現するというバイデンの公約と一致し、2035年までに欧州の送電網を100%クリーンな電力供給へとするための推進力となる。2021年5月、G7は「2030年代に圧倒的な脱炭素電力システムを実現することを約束する」ことに合意した。今年のG7は、その文言をさらに推し進め、2035年までにクリーン電力100%を約束するという位置づけになる可能性があるが、未解決の問題は、日本が、その目標に対してどの立ち位置にいるかである。

 先週、日本の石炭価格は過去最高を記録し、アジアの指標であるニューキャッスル炭は1トンあたり442ドルという史上最高値で取引された。これはわずか12ヶ月前の価格の4倍である。一方、日本のガスLNG輸入価格(JKMスポット価格)は、高値から後退したものの、20ドル/mmbtuと、12ヶ月前の2倍の水準にある。

 日本はすでにロシアのエネルギーへの依存を減らすことを約束している。化石燃料の価格が高騰している今、石炭やガスによる電力からクリーンな電力への移行を加速することは、これまで以上に理にかなっている。

エネルギー転換の比較

 日本は電力転換が遅れている。2021年のクリーン電力の比率はEUの半分、風力・太陽光発電はEUの19%に対し11%だった。2021年10月に経済産業省が発表した「エネルギー基本計画」では、日本のクリーン電力はEUよりも実際に速く上昇するとされている。ただし、これは日本が休止中の原子炉の多くを再稼働できるという見通しに立っているからにほかならない。

 一方で、日本に比べて、EUの自然エネルギーは急激に増加する予定である。今後9年間で、EUは総発電量の3分の1(32%)をさらに自然エネルギーへ転換していくと予測される。日本の計画は、自然エネルギーを13%増やすに過ぎない。

 


 もし日本がEUと同じようにクリーン電力の機運を盛り上げた場合、2035年までに100%のクリーン電力導入目標を達成するのに十分だろうか?

 これは、日本が、太陽光と風力の拡大にどれだけ野心的なのかによって違ってくる。EUの目標は、太陽光と風力で約52%に達するというものである。しかし、経済産業省は、太陽光と風力は、日本では20%に過ぎないだろうと予測している。しかし、IEAの「Achieving Net Zero Electricity Sectors in G7 Members」は、2030年に、G7の発電量のうち風力と太陽光が42%に達すると予測している。

 最新のIPCCの1.5℃整合シナリオは、2030年までに太陽光と風力を40%にするというIEAのマイルストーンとほぼ一致しており、2035年までにOECD諸国において100%に近いクリーン電力が必要であることがわかる。これらの目標を達成するために、日本ができることは以下の通りだ。

■太陽光発電
 EUは2030年までに750GW(DC)の太陽光発電を計画しており、これは2021年から2030年まで年間64GWの導入を実施することを意味する。この計画の中心は、新しいルーフトップ型太陽光発電の建設である。EUは、2025年までにすべての公共建築物に、2029年までにすべての新築の住宅に、それぞれソーラーパネルの設置を義務付けることを提案している。その結果、2030年までにEUの総太陽光発電容量の半分以上をルーフトップ太陽光発電が占めることになる。

 しかし、IEAのデータによると、昨年の日本の太陽光発電の導入量はわずか6GWで、これはEUの予測導入量の10分の1である。日本の太陽光発電のうち、屋根に設置されたものは10分の1に過ぎず、太陽光発電所という形で設置されたものが大半を占めている。これは、オーストラリアや現在のEUが太陽光発電の容量を拡大するための基盤としているものを無視したものであると同時に、EUが今やろうとしているように、日本にもルーフトップ太陽光発電の潜在的可能性を引き出す大きなチャンスがあることを示している。ルーフトップ太陽光発電に関するEUの意欲は、日本が自然エネルギーの拡大に全力を尽くしているという今の認識が誤りであることも明らかにしている。

 しかも、ルーフトップ太陽光発電のコストは決して高くはない。2022年5月15日に行われたドイツのルーフトップ太陽光発電の入札の最新結果は、1メガワット時あたり90ドル(85ユーロ)の価格だった。国際的なインフレがコストを押し上げたため、2021年7月の最初のオークションより23%高い価格となった。しかし、石炭やガスの価格上昇に比べれば、自然エネルギーはデフレ状態だ。日本のルーフトップ太陽光発電産業の拡大は、日本のエネルギーシステムの安全性と持続可能性をさらに高めるための、驚くべき未開拓の機会を提供している。

■風力
 陸上風力では、ドイツが国土の2%を陸上風力発電のために確保することを計画している。洋上風力については、ベルギー、デンマーク、ドイツ、オランダの4カ国が、2030年までに65GWの洋上風力発電の目標を発表している。さらに英国は単独で、浮体式風力を含めて2030年までにで50GWの導入を目標としている。これは、2020年に発表された日本の10万kW目標の10倍以上だ。

100%クリーンな電力供給に向けて動き出したG7

 世界的なエネルギー転換、電力の移行が加速している。EUは新たな自然エネルギー目標として、2030年までに80%以上のクリーン電力の導入を目指している。

 G7を前に、日本が2035年までに100%クリーンなエネルギーシステムを実現することは可能かどうか、多くの人が疑問に思うだろう。この目標は確かに挑戦ではあるが、間違いなく達成可能なものである。まず、ルーフトップ太陽光発電と風力発電を拡大することから始めれば、2035年までに、今よりもはるかに安全で持続可能なエネルギーシステムを構築することができるだろう。

 日本は2035年までにクリーンエネルギー100%の目標を達成することができる。6月のG7でこの目標を設定することは、日本が、効率的なエネルギーシステムだけでなく、長期的なエネルギー安全保障を高め、コストを低く抑える方法で自然エネルギーを急速に拡大することに重点を置いているという強力なメッセージを国際社会に送ることにもなる。
 
「日本の電力システムにおいて、太陽光や風力は現在カメオ出演の位置づけだが、主役になるためのステップアップの準備はできている。記録的な化石燃料の価格上昇とロシアからの輸入を減らす必要性は、日本に警鐘を鳴らしている。日本にはもっと国産のクリーンなエネルギーが必要であり、太陽光や風力にもっと意欲的に取り組む必要がある。」
デイブ・ジョーンズ  エンバー  グローバル・プログラム・リード



 

外部リンク

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