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ドイツ、脱石炭へ委員会設立
温室効果ガス削減に本腰

2018年7月24日

一柳絵美 自然エネルギー財団 特別研究員

 ドイツ連邦内閣は6月初旬、脱石炭にむけた委員会を設立した1。委員会の正式名称は「成長・構造改革・雇用委員会2」で、通称「石炭委員会」と呼ばれる。本委員会は、ドイツの脱石炭にむけて2018年末までに石炭火力発電所の順次停止の計画を示す予定だ。気候変動対策に取り組むと同時に、 脱石炭の影響を受ける地域での 雇用確保・経済成長が課題となる。

ドイツ 温室効果ガス削減が急務

 ドイツでは、石炭・褐炭が電源構成の37%を占める(2017年)。ドイツは温室効果ガス削減目標として、2020年までに1990年比40%削減を掲げてきた。2013年以降、石炭・褐炭由来の発電量は減少している。しかし、現在の削減ペースでは目標値の達成が危ぶまれている。ドイツ連邦環境省が6月に公開した報告書によると、ドイツの温室効果ガス削減率は2020年までに1990年比32%減に留まり、目標達成に8%届かない見込みだという3。この理由として、ドイツ連邦環境省は、予期していなかった急激な国内経済成長と、急激な人口増加を挙げている。

石炭委員会こと「成長・構造改革・雇用委員会」とは?

 今回の石炭委員会設立の意向は、現政権が3月に発表した連立協定に記載されていた4。連立協定には、「政治、経済、環境団体、労働組合、そして関連地域から様々なアクターを巻き込んで、成長・構造改革・雇用委員会を設立する」とある。ドイツは、石炭委員会によって2018年末までに行動プログラムの策定を目指す。行動プログラムは、2020年40%温室効果ガス削減目標到達への不足分を補うための施策や、石炭火力発電所の順次停止の計画などを含む。石炭火力発電所の停止に関しては、具体的な日程や、そのために必要な法的・経済的・社会的・政策的な措置が検討される。石炭委員会の主な担当省は、連邦経済エネルギー省、連邦環境省、連邦内務省、連邦労働社会省の4省で、連邦経済エネルギー省下に事務局が置かれる。

 本委員会の全体会合は、6月末から開始され、2018年末までの半年間、およそ月1回開催される。10月、11月には褐炭産業が盛んな地域に委員会が出向く。これまでに、委員会が2つのワーキンググループに分割されることが決まっている。一つは、エネルギー経済と気候変動対策目標、もう一つは、経済成長と地域での雇用に重点をおく。今後の石炭委員会のスケジュールは、まず今年の10月末までに褐炭産業地域での構造改革に関する提言書をとりまとめること。つづいて、12月 のCOP24開催前に2020年の温室効果ガス削減目標達成にできる限り近づくための政策提言書をとりまとめる。そして、2018年末までに石炭火力発電所停止のスケジュールを含む最終報告書をドイツ連邦政府に提出し、政府は、2019年に法整備を行う見通しである。

気候変動対策と雇用確保の両立に重点

 本委員会では「成長・構造改革・雇用委員会 」という名前が示すように、褐炭・石炭産業に従事する人々の今後の雇用をどう確保するか、いかに新しい雇用を創出するかが鍵となる。アルトマイヤー連邦経済エネルギー大臣は、石炭委員会の課題として、気候変動対策と雇用確保の2つを挙げている5。具体的には、褐炭産業が盛んなドイツ西部のノルトライン・ヴェストファーレン州の一部地域や、ドイツ東部のラウジッツと呼ばれる地域などでの産業構造の転換やそのための資金繰りが重要な論点となる。ドイツの褐炭・石炭産業に従事する雇用者は、2016年時点でおよそ31000人である。ちなみにドイツの風力エネルギー産業の雇用は約16万人、そのうち洋上風力部門の雇用が約27000人で、褐炭・石炭産業とおおよそ同規模である。

 ドイツは今回の脱石炭の方針に加えて、すでに2022年までの脱原発を決定し、自然エネルギーを拡大するエネルギー転換を進めている。2018年上半期には、暫定値ではあるがドイツ国内の発電量の36.3%を自然エネルギーが供給し、褐炭(22.5%)と石炭(12.6%)による発電量の合計値35.1%を初めて上回った。ドイツは2011年の脱原発決定の際は、通称「倫理委員会」を設置して、エネルギー政策に倫理の観点を取り込んだ。石炭委員会では、地域経済の視点も交えて議論が進められる。

多彩な委員構成と ドイツ国内での議論

 石炭委員会は4人の共同代表、そして24人の委員で構成される。これに、発言権があり 議決権を有さないドイツ連邦議会の議員3人を加えると、委員数は合計31人となる。議員はCDU(キリスト教民主同盟)とCSU(キリスト教社会同盟)、そしてSPD(社会民主党)の与党から一人ずつで、野党からの選出はない。緑の党は、野党の代表が委員会に選出されなかったことを批判している。
共同代表の4人は、ドイツ鉄道インフラ部門の取締役で元CDUの政治家ポファラ氏、SPDの政治家プラツェック氏、CDUの政治家ティリッヒ氏、そしてベルリン技術経済大学で環境経済学・環境政策を専門とするプレトリウス氏である。 本委員会の委員は、政治家、労働組合、産業団体、学者、環境NGO、脱石炭の影響を受ける地域の代表など多彩な顔ぶれが揃っている。
委員会を巡っては、迅速な脱石炭を求める意見と、雇用問題を重視する慎重派の意見が錯綜している。委員の一人である環境NGOグリーンピースドイツ代表のカイザー氏は、2020年までに合計17GWもしくは約20基分、そして2030年までに全ての石炭火力発電所を停止すべきとの考えを示した。

 第一回会合開催直前の6月24日には、首都ベルリンをはじめ、ドイツ40箇所以上で脱石炭を訴えるデモ活動・集会が行われた。全国的に掲げられたスローガンは「ストップ石炭 気候保護のためにあなたの手を」であり、ドイツ政府に対して、2020年の温室効果ガス削減目標遵守にむけ迅速に取り組むよう要求した。ベルリンでは2,000人以上が集まったほか、ミュンヘンでは集会に参加した200人が両手を真っ黒に塗って空高く掲げ、「石炭をやめてもっと風力発電を!」と呼びかけた(写真参照)。5月に発表されたサンクトガレン大学の世論調査によると、ドイツの市民の75%が段階的な脱石炭を速やかに法規定すべきだと回答している。しかし、褐炭産業が盛んなラウジッツ地域に限定すると、この割合は43%に下がる。

 アルトマイヤ―大臣は、ドイツメディアに「2030年より前のドイツの脱石炭はない」という立場を表明している。また、褐炭産業で雇用を抱えるRWE社代表のシュミッツ氏も、2030年までの脱石炭は不可能としたうえで、時期尚早な脱石炭の場合は、国に損害賠償を要求する意思を示した。

 ドイツは、気候変動対策と雇用問題に同時に挑んでいる。様々な利害関係者が一堂に会する石炭委員会の議論は、一筋縄ではいかない可能性もある。実際、年末までの委員会のスケジュールに関しては、非現実という声もあがっている。それでも今回の委員会設立は、これまで滞ってきたドイツの温室効果ガス排出削減の加速化と脱石炭実現にむけた大きな第一歩といえる。

ミュンヘンの集会の様子 「ストップ石炭」と訴える人々
(2018年6月24日、筆者撮影)

外部リンク

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