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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2017年10月17日

連載コラム 自然エネルギー・アップデート

米国で進む自然エネルギー電力の購入
―IT産業を先頭に製造業や流通業に拡大―

2017年10月17日
石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

企業が利用する電力は世界各地で自然エネルギーに向かっている。特に米国企業の動きが顕著だ。GoogleやAppleなどIT(情報技術)の大手が先導役になり、自然エネルギーの電力に転換する取り組みが製造業から流通業まで各業種に広がってきた。背景にあるのは気候変動に対する強い危機感である。石炭産業の復活を目論むトランプ大統領の方針が米国内の危機感を高め、自然エネルギーに対する企業の活動を加速させている。

自動車を100%風力発電の電力で作る

9月中旬、米国カリフォルニア州のシリコンバレーにある会議場に、電力の消費者を代表する大手企業など約300社が全米各地から集まった。2日間にわたって「Renewable Energy Buyers Alliance(REBA)Summit」を開催して、自然エネルギーの電力を効率的に購入する方法について活発な議論を繰り広げた(写真1)。

写真1 「REBA Summit」の会場(米国カリフォルニア州サンタクララ市、2017年9月18日~19日)

米国では石油と天然ガスを中心に従来型のエネルギー産業が競争力を維持してきた結果、国全体の電力消費量に占める自然エネルギーの割合は2016年の時点で15%にとどまり、欧州の先進国から遅れをとっている。

その一方でカリフォルニア州やニューヨーク州のように、2030年までに電力の50%を自然エネルギーで供給するという高い目標を掲げ、太陽光発電や風力発電の導入を積極的に進めている州もある。カリフォルニア州では2016年に供給した電力のうち35%を自然エネルギーが占めた。こうした州政府の取り組みに加えて、世界規模で事業を展開するIT産業を先頭に自然エネルギーの電力を利用する動きが活発になってきた。

REBAの事務局がまとめた主要な米国企業の電力調達状況を見ると、トップのGoogleは186万kW(キロワット)にのぼる自然エネルギーの電力購入契約を締結している(表1)。最大出力で比較すると大型の原子力発電設備2基分に相当する。さらにAmazon、Apple、MicrosoftといったITの有力企業に続いて、スーパーマーケットのWalmart、ビールメーカーのAnheuser-Busch InBevの調達規模も40万kW近くに達している。

表1 自然エネルギーによる電力購入契約容量の多い企業。F 500(Fortune 500=全米売上トップ500社)、MW(メガワット=1000キロワット)。
出典:Renewable Energy Buyers Alliance

REBA Summitの会期中には、自動車メーカーのGeneral Motors(GM)が新たな電力購入契約を公表して注目を集めた。GMはインディアナ州とオハイオ州で操業中の7つの工場で消費する電力を2018年末までに100%風力発電に転換する。風力発電による電力の調達規模は20万kWで、GM全体の自然エネルギーの電力購入量を一気に3倍近い規模に増やす計画だ。

それと同時にGMは電気自動車の生産・販売台数を増やしていく。自然エネルギーで電気自動車を作って、自然エネルギーの電力で走らせることができれば、自動車のCO2排出量はゼロに近づく。

新しい電力の購入方法が全米各地に広がる

米国では風況の良い地域を中心に、風力発電のコストが1kWh(キロワット時)あたり2~3セント(約2~3円)の水準まで下がった。連邦政府による税控除(運転開始から10年間)の効果が2セント/kWh程度あるが、それを除いても発電コストは5セント/kWh以下に収まる。最近では太陽光発電のコストも風力発電に近づいている。

ただし欧州や日本と比べて国全体の電力システムの構造が複雑で、州や地域によっては企業が自然エネルギーの電力を簡単に購入できない事情がある。全米で3000を超える公益事業者(Utility)が電力を取り扱っていて、そのうち約3分の2を公営の小規模な事業者が占めている。電力だけではなくガスや水道を含めて地域のインフラサービスを一括に提供する公営事業者が多く、発電・送配電・小売事業を一体で運営しているケースも少なくない。

米国では1970年代から電力システムの改革を進めてきたが、現在でも小売を自由化していない「規制州」が50州のうち33州にのぼる。そうした州では独占事業の公益事業者から電力を購入しなくてはならない。この問題を解決するために、大手の企業が主導する形で自然エネルギーの電力を購入する新しい方法が広がり始めた。

1つは「Virtual PPA」と呼ぶ電力購入契約である。米国では自然エネルギーの電力を調達する手段として、企業が発電事業者(Developer)と電力購入契約(Power Purchase Agreement、PPA)を締結する方法が主流になっている。標準で15年程度の契約を結び、発電した電力を企業が固定価格で買い取る。これに対してVirtual PPAは市場を含む三者間で自然エネルギーの電力を調達するスキームである(図1)。

図1 「Virtual PPA」による電力調達スキーム。RECs:Renewable Energy
Certificates(自然エネルギー証書)。出典:Business Renewable Center

小売の規制がある州でもVirtual PPAを締結すれば、企業は長期にわたって一定の価格で自然エネルギーの電力を調達することができる。市場価格で電力を購入したうえで、発電事業者とのあいだで固定価格との差額分を調整する仕組みである。この方法によって発電事業者も購入企業も従来のPPAと同様に固定価格で電力を販売・調達できる。REBA Summitに集まった企業からは、「今後は電力を調達する手段としてVirtual PPAを増やしていく」との意見が多く聞かれた。

もう1つ米国内で注目を集めている購入方法が「Green Tariff(グリーン料金メニュー)」である。小売を規制している州の公益事業者が新しいメニューとして自然エネルギー100%の電力を供給する。日本国内では東京電力グループが既設の水力発電所の電力を組み合わせて「アクアプレミアム」の販売を2017年4月に開始したが、Green Tariffの仕組みは異なる。

Green Tariffは公益事業者が自然エネルギーの発電事業者とPPAを締結して、新設の発電所から電力を調達して販売するスキームだ。代わりに火力発電からの供給量を減らせるためCO2排出量の削減につながる。利用者側は固定価格で自然エネルギーの電力を購入でき、火力発電や原子力発電による価格変動の影響を受けない。契約する電力の規模や期間はPPAと比べて制約が少なく、企業が自然エネルギーの電力を購入しやすい利点がある。

米国でGreen Tariffが増え始めたのは2015年からだが、2017年に入って新規の契約が急速に伸びている(図2)。多くの有力企業が自然エネルギーの電力を要求するようになり、公益事業者としても対応せざるを得なくなった。小売の規制がある33州のうち13州でGreen Tariffの販売が始まっている。

図2 「Green Tariff」の新規契約電力容量(州単位のメニュー別、2017年4月時点)。単位:MW(メガワット)。出典:World Resources Institute

今後さらにGreen Tariffが増えていくことは確実で、企業が自然エネルギーの電力を購入する有効な手段になっていく。電力システムの課題を抱えながらも、米国企業の自然エネルギーに対する取り組みはCO2削減に向けて着実に進む。

ひるがえって日本では自然エネルギーの発電コストが依然として高いこともあり、企業の購入量はさほど増えていない。米国では州政府が公益事業者や小売電気事業者に対して自然エネルギーの供給比率を義務づける「RPS(Renewable Portfolio Standard)」を実施している。日本ではRPSの代わりに固定価格買取制度を推進しているが、その仕組みを生かしながら政府・電気事業者・有力企業が連携して自然エネルギーの電力を拡大する体制が望まれる。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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