連載コラム シリーズ 自然エネルギー活用レポート
シリーズ「自然エネルギー活用レポート」No.8〈概要版〉
明治時代の水路を再生して小水力発電
―岐阜県・中津川市で地域連携のモデルに―
石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー
古くから中山道の要所として発展してきた岐阜県の中津川市は、木曽川が流れる水の豊富な地域だ。明治時代に造られた農業用水路を利用して、小水力発電所が2016年4月から運転を続けている。民間企業2社による共同事業体が農業用水路の管理組合と連携して運営する。老朽化した水路を全面的に改修して発電に利用する一方、設備の点検・清掃業務を管理組合に委託するなど地域のメリットを重視して取り組んでいる。
大きな落差と安定した水量が決め手に
中津川市の落合平石地区を流れる「平石用水路」は、明治27年(1894年)から100年以上にわたって地区内の水田や畑に水を供給してきた。約1キロメートルに及ぶ農業用水路のすぐ近くに「落合平石小水力発電所」がある(写真1)。発電所から少し下った一帯には、水の供給を受ける水田や畑が広がっている。
小水力発電所を建設・運営するのは、ゼネコンの飛島建設と都市開発のオリエンタルコンサルタンツの2社による共同事業体(JV)である。2012年から自然エネルギーの開発プロジェクトに着手して、数多くの候補地の中から平沢用水路を開発の対象に選んだ。
「急峻な地形で水の落差があり、安定した水量を確保できる。小水力発電で最も重要な2つの条件をもとに、平沢用水路が最適と判断した」。プロジェクトリーダーを務める飛島建設の田村琢之氏(技術研究所 環境・エネルギーグループ課長)は選定の理由を挙げる。
ただし100年以上を経過した水路の老朽化が激しく、小水力発電に必要な水量を安定して流し続けるためには全面的な改修が必要だった。水路を管理する中津川市落合土地水路管理組合は老朽化に伴う維持管理の課題を抱えていた。そこでJVから管理組合に水路の全面改修を提案して、小水力発電に共用することで合意を得た。管理組合にとっては無償で水路を改修できるメリットは大きかった。
12年で投資を回収、地域に収益もたらす
落合平石小水力発電所の建屋の内部では、チェコ製の赤い水車・発電機が稼働している(写真2)。発電所から山の上のほうへ向かうと、農業用水路の途中に設けたヘッドタンク(沈砂池)がある。このヘッドタンクから水車まで、地中に埋設した水圧管路の中を64メートルの落差で水が流れてくる仕掛けだ。
最大で毎秒0.25立方メートルの水量が水車に流れ込み、水車と連動する発電機から126kW(キロワット)の電力を供給できる。発電に利用した後の水は、発電所の近くを流れる農業用水路に戻すことで、従来と変わらずに下流の水田や畑を潤す。
年間の発電量は95万4000万kWh(キロワット時)を計画している。標準的な家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して265世帯分の電力になる。設備利用率(発電能力に対する年間発電量の割合)は86.5%に達する想定で、小水力発電の標準値60%を上回る。農業用水路から1年間を通して安定した水量を確保できることが高い設備利用率につながる。
発電した電力は全量を固定価格買取制度で中部電力に供給する。1kWhあたりの買取価格は34円(税抜き)で、年間に3240万円の売電収入を見込める。発電所の建設費に2億5000万円かかり、毎年の運転維持費は790万円を予定している。計画どおりの発電量を継続できれば、12年で投資を回収できる見通しだ。
現地では農業用水路の管理組合が発電設備の点検・清掃業務を請け負っている。水路の改修による維持管理費の軽減に加えて、小水力発電で新たな収入を得られるようになった。中津川市役所も自然エネルギーを推進する立場から、利害関係者の調整や許認可の面でプロジェクトを支援した。地域と連携して取り組む小水力発電の実現方法をレポートにまとめた。