連載コラム 自然エネルギー・アップデート
日本でも太陽光発電のコストがガス火力より安く
-2017年上期のベストケースで10円/kWhを切る-
トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長
ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員
石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー
米国の調査会社Bloomberg New Energy Financeによると、2017年に入って日本で稼働した太陽光発電所のコストをガス火力発電と比較した結果、最もコストが低いベストケースでガス火力発電よりも安くなった。日本では太陽光や風力の発電設備に対する送配電網の接続制限をはじめ不合理な規制が残っているが、そうした問題点を改善すれば、太陽光に限らず風力や地熱など自然エネルギーの電力を安価に導入できる。
日本は自然エネルギーが豊富な国に変わる
Bloomberg New Energy Financeは世界各国のエネルギー分野の経済動向やデータ分析に定評がある。このほど日本の太陽光発電とガス火力発電のコストを比較して、直近3年間の傾向を示した。発電コストの評価方法として定着しているLCOE(Levelized Cost Of Electricity、均等化発電原価)に基づく比較結果である。LCOEは建設費や運転維持費・燃料費など発電に必要なコストと利潤などを合計して、運転期間中の想定発電量をもとに算出する標準的な指標だ。
その比較結果を見ると、2017年の上期に日本国内で運転を開始した事業用の太陽光発電所のうち、LCOEが最も低かったケースでは88ドル/MWh(メガワット時)まで下がっている(図1)。当該期間の為替レートを1ドル=約105円で計算しており、日本円に換算すると発電コストは9.2円/kWh(キロワット時)である。いよいよ1kWhあたり10円を切る水準まで低下してきた。
●コスト算出条件(2017年上期)
為替レート | $1 = ¥104.92 |
---|---|
発電能力 | 1 MW |
設備利用率 | 16.30% |
運転期間 | 25年 |
事業費 | $1,718,411/MW |
運転維持費 | $14,296/MW/年 |
内部収益率 | 6% |
MW:メガワット
一方でLNG(液化天然ガス)を燃料に利用するコンバインドサイクル方式のガス火力発電のLCOEは、平均で94ドル/MWh(9.9円/kWh)である。Bloombergの調査で初めて太陽光発電のベストケースを上回った。しかも財務省の統計によると、日本のLNGの輸入価格は2014年度から2016年度にかけて54%も低下している。それでも太陽光発電のコスト低下が進んで、ガス火力と逆転するケースが出てきたわけだ。
今後さらに太陽光発電を筆頭に自然エネルギーの導入コストを引き下げる余地は十分に残っている。Bloombergのデータを見ると、2017年上期の太陽光発電の平均コストはガス火力発電の1.7倍で、まだ開きは大きい。欧米の先進国と比べて日本では、送配電網の接続制限や出力抑制のほか、必要以上に厳しい技術要件や環境アセスメントがあり、自然エネルギーの開発に取り組む発電事業者のコストを増大させている。
すでに海外で証明できているように、国が適正なレベルの規制を実施したうえで産業界が実績を増やしていけば、自然エネルギーの導入コストは大幅に低下する。火力発電や原子力発電のコストを下回ることは確実である。太陽光・風力と水力・地熱・バイオマスの発電設備を組み合わせて、安価で安定した電力を家庭や企業に供給できるようになる。
自然エネルギー分野の技術革新は日本に多大な恩恵をもたらすだろう。日本の産業界が得意とする効率的な製造能力を発揮できれば、21世紀の日本はエネルギーを豊富に生み出す国に変わっていく。太陽光発電のコスト低下は、自然エネルギーの大量導入に向けた第一歩になる。