公益財団法人 自然エネルギー財団とAegir Insightsは、このたび共同で研究を行い、報告書「日本の着床式洋上風力発電のコスト要因と2040年の見通し」を公表しました(4月20日公表英語版はこちら)。
本報告書は、独立した研究イニシアチブとして実施したもので、日本における着床式洋上風力発電の導入拡大に向け、欧州とのコスト差の要因を分析するとともに、2040年に向けたコスト低減の可能性を検証しています。具体的には、Aegir Quant™技術経済モデルを用いて、日本の着床式洋上風力発電の設備投資費用(CAPEX)を欧州の事例と比較しました。
分析では、日本特有の政策環境や、厳しい気象・海象の季節変動、複雑で変化の大きい海底地質、地震や台風といった自然リスクへの対応の必要性に加え、洋上風力市場がまだ発展途上にあることなどが、欧州より高コストとなる主な要因であることを示しています。これらの違いを明らかにすることで、2040年に向けて効率化やコスト削減が期待できる分野について示唆を提供しています。
エグゼクティブ・サマリー
1. はじめに
1.1. 背景と課題の提示
1.2. 調査の目的
1.3. 調査範囲と前提条件
1.4. 本報告書の構成
2. 欧州と日本の現状の概要
2.1. 市場規模とサプライチェーン
2.2. 許認可とコスト負担
2.3. 物理的条件
3. 方法
3.1. モデルの概要
3.2. ケースの定義
3.3. データ
3.4. QuantTM モデルへの日本固有の入力データの統合
3.5. 境界定義
3.6 シナリオの設計
4. 結果
4.1 2030年の参照ケースの比較
4.2 日本のコストプレミアムの主な要因
4.3 2040年の見通し
5. 結論と示唆
5.1. 主な結論
5.2. 政策および市場設計への示唆
5.3. 限界と今後の課題
参考文献
付録
エグゼクティブ・サマリー
日本の洋上風力発電セクターは岐路に立っている。政府が2030年までに10GW、2040年までに30~45GWというプロジェクトパイプライン目標を掲げているものの、構造的な物理的条件と市場が初期段階にあることなどの複合的な要因が、開発制約をもたらしている。こうした影響は、事業環境の悪化を背景とする大規模事業の見直しや中止にも現れており、2025年には国内の複数海域にまたがる計約1.7GW規模の洋上風力プロジェクトから大手事業者が撤退する事例も生じた。
こうした状況を踏まえれば、日本で着床式洋上風力発電を加速するためには、先行する欧州とのコスト差がどこから生じているのか、また将来的にどの程度のコスト削減が見込めるのかを明らかにすることが重要である。本レポートでは、欧州と日本における現在のコスト差および2040年に向けたコスト削減の可能性を分析する。具体的には、Aegir Quant™技術経済モデルを用いて、日本の着床式洋上風力発電の設備投資費用(CAPEX)を欧州の参照ケースと比較評価する。
日本の制度的枠組みや自然条件は、欧州とは大きく異なっている。厳しい気象・海象の季節変動、複雑で変化の大きい海底地質、地震や台風といった自然リスクは、日本固有の設計・施工上の課題である。これらの条件は、欧州と比較して設計および建設コストを押し上げる要因となっている。
本レポートでは、こうした要因を反映した日本の2030年の設備投資費用は、欧州の参照ケースに対して21%(391万ユーロ/MW 対 322万ユーロ/MW)高いと推計された。タービンの供給は、台風および地震の認証要件を反映して、最大のコスト要因となっている。また、天候による作業停止時間や、基礎の設置位置の相当部分で掘削を必要とする硬い海底地質により、据付コストも大幅に増加している。総額3億700万ユーロの増加費用のうち、約2億2300万ユーロ(約73%)は、市場の成熟化によって直接的に削減されにくい物理的・設計上の制約に起因するものであり、8400万ユーロ(約27%)は対応可能な市場条件を反映している。さらに、日本では、開発事業者に対し、接続先となる送電事業者側の変電所増強費用を負担することが求められている。このような系統連系コストの配分制度は、設備投資費用を増加させる要因の一つである。一方で、これは自然条件や技術的制約によるものではなく、政策設計上に起因する制度的要因である。そのため、制度の見直しを通じて、事業者のコスト負担を直接的に軽減できる余地がある。
2040年までに、タービンの大型化、船舶の稼働率向上、市場の成熟化を牽引役として、日本における1MW当たりの設備投資単価は約18%低下する可能性がある。しかしながら、長期的にも日本市場は、欧州市場に比べて構造的なコスト増を維持すると予想される。
これらの知見は、政策に直接的な示唆を与える。すなわち、日本の物理的条件は避けられないコスト増をもたらすものの、それ自体が洋上風力発電の開発にとって決定的に不利な要因ではない、ということである。人為的に対処可能なコスト削減の可能性は、市場の成熟度と制度設計にかかっている。欧州の経験と2040年に向けた算出されたコスト削減の可能性を踏まえると、日本の洋上風力市場における4つの優先分野が浮き彫りになった:
- 船舶、港湾、労働力といったサプライチェーンへの投資を可能にするため、安定した入札頻度を確保しつつ、パイプラインだけでなく運転開始容量のベースの目標を設定すること。
- 落札後に急激な経済的変化があった場合、それらのショックを吸収するための契約および政策枠組みの強化すること。
- 系統連系費用配分枠組みの見直し。開発事業者に送電事業者側の変電所増強費用の負担を求めることは、先駆者へのリスク集中を招き、システム全体のコスト増大につながる可能性がある。
- 物流効率と費用対効果の高いプロジェクト実施を阻害する、内航船規則や港湾の利用制限などの規制上の制約への対応。
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