シリーズ「洋上風力発電と漁業の共生を目指して」第1回銚子市漁協の挑戦、漁業の新たな可能性を切り開く

中村 涼夏 自然エネルギー財団 研究員

2026年10月13日

 千葉県の東端にある銚子市は、全国有数の水揚げ量を誇る銚子漁港を持つ漁業のまちである(図1)。銚子市沖は洋上風力発電に適した自然条件にも恵まれている。遠浅の地形が続き、年平均風速が毎秒7.0メートル以上に達する 。

図1 銚子市の位置

出典:銚子市のウェブサイトから抜粋

 洋上風力発電が地域にもたらす効果に期待をかけて、銚子市漁業協同組合(以下、銚子市漁協)は洋上風力発電と漁業の共生に向けた取り組みを進めている。洋上風力発電をめぐる地域共生は、発電事業者が地域に利益を還元することだけにとどまらない。銚子市漁協の取り組みから見えてくるのは、地域の海の変化をとらえ、将来の漁業の可能性を切り開こうとする漁業者の姿である。

漁業のまちで進む洋上風力発電

 銚子市沖では洋上風力発電の取り組みが10年以上前から進んできた。2013年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証事業で、基礎を海底に固定する着床式の洋上風力発電設備1基が運転を始めた。出力は2.4MW(メガワット=1000キロワット)である(写真1)。

 実証事業では風や波などの状況を把握するとともに、発電設備が周辺環境に与える影響などを調べた。この設備は実証終了後の2019年に商用運転へ移行し、現在も運転を続けている 。

 その後、周辺海域で洋上風力発電の導入に向けた検討が進んだ。2019年には海域の長期利用などの仕組みを定める再エネ海域利用法(現・海洋再エネ整備法)が施行された。2020年には同法に基づき、洋上風力発電の整備を進めるために国が指定する「促進区域」に銚子市沖が指定された(図2)。

 促進区域では、最大水深20メートルの遠浅の海を生かした総出力370MWの着床式洋上風力発電事業として公募が行われ 、発電事業者が選ばれた。しかし、2025年8月に選定事業者が撤退を表明し、現在は事業の実現に向けて再公募を待つ状況にある。

写真1 商用運転を続けるNEDO実証機(左)、図2 銚子沖の促進区域(右、緑色の網掛け部分)

撮影:自然エネルギー財団、図出典:自然エネルギー財団「洋上風力開発エリア & 送電線マップ」(2026年10月5日閲覧)

 こうした状況のなかでも、銚子市沖では地域共生基金を活用した漁業振興策が先行して進んでいる。地域共生基金は、発電事業者が地域や漁業との共生に向けて資金を拠出する基金である。事業者の公募・選定に先立つ協議会で基金の規模などを整理し、具体的な活用策は地域で検討する 。

 銚子市沖の事業では、資金の拠出先と目的が次の3つに整理されている 。

  • 漁場実態調査のための基金:銚子市に設置する基金。選定事業者の決定後、すみやかに資金を拠出する。
  • 漁業との協調・共生・振興のための基金:銚子市および隣接する旭市に設置する基金。漁業との協調・共生や漁業振興の取り組みにあてる。
  •  一般財団法人千葉県漁業振興基金へ拠出される基金:千葉県全域での漁業との協調・共生・振興に向けた取り組みの原資として拠出する。

 銚子市漁協は、撤退した発電事業者から拠出された基金を活用し、漁場の調査や新たな海藻養殖に取り組んでいる。その姿勢には「将来を見据えて今何ができるのか」を自ら考え、行動に移す漁業者の主体性が表れている。

取り組み① 新たな挑戦:ワカメ・コンブの養殖

 銚子市漁協は地域共生基金を活用し、海藻の養殖試験に取り組んでいる。銚子市沖では、これまでワカメやコンブの養殖は行われてこなかった。今回の試みは漁業関係者や協力企業の発案で2025年に始まった。その出発点には「まずは試してみよう」という前向きな姿勢があった。初年度はワカメやコンブが育つかを確かめた。

 日本全国各地では、海水温の上昇などの海洋環境の変化により、沿岸の海藻が著しく減少・消失する「磯焼け」が懸念されている。銚子市周辺ではその影響が少なく、初めての試みでも無事に収穫できたという。2回目となる2026年は、ワカメもコンブも豊作だった。クレーンで引き揚げられた海藻がトラックへ何度も積み込まれていく光景は圧巻だ(写真2)。

写真2 2026年4月に収穫したワカメ(左)、同年5月に収穫したコンブ​(右)

撮影:自然エネルギー財団

 この試みは養殖品目を増やすだけでなく、変化する海洋環境のもとで地域の漁業の選択肢を広げる取り組みでもある。何より印象的なことは、海藻の養殖を通じて生まれる人と人との「つながり」である。

 収穫作業には地元の漁業関係者や地域住民に加え、銚子の水産高校の生徒も参加した。発電事業者や大学の研究者、行政職員のほか、大手企業や地元企業の関係者も集まった。さらに、他地域で洋上風力発電の導入に向き合う漁業者の姿もあった。

 普段は接点の少ない人々がともに汗を流し、海藻を収穫して加工する(写真3)。海藻に付着した生物を見たり触れたりしながら、互いに知っていることを教え合う。収穫の場には新たな交流が生まれ、次の取り組みにつながる小さな対話が重なっていった。

写真3 ワカメ周辺に付着していた海藻と生物について観察する参加者(左)、収穫したワカメを加工する参加者(右)

撮影:自然エネルギー財団

 休憩中には参加者が漁港で輪になって座り、収穫した海藻の活用方法を語り合った。

  • 「収穫後の加工方法はどうするか」
  • 「無駄なく使うにはどうしたらよいか」
  • 「地元企業として、この海藻を使って新たな価値や商品を生み出せないか」
  • 「この取り組みのストーリーを、どのように伝えていけるか」

 そこには現場の経験をもとに、次の展開を考える前向きな姿勢があった。収穫後も、コンブを沖に出して漁礁(魚などが集まる場所)として活用できないかなど、新たな可能性を探る動きが続いている。

取り組み② 今の海を知る「漁場実態調査」

 新たな養殖への挑戦とともに、銚子市漁協が力を注いできたのが現在の漁場を知るための調査である。洋上風力発電の導入にあたり、漁業者が懸念することの1つに漁獲量への影響がある。こうした影響を調べるのが「漁業影響調査」である。

 銚子市沖ではNEDOの実証機が運転を始めた後、2015年から2017年にかけて漁業への影響などを検討する評価委員会が開かれた。委員会では、それまでの環境影響調査の結果や今後の漁業との共生策をさまざまな立場から協議した。

 その後、促進区域で発電事業者が選定されたことを受け、銚子市漁協は基金を活用した「漁場実態調査」をすみやかに始めた。洋上風力発電による影響だけに着目するのではなく、現在の漁場の状況を知ることに重点を置いた調査である。「洋上風力が漁業にどのような影響を与えるのか」を考えるためにも、まず「今の海がどうなっているのか」を知る。この視点に銚子市漁協の取り組みの特徴がある。

 海水温の上昇をはじめとする海洋環境の変化は、水産資源や漁業のあり方に影響を及ぼしている。これまでと同じ方法で漁業を続けられるとは限らない。将来の漁業を左右する要因には、洋上風力発電に加えてさまざまな環境の変化がある。銚子市漁協はこうした変化も見据え、現在の漁場を正確に知ることを優先した。

 開発予定区域の周辺では、2022年度から2025年度にかけて調査を実施し、毎年報告会を開催した。調査では漁場の様子を映像に収めた。実証事業で設置した風車の周りの漁礁には、イセエビが集まる様子も映っていた。映像を見た漁業関係者は「まるで洋上風力の周りがイセエビのベッドタウンになっている」と語った。

 基金による調査は一区切りを迎えたが、漁場への理解を深めるため、今後も調査を続けていく。

 銚子市漁協の取り組みは、洋上風力発電との共生が地域の漁業の将来を考え、新たな挑戦に踏み出す機会にもなり得ることを示している。地域の海を知り、変化を受け止める。そして地域の人々とともに、これからの漁業の可能性を探る。その中心に漁業者自身がいることに、この取り組みの大きな意味がある。

 銚子市沖では再公募に向けた動きが注目されるなか、2026年8月に発電事業者が新たな事業計画の環境アセスメント手続きを始めた 。今後の事業の進展とともに、漁業者が築いてきた経験やつながりがどのように生かされていくか。銚子市漁協の挑戦はまだ始まったばかりである。

  1. 銚子市「銚子沖の自然環境について」(2022/4/1)(2026/10/05 閲覧)
  2. 東京電力ホールディングス「千葉県銚子沖における沖合洋上風力実証設備の商用化について~当社初※の沖合洋上風力発電所が2019年1月1日より商用運転開始~(訂正版)」(2018/11/27)
  3. 経済産業省・国土交通省「千葉県銚子市沖海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域公募占用指針」(2020年11月)(2026/10/05閲覧)
  4. 協議会での協議事項の詳細は、経済産業省資源エネルギー庁および国土交通省が定める「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」を参照。
  5. 千葉県「『銚子市沖における協議会意見とりまとめ』に係る基金への出捐等について」(2024/3/5)
  6. 銚子市「(仮称)銚子市沖洋上風力発電事業 計画段階環境配慮書の縦覧」(2026/9/29更新)(2026/10/05閲覧)


 

シリーズ「洋上風力発電と漁業の共生を目指して」

本コラムシリーズでは、洋上風力発電と漁業の共生に向けて各地で進められている取り組みを紹介します。地域の関係者や漁業者など現場の声を取り上げながら、それぞれの地域が直面する課題やこれまでの取り組みを踏まえ、洋上風力発電と漁業が協調・共生していくための可能性を考えます。

第1回 銚子市漁協の挑戦、漁業の新たな可能性を切り開く(2026年10月13日)

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织