英国の差額決済契約制度(Contracts for Difference:CfD)の第8回入札(Allocation Round 8:AR8)1は、2026年7月20日に申請受付を開始し、同年8月7日に締め切られる。
AR8の主な特徴として、入札上限価格(Administrative Strike Price:ASP)の据え置き、系統接続条件の見直し、新たな技術区分「その他深海域洋上風力」(Other Deepwater Offshore Wind)の導入、ならびに浮体式洋上風力を対象とする運転開始年度の追加が挙げられる。
入札上限価格
入札上限価格は、各技術について入札可能な価格の上限を定めるものである。AR8では、2024年価格ベースでAR7と同水準に据え置かれた。
各技術の上限価格は、以下のとおりである。
- • 着床式洋上風力:113ポンド/MWh
- • 浮体式洋上風力:271ポンド/MWh
- • その他深海域洋上風力:271ポンド/MWh
ORE Catapultによると、2026年価格に変換した場合、着床式洋上風力の上限価格は約120ポンド/MWh、浮体式洋上風力およびその他深海域洋上風力は約288ポンド/MWhとなる2。
前回のAR7は2025年7月24日に開始され、2026年1月14日に結果が公表された。ORE Catapultの見解としては、政府がインフレ等によるコスト上昇を認識しつつも、現時点ではAR7で設定した価格水準を見直す必要があるほど、事業環境は変化していないとみている可能性を示唆している。
上記を踏まえると、政府は前回入札で設定した価格シグナルを維持し、市場に対して引き続きコスト競争力の向上と事業リスク管理を求める姿勢を示したものと考えられる。
洋上風力の入札枠
着床式洋上風力プロジェクトはPot 3で競争する。
浮体式洋上風力およびその他深海域洋上風力はPot 4で競争する。
浮体式洋上風力に関しては、AR8で以下の2点が見直された。
(1)運転開始年度(Delivery Year)の追加3
浮体式洋上風力およびその他深海域洋上風力については、運転開始年度(Delivery Year)が1年度追加され、事業者はより幅広い運転開始時期の選択肢を持つことが可能となった。これにより、プロジェクトの工程計画に柔軟性が付与される。
(2)Long Stop期間の延長4
浮体式洋上風力については、予定運転開始期間(Target Commissioning Window)の終了後CfD契約が解除される前に、所定の設備容量の運転開始を達成しなければならないが、契約上の猶予期間(Long Stop期間)が、従来の12か月から24か月へ延長された。
この見直しは、浮体式洋上風力特有の大規模化や建設工程の複雑さ、サプライチェーン上の課題などを踏まえた措置と考えられ、採択案件の着実な運転開始につなげることを目的としていると思われる。
なお、CfD予算は契約対象となり得るプロジェクトの規模を決定するものであるが、決定的な支出額を意味するものではない。CfD制度における実際の支払額は、合意されたストライクプライスと将来の卸電力価格との関係によって決まる。卸電力価格がストライクプライスを上回る場合、CfD対象の発電事業者は制度を通じて収入の一部を返還することが求められる。
その他深海域洋上風力の導入
AR8では、その他深海域洋上風力が新たな技術区分として設定された。この区分は、既存の浮体式洋上風力の定義には該当しない革新的な基礎構造に対して、CfDによる支援への道筋を設けることを目的としている。AR8の適格条件によれば、対象プロジェクトは所定の基礎構造に関する条件を満たすとともに、水深50m以上の海域に立地しなければならない。
技術的な詳細は現時点では明らかにされていないものの、ORE Catapultは以前5、水深約60~120mの中間水深域では、従来の着床式と完全な浮体式との間を埋める技術として、ハイブリッド型の洋上風力システムが必要になるとの見方を示している。ハイブリッド型システムの一案として、基礎構造の一部を着床式のように海底へ固定する一方で、浮体式のように係留索やテンドンによって構造物の安定性を確保するなど、着床式と浮体式の双方の特徴を組み合わせた構造が想定されている。しかし、その利点を享受するためには、設置工法における技術革新も必要になる。
一方、浮体式洋上風力とその他深海域洋上風力は、技術成熟度、施工方法、コスト構造および商業化への経路が異なる。したがって、Pot内で区分けせず、両技術を同一の予算枠内で競争させることは、それぞれの技術経済的特性の違いを十分に反映しない可能性がある。
系統接続条件
AR8では、入札対象プロジェクトに関する系統接続上の位置付けが明確化された。
基本的にはGate 2の接続オファーを保有するプロジェクトのみが応募資格を有する6。Gate 2のオファーは、系統接続プロセスにおいてより進んだ段階にあることを示し、接続容量および接続時期について、より高い確実性を提供する。
Gate 1の契約のみを保有するプロジェクトは、原則として応募資格を有しない。Gate 1は系統接続プロセスにおける初期的な位置付けを確保するものであるが、系統容量や接続時期について、Gate 2と同等の確実性を提供するものではないからだ。
今回の条件見直しは、CfDによる支援を受けるプロジェクトが、系統接続および商業運転に至る確実な道筋を有することを確保することを目的としている。
返上されたCfD契約容量
過去の入札ラウンドで採択されたCfD契約容量を返上したプロジェクトについては、AR8およびその後の入札ラウンドへの参加が制限される。
この措置は、事業者のプロジェクト実施へのコミットメントを強化するとともに、容量が採択された後にプロジェクトが制度から撤退するリスクを低減することを目的としている。
応募可能な洋上風力プロジェクト
ORE Catapult7は、2026年7月7日時点で、AR8への参加資格を有する洋上風力プロジェクトは20件、合計容量は約17.1GWに上ると推計している。
着床式洋上風力については、AR7で導入された、緩和された許認可資格を継続する。最終的な開発許可を取得していないプロジェクトであっても、計画申請が却下されていない場合などの条件に合うプロジェクトは応募することができる。
対照的に浮体式洋上風力については、許認可を取得済みのプロジェクトのみが参加できる。ORE Catapultによれば、現在、3プロジェクト、合計232MWがAR8への参加資格を有するとみられており、これとは別に14GWを超える浮体式洋上風力の追加容量が計画手続き中である。これらの容量が必ずしもAR8の対象となるわけではないが、今後の入札ラウンドにおけるプロジェクトパイプラインの潜在的規模を示している。
入札スケジュール
申請受付の終了後、各プロジェクトについて適格性審査が実施される。
Contract Budget Noticeは2026年11月に公表される見込みである。採択された申請者への通知は、適用される入札スケジュールに応じて、2026年11月下旬から2027年2月までの間に行われる予定である。
AR8の結果は、すべての技術区分について同時に公表される。これは、洋上風力の結果が陸上風力および太陽光発電の結果に先立って公表されたAR7とは異なる。
今後の見通し
AR8は、英国のCfD制度の基本的な構造を維持する一方、プロジェクトの実現可能性を高め、新技術の商業化への道筋を整備することを目的とした調整を導入している。
AR8ではAR7の価格水準が維持される一方、浮体式洋上風力については、プロジェクトの運転開始に向けた期間が追加される。また、その他深海域洋上風力の導入により、ハイブリッド型および新たなその他深海域洋上風力の基礎構造に対する正式な支援ルートが設けられる。これは、新技術を制度に取り込む上でのCfD枠組みの柔軟性を示すものである。
しかし、AR7と同様に、スコットランドのプロジェクトは、イングランドおよびウェールズに接続するプロジェクトと比較して不利な系統接続料金に直面する。このことは、ScotWindおよびINTOGで採択されたプロジェクトに影響を及ぼす可能性がある。
AR8の結果は、英国の洋上風力開発パイプラインに含まれるプロジェクトの競争力を把握する上で、有用な指標となる。また、浮体式洋上風力およびその他深海域洋上風力への参加状況は、英国における商業展開のみならず、より水深の深い海域を有する他の地域にも影響を及ぼす。
最後に、AR8の実施は予定どおり進むと見込まれるものの、新内閣によるエネルギー政策の方向性については、引き続き注視が必要である。
- DESNZ, Contracts for Difference (CfD); Allocation Round 8.
- ORE Catapult, Response to AR8 Parameters Announcement, 2026. ORE Catapult (Offshore Renewable Energy Catapult) は、英国政府の支援を受けて洋上再生可能エネルギー分野の技術開発や産業競争力強化を担う技術・産業支援機関である
- Department for Energy Security and Net Zero, Contracts for Difference (CfD) Allocation Round 8: statutory notices. But also see Government confirms key auction details for AR8.
- Department for Energy Security and Net Zero. Government response to further refinements to the CfD scheme for AR8.
- ORE Catapult, At a Crosswind: Could hybrid substructures redefine ‘floating’ offshore wind in the UK?, 2 September 2025.
- Department for Energy Security and Net Zero. Consultation outcome Government response to the proposed refinements for Allocation Round 8 and future allocation rounds: revision note July 2026.
- 脚注2を参照。
<関連リンク>
コラム 英国のCfD第7回入札(AR7):洋上風力事業分野の結果の考察(2026年2月19日)




