2025年11月20日に発表されたデンマークの新たな洋上風力プロジェクト公募の最大の特徴は、「国家(政府)と事業者(デベロッパー)の間で、いかにリスクを再配分するか」にある。今回の公募は、「North Sea Mid」「Hesselø」「North Sea South」の3案件で構成され、合計で少なくとも2.8GWに達する。背景には、2024年末に起きた3GW洋上風力公募が、商業洋上風力発祥の国として広く知られるデンマークにおいて、「入札者ゼロ」という結果に終わった出来事がある。デンマークの今回の公募に向けた変更点から日本は何を学べるのだろうか。
2024年公募と、その失敗要因
2024年公募の当初の対象は最低3GWであり、これはデンマーク政府が2030年までに最低6GWの洋上風力導入を目指す計画の第1段階であった。同計画は、2023年5月に政府とデンマーク議会の多数派によって合意されたものである1。これに対し、新たな公募では最低2.8GWとされ、国の西側・東側の海域にまたがる海域が対象となっている。これは、2025年5月に更新された政治合意に基づく。
公募規模の縮小は、短期間に6GW規模をオークションにかけることで供給が集中し、その結果、長期的な価格見通しの不確実性が高まる可能性があるとの市場の見方に対応したものである。さらに、案件をDK1およびDK2の両電力市場入札ゾーンに分散させることでも、電力価格に関する懸念への対応も図られている。2024年および2025年公募の対象海域は図1に示されている。
図1 2024年、2025年公募対象海域の地図
https://ens.dk/en/press/danish-energy-agency-opens-tenders-three-new-danish-offshore-wind-farms
を基に著者作成
一方で、オーバープランティング(設備容量の上乗せ)の選択肢は維持された。適用される法令の範囲内で可能である限り、洋上風力発電所からの電力を、洋上・陸上を問わずエネルギー生産(例えば水素など)に活用することが可能となっている2。
CfDの再導入:リスク配分の根本的な転換
2024年と2025年の公募の最も顕著な違いは、リスク配分にある。今回、差額決済契約(Contract for Differences:CfD)を再導入することで、国家と事業者の間でリスク配分が再調整された。
2024年公募では、応札者は30年間の海域使用権に対して、国家へ固定のコンセッション(使用権)支払いを行うとなっており、事業者は電力価格の変動リスクを全面的に負担する構造だった。これに対し、新たな公募で双方向(two-sided)CfDが再導入されたことで、事業者の下振れリスクだけでなく上振れリスクも抑えられ、リスクが平準化される。世界的に洋上風力開発が停滞する要因となっているインフレやコスト上昇も、双方向CfDにより一定程度緩和され得る。
2024年公募の不調後にデンマーク・エネルギー庁(Danish Energy Agency)が実施した市場対話のインタビュー対象者からも、CfD導入は強く支持されていた。新しい公募では国の、付加価値税(Value-Added-Tax)込みで552億デンマーク・クローネ(DKK)を上限とする支払い枠が設定された(為替レート1DKK=24.5円で約1兆3,550億円)。さらに、2024年の公募で求められていた国家による20%出資(所有)は、新たな公募では撤廃された3。
CfDだけではない:時間・コストリスクへの対応
CfD再導入に加え、運転開始期限(COD)の後ろ倒しも産業界からの要望の一つだった。短い期限設定に加え、多くの国が2030年までの導入目標を達成しようと、同様の運転開始時期を設定した結果、サプライチェーンに負荷がかかっていたためである3。
2025年公募で対象となる3海域の運転開始期限は以下の通りである。
- North Sea Mid(最低1GW):2032年末までに完成
- Hesselø(最低800MW):2032年末までに完成
- North Sea South(最低1GW):2034年末までに完成
入札の提出期限は2026年5月20日で、コンセッション契約の付与(落札決定)は2026年8月4日が見込まれている2,4。
また、事前調査および防衛関連の対応費用について、費用負担の在り方が大きく変更された。2024年公募では、デンマーク送電事業者Energinetが実施する洋上の事前調査について、事業者が費用を全額負担する設計だったが、新たな公募では、これらのデータが無償提供される5。事前調査のデータは登録のうえ以下で入手可能である(https://ens.dk/en/energy-sources/ongoing-offshore-wind-tenders/preliminary-investigations-ongoing-offshore-wind-farm )。ただし国家安全保障上の懸念から、高解像度の水深測量データはデンマーク国防省の承認を得た場合のみ利用できる。
防衛上の緩和措置に関する費用も、2025年5月19日の政治合意に従い、前回公募とは対照的に新たな公募ではデンマーク国防当局が負担することとなった2。表1は2024年と2025年公募の主要項目を比較したものである。
表1 2024年、2025年公募要件の比較

持続可能性に関する要件
持続可能性に関する要件は、新たな公募でも重要な要素であり、主に以下のように規定されている。
入札書類には、洋上風力で発電される電力について、最低容量および(該当する場合)オーバープランティング容量におけるLCAを含めなければならない。これは、標準規格DS/EN 17472:2022または同等規格に準拠する必要がある。提出データは、30年の想定耐用年数に基づき、純発電量1kWhあたりのLCAを示すことが求められる6。
2. 環境製品宣言(EPD)
洋上風力発電所の主要構成要素について、環境性能に関する文書(EPD)を提出する必要がある。EPDは、DS/EN 15804:2012+A2:2019およびDS/EN 15804:2012+A2/AC 2021、または同等規格に準拠することが求められる。主要構成要素は、タービン、トランジションピース、基礎、アレイケーブル網(洋上変電所を含む場合あり)、送電ケーブル網、陸上ケーブル網(陸上変電所を含む場合あり)とされる。タービンのEPDには、ブレード、ハブ、主軸、発電機、ナセル、タワー、(存在する場合)ギアボックス、制御システムのデータを含める必要がある6。
3. ブレードのリサイクル
風車ブレードについても環境要件が課されている。廃止措置時点で利用可能なリサイクルプロセスおよびリサイクル技術を用いて、少なくとも70%のリサイクル率が達成できるよう、ブレードを選定する必要がある6。
さらにHesseløの落札者には追加的な環境責任が課され、「自然共生型(nature-inclusive)デザイン」による洋上風力発電所の整備が求められる。落札事業者は、この自然共生型の取り組みの実施に対して、VATを除き少なくとも5,000万DKK(約12.3億円)を支出しなければならない7。
デンマークの経験が日本に意味すること
世界初の商業洋上風力発電プロジェクトを1991年に導入し、長年にわたり公募制度を運用し、過去10年間で落札価格を引き下げることに成功してきたデンマークでさえ、近年の国際的な事業環境や地政学的状況の変化に対し、公募設計を十分に適応させることができなかったことが明らかになった。
市場対話および分析(詳細は、2025年5月に公表した自然エネルギー財団のコラムを参照)を踏まえ、デンマーク政府は、国家と民間の間でリスク配分を共有するよう公募制度を再設計した。日本でも、今年公表が見込まれるラウンドに向けて公募の改定作業が進められており、デンマークの公募プロセスの最新動向から、多くの示唆を得られる可能性が高い。
- The Danish Ministry of Climate, Energy and Utilities, Aftale om udbudsrammer for tre havvindmølleparker (in Danish), 19 May 2025
- PROCUREMENT SPECIFICATIONS REGARDING NORTH SEA I, MID OFFSHORE WIND FARM
- The Danish Energy Agency, The Danish Energy Agency opens tenders for three new Danish offshore wind farms, 20 November 2025
- PROCUREMENT SPECIFICATIONS REGARDING HESSELØ OFFSHORE WIND FARM
- European Union, 263880-2024 - Competition Denmark – Construction work – North Sea I, A1, Offshore Wind Farm - Denmark OJ S 87/2024 03/05/2024 Contract or concession notice – standard regime - Change notice Works, 3 May 2024
- APPENDIX 1, PROJECT SPECIFICATIONS for the Agreement regarding North Sea I, Mid Offshore Wind Farm
- APPENDIX 1, PROJECT SPECIFICATIONS for the Agreement regarding Hesselø Offshore Wind Farm
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(補足情報) デンマークでは当初、政府が既存の電力会社に洋上風力開発を指示し、1991年に世界初の商業洋上風力発電所が建設された。その後、2002年に政府が正式な公募ガイドラインを公表し、2005年以降、洋上風力の公募が実施されてきた。 下表は、2013年にCfDが導入されて以降の落札価格の推移を示す。2021年にゼロプレミアムで落札されたThorプロジェクトは、2024年に入札ゼロとなった公募の直前に実施された案件である。Thorは2026年に運転開始予定であり、落札者は2029年までに国に28億DKK(約687.5億円)を支払う見込みである。2013年から2021年にかけてデンマークは国家負担の削減を実現しただけでなく、Thorは「洋上風力を建設する許可を得るために、国家へ支払いを行う」初めての風力発電所となった。 ![]()
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