日本でも洋上風力の公募制度に関して活発に議論されているが、昨年末、商業ベースの洋上風力の発祥の地デンマークで行われていた3GW分の公募に入札者がゼロという衝撃が走った。
2024年12月5日を締め切りとして実施された公募は、北海 I (North Sea I)のA1、A2、A3の3区域、合計3GW分を対象とするもので、デンマーク政府が計画している最低6GW規模の洋上風力導入の第一弾にあたるものだった。この公募に入札が一件もなかった事態を受け、ラース・オーガード気候・エネルギー・公益事業担当大臣は、入札が行われなかった理由を明らかにするため、デンマーク・エネルギー庁に対し、発電事業者へのヒアリングなどを通じた市場との対話を行うよう要請した。
本コラムでは、長年にわたり洋上風力の公募を実施してきたデンマークにおいて、多くの新たな要素を取り入れて実施された今回の公募の特徴と、入札ゼロという結果を受けてデンマーク・エネルギー庁が事業者等へのヒアリングや民間のコンサルティング会社への委託を通じて明らかにした公募の課題について、詳しく紐解いていく。
1991年、デンマークは世界に先駆けてヴィネビュー(Vindeby)に商業用洋上風力発電所を建設した(同発電所は2017年に撤去済)。2023年には、国内の発電量の約90%(廃棄物発電を含む)を自然エネルギーが占めており、洋上風力は2.7GWが稼働している1。デンマーク政府は、2030年までに洋上風力の稼働容量を合計12.9GWに拡大する目標を掲げている2。

デンマークにおいて洋上風力発電所を建設し、発電事業を行うには、所管大臣からの「調査許可」、「建設業許可」、「発電許可」の三つの許可を取得する必要がある。公募落札者は、デンマークの系統運用者(TSO: Transmission System Operator)であるエナギーネット(Energinet)が実施する調査を補足するための「調査許可」を得ることになるが、落札の時点で「建設許可」や「発電許可」の取得が保証されているわけではない。また、落札者は、軍事用無線通信およびレーダー監視に関する予防措置に関わる費用や、Energinetが実施する調査の費用、設備の撤去および送電網接続に必要な費用、陸上着陸施設(POC: Point of Connection)の整備費用といった各費用を負担する。さらに、プロジェクトの遅延や不履行に対しては罰則が科される。3
2021年までの公募では、差額決済契約(CfD: Contracts for Difference)方式が採用されており、 政府が落札価格と市場電力価格の差額をプレミアムとして補填する仕組みだった。2013年からの応札価格の推移は下記の通りで、一番最近の2021年のThorでの公募では、実質的に「ゼロ・プレミアム」で落札された。市場価格が落札価格を上回る場合、発電事業者が政府に差額を支払う制度「双方向型CfD」が導入されていたため、落札事業者は政府に対して28億デンマーク・クローナ(約616億円、1デンマーク・クローナ=22円換算)を支払うこととなった。3
表1 2013年以降の落札価格3

2024年4月に発表された洋上風力6GW規模の新たな公募は、以下の条件のもとで実施されることとなった。4
- 6海域(北海Iの3海域, Kattegat, Kriegers Flak II 、Hesselø)合計最低6GW
- Hesseløは最大1.2GWまで、それ以外の海域については最低1GWとし、上限はなし
- 公募締切は、北海Iの3海域は2024年12月5日、その他3海域は2025年4月を締切としている
- 占用期間は原則30年であり、最大10年の延長が可能
- 政府からの補助金は一切提供されず、入札者は対象海域の使用料(30年間分)を提示して入札を実施する
- デンマーク国が20%の共同所有権を有する
- プロジェクトの持続可能性と社会的責任を確保するために、風車ブレードへの再生材の使用、供給電力についてのライフサイクルアセスメント(LCA)評価
公募の結果、入札者は現れず、第一弾として予定されていた3GW分の案件は暗礁に乗り上げた。これを受けて、2025年4月締切で予定されていた残り3海域の公募も延期せざるを得なくなった。デンマークでは2013年以降、落札価格は順調に低下し、2021年の公募では実質的にゼロ・プレミアム、さらに政府に対する支払いが発生する結果となっていたが、今回は誰も札を入れないという事態となった。これは、洋上風力を取り巻く環境が急速かつ大幅に変化していることを象徴しており、公募制度の設計そのものへの懸念が浮き彫りとなる結果となった。
この結果を受け、ラース・オーガード気候・エネルギー・公益事業担当大臣の指示のもと、デンマーク・エネルギー庁は、17社の事業者およびサプライチェーン企業に対し、個別ヒアリングを実施した。また同時に、民間のコンサルティング会社に調査を委託し、事業者が入札を見送った理由について、事業性の判断においてマイナス要因とされた項目を中心に分析を実施、この結果は報告書としてとりまとめられ公表された。
ヒアリング対象となった17社は、公募対象となった3海域すべてについて、風況や海底地盤の条件は良好だと判断しながらも、設備投資(CAPEX)や運転維持費(OPEX)、資金調達コストの高騰、ならびに、すでに自然エネルギーが大量に導入されているデンマーク西側(DK1)における電力価格の下落、電力および水素の売却先確保の不透明性が、事業の成立を困難にすると判断したと回答した。数社は当初、入札予定であったが、こうした複合的な環境変化を踏まえて、最終的に入札しないという判断に至ったと答えた。5 民間コンサルティング会社のとりまとめた報告書では、これら要因が事業の内部収益率(IRR)を3.1ポイント押し下げたと分析している。6
CAPEXの上昇については、価格高騰とサプライチェーンの逼迫が主な要因とされたとりわけ、多くの国・地域が2030年の洋上風力導入目標を掲げていることにより、風力タービン、ケーブル、作業船などの供給不足が顕著となっている。資金調達コストの上昇については、金利の上昇が影響している。5
レポートでは、2022年時点と比較して、2024年の公募実施時には、CAPEX全体で40-45%、風力タービンで35%、基礎・系統連系で40-45%、ケーブルで30-40%の価格上昇があったとしている。6
ヒアリングを通じて、多くの事業者が電力のみならず水素のオフテイク(引き取り)も事業性の確保に重要な要素と捉えていたことが明らかとなった。利益の減少要因としては、売電価格の下落に加え、デンマーク国内のみならず、ドイツ市場でも期待されていた水素需要開発の鈍化があげられた。また、エネルギー集約産業が少ないデンマークのような国では、企業向けの電力購入契約(CPPA)によるリスクヘッジが難しいことも、事業性担保のマイナス要因とされた。
さらに、短期間で6GWも洋上風力導入が予定されることで、将来的な電力価格の低下や価格見通しの不確実性が高まり、事業計画の策定に困難をもたらした。こうした見通しの不透明性は、今回の公募で新に導入された最大導入容量を設けない「オーバープランティング(over-planting)」の制度によっても助長されたとされる。5
レポートでは、コスト上昇および収益見通しの悪化を踏まえ、多くの事業者が投資判断に必要なIRRを2ポイント引き上げたと報告している(例:RWE社は、必要なIRRを2022年の5-9% から2024年には 7-11%へと引き上げた)。加えて、2024年には世界各国で65GW分の公募が実施されており、太陽光発電や石油・ガス開発といった他分野の投資環境が改善したこともあり、洋上風力以外の投資先が台頭し、投資意欲の低下につながったと分析されている。6
事業者からは、事業性の確保に向けた方策として、短期的にはデンマーク国内での電力需要を増やすこと、また多くの企業はCfDの再導入を要望している。運転開始までのスケジュールについても、さらなる柔軟性を求め、今後の公募では建設期限を最短でも2032年、企業によっては2033または34年とすることが必要との意見が出された。5
1991年に世界で初めて商業用の洋上風力発電を導入し、長年にわたり公募制度を実施し、過去10年では順調に応札価格を下げてきたデンマークでさえ、昨今の国際的な環境変化を反映した公募設計に対応しきれなかったことが明らかとなった。現在、ヒアリングや分析レポートを踏まえて、デンマーク・エネルギー庁では、再公募の準備が進められている。7
日本でもラウンド4に向けた公募指針の改定作業が進められているが、今回のデンマークにおける公募動向から、多くの示唆が得られるのではないか。

- 1IEA "Where does Denmark get its electricity?"
- 2Danish Ministry of Climate, Energy and Utilities "Faktaark – endnu mere havvind frem mod 2030"
- 3Poul Schmith法律事務所開催セミナー資料(2025年4月10日)
- 4The Danish Energy Agency "North Sea offshore wind tendering procedure: The Danish Energy Agency has not received any bids" (2024年12月5日)
- 5The Danish Energy Agency "Danish Energy Agency publishes results from the market dialogue on 3 GW offshore wind" (2025年2月28日)
- 6The Danish Energy Agency "Energistyrelsen offentliggør rapport om kommercielle nøglefaktorer i relation til udbud af havvind" (2025年3月17日)
- 7デンマーク・エネルギー庁担当者談(2025年4月9日)