電気や燃料、熱といったエネルギーは日々の暮らし、産業と経済を支える不可欠な存在ですが、国際社会の秩序が不安定化する中で、いま日本のエネルギー供給には、様々な問題が起きています。この連載コラムでは、これら日本が直面する問題を自然エネルギーで解決する展望を示していきます。第1回はエネルギー安全保障について。
化石燃料依存がもたらす3つのリスク
エネルギー自給率が際立って低い日本
一次エネルギー消費(電気やガス、燃料を含むエネルギー全体)における化石燃料への依存度は、自然エネルギー電力の導入が進む欧州では70%以下ですが、日本や米国、中国は未だ80%前後と高い水準にあります1。他の国や地域と比べて日本に特徴的なのは、化石燃料を自国でほとんど産出せず、自然エネルギーの導入も進んでいないため、一次エネルギー自給率が際立って低いという点です(図 1)。100%を超える米国、80%を超える中国だけでなく、61%の欧州と比べても日本の一次エネルギー自給率は低く、16.4%2しかありません。
このように海外からの化石燃料に日本のエネルギー供給の大半を依存していることが、日本に3つの大きな問題をもたらしています。
図 1 日本の一次エネルギー自給率は他国・地域に比べ突出して低い
化石燃料依存リスク① 価格の乱高下
化石燃料価格はこれまで国際情勢の変化により乱高下してきました(図2)。近年はウクライナ侵攻を契機に高騰し、2020年から2022年のあいだにLNG価格は5.9米ドル/MMBtuから23.7米ドル/MMBtuまで、石炭価格も50米ドル/Mtから431米ドル/Mtまで上昇しました。最近の円安のように、為替の変動も国内のエネルギー価格に影響を与えます。化石燃料価格が高騰すると電力やガソリン価格はもちろん、それらを利用する幅広い商品やサービスの価格に波及し、消費者の生活を圧迫します。エネルギー価格の上昇が、最近の物価高騰の最大の要因になっているのです3。
図2 化石燃料価格は乱高下を繰り返している
化石燃料依存リスク② 国富の流出
大量の化石燃料の輸入は、物価高騰に加え、「国富の流出」ともいわれる事態を生み出しています。2024年の化石燃料、石油製品等の鉱物性燃料の輸入額は24.2兆円にのぼっています。同じ年における自動車、バイク等の輸送用機器の輸出額は20.1兆円ですから、日本の花形産業で稼いだ貴重な外貨を帳消しにしている計算になります。
日本は、かつては貿易立国として工業製品の輸出で貿易黒字を長く保っていましたが、福島第一原子力発電所事故を契機に全国の原発が止まり、火力発電が急増した2011年以降は化石燃料の輸入が嵩み、貿易赤字に陥る年が多くなっています(図3)。2022年のように化石燃料価格が高騰した時には、目立って赤字が大きくなっています。
図 3 自動車等の輸出による黒字を化石燃料の輸入で帳消しに
化石燃料依存リスク③ エネルギー供給途絶リスク
エネルギー資源を海外に依存するもう一つのリスクは、供給が途絶えれば日本の社会と経済が危機に瀕する脆弱性を有していることです。国際社会において、紛争やテロによるサプライチェーンの寸断が起き、エネルギー資源の途絶や価格高騰につながれば、火力発電の停止やガソリンの枯渇、暖房用燃料の不足などが現実となり、安全保障が揺らぐ事態となります。実際に、ウクライナ侵攻時にロシアが天然ガスの供給を制限したため、欧州諸国がエネルギー逼迫を起こしたことは記憶に新しいとおりです。
特に日本の場合は、エネルギー資源の輸送ルートの点でも、高いリスクを有しています。地政学上、戦略的に重要な海路をチョークポイントと呼びますが、原油の輸入先が中東に偏る日本は、ホルムズ海峡、マラッカ海峡の2か所を通過して輸入する原油が大半のため、チョークポイント依存度が高いのです4(図4)。
図4 原油の輸入先国は中東に偏在している
エネルギー資源の備蓄量は限定的
日本はエネルギー資源の供給途絶に備え、備蓄を行っていますが、その量は限られています(図 5)。石油・LPGは石油備蓄法により事業者に備蓄が義務付けられ、石油は253日分、LPGは120日分が備蓄されています。一方で、天然ガスは備蓄の義務付けがなく、3週間分程度しか在庫を保持していません。欧州などと異なりパイプラインで外国から輸入できない日本では、極低温で貯蔵する必要がありコストが高いこと、また地下貯蔵に適した地層がないこと等から備蓄が難しいのです。石炭についても備蓄義務がなく、30日分程度が各事業者により操業在庫として確保されているのみです。日本と友好関係にあるオーストラリア等の国々から輸入しており供給リスクが比較的低いため、また輸送用燃料や暖房給湯に使われる石油・LPGと違い産業用途が主で緊急性が低いとされているためです5。
図 5 各エネルギー資源の備蓄量は限定的
有事の際にエネルギー資源の供給が途絶えれば、短期間に備蓄が尽き、経済社会が大混乱に陥る恐れがあります。政府はこれらのリスクを軽減するため、各資源の輸入先国の分散化や輸入先国との友好関係の維持、資源の自主開発比率向上、長期契約確保に努めていますが、化石燃料への輸入依存度を低くすることが何よりもエネルギー安全保障に寄与するのではないでしょうか。
自然エネルギーが日本の安全保障を強化する
自然エネルギーの導入拡大で一次エネルギー自給率は74%に
自然エネルギー財団は、第7次エネルギー基本計画の改定にあたって、2024年12月に「自然エネルギーによるエネルギー転換シナリオ(第1版改訂版)」を公表しました。その中で、温暖化を1.5℃以内に抑えるために必要なGHG排出削減の実現には、日本では2040年に設備容量で533GWの自然エネルギーを導入する必要があり、そのための十分な導入ポテンシャルがあることを明らかにしました(図 6)。また、送電網の整備、蓄電池の増強などと合わせれば、発電量比率で90%以上を自然エネルギーで供給しても、安定的な電力供給が可能であることをエネルギー需給シミュレーションで示しました。
図 6 自然エネルギーには十分な導入ポテンシャルがある
その場合、エネルギー効率化や電化をあわせて進めることで、一次エネルギー自給率を現在の16.4%から74%まで高めることが可能となります。また、エネルギー価格や為替が現在と変わらない仮定の下で試算すると、化石燃料の輸入額を19.6兆円程度削減することができ、貿易収支を大きく改善することができます。加えて、国内資源である自然エネルギーを中心としたエネルギー供給体制の下では、国際情勢の変化による国内物価の変動が起こりにくいため、企業や個人も経営・家計の見通しが立ちやすくなります。「VUCA」とも呼ばれる不確実性の高い状況を緩和し、安定かつ自律的な経済構造への転換に寄与します。
大胆なエネルギー転換を行うことにより、供給途絶リスクを克服し、エネルギー安全保障体制を強化することが、一刻も早く求められているのです。
燃料輸入依存と設備輸入依存の違い
自然エネルギーへの転換を進めることに対しては、「現状では自然エネルギー発電設備も海外への依存度が高いため、国富の流出や設備の供給途絶リスクがあることは変わらない」との意見も聞かれます。自然エネルギー設備の国産化をめざすことの重要性は言うまでもありません。しかし、太陽光発電などの発電設備を輸入することと、現在のように化石燃料の殆どを海外からの輸入に依存することでは、エネルギー安全保障の観点からは大きな違いがあります。
化石燃料発電の場合には、海外からの燃料輸入が途絶えた場合、天然ガス発電で言えば3週間しかない備蓄を使いきった時点で発電そのものができなくなってしまいます。これに対して、太陽光発電や風力発電の場合には、仮に太陽光パネルなどの発電設備の輸入がストップしても、既に国内に設置されている発電設備はそのまま発電を続けることができます。いったん設置されれば、発電に必要なのは、太陽の光と風だけです。
太陽光パネルを1隻のコンテナ船で日本へ運び、設備が減耗しきるまで稼働し続ける場合、LNGタンカー約200隻分、石炭船約250隻分の燃料を火力発電に使用するのと同じ電力量を発電できます6。
自然エネルギー設備の国産化、輸入国の分散化
国は、エネルギー安全保障強化の観点から、国産技術であるペロブスカイト太陽電池の普及を推進しています。次世代型太陽電池戦略では、2040年頃までに自立化水準への価格低減と国内20GW程度の導入目標を掲げています。この頃には、固定価格買取制度により導入されたシリコン型太陽電池の買い替え需要が大きくなっているので、ペロブスカイト太陽電池への置換により国産化を加速する視点は重要です。
ただし、脱炭素化に向け急速かつ大幅な太陽光発電の導入拡大が求められる中、ペロブスカイト太陽電池がシリコン型太陽電池や他の発電設備に対して競争力をつけるには時間がかかります。現在、太陽電池の生産は中国の寡占状態となっていますが、インドや米国など各国では、中国への依存度を低減させて内製化を進める動きが進んでいます。当面のリスク低減策としては、輸入先国を分散化することや、海外メーカーへの出資・買収による設備の取得が考えられます789。
自然エネルギー拡大こそ「エネルギー自給率100%」実現の道
世界に目を向ければ、欧州、中国、オーストラリア等の国々では、化石燃料の自給率が日本よりずっと高く比較的安価で手に入るうえ、化石燃料の採掘などで国内の雇用を生むなどの経済的メリットがあるにも関わらず、自然エネルギーへの転換を進めています。その一方で、化石燃料をほとんど産出しない日本が火力発電に固執しているのは大きな矛盾と言えます。
第7次エネルギー基本計画では、2040年でも電力供給の3~4割を火力発電に依存することになっています。政府はこれらの火力発電の脱炭素化をめざすとしていますが、その一つであるCCS付き火力発電では、化石燃料の海外依存は変わらず、それどころか排出された二酸化炭素の貯留まで海外で行うという二重の海外依存を招くものになっています。アンモニアや水素を混焼・専焼する火力発電も開発を進めていますが、国内の自然エネルギー開発が進まなければ、アンモニアや水素も海外から輸入することになります。
自然エネルギー開発の加速こそ、自給率を高め、エネルギー安全保障を強化する一番の近道です。
- Energy Institute “2025 Statistical Review of World Energy”
- なお、この16.4%には電力供給に原子力発電が含まれています。燃料のウランは輸入ですが、燃料の重量に対して発電量が極めて大きく、また燃料リサイクルにより長期間使用できるという理由で国は自給率にカウントしています。仮にこれを除けば9.9%になります。
- 内閣府「令和5年度経済財政白書」、厚生労働省「令和5年版労働経済の分析」
- 資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)」
- 日本エネルギープランナー協会
- 自然エネルギー財団による試算
- 資源総合システム「太陽電池の長期安定調達に備えた対応も重要に」
- 新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽電池産業サプライチェーン動向」(2025年4月)
- 自然エネルギー財団「太陽電池のサプライチェーン:中国の市場支配、世界各国で進む対策」(2024年12月)




