国は、電力システム改革の検証結果(2025年3月に報告書を公表1)や第7次エネルギー基本計画を踏まえ、新たな制度改革を議論しています。2025年9月、国は、こうした議論に対する任意の意見募集を行いました2。
本コラムは、自然エネルギー財団が提出した意見の内容を紹介します。
背景
今般の電力システム改革の検証は、2012年以降段階的に進められた制度改革、具体的には、広域系統運用の拡大、小売及び発電の全面自由 化、送配電部門の中立性の一層の確保(法的分離の方式による発送電分離)と関連制度に対し、法律の規定に基づいて行われました。制度改革のほとんどが実施されて以降、初めて行われた検証です。
国は、この結果を踏まえて検討課題を抽出し、新たに設置された専門の会議体3に提案しました。今回実施された意見募集は、会議での議論を基に新たに追加された項目も含めて論点を整理しています(表1)4。
検討事項には、自然エネルギー大量導入に向けて重要性がいっそう高まる系統の計画的整備などが含まれます。他方で、火力・原子力など従来型の大規模電源の役割に力点が置かれ、小売電気事業者への新たな義務や新しい市場の創設が提案されています。これらは多様なプレーヤーが創意工夫を発揮できるビジネス環境の不確実性を高め、分散型電力システム構築に負の影響を及ぼすことが懸念されます。従来型大規模電源の重視という方向性は、検証と同時期に議論・策定された第7次エネルギー基本計画における2040年度の電源構成見通し(自然エネルギー4~5割程度、原子力2割程度、火力3~4割程度)と軌を一にするものといえます。
右欄の【】内の丸数字は、左欄の検討事項との対応関係を示す。
出典)資源エネルギー庁「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGの進捗について」(脚注4)を基に自然エネルギー財団作成
意見の内容
|
1. 脱炭素電源投資のファイナンスの課題への対応(1.(1)②) |
(国の提案)
長期・大規模な電源投資に対して、政府の信用力を活用して融資を行うなど、民間金融を量的に補完する方策を含め、資金調達の円滑化に向けた対応の具体化に向けた検討を深める。
(意見)
「投資資金調達の円滑化に向けた対応」の対象となる「長期・大規模な電源」に洋上風力を含むべきである。
(理由)
脱炭素に向けた大規模な投資の必要性や、これに向けた資金調達の円滑化の重要性は論をまたない。洋上風力は、コスト低下に向けて大規模に開発される電源種であり、その額は数千億から兆円単位に及ぶ。世界的な資材価格高騰の影響や、日本の関連産業が黎明期にありサプライチェーンが存在しないことなどから、洋上風力の開発コストが急激に上昇しており、投資への影響も顕在化している。着床式のみならず浮体式も含めて、資金調達の面から投資家が安心して投資できる枠組みをつくることが不可欠である。
|
2. 系統運用上重要な電源の維持(1.(3)) |
(国の提案)
系統運用者が系統安定性を確保するにあたり、稼働される電源を通じて、電圧維持能力や同期安定性の確保、系統の過負荷の回避を行っている場合がある。このような状況で、例えば、系統運用上重要な電源が、系統運用者との連携が不十分なまま休廃止した場合、こうした運用に致命的な支障が生じかねない。
そのため、系統運用者―発電事業者間で適切な情報共有や協議がなされ、必要な対応が実施されるよう、行為規制との関係等課題を整理し、必要な対応を検討する。
(意見)
- 系統安定性の確保と電源の稼働との関係を議論する際には、電源が担っている役割を正確に切り分けることが必要である。そのうえで、もし本当に系統運用者と発電事業者との情報共有が必要であるならば、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)を通じて行うべきである。
- 現在、系統安定化上重要となる電源を一般送配電事業者が公募で調達する制度(特定地域立地電源公募)がある。これは、「系統安定化上重要な流通設備についての対策工事が完了するまでの間」、発電事業者に落札電源の維持を求める仕組みである。しかし、そもそも「対策工事が完了するまでの間」がいつまでを想定しているのか不明であり、目処を示すべきである。また、対策工事については、再エネ発電設備や蓄電池設備などによる系統安定化のために貢献する検討を行うべきである。
(理由)
1.について
系統安定性を確保する上で、電源が担う役割として、電圧維持能力、同期安定性、系統の過負荷回避、という3つの例が示されている。しかし、これら3つの役割はいずれも全く異なる議論であり、電気工学の文脈では、一般的に、それぞれ切り分けて議論される。
例えば、電圧維持能力は、各電圧階級(500kV、66kV、6.6kVなど)の送電線内における局所的な議論である5。一方、同期安定性は、周波数を維持する議論であり、50Hz同期系全体(北海道/東日本)、60Hz同期系全体(西日本/沖縄)の範囲に含まれる全発電機と需要に及ぶ。同期発電機(火力電源など)はそれらの安定維持に貢献していることは間違いないが、議論の粒度が大きく異なる概念をまとめて議論することは、技術的、学術的視点のいずれからも不適切である。
従って、同期発電機による系統安定について議論するのであれば、その範囲を明確にした上で、技術的問題点を明らかにした上で議論すべきである。そうでなければ、仮に系統運用者と発電事業者が情報共有するとしても、全く意味をなさないばかりか、必要以上の情報共有が行われる可能性が考えられる。
発送電分離の行為規制の観点からも、情報共有の主体は系統運用者ではなく、広域機関など中立的な機関とすることがより適切である。
2.について
自然エネルギー発電設備や蓄電池設備は、電圧や同期安定に貢献することができる。こうした対応をより早期に検討することで、同期発電機が休廃止した場合の系統安定確保対策となりうる。
これは、自然エネルギー導入が急速に進む欧州やオーストラリアなどでは、既に実適用されている技術・要件である6。しかし、日本のグリッドコード(系統連系技術要件)では、自然エネルギー発電設備や蓄電池設備に本来備わっている機能(周波数低下時に有効電力を瞬時的に追加供給する機能、電圧変動に対して無効電力を調整する機能)を系統運用者が進んで活用する発想になっていない7。広域機関でも議論は行われているが、2030年前後の導入を想定しており8、遅いといわざるを得ない。
まずは、特別高圧系統など、専用線で中央給電指令所と接続されている自然エネルギー発電設備や蓄電池を対象に、今できることから取り組みを進めるべきである9。
加えて、系統運用者が必要と判断した場合、系統安定確保対策として、STATCOMや同期調相機など10を導入し、その費用回収を行う仕組みについても検討すべきである。
|
3. 地内系統の計画的な整備(2.) |
(国の提案)
今後、地内系統の先行的・計画的な整備に向けて、一般送配電事業者等が計画を策定し整備を進める枠組みの検討を進める。
(意見)
地内系統の整備に当たっては、国等の公的機関が一定程度関与しつつ、一般送配電事業者・送電事業者が計画を策定し整備をする仕組みとすべきである。
(理由)
系統の新設・増強には時間がかかるため、地内送電線を計画的・効率的に整備するためには、自然エネルギーのポテンシャルや導入速度等を想定した包括的な計画を策定することが必要である。国は、広域機関と一般送配電事業者が参加する枠組みを作り、各一般送配電事業者エリア内の計画を含むマスタープランをより深化させた全国大の計画を策定して公表すべきである。計画策定に当たっては、一般送配電事業者エリア内の計画を集約しながら、国・広域機関の下で将来の電源と系統の柔軟性を見据えた計画の最適化を行っていくことが考えられる。
国の提案は、地域間連系線に関する広域系統整備計画等の枠組みを参考として一般送配電事業者等が計画を作成し整備する枠組みを検討するとしており、この方向性に賛成する。その際、「国等の公的機関の一定程度の関与」を計画策定の枠組みに必要な要素として、検討を深めるべきである。
なお、地域間連系線と一体性を有しない地内の基幹系統のうち広域的取引に資するものについては、広域機関において各エリアの一般送配電事業者と連携しつつ計画策定プロセスの開始を検討し、プロセスを開始した場合には、広域系統整備計画を策定の上、同計画の進捗を定期的に確認する方針が打ち出されている11。検討の早期進捗を望む。
さらに、地内系統整備の加速化に当たり、各一般送配電事業者とは異なる見立てやビジネスモデルを取り入れることも有用と考える。地内基幹系統のうち、地域間連系線と一体的なものや広域的取引に資するもの(表2の太枠内)は、計画の策定や整備の主体を、各エリアの一般送配電事業者のみならず送電事業者も行える仕組みを併せて検討すべきである。
出典)資源エネルギー庁「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGの進捗について」(脚注4)スライド37(太枠は自然エネルギー財団追加)
|
4. 小売電気事業者の量的な供給力確保の在り方(3-①) |
(国の提案)
小売電気事業者が果たすべき供給能力確保義務として、量的な供給力(kWh)の確保を加える。
具体的には、実需給の3年度前に実需給年度の各小売電気事業者の想定需要の5割、実需給の1年度前に実需給年度の各小売電気事業者の想定需要の7割に相当する量の供給力(kWh)の確保を求めることを軸に検討を進める。
確保を求める量や小規模事業者に対する軽減措置など主要な論点について議論を継続するとともに、2030年度から義務履行状況を確認することを目標に、制度間の調整を含めて検討を進める。
(意見)
小売電気事業者に対する量的な供給力確保の義務化には慎重な検討が必要である。
(理由)
国の提案は、この義務化により、電気料金を含む電源コストの急激な変動の抑制と中長期の燃料調達インセンティブ向上を図るとする12。しかしながら、現在の提案である「想定需要の7割」の確保で、電力価格の安定につながるかは疑問がある。仮に、「想定需要の7割」を基に燃料が中長期的に確保されても、電力価格を決めるのは7割を超える部分の燃料価格分である。そのため、7割では「電源コストの急激な変動の抑制」という制度目的に合致しないのではないか。かといって、義務量の増加は、小売電気事業者のポートフォリオと料金・メニュー設定に過大な負担となる。したがって、制度目的を達成するための意味のある適切な水準の義務量を設定できない。
また国は、小売電気事業者に対し量的供給力確保を求める根拠として、小売電気事業者が価格変動リスクの高い短期スポット市場で電気を調達する割合を高める傾向にあること、料金の大幅な変動は社会的に許容しがたい状況にあること、などの課題を挙げる。しかし、小売電気料金の価格変動は、需要家に行動変容を促し、エネルギーの適切な消費・低減を促進するものである。小売電気料金の価格変動を単に抑圧するのではなく、その意味や効果が社会的に共有されなければならない。
また、価格変動リスクは、中長期相対契約や先物市場によりヘッジをすることができ、短期スポット市場での価格高騰が小売電気料金の価格高騰に直接結び付くものではない。小売電気事業者のヘッジ手段が限られている状況を打開することが必要である。
小売電気事業者への量的供給力確保義務を定めることは、小売電気事業者による自由な料金水準やメニューの設定可能性を狭めることにつながり、創意工夫をもって競争し新たなイノベーションが生み出されるという電力システム改革の理念に逆行することになりかねない。
|
5. 中長期取引市場の整備に向けた検討(3-②) |
(国の提案)
広く参照可能で適切かつ安定的な電力価格指標の形成や、小売電気事業者による中長期での供給力の安定的な調達を進める観点から、小売電気事業者が広く参加可能な新たな市場となる「中長期取引市場」を整備する。
(意見)
中長期取引市場の導入には慎重な検討が必要である。
(理由)
「広く参照可能で適正かつ安定的な電力価格指標の形成に資するような中長期の電力取引の活性化を図る」との方向性に異論はない。しかし、新しい市場の開設は社会的コストがかかり、制度の複雑化を招く要因ともなるため、慎重に検討されなければならない。
日本卸電力取引所(JEPX)の先渡市場やベースロード市場での取引が不活発な中、その原因に対応しないまま新たな市場を開設しても、中長期取引活性化の起爆剤となるか疑問である。その原因はこれまでも議論され、対応された点もあるが、さらなる改善はできないのか、今般の議論でも明確化すべきである。
内外無差別の取組が徹底されれば、相対取引は活況となる。また、JEPXスポット市場の流動性が確保されていれば、電力価格指標が適切に形成される。さらに、ヘッジのための先物取引の活性化が進めば、先物市場で電力価格指標が形成される。これらに加えて新しく中長期取引市場をつくる意義があるのか、疑問がある。
発電・小売全面自由化から5年しか経過しておらず、市場取引に成熟していない事業者も一定数存在するが、新たな市場を設けて事業者の負担を増やすのではなく、市場の乱立を避け、わかりやすく利用しやすい市場環境を整備し、事業者の成熟に向けた取り組みを引き続き進めることが必要である。
|
6. 短期の最適な需給運用を可能とする市場整備(4.) |
(国の提案)
現行制度では、小売電気事業者がスポット市場・時間前市場で電力(kWh)の調達を行い、一般送配電事業者は需給調整市場で調整力(ΔkW)の調達を行う。現在、卸電力市場や需給調整市場における市場価格高騰、応札不足や、一般送配電事業者の系統運用業務における不確実性の拡大など、様々な課題が顕在化している。また、変動型再生可能エネルギー電源の導入が一層進めば、調整力必要量や再エネ出力制御、系統混雑が増加し、需給運用が難化することが見込まれる。これらに対応するため、電力と調整力を同時に取引し約定させる「同時市場」を導入し、系統制約も考慮しつつ、電力(kWh)と調整力(ΔkW)の最適配分、需給予測の変化等に対応できる柔軟な電源運用を可能とすることを目指す。
(意見)
同時市場が解決を目指す課題のうち、現在の市場の下でも対応可能なものは、同時市場の導入を待たず対応を進めるべきである。
(理由)
自然エネルギー電源の増加が進み、調整力必要量の増加が見込まれる中、kWh市場とΔkW市場を一体化し効率的に約定させる同時市場の構想は、課題に対する一つの対応策である。しかしながら、現在の市場構造と比して効率的な市場となるか、また課題が解決するかは具体的制度設計によるし、同時市場の導入以外に対応策がないわけではない。同時市場の導入議論と並行して、kWh市場とΔkW市場の関係、インバランス制度、BG制度のあり方を引き続き議論すべきである。とりわけ、同時市場の下でも各事業者が果たすべき役割がこれまでと同様である13ことを前提とすれば、発電事業者・小売事業者が市場取引を通じて同時同量を達成することで、調整力必要量が減少しコスト低減が期待できることを忘れてはならない。
具体的に考えられる論点の例として、下記を挙げることができる。

- 資源エネルギー庁「電力システム改革の検証結果と今後の方向性~安定供給と脱炭素を両立する持続可能な電力システムの構築に向けて~」(2025年3月)
- 資源エネルギー庁「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計に係る意見募集の御案内について」(2025年9月)
- 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会及び電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ。
- 資源エネルギー庁「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計WGの進捗について」次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会(第2回、2025年9月8日)資料3
- 電圧維持能力は、送電線路のインピーダンスと、発電所、変電所、無効電力補償装置(STATCOMやSVC)が供給する無効電力との関係に基づいて決まる。
- 電圧安定に関する他国の事例として、オーストラリア/ニュージーランドの事例を紹介する。オーストラリア/ニュージーランドにおいて2015年に制定され、2016年から新設発電所に適用された規格AS/NZS 4777.2:2015は、全インバータ連系発電設備の電圧制御に関して、力率または無効電力一定制御の他にVolt–var response mode(電圧調停率制御)も規定しており、低圧から特別高圧まで電圧安定化を図っている。力率制御も電圧制御も無効電力を調整しているので蓄電池設備、風力発電設備、太陽光発電設備に追加の設備などは不要である。
- 特に電圧制御については、力率一定制御が採用されており、電圧に応じて無効電力を制御することで電圧調整をしようとの思想が全くない。
- 広域機関 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会事務局「再エネの更なる大量導入を踏まえた北海道エリアの課題整理」 調整力及び需給バランス評価等に関する委員会(第111回、2025年9月24日開催)資料1スライド29
- 具体的には、専用線を通じて指令を送り、自然エネルギー電源や蓄電池設備の有効電力制御、無効電力制御を行うことが考えられる。
- STATCOMとは、自励式無効電力補償装置であり、SVC(無効電力補償装置)と比較して、より高速に電圧変動に応じた無効電力を連続的に供給し、系統の安定性をサポートするものである。同期調相機とは、電力系統の電圧調整と力率改善を行う装置で、無負荷状態で接続された同期電動機である。同期調相機は、電圧調整に加えて慣性エネルギーを供給することが可能である。なお、蓄電設備は、電圧制御機能と周波数制御機能をもち、かつ慣性エネルギーを供給することが可能である。
- 広域的取引に資するものは、現行規程上も広域系統整備計画の策定の検討が可能と分析している(資源エネルギー庁「電力ネットワークの次世代化について」再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第57回、2023年12月5日開催)資料2、p.28)。
- 前掲脚注4スライド54参照。
- 前掲脚注4スライド75参照。




