企業の温室効果ガス排出算定報告のグローバルスタンダードであるGHGプロトコルが大幅改定を行っています1。日本でも、有価証券報告書への気候変動関連情報開示について、GHGプロトコルへの準拠が必要となっています。つまり、日本企業も温対法に基づく開示だけではなく、GHGプロトコルに基づいた開示が必要になってくるということであり、影響を受けるということです。
筆者は、GHGプロトコル改定プロセスにおいて、電力調達/消費などからの間接排出であるスコープ2の技術作業部会 (TWG) メンバーとして昨年9月末からの密な議論に参加しています。本コラムでは、まもなくコンサルテーションが行われるスコープ2の改定の方向性の論点について、公開情報をもとに紹介します2。本コンサルテーションは大枠を決める最後の機会になると思われることから、ぜひ内容を理解いただき、自分ごととしてパブリックコンサルテーション3に参加してみてはいかがでしょうか。
スコープ2改定3つの論点
改定の論点を3つ挙げました。1) 排出係数などの1時間ごとのマッチング、2) 証書などが使える範囲を物理的な供給可能性 (Deliverability) のある範囲に限定する、3) RPSやFITなど皆が金銭的に支えているエネルギーについては独り占めできないとする標準供給サービス (SSS, Standard Supply Service) の考え方です。
これら3つの論点それぞれについて、ロケーション基準の場合とマーケット基準の場合についての概要を表1にまとめました。
表1 ロケーション基準、マーケット基準についてスコープ2改定の3つの論点の概要
(現状と改定案の比較)
それぞれの論点について、以下に少し詳細に解説をしました。
論点1:1時間ごとなど粒度の高い排出係数を使うことを必須に
これまでは、ロケーション基準では年間の平均排出係数を使い、マーケット基準では使った電気と証書の時間が一致する必要はありませんでした。
今回の改定案では、まず、ロケーション基準については、信頼性のある出典の排出係数が無料で入手可能な場合、例えば1時間ごとといった粒度の排出係数を使うことが必須とされています。日本では、送配電10社(例えば、東京電力パワーグリッドなど)が30分ごとのリアルタイム電源構成を公表4しています。ここから10エリアごとの30分単位ないしは1時間単位の排出原単位について知ることは比較的容易と言えるでしょう。
マーケット基準については、クリーンエネルギーを使用していると「主張」するのであれば、例えば証書を使う場合などについて、1時間ごとの証書と電気のマッチングが必要となるという案になっています。現状では非化石証書、グリーン電力証書などには1時間ごとの情報がないことから、このルールが必須となるのであれば、大幅な仕組みの変更が必要となるでしょう。
電力消費量については、日本では、需要家は小売電気事業者を通じて、スマートメーターに基づく30分間隔の消費電力量データを入手することができます。一方で、入手できない国・地域については、推計値でも可能であるという方向が示されています。
論点2:ロケーション基準、マーケット基準ともにバウンダリが狭まる方向
現在、ロケーション基準としては日本全体の排出係数を使うという整理となっています5。改定案には、供給可能性という考え方が導入されています。つまり、地理的にもより狭い範囲における排出係数を使うことが必須となる案となっているのです。日本の場合は、10送配電エリア(東京電力管内、関西電力管内といったエリア)をバウンダリとするのが妥当だと予想されます。
マーケット基準についても、10送配電エリア内であれば確実に供給可能と言えるでしょう。エリアを超える場合は、十分に物理的に供給可能であり、連系線の容量による制約がないことを証明することが必要となります。
なお、マーケット基準における1時間ごとのマッチングや地理的な供給可能性の定義の厳格化については、過去の長期契約については一定期間例外を認める経過措置 (Legacy Clause) についても提案されています。
論点3:標準供給サービスはみんなのもの
日本ではFITや一部のFIPなど、電気料金に規制として上乗せされて費用の多くが回収されている電源について、非化石証書を購入することで「その自然エネルギー電源はこの会社で使った」とすることが可能です。一方、米国ではRPS (Renewable Portfolio Standard) 目的に償却した証書を企業が「うちが使った」ということはできないですし、ドイツではFITで導入された自然エネルギーについては、「みんなのもの」という整理がされています。今回、GHGプロトコルスコープ2改定案では、標準供給サービスという概念が出されており、その定義として、「公益的に支援された、またはデフォルトの電力供給(ユーティリティによるデフォルトサービス、政府が義務付けるクリーンエネルギープログラム、または公益事業義務の下で運営される公営施設など)」を含めることが出されています6。標準供給サービスについて詳細を議論した第9回のスコープ2作業部会においては、「規制によってコスト回収されている、政府によって義務化されている、または公的に保有された発電設備からの電力供給7」との記載があり、FIT/一部のFIPは規制によってコスト回収をされていることから、標準供給サービスの定義に含まれることが予想されます。
標準供給サービスについては、平均パーセンテージまで(pro rata share) の主張ができるという提案となっています。皆で支えている自然エネルギー設備を、低い価格の証書を購入することで独り占めはできなくなるということを意味します。
改定案が意味すること
これまで時間や供給可能性に関係なく、自然エネルギー100%消費しています、と言えたのが、案では物理的に供給可能な場合に限って主張できるという方向性が出されています。加えて、そして政策などによって皆で支援したものは「独り占め主張」ができないルールも入ろうとしています。これまで100%と容易に主張できたものが、容易ではなくなることで、主張できる自然エネルギー比率やクリーンエネルギー比率は下がるかもしれません。しかし、現在のスコープ2の改定案の背後には、下がった自然エネルギー比率やクリーンエネルギー比率こそがそもそも正しい値であるという考え方があります。
また、経過措置として、「現状のスコープ2ガイダンスにおいて適格な長期契約について、1時間ごとのマッチングや供給可能性要件を満たさない場合でも、スコープ2マーケット基準として継続的に報告することを許すかどうか8」という設問も技術作業部会の投票9に含まれており、こちらも支持を得ています。つまり、長期契約に限って、これまでのVPPA(バーチャルPPA)なども一定期間マーケット基準として使えるというものです。加えて、マーケット基準の1時間ごとのマッチングについては、小規模需要家には必須としないことも提案されています。“小規模”とみなされるための閾値については、今後コンサルテーションに向けて改定案を固めていく際に、各種分析の上で提案が行われる見込みです。
世界的にグリーンウォッシュが問題視されており、蓄電池もなしに夜に太陽光の電気を使ったとするのはウォッシュであるとの問題提起がされているのです。他の技術作業部会に先駆けた今回のスコープ2技術作業部会の提案は、マーケット基準には物理的な供給可能性が重要であることを示しており、今後の他の技術作業部会に対して先鞭をつけるものではないでしょうか。
本改定案に対する意見
私は、エネルギー需給や電力モデル分析を主務としています。日中は太陽光が多く発電していて、排出係数はとても低いです。つまり、電気を使ってもCO2は排出されないのです。この関係がしっかりCO2算定に反映されれば、価格だけでなく排出係数の観点からもデマンドレスポンスが進んで、出力抑制も少なくなる好循環に寄与するでしょう。
一方で、各種分析1011 が示すとおり、マーケット基準に対して1時間ごとのマッチングを必須とする場合、設備を過剰に用意する必要が出てきます12。つまり、変動性再エネに対する調整を系統全体として最適化する方が効率的であり、個別需要家がそれぞれの1時間ごとの需給一致を目指すことは局所的に過剰設備を生む可能性があることが指摘されているのです。逆に、マーケット基準について1時間ごとのマッチングが必要と主張する方々の論拠は、過剰設備によって再エネや蓄電池の投資が進むということなのですが、これは同時にコストも上がることを意味します。文献では、MWhあたりのコストが倍以上になるケースも紹介されています。
私は、今回の技術作業部会の議論に密に参加する中で、GHGプロトコルのあり方を深く考えました。その深い思考の中で、ロケーション基準は物理的関係を、マーケット基準は経済的支援関係を示すのではないか、と考えるに至りました。今回の案では、マーケット基準について、経済的支援関係だけではなく物理的関係も厳密に適用する必要があるということになっています。個人的意見としては、ロケーション基準における1時間ごとのマッチング、バウンダリの厳密化には賛成するものの、マーケット基準についてはより経済的支援関係を重視することが理にかなっているのではないだろうかと考えています。
加えて、世界中の企業が1時間ごとのマッチングを行うことで、AIをはじめとする計算処理量はどのくらい増加するのでしょうか。計算処理量を増加するだけの合理的理由が求められると考えています。この1時間ごとのマッチングの有効性を示す研究プロジェクトの多くが、IT大手によって支援を受けています。
間も無く始まるコンサルテーションにあたっては、今回の改定案の趣旨を理解した上で、建設的で合理的な意見を日本から多く出していただくことを期待します。
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※本コラムは公開情報をベースに筆者が個人的見解を示したものであり、GHGプロトコルの公式見解ではないことにご留意ください。何か重要な判断をする際には、公開資料やGHGプロトコル本体に確認の上実施いただくようお願いします。 |
- 1改定プロセスについての資料はGHGプロトコルウェブサイト内のレポジトリにて閲覧することができます。作業部会等における議論はチャタムハウスルール[1]にて行われており、無記名の議事録も公表されています。改定スケジュールとしては、全体の最終版は2027年中、スコープ2については2026年中盤と計画されています。
- 2改定案自体は、秋のコンサルテーションに向けて技術作業部会 (TWG) にて作業し公表する予定です。
- 3スコープ2技術作業部会からの提案を、独立基準理事会 (ISB, Independent Standard Board) が審議し、主要な論点のうち本コラムで取り上げた論点1,2,3に該当する技術作業部会の案を秋からのパブリックコンサルテーションにかけることが合意されました。一方で、影響算定についての技術作業部会案はコンサルテーションにかけることが否決され、案の内容ではなく、一般的な設問とすることが決まりました。詳細はこちらの記事をご覧ください。参考3に日本語仮訳を作成しております。
- 4例えば、東京電力パワーグリッドではエリア需給実績データを30分ごとに公開しており、日本の10電力会社がそれぞれ公開しています。自然エネルギー財団では、これら公表情報をまとめて閲覧できるサイトを運営しています。
- 5GHGプロトコルスコープ2ガイダンスでは、バウンダリとして系統または市場としていますが、筆者がCDP在職時にデータの特徴等より、市場という定義のもとで日本全体の排出係数を使う方針を設定しました。
- 62025年6月25日に開催された第16回スコープ2作業部会における投票の設問を含むプレゼンテーション資料において、「Do you support the definition of Standard Supply Service (SSS) as including publicly supported or default electricity supply such as utility default service, government-mandated clean energy programs, or publicly owned facilities operated under a public service obligation for the purposes of market-based scope 2 reporting?」との設問があり、その文章を参照している。参考2に他の設問も含めた日本語仮訳を掲載している。
- 7原文:electricity supplied under regulated cost recovery, government mandates, or publicly owned generation
- 8原文:Do you support the introduction of a Legacy Clause that would allow existing long-term contracts eligible under the current Scope 2 Guidance to continue to be reported under the market-based method, even if they do not meet new hourly matching or deliverability requirements?
- 9投票の設問全体については、2025年6月25日に開催されたスコープ2技術作業部会 (TWG) の説明資料にて閲覧することが可能である。
- 10Iegor Riepin, Tom Brown,On the means, costs, and system-level impacts of 24/7 carbon-free energy procurement,Energy Strategy Reviews,Volume 54,2024,101488,ISSN 2211-467X,https://doi.org/10.1016/j.esr.2024.101488.本論文では、1時間ごとのマッチングがシステムレベルでの排出量減少に寄与し、かつ先進的なクリーンエネルギー技術の採用を増やす効果がある一方で、大幅なコストプレミアムを伴うことを定量的に示しています。
- 11Hua He, Alexander Derenchuk, Richard Tabors, Aleksandr Rudkevich, Cost and emissions impact of voluntary clean energy procurement strategies, The Electricity Journal, Volume 37, Issue 3, 2024, 107383, ISSN 1040-6190. 本論文では、24/7調達は確かに脱炭素への強いインセンティブとなるが、その実現には「高いコスト」と「複数の蓄電技術の併用」が不可欠であることを示し、政策的示唆として、100%を目指すよりも「高い追加性を持つ年次ベース調達+系統全体での脱炭素化」の方が、費用対効果が高い場合もあると結論づけています。
- 12ロケーション基準の場合は、系統全体で最適化が行われると言え、企業はその結果である系統全体の1時間あたりの排出係数を受け身で使うことになります。その結果、企業の行動としては、1)操業地の選択、2) 省エネ、3) 消費時間帯のシフト、ということで排出量を増減させることができます。マーケット基準の場合は、ロケーション基準での3種の行動に加え、どの再エネを選ぶのかという行動が排出量に影響を与え、これを1時間ごとに個別企業として一致させようとすると、個別の需要をどう満たすかという最適化を行うことから、全体での最適化よりも非効率が生じるという影響が生じます。
| 参考1:スコープ2技術作業部会における投票の設問と結果の概要 |
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今回の改定案の全貌としては、2025年6月25日にスコープ2技術作業部会にて行われた投票の設問を見ることで理解が深まるだろう。原文はこちら。 図1: 投票設問の概要:ロケーション基準(第16回作業部会資料より抜粋) ![]() 図2はマーケット基準についての設問トピックと回答をまとめたものである。実際の設問については、本コラムの参考2に日本語仮訳を作成したので参照されたい。 図2:投票設問の概要:マーケット基準(第16回作業部会資料より抜粋) ![]() |
| 参考2:スコープ2技術作業部会における投票設問の日本語仮訳 |
| 参考1に示した技術作業部会におけるトピックごとの投票結果について、具体的にどういった設問であったかについて、日本語仮訳を作成した。 <スコープ2フェーズ1改定の全体的な方向性について> 設問1. ロケーション基準法についての全体的な方向性 提案されたロケーション基準法の改定案の全体的な方向性について、スコープ2フェーズ1改定メモの第3節に示されている内容に同意するか? 設問2. マーケット基準法についての全体的な方向性 提案されたマーケット基準法の改定案の全体的な方向性について、スコープ2フェーズ1改定メモの第4節に示されている内容に同意するか? <ロケーション基準法について> 設問3. ロケーション基準法の排出係数ヒエラルキー 空間的な境界、時間的な粒度、排出係数の種類(消費ベース/生産ベース)に応じて、最も精緻なロケーション基準排出係数を選定するためのヒエラルキー改定を支持するか? 設問4. 最も精緻な入手可能な排出係数を使うことを必須とする 活動データも利用可能な場合、最も精緻な排出係数を使用することを必須とすることを支持するか? 設問5. 「入手可能 (accessible)」の定義 提案された「入手可能」の定義である、「公開されており無料で利用可能で信頼できるソースからのもの」を支持するか? <マーケット基準法について> 設問6. 1時間ごとのマッチングの原則について (品質要件4) スコープ2品質要件4の改定案について、マーケット基準法において使用されるすべての契約的手法が、当該契約的手法が適用されるエネルギー消費と同じ1時間に発行され償還されることを求める内容に改定することを支持するか?ただし、特定の例外のケースを除くこととする。 時間ごとのマッチングは、データの利用可能性に応じて、計測データまたはプロファイルデータ(発電量および/または消費量)のいずれかを使用して示されるものとする。 設問7A. 供給可能性の原則 (品質要件5) スコープ2の品質要件5の改定案について、マーケット基準法において使用されるすべての契約的手法が「供給可能性の原則」を満たすことを必須とする内容に賛同するか? 供給可能性とは、発電事業者が発電した電気が、消費時点において報告企業の電力供給に組み込まれる可能性が合理的にあることを意味する。 設問7B. 供給可能性についての手法 「供給可能性を示すための方法」の表に定義されている、供給可能性を示すための提案された方法を支持するか? 設問8A. 標準供給サービスの定義 マーケット基準スコープ2報告の目的における標準供給サービスの定義として、「公益的に支援された、またはデフォルトの電力供給(ユーティリティによるデフォルトサービス、政府が義務付けるクリーンエネルギープログラム、または公益事業義務の下で運営される公営施設など)」を含むことを支持するか? 設問8B. 標準供給サービスの比例配分 マーケット基準法において、報告主体は標準供給サービス電源について、その比例配分(訳注:つまり平均比率)のシェアを超える主張をできないという要件を支持するか? 設問9. 残余ミックス 「他者が自主的調達や標準供給サービス配分といった契約的手段によって主張されていない、該当する市場バウンダリ、該当する時間インターバルの電気のGHG排出原単位」という改定された残余ミックス排出原単位の定義を支持するか? 設問10. 化石ベースの排出原単位 有効な契約的手段でカバーされていない電力消費分について、かつ残余ミックス排出係数が利用できない場合には、報告者が化石燃料ベースの排出係数を適用することを要件とすることを支持するか? 設問11. 経過措置 現行の Scope 2 ガイダンスに基づき既存の長期契約が適格とされる場合、その契約が新しい1時間単位のマッチングや供給可能性要件を満たさなくても、マーケット基準法において引き続き報告できるようにする経過措置の導入を支持するか? (注:実施方法の詳細は今後検討される予定である) <影響指標- 小委員会の提案1について> 設問12. 小委員会の提案1の方向性についての指示 Scope 2 インベントリの範囲外において、調達や投資活動の排出影響を認識する補完的手法として、影響指標小委員会の提案1(通常の限界排出指標, MIM, Marginal Impact Method)のさらなる開発を支持するか? 本設問は、提案の考え方と全体的な方向性についての意見を聞くもので、この指標の報告を義務化するか任意とするかについてではない。報告要件に関する判断は、現在作成中の『排出報告(Emission Report)』フレームワークの一部として、行動・市場手法 (AMI, Actions and Market Instruments) 作業部会にて後ほど決定される。この投票は、提案1がインベントリ手法と併せて開発される補完的な影響指標として、適切な方向にあるかどうかを判断する助けとなる。 設問13. MIM (限界インパクト手法)の追加性要件 規制テスト(regulatory test)、タイミングテスト(timing test)、およびポジティブリストテスト(positive list test)または財務的追加性テスト(financial additionality test)のいずれかから構成される、草案に示された追加性基準を支持するか? 設問14. 計算手法 草案に示された計算方法—限界排出率を負荷と発電に適用し、建設時と運用時の両方の限界的な影響を含む方法—を支持するか? 設問15. 正味影響スコア 草案に示された提案、つまりは誘発された消費を削減貢献量と相殺して、正味の影響スコアを算出する、という方法を支持するか? <フェーズ1改定:マーケット基準法、ロケーション基準法、影響インパクト指標> 設問16. 全体的な方向性 ロケーション基準およびマーケット基準の改定、ならびに現在策定中の結果的影響指標小委員会の提案1を含む、フェーズ1改定の全体的な方向性を支持するか? |
| 参考3:GHGプロトコルによる2025年8月1日発表の日本語仮訳 |
| 表題:スコープ2基準の進展:ISBがマーケット基準およびロケーシ基準ョンの改定に関するパブリックコンサルテーションを承認;削減貢献量に関するセクター横断的な取り組みの開始を表明 GHGプロトコルは現在、企業向けの基準やガイダンスの改定プロセスを行なっている。これにはスコープ2ガイダンス (2015年に公表)も含まれる。 2025年7月14日に、GHGプロトコルの独立基準理事会 (ISB, Independent Standard Board) はスコープ2技術作業部会 (TWG) が提案した スコープ2改定案への投票を行い、今後のパブリックコンサルテーション期間に含めるかを決めた。パブリックコンサルテーション期間は、関係各位がこれらのテーマに関する基準策定プロセスに意見を反映させ、提案に対するフィードバックを提供する機会である。 ISBは、ロケーション基準とマーケット基準の改定案について今秋からのパブリックコンサルテーションに含むことを承認した(両基準ともに10が賛成票、1が反対票)。これらの改定には、新たな排出係数優先ヒエラルキー(訳注:使うべき排出係数の優先順位のこと)、そして新たな地域や1時間ごとのマッチング基準が含まれるが、すべてのケースで1時間ごとのデータが必要とされるわけではなく、以下に詳述するように重要な実現可能性措置が含まれている。これらの改定は、企業のスコープ2排出量(購入し消費した電気、蒸気、熱、冷却からの排出量)の算定の信頼性 (integrity) と精度 (precision) を向上させることを目的としている。ISBの投票は、GHGプロトコルが今秋から60日間実施するオンラインアンケートを通じて改定草案に関する公衆の意見を募集する準備を進める上で、重要なマイルストーンとなる。 ISBは、例えば炭素フリー電力の調達による削減貢献量といった、バリューチェーンを超えた行動の広範な気候への利益を認識することの重要性を再確認し、スコープ2技術作業部会 (TWG) が新たに開発した限界インパクト手法 (MIM, Marginal Impact Method) の提案について、セクター横断の「行動と市場手法(AMI, Actions and Market Instruments)」の検討において引き続き検討すべきであると示した。限界インパクト手法 (MIM) については、現在の形態ではスコープ2のパブリックコンサルテーションプロセスに進まないことになった(7名が、スコープ2作業部会において本件を継続することに反対の票を投じ、4名が賛成の票を投じた)。しかし、ISBはスコープ2作業部会が築いた貴重な基盤を認識し、すべてのセクター(電力セクターだけでなく)における整合性を確保するため、さらなる開発はAMI作業部会を通じて進めるべきであると決定した。この決定は、GHGプロトコルの枠組み全体における一貫性、信頼性、およびグローバルな適用性への戦略的なコミットメントを反映している。この次の段階の作業を推進するため、スコープ2のパブリックコンサルテーションでは、クリーン電力の購入による広範な気候への利益を測定する方法に関する質問が含まれ、その結果は、すべてのセクターにおける今後のガイドラインの策定に反映される予定である。 以下は、スコープ2の改定プロセスの現状に関する4つの主要なポイントである。さらにその下には、独立基準理事会がパブリックコンサルテーション期間のために承認したスコープ2の改定に関するより詳細な概要を記載する。 1. ISBの決定は、スコープ2の改定プロセスにおける重要な一歩である 今後実施されるスコープ2のパブリックコンサルテーションは、GHGプロトコル企業向け基準のセットを改定する広範な複数年計画の1つの段階である。これは重要な前進の一歩ではありるが、今後の作業が残されている。2025年後半のパブリックコンサルテーションを経て、これらの主要なスコープ2要件に関する改定案の最終版は2026年中旬までに公表される見込みである。その後、残りのテーマに関する第2回のパブリックコンサルテーションが続き、改定されたスコープ2基準の全文と企業基準セットの残りの部分の最終的な公表は2027年末公表を目標としている。パイロットテスト(訳注:実際に企業が使ってみて意見を言う)を実施するかは現在検討中で、改定プロセス中に受けたフィードバックに基づいて決定される。 短期的には、スコープ2作業部会は、パブリックコンサルテーションにおける公開に向けてロケーション基準とマーケット基準に関する改定草案(実現可能性措置を含む)の最終化を行う。電力部門における影響算定 (consequential accounting, 訳注: 削減貢献量など行動のインパクトの算定) の重要性を踏まえ、パブリックコンサルテーションには電力部門の削減貢献量 (avoided emissions)、追加性(additionality) や関連するテーマに関する質問も含まれる。収集された意見は、行動と市場手法(AMI)作業部会における次段階のセクター横断的な作業の参考となる予定である。 2. まもなく関係者はスコープ2改定草案にオープンな意見を提出できるように 私たちは、すべての関心のある関係者が今後のスコープ2のパブリックコンサルテーションに参加することを奨励している。パブリックコンサルテーションの期間に関する最新情報を入手する最良の方法は、このフォーム経由でGHGプロトコルのメール配信リストに登録することである。パブリックコンサルテーションのプロセスに関する詳細な情報は、今秋早々に提供予定だ。形式は、草案の改定文章と、その文章または詳細なトピックに関する質問を含むパブリックアンケートとなる見込みである。 3. GHGプロトコルは、スコープ2に関する設定された改定プロセスと計画を継続して進めている GHGプロトコルは、2022年11月に基準の改定作業を開始し、現在の企業向け基準セットに関する広範なフィードバックを収集するための最初のステークホルダーコンサルテーションを実施した。各基準(スコープ2を含む)の改定は、GHGプロトコル基準開発・改定手順に準拠した複数年にわたる多段階の計画に従って実施される。ISBの投票と、今後予定されているスコープ2の改定案の公表は、この計画されたプロセスに従っている。GHGプロトコルは、その活動において透明性、信頼性 (integrity)、包摂性 (inclusiveness) を徹底的に重視しており、このプロセスにおける成果形成に資するすべてのステークホルダーからのご意見に感謝している。 4. 行動と市場手法(AMI)技術作業部会(TWG)は、9月から削減貢献を量含む行動による温室効果ガス(GHG)へのインパクトの算定と報告、特に回避された排出量に関する作業を継続する 「行動と市場手法」技術作業部会(TWG)は、スコープ2技術作業部会(TWG)の進捗を活用し、関連する電力部門の専門家および他の多くの産業部門から意見を求めることで、行動による温室効果ガス(GHG)影響(削減貢献量を含む)を定量化・報告するための標準化されたセクター横断的要件と指針の開発を主導する。GHGプロトコルは、「行動と市場手法」技術作業部会(TWG)における進捗の加速を優先し、作業部会間のスケジュールを調整することを重視する。 第1段階のパブリックコンサルテーションに向けて承認されたスコープ2の改定案 <ロケーション基準とマーケット基準の改定> ロケーション基準の改定には、時間的・地理的な精度向上を優先する新たな排出係数ヒエラルキーが含まれる。ただし、このレベルの詳細さは、活動データが利用可能であり、排出係数が無料で公開されている場合のみ必要となる。マーケット基準手法の改定は、1時間ごと、そして地理的な一致の条件を入れることでクリーンエネルギー使用の主張の正確性を向上させることに焦点を当てている。ただし、1時間ごとの一致は、企業が自主的なクリーンエネルギーの主張を行う場合のみ必要とされる。 実現可能性の考慮のため、草案には小規模組織に対する免除措置、長期契約に関する経過措置、および推計された1時間ごとのデータの使用を認める規定が含まれている。これにより、企業は既に収集している年間または月間の消費データを引き続き使用し、1時間ごとの発電データと合わせることが可能となる。 さらに、新たな要件は段階的に導入され、企業とデータ提供者は数年間かけて準備と対応を行うことができる。ISBは(11人のメンバー中10人の賛成で)、これらの改定案をパブリックコンサルテーションに付すことを決定した。 <電力セクターにおける影響算定 (CONSEQUENTIAL ACCOUNTING)> 影響算定 (consequential) とインベントリ(排出実績)算定がどのように連携して機能するかを再確認するには、GHGプロトコルの2つの手法の概要を参照されたい。提案された限界インパクト手法は、影響算定 (consequential accounting) の手法を用いて、電力需要と調達におけるシステム全体の影響を定量化し、両者の値を相殺して「ネット影響」という単一の指標として報告するものである。ISBは、この新たな指標を現在の形でパブリックコンサルテーションに進めるべきではないと(11人の委員のうち7人が)投票によって決定した。 独立基準理事会 (ISB) は、削減貢献量を算定する影響算定手法の重要性を認識しており、今回の決定によって、スコープ2技術作業部会(TWG)で既に実施された作業を基盤としようとしている。ISBは、この作業を「行動と市場手法 (AMI) 技術作業部会(TWG)」において継続するよう指示した。これにより、この課題はセクター横断的なアプローチで対応可能となる(スコープ2の電力セクターのみを個別に扱うのではなく)。さらに、ISBはスコープ2技術作業部会に対し、第1段階のパブリックコンサルテーションにおいて、電力セクターのニーズをより深く理解するため、削減貢献量についてのセクター固有の質問を盛り込むよう促した。 |






