多くの国々で石炭火力発電の段階的廃止が進んでいる。気候変動の深刻化を防ぐためだけではなく、経済的に合理的であるからだ。自然エネルギー、蓄電池、先進的なパワーエレクトロニクスのコスト低下により、各国は電力網の安定性と信頼性を維持しながら石炭を代替できるようになった。一部のケースでは、さらに移行が進み、再生可能エネルギーや蓄電池、電気燃料が、他セクターでも化石燃料を置き換え始めている。
各国におけるエネルギー転換の道筋はそれぞれだ。以下では、石炭火力の段階的廃止とその代替の実例を紹介する。
英国:石炭・原子力から自然エネルギーと蓄電池へ
英国の「脱石炭」の歩みは、2017年4月大きな節目を迎えた。1880年以来初めて石炭火力による発電が全くない一日を記録したのだ。2019年には初の「石炭ゼロ週間」を実現し、2020年5月には一か月間にわたって石炭ゼロ電力となった。そして2024年9月30日、国内最後の石炭火力発電所が恒久的に閉鎖された。
この移行は、英国が2000年以降35基の原子炉のうち26基を閉鎖してきたことを踏まえると、さらに重要な意味を持つ。当初は、石炭が残した空白を天然ガスが埋めた。しかし2005年頃から、風力、バイオエネルギー、太陽光が台頭し始め、2010年までにはガスや残存する原子力を凌駕するようになった。今日では、英国は欧州で最も多くの系統連系型蓄電池を有し、手頃な価格で効果的な安定化サービスをさらに提供している。
国際連系線は、近隣諸国とのエネルギー取引を拡大させてきた。特筆すべきは、英国が2022年にフランスで原子力発電が不足した際に支援を行ったこと、そして同年の第4四半期には、通常は純輸入国であるにもかかわらず、ノルウェーへの純輸出国となったことである。
南オーストラリア州:100%太陽光・風力・蓄電池が視野に
南オーストラリア州では、同様の移行がより早期かつ広範に進んだ。屋根設置型太陽光発電と風力発電が市場シェアを拡大するなか、コスト競争力不足により最後の石炭火力発電所が2016年に閉鎖された。自然エネルギーによる電力は、2011年の30%未満から2024年には約75%に成長した。同州は2027年までに100%自然エネルギー化を目指している(上図参照)。
大規模火力発電所の故障がもはや起こり得ない状況下でも、周波数や電圧を乱す送電線障害に対応するため、電力網の安定化対策は依然として必要である。南オーストラリア州は、従来の機械的慣性に頼るのではなく、蓄電池とデジタルシステムを活用したこれらの重要なサービスの提供を先駆けて導入した。
水力発電に頼ることなく、南オーストラリア州は以下の組み合わせで電力網の安定性を維持している:
- 蓄電池による周波数調整および日内需給バランス
- 太陽光発電設備における高機能インバーター
- 静止型無効電力補償装置(Static VAR Compensators)
- 回転式同期コンデンサー(「シンコン」)
- 発電としては不要でも、系統支援のために稼働を維持するガス発電機
これらの新たな安定化技術により、2025年9月には、火力発電1基だけの稼働で、残りの電力をすべて太陽光と風力でまかなう運用が可能となった。オーストラリア電力市場運営者(AEMO)の最近の報告書では、孤立した南オーストラリア州の電力系統が、もはや火力発電所を稼働させなくても安定した系統基準を維持できるようになったと結論づけている。最後の火力発電所は2027年末までに閉鎖される見込みである。
米国:経済性と技術革新がけん引する石炭の衰退
米国における石炭の段階的廃止は、世界でも最大規模の一つである。2010年から2024年にかけて:- 石炭火力による電力は1.2ペタワット時(PWh)減少
- 化石ガスおよびその他の燃料は0.85 PWh増加
- 再生可能エネルギーによる電力は0.6 PWh増加
カリフォルニア州:ガスから蓄電池
カリフォルニア州は、石炭をほぼ完全に排除しており、自然エネルギーが州内最大の電力源となっている。かつては化石ガスが主要なバックアップとして利用されていたが、2018年以降、蓄電池の容量が急速に増加している。0.5 GWから2025年初めには15.8 GWに達し、さらに2027年までに8.6 GWの追加計画がある。これらの蓄電池は昼間に太陽光で充電され、現在では夕方や朝の需要ピーク時に電力を供給し、ガスに取って代わっている。
2025年だけで、カリフォルニア州のガス消費量は25%減少し、過去2年間では46%減少した。
全米規模では、2025年に新たに追加される電力設備容量の90%以上が、米国エネルギー情報局(EIA)によれば、太陽光、蓄電池、風力の順で占められている。
残念ながら、最近の政策の変化が障壁となっている。たとえば、トランプ大統領は、80%まで完成していた洋上風力プロジェクト(700 MW)の停止を命じ、一部の採算の合わない化石燃料発電所の継続運転を義務付けた。この動きは、消費者のコストを押し上げるとして批判されている。
その他の注目すべき移行事例:
極端な例として、ディーゼルへの大きな依存が続いているにも関わらず、北極圏の地域では、蓄電池や先進的電子技術を導入し、エネルギーシステムの近代化を進めている。
デンマーク
デンマークは、近隣諸国との強固な電力連系によって恩恵を受けており、エネルギーの柔軟性と取引利益の双方を享受している。「セクターカップリング」の先駆者でもあり、安価な自然エネルギーを利用して、プラスチックや燃料、肥料の生産における化石燃料の代替を進めている。
ドイツ
ドイツは原子力発電を完全に廃止し、2010年以降石炭使用量を60%削減した。2003年から2022年まで一貫して電力の純輸出国であり、2022年のフランスの原子力危機時には支援を行った。しかしその後、残存する化石燃料の高い限界費用のために、純輸入国となった。ドイツは11の隣接国と電力取引を行っており、2022年の純輸出量は27 TWh、2024年の純輸入量は28 TWhであった。2024年には、化石燃料フリーの北欧諸国やフランスから電力を輸入する一方で、化石燃料依存度の高い南部および東部の国々へ輸出している
スウェーデン
スウェーデンは1970年代に石油からの移行を進め、当初は石炭と原子力を利用したが、後にこれらはバイオエネルギーに置き換えられた。この移行は炭素税によって支えられた。しかし現在、政治的な障壁が新たな低コスト自然エネルギーの開発を停滞させており、産業部門の脱炭素化が遅れる可能性がある。
石炭段階的廃止から得られる4つの教訓
- ガスは橋渡しであり、最終目的地ではない。当初、天然ガスは石炭に取って代わった。しかし過去10年間で、風力と太陽光は低コストを武器に、石炭とガスの両方を次第に置き換えてきた
- 蓄電池が安定性と柔軟性を提供する。蓄電池や高機能インバーターは、ミリ秒から数日単位の時間スケールで安定性を提供し、太陽が照らず風が吹いていない時間帯でも太陽光や風力の電力を電力網に供給することができるーこれによって、需要が最も高まる時間帯のガス発電を置き換えている。
- 近代的電力網はもはや火力発電に依存しない。電子制御、蓄電池、高機能な電力網機器(インバーターやSTATCOM、VAR補償器など)によって、周波数制御、電圧安定化、ブラックスタート、無効電力の管理が可能となり、大型の回転発電機に頼る必要がなくなったのだ。
- 電気化学的技術および電気燃料は、化石燃料の代替と電力システムの長期的安定性を提供する。
結論:石炭の終結ー電力系統の安定性の向上
スペインは最近、初めて「石炭に依存しない月」(8月)を達成した。これは、自然エネルギー、蓄電池、スマート電子技術が単に環境上必要なだけでなく、経済的にも望ましいものであることを示す新たな節目である。より多くの国々がこの道を歩めば、電力部門は気候安定への脅威ではなく、その解決策となる。




