ドイツのソーラーシェアリングが急速に増加している。2021年の累積導入量は60MW(メガワット=1000キロワット)だったのに対して、2023年は6倍の360MWに拡大した。太陽光パネルの下で農作物を栽培するソーラーシェアリングは、農作物の日焼けを防ぎ、土壌の水分の蒸発を緩和するなど、気候変動から農作物を守る効果に期待が集まっている。ドイツ政府は農業を優先し、安全に設備を設置するための法的規格を2021年に定めた。さらに通常の地上設置型の太陽光発電よりも電力の買取価格を高く設定する優遇策を導入した。州政府や研究機関などが連携して、国の規格に沿った大規模な実証実験も全国各地で始まっている。
導入ポテンシャルは1700GW、2030年までのロードマップを政府が策定
ドイツで最初のソーラーシェアリングは2004年に試験的に導入された。そこからほとんど導入量は伸びなかったが、2020年ごろから急速に導入量が増えた。研究機関のFraunhofer ISEによると、2021年から2023年の3年間で6倍の規模に拡大し、2023年末時点の累積導入量は約360MWになった。同機関の試算では、ドイツ国内のソーラーシェアリングの導入ポテンシャルは1700GW(ギガワット=100万キロワット)にのぼり、導入拡大の余地は膨大に残っている。このポテンシャルはドイツの主な農作物である穀物を対象に算出しており、それ以外に牧草や果樹なども含めるとさらに大きくなる。
ドイツ政府は「ドイツ連邦再生可能エネルギー法(EEG)」を2023年に改正し、2030年の電力に占める自然エネルギーの比率を従来の目標の65%から80%に引き上げた。太陽光発電の導入量は2030年までに累積で215GWを目指す。2023年の時点では83GWであり、7年間で3倍近い規模に増やす計画である。
導入拡大の具体的なロードマップとして、ドイツ連邦経済・気候保護省は2023年に「太陽光発電戦略」を公表した。同戦略では太陽光発電を増やすために、これまで積極的に設置を進めてこなかった農地や水上、駐車場への導入拡大を図る。農地を活用するソーラーシェアリングに対しては主に3つの方針を定めた。1. 経済的な優遇策の導入、2. 許認可手続きの迅速化などの規制緩和、3. 優先的な系統接続、である。
ドイツでも気候変動の進展と農業にもたらす被害が顕著になってきた。国土に占める農地の面積は47.5%もあり、そのうち7割以上で小麦や大麦を中心とした穀物を栽培している(表1)。これらの作物は暑さに敏感である。気候変動に起因する高温障害によって、品質と収穫量の低下を引き起こすことが問題になっている。
表1 ドイツと日本の比較(2023年)
出所:各種政府資料をもとに自然エネルギー財団が作成
特に深刻なのは降水量の減少だ(図1)。ドイツでは年間降水量が減少傾向にあり、作物の生育にとって重要な春の降水量が著しく減少している。それによって土壌の水分量が減少し、作物の生育に悪い影響を与えている。
一方で日射量は世界的に増えており、ドイツでも同様の傾向が見られる。ソーラーシェアリングを実施することによって、作物や土壌を太陽光パネルで部分的に覆うことができる。作物の日焼けを防ぎ、土壌の水分の蒸発を軽減する効果が期待されている。日射量が増えていることは、発電電力量を増加させる観点から、ソーラーシェアリングのメリットを高める。
図1 ドイツの降水量と世界の日射量の推移(1991年~2020年)
法的枠組みを2021年に整備、発電設備をタイプ別に規格化
ドイツでは穀物栽培や園芸、放牧など幅広い農業を実施していて、ソーラーシェアリングの対象は広い。政府は太陽光発電設備の設置方法や農作物の種類・特徴をもとに、ソーラーシェアリングの法的規格「DIN SPEC 91434」を2021年に定めた(図2)。この規格では開放型と閉鎖型の2種類に大別する。開放型は日本でよく見られる藤棚型や垂直型で、閉鎖型は主に農業用ハウスが該当する。
図2 ドイツのソーラーシェアリングの分類
規格を策定することで、ソーラーシェアリングの事業者が安全に設備を建設できるようにするとともに、適切な営農を促す。DIN SPEC 91434では太陽光パネルの設置形態によって、CategoryⅠとCategoryⅡに分類する(図3)。
図3 「DIN SPEC 91434」が定めるソーラーシェアリングのカテゴリー
CategoryⅠは、太陽光パネルの下で営農する藤棚型のソーラーシェアリングで、図3のAに該当する。地表からパネル最上部までの高さは最低2.1m必要で、土地の損失は10%未満に抑えなければならない。土地の損失率は、農地全体のうちソーラーシェアリングによって耕作が不可能になるエリアの比率である。
CategoryⅡは、太陽光パネルの間で営農する空間利用型で、図3のBとCに該当する。設備によって要件は異なるが、基本的には地表からパネル最下部までの高さは2.1m以下、パネル最上部までの高さは2.1m以上が必要である。土地の損失は15%未満に抑えなければならない。
農地の有効活用を前提とするソーラーシェアリングでは、農作物の収穫量を一定以上の水準で確保することが望ましい。単収(一定面積あたりの収穫量)がどのくらいになるのか、ソーラーシェアリングを実施していない場合と比較する方法が一般的だ。ドイツではソーラーシェアリングの単収の要件をCategory IとIIともに66%以上に定めている。
ソーラーシェアリングの導入が進む他の欧州各国も法的枠組みを整備しており、国によって基準が違う(表2)。単収要件に着目すると、フランスは90%、スペインは60%、イタリアは未設定である。欧州各国の単収要件は、同じ農地内あるいは隣接する農地で、農地面積や土壌成分などが同じ条件のもとで太陽光パネルを設置せずに栽培した作物の収穫量と比較する。
EU(欧州連合)では、共通農業政策(CAP)の所得補償を受けている農家に限り、営農状況を3年に1度、EUに報告する義務がある。CAPの所得補償を受けていない農家は、現行制度上は営農状況を報告する義務を負わない。CAPはEU域内共通の農業政策で、農家の所得を安定させるための直接支払いなどの制度を設けている。単収要件を下回った場合の罰則規定はないが、今後EUでは制度的な課題として規定の見直しを検討する予定だ。
表2 欧州各国と日本が定めるソーラーシェアリングの基準
日本のソーラーシェアリングの制度は、農地法で定めている。同法では、土地の損失の規定はない。単収要件は80%だ。単収要件の考え方は欧州と異なり、同じ地域内の平均的な収穫量と比較する。欧州では同じ農地内で太陽光パネルを設置していないエリアの収穫量と比較するため、太陽光パネルの影響をより正確に比較できると考えられる。日本の制度でも収穫量の比較方法を見直す必要がある。
小規模なソーラーシェアリングには買取価格を上乗せ
ドイツ政府はソーラーシェアリングの法的枠組みの整備と同時期に、経済的な支援策を開始した。EEGにもとづく入札制度で、通常の地上設置型の太陽光発電よりも高い入札上限価格を設定して、導入のインセンティブを高める。ソーラーシェアリングの発電コストは地上設置型の太陽光発電よりも高くなることが一般的だ。設置方法によって発電コストに幅はあるが、ソーラーシェアリングの方が高い傾向にある(図4)。
発電コストが高い原因の1つは、架台のコストだ。ソーラーシェアリングは太陽光パネルを地上から数mの位置に設置する。支柱を数多く使うため、地上設置型の太陽光発電に比べて、鉄やアルミニウムなど資材の費用が高くなる。
図4 ドイツの太陽光発電コストの比較
ドイツで太陽光発電を実施するためには、原則としてEEGに基づく入札制度に参加する必要がある。入札は年に3回実施して、認定機関の連邦ネットワーク庁が入札の上限容量と上限価格を毎回設定して公開する。
地上設置型の太陽光発電と特殊な用途の入札枠を分けるために、特別入札枠「Innovation Tender」を2021年に設置した。対象はEEGが規定する「Special facility」に指定する発電設備である。ソーラーシェアリング、水上型、カーポート型などが該当する。
Innovation Tenderの入札では、地上設置型の太陽光発電よりも高い上限価格を適用する。直近の入札では、地上設置型の上限価格が6.8ユーロセント/kWh(2025年7月1日)に対して、Innovation Tenderの上限価格は9ユーロセント/kWh(2025年5月2日)である。落札したプロジェクトは20年間、入札時に決定した金額を固定価格で受け取ることができる。
最新の入札結果を見ると、募集容量が450MWに対して、実際の入札量は486MWにのぼった。連邦ネットワーク庁は着実な導入拡大を実現するために、将来の入札募集容量も公開している。2025年を含む5年分を公開しており、2026年は1200MW、2027年は1500MW、2028年は2000MW、2029年は2075MWの予定だ。
EEGが規定するSpecial facilityのうち、1MW以下の小規模の発電設備や、発電事業者が電力需要家とPPA(電力購入契約)を結ぶ場合、あるいは全量を自家消費する場合には入札の対象外だ。いずれも固定価格買取制度(FIT)の対象になり、20年間にわたって固定価格による買取が保証される。さらに技術ボーナス(Technology bonus)を受け取ることができる。
技術ボーナスはInnovation Tenderの入札上限価格からFITの買取価格を引いて算出する。最新の入札上限価格は9ユーロセント/kWh、FITの買取価格は8.1ユーロセント/kWhであるため、0.9ユーロセント/kWhが技術ボーナスとして与えられる。最終的な支給額は、入札上限価格9ユーロセント/kWhに0.9ユーロセント/kWhの技術ボーナスを加えて、9.9ユーロセント/kWhになる。技術ボーナスは固定価格で20年間支給する。
規格に沿った大規模な実証事業を全国に展開
ドイツの州政府や民間の研究機関、大学など多様な主体が、DIN SPEC 91434に準じて大規模な実証事業を全国各地で展開している。10カ所以上で実施中で、最も大きな発電設備の規模は5MWを超える。実証事業を通じて、地域ごとに適した農作物や発電設備の設計方法を明らかにすることが狙いだ。
実証事業の1つとして、研究機関のFraunhofer ISEが南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州(Baden-Württemberg)のクレスブロン(Kressbronn)という地域で、リンゴ農家と共同で2022年に実証事業を開始した。クレスブロンはリンゴの生産が盛んだ。0.4haの農地で「Gala」という品種のリンゴを栽培している(写真)。
写真 クレスブロンのリンゴ農園
リンゴの木が1300本植えてあり、年間の収穫量は約300t。地元のリンゴ農家であるフンボルト氏が営農しながら発電設備を保有・運営する。発電した電力は地元の小売電気事業者と5年間のPPAを締結して全量を売電している。
藤棚型のソーラーシェアリングで、DIN SPEC 91434のCategoryⅠに該当する。設備容量は239kW。支柱間の幅は3mで、太陽光パネル下部までの高さは4.3mある。透過度の異なる2種類の半透過型パネル(40%と51%)を採用した。透過度がリンゴの収穫量と品質に与える影響を調べるためだ。さらに太陽光パネルの下に温度や湿度などを測定する環境センサーを設置して、農地のマイクロクライメイト(地表面から地上1.5m程度の大気層の気候)に対する影響についても調査する。
クレスブロンは冬に雹(ひょう)が降る。リンゴ農家は雹からリンゴの実を保護するために、専用の棚を設置し、果樹全体をビニールシートで覆わなければならない。ソーラーシェアリングの場合には、太陽光パネルがリンゴの上部を覆うため、リンゴの実を雹から守ることができる。雹対策の棚とビニールシートの設置にかかる経費を削減する効果もある。DIN SPEC 91434では太陽光パネルが雹に耐えられる強度を有することを求めている。これまでのところ実証実験では太陽光パネルの破損は発生していない。
太陽光パネルは雨除けの役割も果たす。リンゴは雨にさらされると、黒星病(果実に斑点がつき実が割れる)や腐らん病(樹皮が腐敗して枯れる)にかかるリスクが高まる。これらの病気にかかるリスクを低減するために、通常は農薬を散布する。ソーラーシェアリングであれば、太陽光パネルが果樹の上部を覆うため、果実や葉に雨がほとんど当たらない。農薬の使用量を減らすことができ、経費削減と環境負荷の低減につながる。
ドイツ各地の実証事業の研究結果が公表されるのはしばらく先の予定だ。適切な遮光率や設備設計、農地のマイクロクライメイトへの影響など、研究結果が待たれる。
Fraunhofer ISEはソーラーシェアリングを普及させるうえで重要な点を3つ挙げている。
1. 作物ごとに適した遮光率
2. 地域の気候に適した設備の設計
3. 農地のマイクロクライメイトにもたらす影響
これらの点をデータに基づいて示すことができれば、農家や行政が安心してソーラーシェアリングに取り組むことができるようになるだろう。これまでに蓄積した知見から、ドイツのソーラーシェアリングに適した作物はある程度明らかになっている。たとえばレタスなどの葉物野菜やベリーなどの果実、アスパラガスやホップなどの作物は、遮光率が高くても収穫量と品質を維持できることがわかった。
じゃがいもや小麦などの穀物は、暑くて乾燥した年には、太陽光パネルの日陰が作物の日焼けや土壌水分の蒸発を防ぎ、パネルを設置していない農地の収穫量と比べて高い収穫量が確認された。しかし降水量の多い年には、収穫量が20%ほど減少することもあった。これらの結果を受けて、遮光率を下げたりパネルの向きを調節したりすることによって、収穫量の減少を抑える効果を確認できた。
ドイツではソーラーシェアリングに対する反対運動は今のところ確認されていないが、社会的な受容性が低下しないように、導入拡大を慎重に進めていく必要がある。市民や自治体など主要な利害関係者の理解を醸成し、将来に起こりえるトラブルを事前に防ぐことが重要である。
ドイツのカールスルーエ工科大学(Karlsruhe Institute of Technology)のInstitute for Technology Assessment and Systems Analysis (ITAS)は、実証事業を実施する南部のコンスタンツ湖地域の近隣住民を対象にワークショップを開催して、ソーラーシェアリングが社会に受け入れられるための5つの要件を抽出した。
1. 作物の熱ストレス軽減など、相乗効果が見込める土地で実施する。
2. 食料の生産を義務づける。
3. 蓄電池を併設し、地域エネルギー会社と連携することで、発電した電力を地域内で利用する。
4. 設備の規模と密度を制限し、住宅地との最小距離を定義する。
5. レクリエーションや景観への影響を最小限にとどめる。
ドイツでは州政府や民間の研究機関など多様な主体が連携して、ソーラーシェアリングの導入拡大を進めている。導入規模を拡大するだけではなく、地域ごとに適した作物の選定や設備設計、土壌に与える影響などを科学的に調査し、知見を蓄積しているところだ。
日本でもソーラーシェアリングのポテンシャルは大きい。全国各地で成果を上げるプロジェクトが増える一方、収穫量や発電コストに悩む事業者も少なくない。ドイツの事例を参考に、政府や自治体は大学などの研究機関と連携して、より効率的で生産性の高いソーラーシェアリングの普及に取り組むことが求められる。




