日本政府は2025年2月18日に閣議決定した第7次エネルギー基本計画で、今後のエネルギー政策の方向性を示した。前回の第6次の計画では原子力発電に対する依存度を可能な限り低減することを公約したが、第7次では一転して最大限に利用することを宣言した。表現の違いはあるものの、いずれの計画を見ても原子力発電の比率は高すぎる。第6次では2030年度に20~22%、第7次では2040年度に20%の目標を掲げた。この想定が現実的かどうかを示すことが本コラムの目的である。
日本の原子力発電の先行きを予測するために、全国各地の原子炉の最新の状況をもとに、「低位」「中位」「高位」「最大」の4通りのシナリオを想定して分析してみた。その結果、2030年度と2040年度の国の目標は、究極とも言える「最大」のシナリオでしか実現できないことが明らかになった。国全体の発電電力量に占める原子力の比率は、合理的な「中位」のシナリオで算出すると、2030年度に12%、2040年度に7~8%にとどまる。
運転可能な状況にはない原子炉が6割以上
日本には2025年3月14日の時点で、合計33基の原子炉があり、設備容量は33GW(ギガワット=100万キロワット)にのぼる。さらに建設中の原子炉3基を加えると、36基で37GWの設備容量になる(図1)。このほかに、すでに廃止になった原子炉が26基ある。
図1:日本の原子炉の状況(2025年3月14日時点)

既設の33基の原子炉のうち、14基(13GW)が再稼働した。いずれも2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を受けて設けられた安全性に対する新規制基準に適合した原子炉である。この14基の半数の7基は40年を超えて運転することが認められている。その中で最も古い原子炉は高浜発電所の1号機で、設備容量は826MW(メガワット=1000キロワット)、運転開始から50年を経過している。
既設の原子炉のうち3基(4GW)は再稼働の認可を受けているものの、実際には再稼働していない。柏崎刈羽原子力発電所の6号機と7号機(それぞれ1356MW)と東海発電所の2号機(1100MW)である。柏崎刈羽の2基は地元の反対があるほか、テロ対策施設(特定重大事故等対処施設)の建設完了が2029年8月(7号機)と2031年9月(6号機)にずれ込む見通しだ。東海2号機は新規制基準の安全対策を2026年12月に完了する予定である。
このほかに8基の原子炉(8GW)が再稼働を申請中だ。ただし志賀原子力発電所の2号機(1206MW)と敦賀発電所の2号機(1160MW)は困難に直面している。2024年1月1日に、能登半島地震が志賀原子力発電所を襲った。地震帯の影響を判断できるまでに何年かはかかるとみられる。一方の敦賀発電所2号機は直下に活断層があるため、原子力規制委員会から再稼働を認めない不許可処分を2024年11月13日に受けている。
既設の原子炉で残る8基(8GW)は、運転を停止して10年以上を経過しているにもかかわらず、新規制基準の適合審査を申請していない。この8基の再稼働は極めてむずかしい状況にある。特に柏崎刈羽1~5号機(それぞれ1100MW)のうち少なくとも1基は、6号機と7号機を再稼働させた場合には廃止が求められている。
建設中の原子炉に関しては、大間原子力発電所(1383MW)と島根原子力発電所の3号機(1373MW)が新規制基準の適合審査を申請済みで、2030年度あたりに稼働する可能性がある。東京電力ホールディングスの東通原子力発電所の1号機の建設工事は、時期未定のまま延期された状態だ。この原子炉は格納容器下部のコンクリート部分(ベースマット)の基礎工事に着手していないことから、国際原子力機関では建設中の状態にあるとみなしていない。
不確実な状況を想定した4つのシナリオで分析
日本の原子力発電の今後を予測するためには、さまざまな状況にある原子炉を対象に、適切なシナリオを想定する必要がある。このコラムでは、「低位」「中位」「高位」「最大」の4つのシナリオを設定する。それぞれのシナリオの要件を表1に示す。
表1:日本の原子力発電の想定シナリオと要件

(2) 敦賀2号機は2024年11月13日に原子力規制委員会から申請の不許可処分。
(3) 柏崎刈羽1~5号機のうち少なくとも1基は、6・7号機の再稼働に伴って廃止対象。
(4) 東京電力の東通1号機は2011年3月11日に建設工事を中断。
以上のシナリオに関して、重要な点を説明する。
- 再稼働日(既設の原子炉):これまでに再稼働した14基の実績をもとに、認可を受けた原子炉は認可から3年後に、申請中の原子炉は申請から6年後に、それぞれ再稼働すると想定。中位・高位・最大のシナリオでは、認可済み・申請中の原子炉は2030年4月1日に再稼働。最大のシナリオでは、未申請の原子炉が2040年4月1日に再稼働。
- 稼働日(建設中の原子炉):大間と島根3号機は2030年度あたりに稼働する可能性がある。高位・最大のシナリオでは、2030年4月1日に稼働。最大のシナリオでは、東京電力の東通1号機が2040年4月1日に稼働。
- 建設中の原子炉を除いて新設なし:小型モジュラー炉など新しいタイプの原子炉は建設・運転の実績が乏しく、建設地も決まっていないことから、2040年度までに運転を開始できる可能性は極めて小さい。いずれのシナリオにおいても、新設を想定しない。
- 原子炉の運転期間と期間延長:日本では原子炉の運転ライセンス40年、さらに20年の延長が可能。加えて外部の要因で長期間の運転停止が生じた場合には、停止した期間を除外できる。たとえば地震の影響や安全対策などで10年間の運転停止があった原子炉は、合計で70年の運転期間が認められる。ただし世界で60年の運転を続けた原子炉は1基もない。最長はスイスのBeznau発電所の1号機 (380 MW)で、現時点で55年である。この点も考慮して、低位と中位のシナリオでは運転期間を60年、高位と最大のシナリオでは60年に長期の運転停止期間を追加。
- 設備利用率:再稼働した原子炉の設備利用率(設備容量×時間に対する実際の発電電力量の比率)は、2016年から2023年までの8年間で平均73.8%だった。低位のシナリオでは70%、中位のシナリオでは75%、高位と最大のシナリオでは80%を想定。
原子力の発電電力量は政府の目標を下回る予測
4つのシナリオをもとに、2024年度から2050年度までの原子力発電の設備容量を推定した(図2)。本コラムでは2030年度と2040年度に焦点を当てて、政府の目標と比較する。2041年度から2050年度の推定は参考情報である。
図2:日本の原子力発電の設備容量の予測

具体的に見ていくと、低位のシナリオでは2028年度から減少を続けて、2045年度にはゼロになる。中位のシナリオでは、2024年度の13GWから2030年度には17GWに増加する予測だ。2030年代に入ると、原子炉の運転期間の終了が相次いで、2040年度には13GWまで減少する。
高位のシナリオでは、2030年度の設備容量は25GWに増加する。現時点で運転期間の延長認可を受けていない原子炉を含めて、合計25基が60年を超えても運転する想定だ。2045年度までは廃止する原子炉が1基もなく運転を続けることが前提になる。
最大のシナリオでは、2030年度に28GW、2040年度には36GWまで増加する。このシナリオでも、2045年度末まで原子炉の廃止は起こらない。
以上の予測をもとに、原子力発電が国全体の発電電力量に占める比率を算出した(図3)。日本政府が想定している国全体の発電電力量は、2030年度に9340億kWh(キロワット時)、2040年度に1.1~1.2兆kWhである。
図3:日本の電源構成における原子力発電の比率

出典:自然エネルギー財団が作成
最大のシナリオを除くと、2030年度の20~22%、2040年度の20%の目標には届かない。
25基の原子炉が設備利用率80%の高さで運転する高位のシナリオでさえ、2030年度の目標にわずかに届かない。それぞれの原子炉が60年以上の運転を続けても、2040年度にはギャップが広がり、目標を4~5ポイント下回る。
最大のシナリオだけが2040年度の目標を達成できる。33基の既設の原子炉のうち32基が稼働して(柏崎刈羽1~5号機のうち1基を除く)、すべてが60年を超えて運転を続け、3基の新設の原子炉も稼働を開始し、合計35基の原子炉が設備利用率80%の高さで運転する状態だ。このような想定は、現実から大きくかけ離れていると言える。政府の目標達成がどれほど困難であるかを表している。
この結果は大きな問題点を喚起する。もし自然エネルギーの発電電力量が政府の野心的ではない目標(2030年度に36~38%、2040年度に40~50%)を超えなければ、日本では脱炭素の電力が大幅に不足することになる。
原子力発電が期待どおりに拡大しない状況の中で、自然エネルギーは拡大の余地が十分にある。政府が将来の電源構成の目標を見直すことによって、自然エネルギーのポテンシャルを最大限に生かすことが可能になる。