消費者にとっての自然エネルギーの経済的効果

木村 啓二 大阪産業大学 経済学部国際経済学科 准教授 / 自然エネルギー財団 特任研究員

2024年9月18日

 2011年に東京電力福島第一原発事故 がおき、その後にFIT法1が成立・施行され、日本の自然エネルギーが本格的に普及し始めた。この間自然エネルギーをめぐる経済面での議論は自然エネルギー電源からの電気の買取価格や買取費用を補填するための賦課金についての議論、すなわちコストに関する議論が多かったように思われる。他方、自然エネルギーの有益性といえば環境面でのメリットや自給率向上といったエネルギー安全保障のメリットが強調されるものの、その経済面での有益性については多くは語られてこなかった。

 しかしながら、当然に自然エネルギーは経済的有益性も有しているので 、それらについて評価することも重要である。そこで、本コラムでは特に電力消費者にとってどのような経済面の有効性があるのかを検討していきたい。同時に、その定量的な評価についても筆者が執筆した論文を援用しながら簡単に紹介する。

1. 消費者にとっての2つの経済的効果

 自然エネルギーの導入拡大が進むことでもたらされる経済的効果2には様々なものがあるが、ここでは消費者にとって有益となる経済的効果を紹介する。

  1. ① 価格低下効果:市場の電力価格を低下させる。
  2. ② 発電設備代替効果:他の発電設備を減らすことができる。

 まず①電力価格低下効果はいわゆるメリット・オーダー効果と呼ばれるものである。これは価格が自然エネルギーの増加によって下がる効果のことを言う。電力の価格低下効果を理解するには価格の決まり方を理解する必要がある。価格は、30分単位ごとの電力買い手と売り手の入札によって決まる。電気の買い手は欲しい電気の量(需要)と買値を入札する。買値が高い買い手の需要から並べられていき、それが需要曲線となる(図1のD)。一方、売り手は売りたい電気の量(供給)と売値を入札する。売値が低い買い手の供給から並べられていき、これが供給曲線となる(図1のS)。この需要曲線と供給曲線が交差する点、すなわち買値と売値が一致する点で価格が決まる(図1a のP1)。


図1 卸電力市場における価格の決まり方とメリット・オーダー効果

 売り手である発電事業者が入札する売値は、原則として発電所の燃料費等が関係している。燃料費は発電所によって大きく異なる。太陽光発電や風力発電の燃料費はゼロであり、原子力発電は燃料費が安価である。火力発電のなかでも石炭の燃料費が安く、石油が高い。このことから、一般的に太陽光・風力などの自然エネルギーの多くは通常ゼロ円で入札していく。このようなゼロ円入札の電源が増えていくと、供給曲線が右に移動し(図1bのS2)、燃料費の高い(=売値の高い)火力発電は落札されなくなる。結果、より燃料費の安い発電所の売値で価格(図1bのP2)が決まるようになる。比較すると価格はP1からP2に下落しており、これが自然エネルギー普及拡大による電力価格低下効果である。

 ②は、自然エネルギーの普及拡大により他の発電設備を減らすことができる効果である(電力需要が増えていれば他の発電設備を作らなくてよくなる)。自然エネルギー電源が増えることで、電力需要を満たすのに必要な他の発電設備がいくらか不要になる。これらの不要になった発電設備の建設費や維持費が節約されるのである。発電設備の建設費や維持費が不要になれば、消費者の支払う電気料金も低下していくことになる。 ここでは、自然エネルギーがなければ供給不足におちいってしまう電力エリアの不足供給力を自然エネルギーの発電設備代替効果として計上する。ただし、これは最低限の評価である。本来であれば、すべての時間の需要に対して自然エネルギーが供給した量を差し引き、全体として他の発電設備がどの程度不要になるかを評価すべきであろう。

2. 消費者への経済的有益性の計算

■2.1 計算方法の概要

 2018年度の供給電力量(送電端)は892テラワットアワー(TWh)であり 、そのうち自然エネルギー(太陽光・風力・バイオマス)は73TWhであった(供給量の8.2%)3 。この自然エネルギー電気の供給により消費者にどれほどの有益性があったのか。ここでは、木村・分山(2024)を参考にその試算結果を示す。

 それぞれの計算方法については表1に簡易的に示しており、詳細は木村・分山(2024)を参照いただきたい。①では、2018年度の実績に基づいた自然エネルギーがある場合(A)とない場合(B)の供給曲線をそれぞれモデル化し、2018年度実績の需要からそれぞれの場合の価格を推計している。Aの場合の価格とBの場合の価格の差分が価格低下効果になる。各時間の価格低下効果を電力量で乗ずると、価格低下効果の年間の総額が計算される。

 ②については、①の自然エネルギーがない場合(B)に供給力が足りなくなるエリアが出てくることから、この不足供給力を補うために必要な供給力を廃止された火力を維持することでまかなう想定とする。このとき、それら火力の維持費を②とみなす。

 なお、ここで自然エネルギーとは水力・地熱を除いた太陽光・風力・バイオマスの3種類とする。水力・地熱については、FIT開始前から導入が進んでおり、かつ制度開始後も大幅な導入が進んでいないからである(つまり非FIT電源がほとんどである)。また、ここでは送電量で評価しており、自家発・自家消費分は含まれていない。

表1 計算の考え方


■2.2 計算結果

 2018年度における自然エネルギーの価格低減効果・設備代替効果を計算した結果が表2である。

表2 自然エネルギーの経済効果の計算結果(2018年度)

 2018年度の価格低下効果は1兆円を超えている。電力エリアごとに価格低下効果が異なるものの、自然エネルギーが存在することで価格がおおむね1円/kWh下がっていることが示された(木村・分山, 2024, p.48)。これは電力消費者にかなり大きな効果をもたらしていることがわかる。設備代替効果については100億円程度であるものの、前述のとおり最低限の評価である。これらを総合して、2018年度には自然エネルギー電気が少なくとも1兆円を超える費用節減を消費者にもたらしていたと評価されるのである。

 この自然エネルギーの電気の供給による経済的有益性は近年さらに大きくなっているであろう。2018年度には自然エネルギーの供給量がまだ少なく、また化石燃料の価格も2023年度に比べて安価であったからである。特に近年の化石燃料価格の上昇や円安が日本のエネルギーコストを大幅に引き上げている。こうしたことを踏まえると、価格低下効果について適切な評価を定期的に行っていくことが求められる。公平な自然エネルギーの経済評価を行うためには、費用論のみならず経済的効果の議論も併せて行っていく必要がある。

  • 1正式名称:電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法
  • 2ここでは再生可能エネルギー電気の限界的な増大による卸電力市場や電力設備に対する影響のみを考慮する。送配電設備に与える影響・その他外部性の評価は除外する。
  • 32018年度の供給電力量の数値は、各一般送配電事業者が公表している「エリア需給」データより集計したものである。したがって、本数値には太陽光発電の自家消費電力の貢献分が含まれていない。
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<参考文献>
・木村啓二・分山達也(2024)「メリット・オーダー効果を考慮した再生可能エネルギー普及の純消費者負担額推計」『大阪産業大学経済論集』Vol. 25, No. 2・3, pp.39-52.

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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