国土が日本の9%のオランダ、太陽光発電の年間導入量が世界トップ10に

塚本 悠平 自然エネルギー財団 研究員

2024年5月31日

 国土面積が日本の1割にも満たないオランダで、太陽光発電が急速に拡大している(表1)。発電電力量は過去10年間で70倍に増加し1、新規導入量は2022年に世界第10位の3.9GW(ギガワット=100万キロワット)に達した(表2)。導入拡大を支えるのは、政府による3つの施策である。(1)住宅の太陽光発電導入を促す制度、(2)太陽光発電事業・研究開発への資金支援、(3)新築・既存建物への太陽光発電の設置義務化(導入検討段階)。一方で出力抑制の増加が課題で、政府が送電網の増強や蓄電池の配備を進めている。

表1 オランダと日本の比較(2022年)

TWh:テラワット時(10億キロワット時)、GWh:ギガワット時(100万キロワット時) GW:ギガワット(100万キロワット)
出典:各種政府・国際機関の資料をもとに自然エネルギー財団が作成


表2 太陽光発電導入量の上位10カ国(2022年)

出典:IEA PVPS Snapshot 2023をもとに自然エネルギー財団が作成

ネットメータリング制度の導入効果、全住宅の1/3に太陽光パネル搭載

 オランダ政府は2019年施行の「The Climate Act」2において、温室効果ガスを2030年までに1990年比で49%(55%への引き上げを検討中)、2050年までに95%削減することを目標として掲げた。2022年時点では31%を削減した3。自然エネルギーの導入目標については、2050年までに電力の100%を自然エネルギー由来に転換することを掲げている。2022年時点では太陽光発電と風力発電を中心に全体の40%を占める状況だ(図1)。

図1 オランダの電源構成(発電電力量ベース、2022年)

出典:IEAウェブサイトをもとに自然エネルギー財団が作成

 2022年の太陽光発電の年間導入量は過去最大だった。そのうち約半分(1.8GW)を住宅が占めた。2010年までは住宅の累積導入量は20MW(メガワット=1000キロワット)にとどまっていたが、2011年から導入拡大ペースが速まり、2022年には6.8GWまで拡大した。住宅全体(約800万戸)の1/3に太陽光発電が搭載されるに至った。オランダ政府が電気法に基づいて、2004年からネットメータリング制度への参加を電力会社に義務づけたことが、住宅への導入拡大の背景にある。

 ネットメータリングは、住宅に設置した太陽光発電の発電電力量が電力使用量を上回った分だけ、電力使用量から電気料金が差し引かれる。住宅に電力を供給する小売事業者が本制度を運用することから、住宅オーナーにとっては事務的な負担が少なく、制度を利用するハードルが低いことが特徴だ。以前は余剰電力を系統へ流す逆潮流の上限を年間3000kWh(キロワット時)に限定していたが、2011年に5000kWhまで引き上げてから設置容量を増加させる機運が高まり、導入ペースの上昇につながった。

 本制度は2027年まで継続する予定である。オランダの人口と住宅数は増加傾向にあることから、太陽光発電の導入量が一層高まることが期待されている。

自然エネルギー事業への資金支援、2022年に太陽光発電2.3GWを認定

 オランダ政府は2011年に、持続可能なエネルギー転換スキーム(オランダ語の略称でSDE)4を創設し、太陽光発電を含む自然エネルギー開発への資金支援を進めてきた。SDEは競争入札を基本とする補助金制度である。創設当初は支援対象を自然エネルギーの分野に限定していたが、2022年からはSDE++という名称に変更して、自然エネルギー由来の発電・熱・ガス事業に加えて、CCS(二酸化炭素回収・貯留)をはじめとする温室効果ガスの排出削減技術にまで拡大した。

 対象となる設備容量や支援期間は事業によって異なる。太陽光発電の場合は設備容量の下限と上限がそれぞれ15kW(キロワット)と20MW、支援期間は12〜15年(設備容量や設置方法ごとに異なる)である。補助額についても事業によって異なるが、いずれも「(基準価格-補正価格)×生産量」という算定式に基づいて決定する。支援期間を通して固定する基準価格から、市場価格など支援期間中に想定できる収入の2/3に基づいて設定する補正価格を差し引いた値に、生産量を掛けた額がプレミアムとして与えられる。市場価格の低下によって減少する収入をSDE++が補償する仕組みだ。補正価格には基準エネルギー価格という下限が設定されており、補助金の過剰な付与を防いでいる。

 本制度を通じて、2022年には2.3GWの太陽光発電開発プロジェクトが申請・認定された5。その内訳は、1.3GWが大規模な商用施設の屋根上、1GWが地上、38MWが水上である。2022年の新規導入量のうちSDE++認定分が過半数を占めており、導入拡大に大きく貢献している。2025年以降も制度を継続する予定だ。

 太陽光発電の技術開発にも資金支援の制度がある。オランダ国家成長基金(National Growth Fund)6は、2021年から5年間で3億1200万ユーロ(527億円、1ユーロ=169円換算、2024年5月20日時点)を拠出する7。同基金では特に3つの領域に注力する。(1)高効率シリコン・ヘテロジャンクション・セル8の生産拡大、(2)ペロブスカイト型太陽電池9の研究開発、(3)建材一体型太陽電池や車載太陽電池の研究開発。このうち高効率シリコン・ヘテロジャンクション・セルは高温に強く、変換効率が高い点が特徴だ。2026年までに3GWの生産体制の確保を目指す。ペロブスカイト型太陽電池は発電効率を30%以上に引き上げることに加えて、20年間稼働した段階の発電効率の低下率を20%以下に抑えることを目標に掲げている。

新築・既存建築物の太陽光発電、国が設置義務化へ

 建築物の脱炭素化を推進するオランダ住宅・空間計画(VRO)担当大臣は、2024年内に予定されている「EU建築物エネルギー性能指令(EPBD)」の改正10と「欧州屋上太陽光イニシアティブ(ESRI)」11の開始に備えて、2023年10月にオランダ下院へ太陽光発電政策提言書「Solar Letter」12を提出した。EPBDの改正案では、2030年までに新築の住宅・非住宅に対して、化石燃料由来の温室効果ガス排出をゼロにすることが義務付けられる。加えてESRIでは、建築物への太陽光発電の設置義務化が段階的に課される。

 Solar LetterではEUの政策変更に対応して、建築物への太陽光発電の設置義務化を提案している。すでに住宅の太陽光発電導入は一定の成果を挙げているが、新築・既存ビルなどの非住宅も含めた建築物全体へ導入を拡大する狙いだ。設置義務化を実施する時期と対象については、ESRIの基準を採用する方針である(表3)。

表3 オランダの太陽光発電の設置義務化案

出典:オランダ政府資料および同国経済・気候政策省へのヒアリングをもとに自然エネルギー財団が作成


 日本では太陽光発電の設置義務化は東京都13など一部の自治体が独自で実施するにとどまっており、対象は新築住宅に限られている。国主導でより大規模な設置義務化を進め、対象を既存建築物まで拡大していくことが望ましい。

出力抑制は2種類を実施、発電事業者の予見性を高める

 太陽光発電の急速な拡大により、オランダでも出力抑制が課題になっている。実績データは公開されていないが、政府職員や業界団体によると、近年は出力抑制が増加傾向にある。同国の出力抑制は主に2つの仕組みで実施する。(1)Static Curtailment:SDEの補助案件で大規模な発電所(出力500kW以上)を対象に、ピーク出力の50%を常時抑制することを義務付ける、(2)Voluntary Dynamic Curtailment:ピーク出力の一部または100%を自主的に抑制する代わりに、系統運用者から金銭補償を受ける。このほかに系統運用者から要請を受けた場合に出力を抑制するObligatory Curtailmentが制度として存在するが、これまでに実施したことはない。

 2種類の出力抑制の特徴は、需給逼迫時に系統運用者から出力抑制を要求される日本の制度と比べて、発電事業者にとって出力抑制量を予見しやすいことだ。Static Curtailmentについては、SDE申請の必須要件であることから強制力を持つ。Voluntary Dynamic Curtailmentについては、電力取引市場において供給過剰時に電力価格がマイナスになるネガティブ・プライス制度や、調整力として出力抑制分の電力量を取引可能な2次調整力市場(aFRR)があり、発電事業者が自主的に出力抑制するインセンティブになっている。

 オランダでは2024年7月から、大規模な太陽光発電所(対象規模は検討中)に蓄電池の併設を義務付ける予定で、出力抑制の低減効果が期待できる。このほかに政府が2022年に「全国送電網混雑対策計画」14を立ち上げ、送電網の増強や蓄電池の配備を進めている。導入拡大が顕著な住宅太陽光発電と接続する配電網における出力抑制についても、分析をもとに解決策を模索中である。

<関連コラム>
出力抑制が日本各地で増加、電力供給ルールとネガティブ・プライスが解決策(2024年4月11日)
 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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