ドイツと欧州各国の電力輸出入の状況

大林 ミカ 自然エネルギー財団 事業局長 / 一柳 絵美 自然エネルギー財団 研究員

2023年4月25日

 2023年4月15日 夜、ドイツは脱原発を完了した。2011年、当時のメルケル政権は、東日本大震災の 東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、2022年末までの 段階的な原発停止を決定し、原子力法(AtG)を改正した。脱原発完了時期は、ウクライナ侵攻の影響で、およそ3ヶ月月半の延長となったが、今回は再延長とならず、最後の3基の原発が予定通り停止された。この脱原発実現に対して、ドイツは国内の原発を止めて、フランスの原発の電気を輸入するという論調がある。ここで、今一度、ドイツと欧州各国の電力輸出入の状況を見直してみたい。

1.   ドイツは 欧州の電力純輸出国 である

 それでは、ドイツと欧州各国間の電力取引の状況をみてみよう。ドイツの連邦ネットワーク庁と連邦カルテル庁が2023年 2月に公表した年次モニタリングレポートを参照する。2008年から2021年までの 電力取引総量は、年によって異なるが、 総じて電力輸出量が電力輸入量を上回っている。つまり、ドイツは電力 純輸出国であることがわかる(図1)。

 図1:ドイツの国境を越えた電力取引 総量

出典: Bundesnetzagentur & Bundeskartellamt (2023.02) “Monitoringbericht 2022” p.249

2.   ドイツは フランスに対しても 電力輸出超過

 ここで、ドイツとフランスに着目して、近年の電力取引状況をみてみよう。2020年には、ドイツはフランスに8.3TWhを輸出、6.7TWhを輸入で、収支は1.6TWhの輸出超過である。2021年には、11.2TWhを輸出、4.7TWhを輸入で、収支は6.5TWhの輸出超過である。つまり、ドイツはフランスに対しても電力の純輸出国である。反対に、2020年・21年ともにドイツが輸入超過になっているのは、自然エネルギー拡大が顕著なデンマークを筆頭に、スウェーデン、ノルウェーといった北欧の国々との間の電力取引である(図2)。

図2:ドイツの国境を超えた電力取引 2020年・2021年の欧州各国との取引状況 (単位:TWh)

出典: Bundesnetzagentur & Bundeskartellamt (2023.02) “Monitoringbericht 2022” p.247


*以下、2023年5月1日に追記
 

 一方で、図3の「物理的な電力の流れ」を引き合いに出して、フランスの輸出がドイツからの輸入を上回っている、という主張がある。特に日本のインターネット上では、図2の「国境を越えた電力取引フロー」に対して「予定取引」という日本語訳を使っているケースが見られるが、誤解を招く表現であり、図2は「商業的な電力フロー」、つまり実際の「国境を越えた電力取引」を表している。

 この二つの概念については、これまでの財団コラムや文献でも何度か指摘しており(例:「ドイツは電力の輸出国だ」2018年3月2日)、この図2を引用したBNetzAの文章では、「大きな入札ゾーンが他の地域とつながっている高度にメッシュ化したネットワークでは、実際の電力の『商業的な取引の流れ』と『物理的な流れ』が一致しないことが多い」と説明されている。つまり、ドイツに流れているように見える電気が、ドイツを経由して他国に取引されており、実際のドイツとフランス間の商用電力取引とは異なっているのである。

図3:物理的電力フロー(単位:TWh)

出典: Bundesnetzagentur & Bundeskartellamt (2023.02) “Monitoringbericht 2022” p.247

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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