2022年の欧州の経験に学ぶ

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

2023年3月16日

in English

 2022年、欧州の電気料金は高止まりしていた。プーチンは、これがグリーン政策のせいだと主張している。またドイツの脱原発は意味がないと言い、化石燃料がなければ「洞窟に戻る」しかないと言っている。更に最近、プーチンは、制裁とロシアからの原子力燃料や化石燃料の輸入減少によって、ロシアよりも欧州連合(EU)の方が被害を受けていると主張している。こうした主張は、EUの一部の政治家や産業界からも反復され、「EUは退廃し、非合理的なエリートに支配され、混沌に向かいつつある」というプーチンが描き出そうとするイメージを補強している。 

 しかし、実際の数字は違うことを示している。電気料金高騰の主な理由は、原子力と水力の発電量が無計画的、かつ劇的に減少したことにある。自然エネルギー設備の新設は、限界費用の低い電力供給に貢献し、価格を引き下げた。これは、2021年から2022年にかけて、EUの発電量がどのように変化したかを見れば、すぐにわかることだ。

 もしコスト上昇の原因が化石燃料価格の上昇であったなら、化石燃料の使用は減少したはずである。発電事業者は、電力価格高騰で消費が減ることによって新たな均衡が生まれるまで、化石燃料の利用を減らして他の電源での発電を増やさなければならなかったはずだ。しかし、現実の世界では、このようなことは起こらなかった。実際には、原子力発電や水力発電が意図せずに減少し、化石燃料の使用を増やさざるを得なくなり、化石燃料の限界コストの上昇を招いたのである。 
 

EUの発電量の推移 2022-2021
出典:Ember

 意図せずにという表現は、価格上昇の原因となった原子力発電の減少に関して、意図的に言葉を選択したものだ。意図された原子力発電の減少は、EUの電力価格には影響を与えなかった。ドイツは計画通り、2021年末に3基の原子炉を閉鎖した。それでも、ドイツは化石燃料による発電量を増やした以上に、電力の純輸出を増やした。イギリスはEUに属していないが、2022年に3基の原子炉を正式に閉鎖した。それでも電力の純輸入国から純輸出国に転じることができた。過去10年間に経済的な理由で4基の原子炉を閉鎖したスウェーデンは、ヨーロッパ最大の純輸出国になった(12月の数時間、2基の原子炉と3基目の原子炉の発電機1台が停止し、かなりの量の電力を輸入したことはあったが)。

 このように、「電力価格の高騰を招いたのは、制裁だ、グリーン政策だ、原発の廃炉だ、EUの市場経済だ」といった考えは正当化するのが難しい。なぜ、ヨーロッパのメディアでは、こんな見方が吹聴されたのだろうか。

 こうした筋書きはある重要な利害にかなっている。プーチンの議論に触発された組織はロスアトムやガスプロムの利益を守る一方で、原子力発電の失敗や地球温暖化が南欧の水力発電に問題を引き起こしていることを覆い隠そうとするだろう。

 またこの筋書きは、バランスシート上の原子力発電所と化石燃料発電所の価値を守ろうとする既存のエネルギー産業の利益とも合致する。原子力発電を擁護する人々にとって、フランスにおけるこの技術の失敗がエネルギー危機の原因だと認めるのは難しい。

 語られることをそのまま信じるのではなく、実際のデータが何を示しているかを見なければならない。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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