エネルギーロスが大きく、カーボンニュートラルに寄与しない合成メタン

石原 寿和 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年3月1日

 昨年末に第5回実行会議で公表され、本年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針(以下、GX基本方針)」では、水素・アンモニアの導入を進める方針とともに、「カーボンリサイクル燃料」を推進する方針も盛り込まれた。その背景には、近年、石油、都市ガス、LPガスの各業界や関連企業を中心に、政府を巻き込んだ合成燃料に関する官民協議会が設立され、各燃料の脱炭素化に向けた議論が進められていることがある。これらの活動では、水素と二酸化炭素を用いて合成した炭化水素燃料をカーボンリサイクル燃料と位置づけているが、環境性能、経済性、供給安定性に加え、用途や税金の使途としても多くの課題が存在する。なかでも、都市ガス代替として検討が進む合成メタンについては、エネルギーロスとコスト、CO2削減効果のいずれも課題が大きい。ここでは、これらの課題について指摘する。

1.合成メタンに関する議論の状況

 GX基本方針では、「カーボンリサイクル/CCS」の項目の中で「カーボンリサイクル燃料」の推進が位置付けられている。基本方針の参考資料として公表された文書では、「SAF、合成燃料、合成メタン等の脱炭素に資する燃料の利用促進等に向け、今後10年で技術開発・実証及び設備投資に取り組むとともに 、規制・制度の整備や、国際ルールの整備に向けた調整等にも取り組む」と記され、技術開発や制度・ルールの整備を中心とした方針が出された1

 これらの合成燃料をはじめとするカーボンリサイクル燃料に関しては、表1に示すように、2021年から2022年にかけて、経済産業省において多くの官民協議会が設置され、エネルギー事業者や関連企業が参画している。

表1  経済産業省における主な関連委員会

出典)自然エネルギー財団まとめ

 これらのカーボンリサイクル燃料においては、その製造に必要な水素と二酸化炭素について、カーボンニュートラルに向けた方向が十分に示されていない。確かに、水素については、再生可能エネルギーによる電力を用いたグリーン水素が想定されているように見える2。しかし、別途導入に向けた取組みが進められている水素とアンモニアについては、天然ガス由来のブルー水素も含め、国の支援対象として「欧米並みのGHG基準」を設ける、としている。しかしその内容は、「2030年を目途に、~3.4kg-CO2/kg-H2を達成する水素を支援」とあり、2030年の目途を示せば、それまでは現在用いられている、製造時にCO2を大量に排出するグレー水素も対象となる可能性が高い3

 一方、二酸化炭素に関しては、カーボンニュートラルと認められているバイオマスや空気からの直接回収(DAC)ではなく、工場や産業部門で使用した化石燃料排ガスから分離回収することが想定されている(図1)。政府は、これを「カーボンリサイクル」と位置付けているが、製造された合成された燃料を使用した際に発生する排気ガスがそのまま放出されれば、ニュートラルとはならない。特に、船舶や航空機等、輸送機器で使用した場合、排ガスからのCO2回収は困難である。

図1  政府によるカーボンリサイクルのイメージ(合成メタンの例)

出典)経産省:第7回 メタネーション推進官民協議会 資料3-1(2022年4月19日)

2.エネルギーロスが大きく、高コストとなる合成メタン

 合成炭化水素燃料のうち、液体燃料(合成燃料)については、航空機や船舶、重量車など、高いエネルギー密度(重量および体積あたり)が必要とされる用途での利用が見込まれている。一方、ガス会社を中心にその実現に向けた取組みが進められている合成メタンについては、一部の産業分野での利用は見込まれるものの、民生用(暖房、給湯、調理)では、コストとエネルギー効率の面で電化に対する優位性は見出しにくい。

 特に、コストとエネルギー効率については、以下の反応式が示すように、メタン単位体積あたり4倍の水素が必要となる点に大きな課題がある。原料と生成物の発熱量の比較だけでも、表2に示すように、合成されたメタンのエネルギーは原料となる水素の78%(=39.6/50.8)に過ぎず、これが理論的な限界となる。このように理論的なエネルギーロスが避けられない上、製造と輸送に国の補助金が不可欠な高コストのグリーン水素を、メタンの4倍必要とする。そのため、水素のコストとして2030年目標の30円/Nm3を達成しても、合成メタンのコストは、使用する水素の原料費だけで120円/Nm3となる。

表2  メタン合成の反応式とエネルギー量の比較

出典)自然エネルギー財団作成

 さらに、図2と図3に示すように、水素製造のための水電解に用いる電力を基準にすると、電解効率80%と仮定しても、メタンとしてはもとの電力の58%のエネルギーしか残らない4。原料となるCO2の分離回収に熱5が必要で、燃料合成のサバティエ反応にも補機動力を要する。その上で、水素製造とメタン合成には大きな変換ロスが存在する。これだけエネルギーロスの大きい燃料を、従来のガス機器で給湯、調理、暖房等の加熱源に使うのであれば、水素として用いるか、もともとのグリーン電力を用いるほうが、低コストでエネルギー効率が高く、合理的である。

 このように、合成メタンは高コストの燃料となることが避けられないため、それに見合う用途はかなり限定されることになる。そうすると、消費量が限定されるため、量産によるコストダウン効果も見込めない、というジレンマに陥る。

図2  メタネーションプロセスにおける主なエネルギー収支

出典)関連資料6 7をもとに、自然エネルギー財団作成

図3 合成メタン製造プロセスにおけるエネルギーロス

出典)自然エネルギー財団作成

 低コスト合成メタンの実現には、大量の安いグリーン水素とCO2が必要である。安い水素を得るには、さらに安い自然エネルギー電力が必要となる。国内で製造する合成メタンで競争力を持つコストが実現するのであれば、その際に使用するグリーン水素や自然エネルギー電力は更に安くなっているため、どこまでもその差は埋まらない。そのため、国内の排ガスからCO2を回収し、水素を用いて製造された高コストの合成メタンを使用する合理性が見いだせない。

 一方、合成メタンを自然エネルギーの輸送媒体として海外で製造するのであれば、製造、輸送、利用まで含めて、水素やアンモニア等と同列で比較すべきである。水素については、その製造から輸送(燃料転換を含む)までを含めたCO2排出量に関する基準化が進められており8 、その製造プロセスにおいては、図3に示すエネルギー損失だけでなく、排出されるCO2も最小にする必要があり、ここにも自然エネルギー電力が必須となる。また、コストに関しては、国産と輸入いずれの場合も、その原料として大量の水素を使うため、合成メタンのコストは、グリーン水素の製造コストに大きく依存することとなる。

3.  カーボンニュートラルに寄与しない

 現在政府が提唱する「カーボンリサイクル」は、工場や産業部門における化石燃料の排ガスからCO2を分離回収して用いることが想定されているが、合成メタン利用側でCO2を回収しなければ、最終的にはCO2が放出されてしまう。そのため、トータルのプロセスで削減にはなっても、ゼロにはならない。また、その回収率も現実的には90%程度とされており、利用側で回収しても、常に10%のCO2が放出される。特に、航空機、船舶、EVに不利な大型商用車等では、排ガスからのCO2回収は困難である。「カーボンリサイクル」という表現は、永久にCO2が排出されないような誤解を与えているのではないか。

 一方、EUでも水電解によるグリーン水素を用いた燃料をe-fuelやPower-to-Xと呼称し、その実用化に向けた取組みが進められている。この場合、水素と合成するCO2については、バイオマス由来か、空気からの直接回収(DAC)であることが求められている9。また、クリーン水素と同様、その製造時におけるGHG排出量にも基準を設けている10

 また、海外で製造する場合は、CO2削減効果のカウントが課題となる。国もその認識で検討を進めているが、現状ではIPCCインベントリガイドライン11で示すように、最終的に利用した国でのCO2排出となってしまい、回収した削減量は製造する国でのカウントとなっている。そのため、海外で化石燃料の排ガスから合成メタンを製造してもCO2と一緒に運ぶこととなり、LNGを輸入して利用することと変わりがないどころか、高コストでエネルギーロスを含んだ燃料ということになってしまう。

 つまり、海外で製造して輸入する場合は、日本のCO2排出削減に寄与せず、LNG輸入に対する優位性が見いだせない。または、欧州が基準化しているように、DACやバイオマス由来の真にカーボンニュートラルな合成燃料を輸入すべきである。国内で製造するのであれば、安価なグリーン水素とさらに安価な自然エネルギー電力の実現が必須であり、その場合には燃料を合成して利用するメリットがエネルギー消費者側に存在せず、行き場のない状況になってしまうことが懸念される。

4.まとめ

 このように、水素とCO2を用いて製造される合成メタンは、エネルギーロスが大きく高コストとなることが避けられず、その価格差を補助金で埋めようとした場合、原料となる水素に対する補助金と合わせて、二重の補助金を支出することになってしまう。

 また、合成燃料、合成メタン、さらには合成LPGと、各業界それぞれに協議会や研究会が立ちあげられ、それぞれの分野の関連設備やサプライチェーン、ビジネスモデルの維持を目的とした取組みが進められている。これらは、それぞれ個別に検討が行われ、既存燃料との価格差の補填を政府に求めている。石油系、メタン、LPGと、各燃料間だけでなく、電力も含めた日本のエネルギーとして横断的で全体を俯瞰した議論が行われておらず、関連設備の二重投資や補助金の重複などが懸念される。

 これらの活動は、今後も産業構造やエネルギー需要が変わらないことを想定し、既存の設備とサプライチェーン、それらを用いたビジネスモデルの継続が目的となっているように見える。もちろん、エネルギーの安定確保とそれを支える企業活動は雇用に直結する重要なものであるが、地球環境だけでなく、地政学的なリスクも増大する中で、業界縦割りではなく、日本全体としてあるべき姿に進むための変革が必要ではないだろうか。

 それであれば、その多額の補助金(税金)は、より根本的な解決策に使用すべきであろう。例えば、現在のエネルギー基本計画では、将来的に民生の給湯や暖房に、合成メタンを使用することを想定しているが、高コストの合成メタンの民生部門への供給に投資するよりも、オール電化を想定した住宅の断熱、太陽光パネルと蓄電池に投資することが合理的な選択ではないだろうか。こうした住宅・建築への投資は、国としてのエネルギー消費とCO2排出量を削減できるだけでなく、個々人のエネルギー費用負担を下げ、災害時等のエネルギー自立とレジリエンスにも対応できる。これは、燃料費補助というその場限りのものではなく、エネルギー問題を持続的に解決できる社会資本としても有意義な投資となりうる。

 エネルギー事業は、燃料を届けるだけでなく、それを用いたサービスをユーザーに届けることが大きな目標であるべきで、コストも含めて、ユーザーの使用に適したサービスが考えられるべきではないだろうか。エネルギー密度の高い合成燃料や合成メタンには、それらでしか提供できない価値があり、そういう必須の用途を中心にしつつ、代わりのある用途には固執せず、設備というハードではなく、エネルギー事業の経験と知見というソフトを活かした新しいビジネス展開に期待したい。

  • 1経済産業省「GX実現に向けた基本方針参考資料」(2023年2月10日)
  • 2経済産業省「合成燃料研究会 中間とりまとめ」(2021年4月)
  • 3経済産業省「第14回 産業構造審議会 グリーンイノベーションプロジェクト部会 エネルギー構造転換分野ワーキンググループ_資料4(2023/2/13)
  • 4水素の水電解効率80%に、原料水素からメタンに変換する際の78%を乗じた値
  • 5この熱には、合成したメタンや水素の燃焼熱を用いるよりも、トータルロスの少ない電気加熱を想定
  • 6村田、川野、茂木、大薮、白石、他(日立造船、エックス都市研究所、JFEスチール、商船三井、新来島サノヤス造船)「CCR 研究会・船舶カーボンリサイクル ワーキンググループの取組み」日本マリンエンジニアリング学会誌 第56巻 第4号(2021年)
  • 7大槻、柴田:IEEJ「日本国内でのメタネーションの可能性:電力・都市ガス需給モデルによる CO2 回収・水電気分解・サバティエ反応システムの技術経済的評価日本国内における最適電源構成と組み合わせた水素製造・メタン合成技術の経済性評価」(エネルギー資源学会 Vol.41, No.6, 2020年9月)
  • 8IPHE “Methodology for Determining the Greenhouse Gas Emissions Associated With the Production of Hydrogen”(Nov 2022)
  • 9European Commission “A European strategic long-term vision for a prosperous, modern, competitive and climate neutral economy” (2018/11/28)
  • 10EU Taxonomy Compass, Manufacture of hydrogen (閲覧日:2023/01/10)
  • 11IPCC “2019 Refinement to the 2006 IPCC Guidelines for National Greenhouse Gas Inventories”

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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