輸入に頼らないエネルギー供給への産業革命

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

2023年1月30日

in English

 風力発電や太陽光発電、電池を作るために金属を輸入している事が問題だと言う人がいる。中には、金属の輸入がエネルギー供給のために石炭、石油、化石ガス、ウランに継続的に輸入し、依存している事と同じくらい大きな問題だと主張する人さえいる。

 これは2つの理由から正しくない。

 まず大きく違うのは、ウラン、石炭、石油、ガスの輸入が止まれば、これらの燃料を使った電気や熱の生産も停止してしまうという点だ。風力発電、太陽光発電、電池、電気自動車の材料となる金属の輸入が停止しても、既存のすべての自然エネルギー発電所からの電力供給は継続される。電気自動車は走り続け、充電してまた運転することができる。エネルギーシステムの供給保証にとって、これは決定的な違いだ。

 2つ目は、新しい電気機器を作るときに、金属は消費されて無くなってしまうわけではないということだ。古い風力発電所からリサイクルされる金属は、新しい風力発電所の製造に使うことができる。一方、化石燃料からエネルギーを取り出す場合は、化学エネルギーが消費され、発生する二酸化炭素が気候変動リスクとなる。ウランの原子核を割ってエネルギーを取り出すと、エネルギーが少ない核分裂生成物ができ、それは長い期間、有害である。

 金属の資源価値についてさらに説明しよう。

 鉱山で鉱石を採掘し、精錬して純金属を作り、それを機器に組み込んでいく。これは化石燃料の消費とは全く異なるプロセスだ。鉱石の中に散らばっている金属原子を純金属に濃縮するために、エネルギーが投入される。そのエネルギーは、製品に組み込まれる際にも失われることはない。そのため、スクラップは鉱石よりも高い価値を持ち、古い機械の中身を利用して金属を再利用することで利益を得られることが多い。

 二酸化炭素や核廃棄物はその所有者にとってコストだが、風力発電機のスクラップは資産になりうる。世界中の鉱山で何千年もかけて採掘された銅は、そのほとんどが今も使われている。

 もっとも、金属の使用方法のすべてがリサイクル可能というわけではない。農業で有害な生物を殺すための殺生剤に使われている銅は再利用されない。衣服の防臭に使われる銀の微粒子も失われている。しかし、発電機やモーター、その磁石、電池に含まれる金属は、リサイクルして再び使うことができる。それがどれだけ簡単で、採算が合うかは、技術者がどれだけ再利用のことを考えて製品を設計したかにかかっている。そのため、設計者が次世代にどのように製品を扱うかを考えることが重要だ。ある電池メーカーでは、最初の電池セルの製造と同時に、リサイクルのための施設を稼働させたほどだ。

 これからの時代、新しい金属を大規模に採掘することが必要になる。これは、金属リサイクルの対象になるような太陽電池や風力発電機、バッテリーがまだそれほど多くないからだ。何百万トンもの金属を、まず地殻から私たちの技術システムに移動させなければならない。そのためには、多くの新しい鉱山が必要だ。鉱石は世界のあちこちで見つかる。しかし、鉱山はどこにでもあるわけではない。

 中国はこの展開を10年前に見ており、準備は万端である。古くからの工業国家の遅れは問題であるが、それは一部の人が想像するほど大きなものではない。安価で持続可能なエネルギーシステムを構築するために必要な金属は、多くの場所で見つけることができる。ウランや化石燃料を消費する必要のない新しい技術システムを構築するために、今後二、三十年間は新しい鉱山が必要であろうし、それらはすぐに必要とされる。米国の大統領は、転換を成功させるために「国防生産法」を使うと宣言した。

 したがって、EUと日本は、この革命的な産業開発において、中国と米国の両方との厳しい競争に直面していることになる。しかし、この競争に挑むことは重要だ。これは経済的に有益な開発であり、エネルギーシステムを動かすために、今後も継続的に輸入に依存しなければならないという事態を根本的に減少させるものだからである。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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