統計を読む2020年度エネルギー需給実績からみる日本のエネルギー構造の変化と今後の課題

木村 啓二 自然エネルギー財団 上級研究員

2021年12月20日


 総合エネルギー統計の「令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(速報)」が公表された。本コラムは、最新の実績データから見えてきたエネルギー需給の構造変化や今後の課題について述べる。

 結果を要約すれば、2000年代半ばから原油価格の高まりや福島第一原発事故を契機としてエネルギー消費効率改善が進みつつあり、その結果としてエネルギー消費量が減少している。コロナ禍はそれをさらに加速させている。第二に、供給構造をみると、石油と原子力離れが進んでいることがうかがえる。それを埋めるように、自然エネルギーと天然ガスが増加している。第三に、これらの影響から、CO2排出量は減少傾向にあり、コロナ禍はそれをさらに加速させた。他方で、コロナ禍からの経済回復によりCO2排出を増やすことは避けるべきであり、エネルギーの脱炭素化政策の強化が求められる。

1.  持続的なエネルギー消費の減少

 日本で消費されているエネルギーは、2000年代半ばを境に原油価格高騰、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍を通じて、長期的な減少傾向にある(図1)。結果として、2020年度の最終エネルギー消費量は、1987年度とほぼ同程度になっている。しかし、コロナが収束し、経済活動が正常化することで、エネルギー消費はある程度回復することが見込まれる。
 

図1  最終エネルギー消費の推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』より作成

 日本経済は、2000年代前半を境に、少ないエネルギー消費で経済的付加価値を生み出す方向に改善をしている。図2は、実質GDPあたりの最終エネルギー消費を示している。これは、1兆円の経済的付加価値を生み出すのに、どれくらいエネルギーを消費しているかを示した図であり、この値が低いほど、経済的付加価値を生み出すのに消費するエネルギーが少ない、ということを意味している。図2に示されるように、1980年代半ばから2000年代前半までは、ほとんど横ばいで、効率改善が行われていない。
 
図2 実質GDPあたりの最終エネルギー消費
(ペタジュール/兆円)
出典:経済産業省資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』および内閣府『国民経済計算』より作成

 しかし、2000年代に入り、原油価格が高騰を始めた。2001年度に年平均1.9万円/kLであった原油価格が、2005年度には4.0万円/kL、2008年度には5.9万円/kLに達した1。こうした数年にわたる原油価格上昇を機に、特に運輸部門と業務部門においてエネルギー効率の改善が進み始めた。運輸部門ではトップランナー制度によるガソリン車の燃費改善に加えて、ハイブリッド車の普及も後押しとなったとみられる。また、業務部門では、暖房・給湯用途のエネルギー源が石油から電気・ガスへと変化、また省エネ機器等の普及により、床面積あたりのエネルギー消費量は減少を続けている。他方で、製造業部門では、目立ったエネルギー効率の改善はこの30年以上起こっていない(図3)。
 
図3 製造業のエネルギー消費原単位の推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁, (2021)「エネルギー白書2021」

2. 大きく変化してきた日本のエネルギー供給構造

 エネルギー供給の構造も3つの点で大きく変わっている(図4)。第一に、2000年代半ば以降、石油の供給量が大幅に減少している。2005年度に比べて2020年度は4割近くも供給量が落ちている。これは、前述の原油価格高騰の影響と考えられる。第二に、2010年度を境に原子力からのエネルギー供給量が大幅に減少している。これは、2011年の福島第一原子力発電所事故に伴う原子力発電の供給力の急激な途絶によるものである。第三に、2010年度以降の自然エネルギーの増大である。2000年代までの一次エネルギーに占める自然エネルギーの比率は4%~5%であったが、2012年度から固定価格買取制度が導入されたことで、2020年度には10%を超えるまでに増大した(図4)。とりわけ電力部門において自然エネルギーは急速に増大し、発電量に占める割合は2020年度には19.8%に達している(図5)。

図4 一次エネルギー供給の資源別推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』より作成
 
図5 発電量の資源別推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』より作成

3. コロナ禍によって大幅に減ったCO2排出量

 2020年度のCO2排出量(速報値)は、10.4億トン(CO2換算) 2となり、前年度比で5.8%の減少となった。温室効果ガス全体では、11.5億トンの排出量となる(図6)。日本政府が削減目標の基準年としている2013年度の排出量と比較すると、18.4%の削減になる。日本は、2030年度までに温室効果ガスの排出を46%削減するとしており、2020年度の削減率は、2030年削減目標の4割まで来ていることになる。しかし、2020年度の排出削減は、コロナ禍によって経済活動全体が低迷した影響が大きいことは注意が必要である。特に鉄鋼業、化学工業、運輸部門で排出量が前年比10%以上減少している。2021年度以降、経済活動の再開により、排出量が増加する可能性が高い。
 

図6 日本の温室効果ガス排出量の推移(実線)と2030年度目標(破線)
出典:国立環境研究所/温室効果ガスインベントリオフィス(2021)『日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2020年度)』より作成。
 
図7 主要排出部門のCO2排出量の推移
出典:経済産業省資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』より作成

 2050年のカーボンニュートラルの実現のためには、コロナ禍からの経済回復によりCO2排出が増加することは極力避けるべきであり、さらなる削減努力が求められる。2000年代半ば以降のエネルギー効率改善は、主に原油価格高騰等の政策的に意図しないショック的事象によるものであったと考えられる。日本経済の健全な発展を考えるならば、今後は、予見性をもった脱炭素政策を強化していくことが求められる。図7からわかるように、日本におけるCO2排出量が多い部門は、電力、運輸、鉄鋼、化学工業である。この4部門だけで、日本の総排出量の75%を占める(2020年度)。したがって、カーボンニュートラルの実現にむけた政策の焦点はこの4部門に充てるべきであろう。特に電力部門はCO2排出量の4割を占めており、電力部門におけるさらなる自然エネルギー電力の拡大および、CO2排出係数の高い石炭の削減が重要になる。

  • 1経済産業省資源エネルギー庁, (2011)「エネルギー白書2011」
  • 2国立環境研究所/温室効果ガスインベントリオフィス(2021)『日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2020年度)』
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外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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