小型モジュール式原子炉は、たいていが悪策だ

マイケル・バーナード  TFIE Strategy チーフストラテジスト/ distnc technologies 共同設立者 / Agora Energy Technologies 戦略アドバイザー、ボード・オブザーバー

2021年5月28日

※本コラムは、CleanTechnica2021年5月3日に掲載された記事(Small Modular Nuclear Reactors Are Mostly Bad Policy)を、著者の承諾を得て邦訳したものです。

 小型モジュール炉(SMR)が発電のための主要な、または唯一の答えだと主張している人たちは、自分が何を言っているのかわかっていないか、積極的に偽情報を流しているか、あるいは意図的に気候対策を遅らせているかのいずれかである。

 水素と同じく、最近、小型モジュール原子炉(SMR)が再び注目を集めている。その背景には、この技術に焦点をあてる政府の政策や投資がある。原子力産業界の動きもある。そして必然的に、自分や投資家が大金を稼げるような技術を構築しようとする起業家たちの声もある。

 SMRは、製造規模の経済性を達成できず、建設速度が遅く、スケールアップによる効率性を犠牲にし、安価ではなく、遠隔地や炭鉱跡地に適しておらず、多大なセキュリティコストに直面し、廃炉にはコストと時間がかかり、賠償責任保険に上限が設定される。意図的に効率の悪い方法を選んでいるのに、課題は何ら解決されていない。SMRは、1950年代から存在しているが、当時より今の方がましになったわけではない。

小型モジュール原子炉が注目され、資金を集めていることは、
よく言えば見当違い、悪く言えば気候対策に積極的に敵対する行為である

 まず、小型モジュール原子炉(Small Modular Nuclear Reactors:SMNR)あるいは中小型炉(Small and Medium Reactors:SMR)の世界を概観してみよう。最も一般的な略称はSMRだが、両方とも見かけることがある。

 SMRは、その名のとおり、原子力発電であり、核分裂炉である。つまり、放射性崩壊する核分裂性物質の燃料を使って、液体を加熱し蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して発電を行う。技術的には石炭火力発電のようなものだが、長い間地中に埋もれていた植物を燃やすのではなく、ウランの崩壊による熱を利用する。

 SMRは、いくつかの点で従来型原子力炉とは異なる。最大の違いは、「小型」や「中型」と呼ばれるように、サイズが小さいことである。発電容量は0.068MWから500MWなどで、国際原子力機関(IAEA)は300MWまでを小型、700MWまでを中型としている。

 最近話題を集めてはいるが、実は、新しい技術ではない。世界初の原子力発電所は、1954年にロシア(当時はソ連)で稼働した5MWの装置である。それ以来、原子力船や中性子源として、何百もの小型原子炉が作られてきた。すでによく知られた技術である。革新的なものとして宣伝されている技術のほとんどは、すでに数十年前に考えられたものである。

世界原子力協会のデータに基づくSMNRの状態別分類表(著者作成)

 最初のSMRが運転を開始してから70年の間に、57の異なるデザインやコンセプトが設計、開発されたが、建設されたのはわずかである。建設されたSMRのほとんどは、一般の原子炉と同じく、新しい原子炉が建設されることなく老朽化している。
 

世界原子力協会のデータに基づくSMRの稼働/建設一覧表(著者作成)

 ロシアのモデルは、極北の砕氷船用の発電炉で、北の辺境の町に陸上配備することが検討されている。シベリアのものは寿命を迎えている。インドでは14基の小型CANDU炉が稼働しているが、そのほとんどが運転を開始してから数十年を経ている。中国のものも同様に40年の寿命を迎えようとしている。

 アルゼンチンの原子炉は10年以上建設中のままであり、作業の中断や政治的介入、資金的問題を抱えたプロジェクトだ。このままでは日の目を見ることはないかもしれない。

 そうして、中国のHTR-PMは、10年間にわたって建設が継続中で、唯一、遠隔操作による新技術が適用されている原子炉だ。運転が開始されれば、第4世代の原子炉として、初めて運転されることになる。

世界原子力協会のデータに基づくSMNRの技術別分類表(著者作成)

 そして、はっきりさせておきたいのは、これは一つの同じ技術ではなく、多くの技術だということである。何十年にもわたって、18タイプの57のバリエーションが提唱されてきた。どのタイプも支配的な技術とは言えない。

SMRの主張は精査に耐えられない

 SMRを支持する人たちは、通常、以下のような主張をしている。

•    より安全である
•    大規模な集中型工場で製造できるので、コストが安くなる
•    遠隔地の施設や地域社会にクリーンな電力を供給できる
•    廃止された石炭火力発電所跡地に導入できる
•    より早く建設できる

 実際にはこれらのいずれにもあたらない。

 第一に、従来型原子炉はすでに安全である。その大きな根拠となるのは、大半の稼働中原子炉には受動的安全機能が整備されていることと、管理や運転に多くの注意が払われている点だ。チェルノブイリ原発事故は設計が悪かった。福島原発事故は立地や運転判断に誤りがあった。立地や運転のミスは、結果的に、日本経済全体に合計約1兆米ドルとみられる損失をもたらした。SMRも立地や運転判断ミスから逃れることはできないし、産業界はいくつかの教訓を得ている。

 原子力が市場で失敗している理由は、安全上の懸念ではなく、経済性の問題である。

 第二に、規模の経済が働くためには、製造工場で同じものを何百、何千、何百万と製造しなければならず、さらに何百、何千という将来の市場規模が予測されなければならない。しかしこの分野には、18種類の異なる技術と、その中で競合する多くの設計が乱立していて、主力となるような一貫した単一の技術は確立されていない。SMRの研究に取り組む各国には、それぞれに適した技術があり、支援する企業もある。

 これらの設計で規模の経済性を実現するためには、複数の主要国が集まって一つの技術を決定し、メーカーと合弁会社を設立し、その技術だけを製造・配備することを約束しなければならない。これは市場原理にもとづく解決策ではなく、各国の地政学的戦略にも合致しないため、どの炉型にしても、おそらくCANDU炉由来のインドの炉型14基を超えることはないだろう。

 ロシアは砕氷船や陸上用小型炉に真剣に取り組んでいるが、世界的市場を形成することはない。極北地域にいくつかの小型原子炉を建設するかもしれないが、予測可能な懸念もある。中国は、原子力発電を大幅に拡大している唯一の国だが、すでに技術バリエーションが2桁に迫っており、その状況は芳しいとは言えない。米国は小型PWRに再び焦点をあてる可能性があるが、連邦レベルではそれを推進する政治的意志はない。

 スケールメリットがなく、コスト削減もできない。Nu Scale社は、SMRの発電コストを、現在の風力、太陽光発電の卸売り価格(1MWh当たり約65ドル)の2倍程度に抑えたいとの期待を表明している。

 第三に、僻地の地域社会と石炭火力発電所跡地は、いずれもセキュリティ上の大きな問題を抱えている。核技術や核燃料は、核不拡散という戦略的目標のために高度に規制や制約がかけられている。濃縮された放射性物質は、テロリストがダーティーボム(核爆発よりも放射性物質を拡散することを目的とした爆弾装置)を作るために喉から手が出るほど欲しがる物質だ。供給、運転、廃棄の一連の流れに、有効かつ重複的な防衛網が必要となる。

 原子炉が小さくなったからといって、こうした防御の必要性がなくなるわけではない。
 
米国全体での総セキュリティコストの原子炉あたりの配分(筆者が2021年に発表した表)

 こうしたセキュリティコストは大きく、そのほとんどが連邦政府、州政府、自治体の補助金の中に隠されている。遠隔地でもこのような追加のセキュリティコストが必要となるが、輸送コストの高い遠隔地のセキュリティにはさらなる課題があるため、単純に考えてもより高いコストとなるだろう。石炭火力発電所跡地は、大規模なセキュリティ向上を要するし、実績の無い技術では経済的に成り立たない。

 スケールメリットがなければ、SMRの迅速な普及は望めない。SMRは、標準化された出荷可能なユニットである必要がある。現在建設中の原子炉で、Nu Scale社は、建設期間の中央値として10年を目指しているという。Nu Scale社は、2029年までに12基の稼働を約束しているが、コストの上昇とスケジュールの遅れから複数の自治体が撤退し、その後同社が14億ドルの救済措置を受けたことからも、現実的な目標ではないといえる。

SMRには他にも問題があるか

 もちろんだ、3つも問題がある。

 第一に、垂直方向のスケーリングを利用していないことだ。これまで述べてきたように、SMRは競合する技術が非常に多く、またこの問題を解決するための戦略上の緊急性がないため、製造のスケールメリットを実現する可能性は極めて低い。しかも、スケールアウトによる水平方向のスケーリングに加え、垂直方向のスケーリングもできない。火力発電の場合、ある段階までは大型になるほど効率が良くなる。そのため、石炭火力や原子力発電の多くは、ボイラーや原子炉1基当たりの発電容量が1GWに近く、その3分の1ではないのだ。これには技術的な理由があるが、その多くは、流体や蒸気の移送を最も効率的に行うためのパイプの最適な直径と、それに必要な材料との関係にある。配管径が大きくなるほど、さほど多くの材料を使わずにより多くの流体を移送することができる。SMRでは、こうした垂直方向のスケーリングの効率がない。面白いことに、ビル・ゲイツ氏のテラパワー社は1,200MWの原子炉を設計しており、垂直方向のスケールアップについての示唆を受けたようだ。もちろん、それでは、通常の原子炉と同じコスト問題が浮上してくる。

 第二に、原子炉の廃炉には、10億ドル、100年かかると言われている。これは、いくつかの国の廃炉中の原子炉で経験的に示されている。米国では、原子炉の廃炉は、準備金により廃炉コストの約3分の1を賄うことになっていて、残りの約700億ドルは納税者が負担することになる。SMRの場合は、同じ期間と、それに比例したクリーンアップ(除染)費用がかかることになる。Nu Scale社の場合、60MWの原子炉を12基、合計720MWの発電容量を想定している。その場合のクリーンアップコストは、7億2,000万ドル程度になるとみられる。SMRを支持する人たちは、原子炉が廃炉のために、集中型の核廃棄物処分場で管理されることを期待しているのだろうが、世界のどの国も集中型核廃棄物処分場を建設できていないので、この前提はありえない。

 第三に、いかなる原子炉も民間の保険のみでは稼働できない。原子力発電所を持つすべての国では、民間の賠償責任にある程度の上限を設け、それ以上の賠償責任は納税者に負わせる法律を制定している。現在、米国では130億ドル(約1兆円)となっている。大きな数字に聞こえるが、先に指摘したように、福島原発事故の賠償責任は1兆ドル規模である。そのような賠償責任を負う国の数は、世界的に増えるどころか減っている。

では、誰が、何のために、SMRを提唱しているのか?

 カナダでは1億5,000万ドル、米国ではその10倍の予算が計上されているが、そのほとんどが研究開発に充てられている。例外的にNu Scale社に10億ドル以上の資金が投入され、理論上は何かを作ることになっている。カナダでは、アルバータ州、オンタリオ州、ニューブランズウィック州、サスカチュワン州の4つの州がSMRコンソーシアムを結成している。ビル・ゲイツ氏のテラパワー社はさらに8,000万ドルを米国エネルギー省から受け取っており、X-Energy社も同様だ。

 小型モジュール炉が失敗するのは目に見えている。明らかに、大きな市場がないし、明確な勝者を生み出す能力がない。セキュリティコストが必要だし、熱効率を上げるための垂直スケーリングができないことも明らかだ。さらなるセキュリティリスクとそれに伴うコスト、そして賠償責任保険に上限があることも明らかである。では、なぜSMRにこれだけの資金とエネルギーが投入されているのか。大きく分けて2つの理由があるが、多少なりとも批判に耐えられるのはそのうちの1つだけである。

 まず、最悪の理由から見てみよう。SMRに力を入れているカナダの各州は、気候対策の重要な一貫としてSMRを導入すると主張している。いずれも保守派の州政府である。ニューブランズウィック州には、古くて高価な、閉鎖予定の原子炉が1基あるが、これらの州の中で原子力発電所を保有しているのはこの州だけで、Joi Scientific社の水素永久機関のような悪いエネルギーの思いつきに資金ををつぎ込んだ実績がある。諸州のうちオンタリオ州は、積極的に自然エネルギーに敵対しており、現州政府は758件の自然エネルギー契約を打ち切り、選挙後の最初の取り組みとして固定価格買取制度廃止を法制化した。

 なぜこのようなことをするのだろうか。それは、気候対策をしているように見せかけて、政府の気候対策を先延ばしにできるからである。自然エネルギーは目的に適っていないと主張することで、最も知性が低く思慮のない支持者に迎合することができる。一方で、SMRは、最新の配備・運転可能な形態ではまだ存在しないため、本当の問題に直面することもない。

 もうひとつの大きな理由は、自然エネルギーに起因するものだ。15年前には、自然エネルギーはコストがかかりすぎ、送電網の信頼性に問題があり、大量の原子力が必要だと主張することができた。しかし、15年間にわたる原子力発電の展開の失敗と、なによりも自然エネルギーのコスト低下と送電網の信頼性が証明されたことで、この意見は否定された。今では、自然エネルギーは、必要な送電網電力の80%を経済的に供給できると、ほとんどすべての真面目なアナリストたちが認めているが、残りの20%については、信頼できるアナリストの間でもまだ議論がある。

 スタンフォード大学のマーク・Z・ジェイコブソン教授とそのチームは、この議論の中心にいる。彼らは2000年代後半から、「2050年までに自然エネルギー100%にする」というテーゼについて、より広範かつ高度な研究を定期的に発表してきた。2015年の発表には、多くの反発があった。わたしの評価では、当時の根本的な意見の相違は、批判を表明した人たちは、残りの20%が高くつきすぎると考えていて、原子力と炭素回収・隔離の両方が必要で、それこそがスケールの大きな構成要素になると考えていた。

 筆者自身、さまざまな角度から計算を行い、世界中の送電網の信頼性や変換データを見て、アンシラリーサービスの必要性を検討した結果、ジェイコブソン教授とチームの意見は正しいと考えている。さらに言えば、自然エネルギーが少なくとも課題の80%を解決できることは誰もが認めているわけで、可能な限り迅速に導入すべきだと考えている。

 しかし、最後の20%を確実にカバーするために、1つか2つの副次的な手段に賭けるのは非常に合理的だろう。わたしは、SMRに研究費を使っても構わないと思っている。SMRへの支出のほとんどは、Nu Scale社の救済措置(オハイオ州の13億ドルの救済措置に加えて、毎年17億ドルのあからさまな連邦補助金に加えて、毎年40億ドルの隠されたセキュリティ補助金に加えて、700億ドルの資金化されていないクリーンアップ補助金に加えて、財源のない納税者債権が投入されている)以外のことに使われているからだ。最後の20%を確実にカバーするために、豊かな国が数千万ドルを費やすことには合理性がある。

 ただし、SMRがエネルギーを作るための、主要な、あるいは、唯一の解決策だと主張している人々は、自分が何を言っているのかわかっていないか、積極的に偽情報を流しているか、あるいは意図的に気候対策を遅らせているかのいずれかである。
 

[特設ページ] 福島第一原子力発電所事故から10年とこれから

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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