全世界の発電量の80%を占める47カ国によるデータから、2020年の傾向として以下の点が明らかになった 1。
· 自然エネルギーによる発電量は着実に増えて、化石燃料(特に石炭)と原子力は減少した。
· 主要な国・地域の中では、中国が新型コロナウイルスのパンデミックから急速に回復した。 · 欧州は自然エネルギーを45%近くまで電源構成に組み入れることに成功した。 |
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2020年は新型コロナウイルスの影響により、電力需要は減少したものの、自然エネルギーの電力の伸びが停滞することはなかった。世界47カ国の自然エネルギー(バイオエネルギー、地熱、水力、海洋、太陽光、風力を含む)の発電量は、前年比で419TWh(テラワット時=100万キロワット時)という過去最高の増加を記録した2 。
一方、化石燃料による火力発電(石炭、ガス、石油を含む)は350TWhも減少した。おそらく過去40年間で最大の落ち込みだったと推定される(ただし1980年以前の化石燃料由来の電力に関するデータは見あたらない)3 。これまで化石燃料の発電量が最も減少した時期は、2000年代後半の金融危機の直後である。その時でも減少幅(2008~2009年)は200TWh未満にとどまっていた。化石燃料と同様に原子力の発電量も2020年に102TWh減少したが、2011~2012年以降では初めての縮小である。
さらに特筆すべきは、こうした変化は新型コロナウイルスの世界的な流行によって経済活動が低迷している状況の中で起こった。世界47カ国の総発電量は前年比で19TWhの小幅な減少だった。化石燃料と原子力の発電量が減少した要因はパンデミックにあるのではなく、世界のほとんどの地域で最も安価な電源となった太陽光と風力との競争に敗れたことにある 4。

出典:International Energy Agency
自然エネルギーの中で最も顕著な伸びを見せたのは風力(+167TWh)であり、次いで太陽光(+133TWh)と水力(+108TWh)だった。化石燃料の中では石炭(-315TWh)が最も大きな下げ幅を記録した。
世界の発電量の変化の内訳(2019~2020年)

出典:International Energy Agency
世界の主要国は同じ傾向に、中国だけは例外だ。
中国では2020年に、すべての方式による発電量が増加した。中でも目覚ましかったのは自然エネルギー(+172TWh)で、特に風力(+64TWh)、水力(+61TWh)、太陽光(+45TWh)が伸びた。化石燃料(+123TWh)による発電量の増加の大半は石炭(+117TWh)が占めた。国全体の総発電量も大幅に増えている(+313TWh、前年比4%超)。
欧州、インド、日本、米国などでは総発電量が減少したものの、化石燃料と原子力に代わって自然エネルギーが増えた。自然エネルギーが-最も伸びたのは欧州(+110TWh)で、そのうち風力は+50TWh、水力は+31TWh、太陽光は+26TWhだった。化石燃料が最も減少したのは米国(-163TWh)である。石炭の減少分(-200TWh弱)をガスの増加(+34TWh)でカバーできなかった。原子力が最も減少したのは欧州(-88TWh)で、その半分はフランスである。
石炭はインド(-59TWh)や欧州(-104TWh)といった歴史のある市場で苦境に立たされている。欧州で最も大きく落ち込んだのはドイツ(-37TWh)だった。欧州では電力需要の低下と自然エネルギーの増加のほかに、炭素価格が二酸化炭素1トンあたり約25ユーロで推移したことも石炭市場を圧迫する要因となった5。
日本では原子力による発電量が再び減少に転じた6。原子炉の多くが運転停止の状態にあり、さらに一部の原子炉(川内1・2号機、高浜3・4号機)が必要な安全対策設備を導入できずに一時的に運転を停止した影響である。

出典:International Energy Agency
発電量に占める自然エネルギーの比率は、すべての国・地域で増加した。とりわけ欧州では2020年に自然エネルギーの比率が44%という驚異的な水準に達し、2019年比で4ポイント上昇する飛躍的な伸びを見せた。欧州全体では、太陽光と風力の比率が合わせて19%に増加した。欧州に次いで中国では、自然エネルギーが30%近くに達した。さらにインド、日本、米国では20%を超えた。日本では2030年度の目標(22~24%)を10年前倒しでほぼ達成した。米国では自然エネルギーが石炭と原子力を上回ったことが注目される。

出典:International Energy Agency
世界の多くの国、例えば米国、中国、欧州諸国、日本などが掲げる2050~2060年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を達成するためには、自然エネルギーの導入を引き続き加速させることが不可欠である。欧州諸国では長年にわたり、自然エネルギーを中核に据えた脱炭素化に取り組んでいる。脱炭素化戦略によってもたらされる便益を享受するために、欧州連合(EU)と英国は最近になって2030年の温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を引き上げた(EUは暫定合意)。EUは40%から55%に(1990年比)、英国は57%から68%(同)に7 。一方これまでエネルギーと気候変動対策でおくれをとっていた日本も、自然エネルギーの拡大により、2030年度のGHG排出量の削減目標を26%から46%(2013年度比)へ引き上げることを決定した 8。
- 1注記がない限り、データはすべて国際エネルギー機関「Monthly Electricity Statistics – April 2021」から引用(2021年4月19日時点)。47カ国(イスラエルを除くOECD加盟国、中国、インド、ブラジル)を対象に、2020年の発電量(ネット:発電所の内部で使用した電力を除く)に基づいている。
- 2BBP「Statistical Review of World Energy 2020」(2020年6月)では、1965~2019年の自然エネルギーによる発電量(グロス:発電所の内部で使用した電力を含む)を対象に、世界の自然エネルギー発電量が前年比で400TWh以上増加したのは1回のみ(2017~2018年の403TWh)であることを示している。
米国エネルギー情報局「International: Electricity」では、1980~2018年の自然エネルギーによる発電量(ネット)を対象に、世界の自然エネルギー発電量が前年比で400TWh以上増加したのは2回のみ(2015~2016年の412TWhおよび2017~2018年の431TWh)であることを示している(2021年4月23日時点)。 - 3BP「Statistical Review of World Energy 2020」(2020年6月)では、 1985~2019年の化石燃料による発電量(グロス)を対象に、世界の火力発電量が前年比で最も減少したのは2008~2009年の198TWhであることを示している。
米国エネルギー情報局「International: Electricity」では、 1980~2018年の化石燃料による発電量(ネット)を対象に、世界の火力発電量が前年比で最も減少したのは2008~2009年の173TWhであることを示している(2021年4月23日時点)。 - 4Bloomberg, J. Hodges「Wind, Solar Are Cheapest Power Source in Most Places, BNEF Says – October 19, 2020」(2021年4月26日時点)。
- 5Ember「Daily EU ETS Carbon Market Price」(2021年4月26日時点)。
- 6日本原子力産業協会「Current Status of Nuclear Power Plants in Japan – April 6, 2021」。
- 7欧州連合については欧州委員会「Commission Welcomes Provisional Agreement on the European Climate Law – April 21, 2021」、英国については「UK Sets Ambitious New Climate Target ahead of UN Summit – December 3, 2020」。
- 8日本外務省「菅総理大臣の米国主催気候サミットへの出席について(2021年4月22日)」。