再エネ賦課金の疑問に答える

木村 啓二 自然エネルギー財団 上級研究員

2021年4月16日


 2021年度の「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(以下、賦課金)が公表された。2021年度(5月の電気料金から適用される)賦課金単価は、1kWhあたり3.36円と公表され、2020年度2.98円から13%の増加率になった(図1)。これにより、月に250kWh以上の電力を消費している平均的一般家庭では、賦課金負担総額が1ヶ月あたり840円程度となり、年間1万円を超えることになる。
図1 賦課金単価の推移

 こうした賦課金の増加により、賦課金についてさまざまな疑問や懸念が提起されているようだ。そこで、このコラムでは、以下の3つの疑問や懸念について解説する。
1)賦課金を支払うことで、良い効果や便益はでているのか
2)賦課金の額は妥当なのか
3)賦課金額は今後どうなるのか。賦課金のせいで電気料金が高騰するのではないか

1. 賦課金を支払うことで、良い効果や便益はでているのか

 「再エネ特措法」1 においては電気の消費者が、自然エネルギー拡大のために賦課金を支払うことになっている。改めてその効果を確認してみたい。

 2012年の「再エネ特措法」の施行以降、自然エネルギーによる電気の供給量が大幅に増加した。2012年度には発電量に占める自然エネルギーの割合は10%だったが、2019年度には18%にまで上昇しており(図2)、最新のデータによると、2020年には、発電量(送電端)の22%にまで達している 2

図2 自然エネルギーの発電電力量の推移

出典)資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」より作成

 
 自然エネルギーの増大等により、日本のエネルギー自給率は着実に向上し、CO2排出量は低減している(図3)。エネルギー自給率は6.7%(2012年度)から12.1%(2019年度速報値)にまで改善している。また、電力部門からのCO2排出量は2012年度から22%減少している。

図3 エネルギー自給率とCO2排出量

出典)資源エネルギー庁 (2020a)「平成30年度(2018年度)におけるエネルギー需給実績(確報)」および(2020b) 「令和元年度(2019年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」を参照。電力部門CO2排出量は、総合エネルギー統計における「事業用発電」および「自家用発電」からの排出量の合計炭素排出量をCO2に換算。


 同時に、自然エネルギーのコスト低減も急速に進んでいる。

 最も普及が進む太陽光発電(10kW以上)については、2012年度には、1kWhあたりの買取価格は40円だったが、20年11月に公表された太陽光発電の第6回入札では、落札価格の平均が11.48円と大きく下がってきている 3

 このように、コスト低減を進めながら、自然エネルギーの普及拡大が行われている。将来的には、賦課金に頼らずに、自然エネルギーによるエネルギー供給が行われる社会の実現が目指されている。

2. 賦課金の額は妥当なのか

 上述のように自然エネルギー拡大が確実に実施できているとは言え、現在の賦課金の額に問題はないのか。これについては、制度開始当初の運用のまずさから賦課金が必要以上に肥大化してしまう構造となっている、という問題がある。

 それは、制度開始後約4年間、発電事業者が再エネ特措法の認定を受けるにあたって、運転の開始期限が定められていなかったことである。このため、事業実施の見込みによらず買取価格だけを確定しておき、事業をすぐに開始しない案件(未稼働案件)が膨大に発生した。その結果、例えば、太陽光発電の建設のためのコストが年々下がっても、そうした未稼働案件は高い買取価格が維持されてしまうということが起った。実際に、2020年の1年間に運転開始をした太陽光(20kW以上)のおよそ6割が、再エネ特措法が始まった最初の3年間に認定を取得したものとなっている(図4)。

 これが、賦課金が必要以上に肥大化してしまう最大の要因である。もし、このような制度運用の失敗がなければ、賦課金額はもっと少なくてすんでいたと思われる。
図4 2020年に運転開始をした太陽光(20kW以上)の認定年度の内訳
出典) 再生可能エネルギー事業計画認定情報 公表用ウェブサイトより作成

3. 賦課金額は今後どうなるのか。賦課金のせいで電気料金が高騰するのではないか

 それでは、賦課金は今後どうなるのだろうか。結論を先取りしていえば、今後も賦課金は上昇するが、2030年代前半以降急速に減少していくことが見込まれる。

 前述のように、すでに「再エネ特措法」で認定されて今後稼働する案件が依然として相当数あり、これらが稼働すれば賦課金は上昇していく4

 他方で、今後、新たに認定される自然エネルギー電源は、太陽光に代表されるように相当買取価格が下がってきており、これらが賦課金の上昇に与える影響は軽微である。特に、太陽光発電(事業用)、一般木質バイオマス発電、風力発電(陸上・洋上)は入札により買取価格が決定される。つまり、事業者間の競争によって価格を決めることで、価格の低減につながっていく。実際に、すでに太陽光(事業用)では1kWhあたり11.5円にまで買取価格が下がっており、卸電力価格(発電事業者と小売電気事業者との間の電気の取引価格)に相当近づいている5。このように、新しい認定設備の買取価格は、すでに安い、あるいは安くなることが見込まれるので、今後自然エネルギーの認定を増やしていっても、それが賦課金の上昇に与える影響は小さい。

 そして実際に、将来の電力コストはどうなるのかを見ていきたい。自然エネルギー財団では、2030年度までに自然エネルギー電力の割合を45%まで増やしたとき賦課金がどこまで増えるかを推計した6(同時に原発・石炭火力フェーズアウト)。その結果、賦課金は4兆円近くまで増える可能性がある、という結果となった(2019年度の実績では2.3兆円)。他方で、自然エネルギーの普及により、卸電力価格は下がるため、小売電気事業者の電力調達費用は低減することが見込まれる。結果として、電力コスト(再エネ賦課金+電力調達費用)は2019年度と同程度に収まる可能性がある(図5)。もちろん化石燃料の価格や電力需要の状況など他の要素によって結果は大きく変わるが、現在と比べて大幅に電力コストが上昇する可能性は低いと考えられる。
図5 2019 年度と 2030 年度の電力コストの比較
注)2030 年度(SDE)とは、「2030 年度の持続可能なエネルギーミックス」を指し、自然エネルギーを45%、原子力と石炭をフェーズアウトさせるシナリオ。
 

2030年以降の賦課金は下がり、その先の自然エネルギー普及へ

 賦課金額は2030年代前半にピークアウトし、その後急速に減少していくことが見込まれる。というのも、「再エネ特措法」による買取期間は時限的であり、短いもので10年、長くても20年だからである。再エネ特措法が始まった2012年度から買取を開始した発電所は、2031年度には買取が終了する。2030年代前半からそうした買取を終了する発電所がどんどん出てくるので、そこから賦課金の減少が見込まれる。

 2040年代になると、ほとんど賦課金の負担がなくなってくる。つまり、安価な自然エネルギーによる電力供給が実現する可能性が見えてくるのである。そうなると、長年日本が悩んできたエネルギー自給率や、脱炭素化の実現など、エネルギーをめぐる懸案事項の多くが、自然エネルギーの拡大により解決され、人々は安全安心なエネルギーを安価で手に入れることができるようになるかもしれない。もちろん、自然エネルギーの普及のためとはいえ、不要な費用がかけられることはあってはならない。適切な制度運用が行われていくよう監視していくことが重要である。
 
  • 1正式名称は、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」
  • 2IEA (2021), Monthly electricity statistics, IEA, Paris
  • 3一般社団法人低炭素投資促進機構(2020)「太陽光第6回入札(令和2年度上期)の結果について」
  • 4上記のように、これまでの賦課金の上昇の多くは、買取価格の高い初期の認定案件によるものでした。資源エネルギー庁は、こうした初期の未稼働認定案件を可能な限り減らす、あるいはすぐに着工できない案件は、買取価格を引き下げるなどの措置をとってきました。
  • 52020年度(2021年3月30日まで)の平均卸電力価格は11.2円/kWhであった。
  • 6詳しくは、自然エネルギー財団(2021)「2030年における電力需給バランスとコストの検証

 

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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