[レポートの概要]
自動車を構成するシステムや部品のメーカーとして世界各国で事業を展開するデンソーが、脱炭素に向けた意欲的な目標を掲げて自然エネルギー(再エネ)の導入拡大を推進している。国内と海外のグループ会社を含めて、事業で排出するCO2(二酸化炭素)を2025年度に実質ゼロにする計画だ。自社で燃料を使用して排出するスコープ1、他社から購入する電力の使用に伴うスコープ2、の両方を実質ゼロに削減してカーボンニュートラルを達成する。
電力は自然エネルギー100%で調達して、燃料を使用している工場の生産工程でも可能な限り電化を進めていく。電化がむずかしい工程は自然エネルギー由来の水素を工場の構内で製造して利用する。ただし当面は都市ガスやLP(液化石油)ガスなどの化石燃料を使う工程が残るため、排出するCO2はクレジットを購入してオフセットする方針だ。さらに2035年度までに、化石燃料を自然エネルギー由来の燃料などに切り替えるか、燃料の使用で排出したCO2を回収・再利用するか、どちらかの方法で排出量をゼロに削減する。これから10年間で、クレジットを使わずにスコープ1・2ともに排出ゼロを目指す(図1)。
図1.スコープ1・2のカーボンニュートラルに向けたロードマップ
棒グラフの上の数値は2020年度のスコープ1・2のCO2排出量、それと比較した各年度の割合を示す。
出典:デンソー
自然エネルギー由来の水素を製造・利用する最先端のプロジェクトに取り組んでいるのが、福島県にあるグループ会社のデンソー福島(福島県田村市)だ。工場の構内に設置した水電解装置で水素を製造して、製品の生産に利用する実証を2024年4月に開始した(写真1)。構内にある太陽光発電(1メガワット)と小型風力発電(10キロワット)のほかに小売電気事業者から購入する電力と非化石証書を組み合わせて、自然エネルギーの電力100%で水を電気分解して水素を製造する。
写真1.デンソー福島で水素を製造する水電解装置(左手前)と関連設備(後方)
1時間あたり8キログラムの水素を24時間体制で製造して、主力製品の自動車用ラジエータ(エンジン冷却装置)の中核部品の生産に利用する。従来はLP(液化石油)ガスを使っていた3つの工程のうち、2つの工程は電化できたが、1つだけ電化できない工程がある。その燃料を自然エネルギー由来の水素に切り替えてCO2排出量をゼロに削減する。2基あるLPガスバーナー炉のうち、1基を水素バーナー炉に変更して、経済性や耐久性を検証している(写真2)。水素の燃焼速度を調整する対策を実施して実用に問題がないことを確認済みで、残る1基も2030年度までに水素バーナー炉に切り替える予定だ。工場全体で化石燃料を使わない生産が可能になり、カーボンニュートラルを達成できる。
写真2.水素アフターバーナー炉と配管(右下はLPガスバーナー炉)
赤い細い管が水素供給用
自動車産業でも脱炭素に取り組むことが将来の成長を左右する状況になってきた。デンソーはトヨタ自動車をはじめ世界各国の自動車メーカーを顧客に抱えていて、生産工程におけるCO2排出削減の目標や実績の報告を求められるようになった。一方では電動化や自動運転などの技術進化が急速に進んでいる。自動車の中核を担うシステムや部品のメーカーとして、従来のガソリンエンジン車を対象にした事業構造から転換を図るとともに、早期にカーボンニュートラルを実現することが顧客の維持・拡大に不可欠になった(詳しい内容はレポートで解説)。




